【実務者向け】海外の出願人にどうやって身元保証をすればよいのか?

通常、外内案件は海外側の信頼できる(信頼できる人に紹介してもらった)代理人経由で行なっていますが、先日、海外の個人出願人から直接依頼があって「あなたが真正の弁理士であることはどうやって証明できるのか?政府サイトで検索できるか?米国ではPatent AttorneyをUSPTOサイトで検索できるけど」と聞かれてしまいました(メールでやり取りするだけで結構な金額が動きますので不安感を持つのはわかります)。

弁理士ナビ(英語版)というのはすぐに思いつきますが、弁理士ナビのドメインはbenrishi-navi.comなので外国人にとっては政府系サイトには見えないでしょうね(サイトデザインも外国人には政府系サイトに見えないでしょう)。ついでに言うとサーチ結果に直リンも貼れないですし、検索窓でフルネームを入れると検索できないようなので(苗字で検索した後に絞り込みしないといけないみたいです)ちょっと不便です。

自分が代理した登録案件を見せればよいかもと思いましたが、J-PlatPatの英語版では代理人の事項が英語になってないですし、登録証には代理人の記載がないので無理ということがわかりました。

長期的に仕事をしてきて信頼関係を築いている海外事務所に連絡して身元保証してもらう手もありますが、ある意味、その海外事務所をバイパスした案件になるわけなのでちょっと気が引けます。

PATENTSCOPEでPCTの代理をしているエントリーでも見せるしかないかもしれません(厳密に言えば弁理士であることの証明にはなりませんが)。

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Yahoo!ニュース個人のヒット記事(2016年3月版)

Yahoo!ニュース個人に自分が書いた記事の中から毎月アクセス数が多かったものを紹介していくことにしました。まずは2016年3月版です。

1位.スペインでうどん屋がUDONという商標を使えないという問題について

元Jリーガーの石塚啓次がスペインで開業していたうどんやがUDONの商標権を持つスペインの飲食店チェーンに「UDONという商標を使うな」と警告を受けたという話です。スペインの商標法でも普通名称として商標権は及ばない旨の抗弁はできそうですが、費用もないことから泣き寝入りとなったようです。何らかの形でサポートしてあげたかったですね。

本件、日刊ゲンダイでも取り上げられましたが、クールジャパンの事務局にも一応話は伝わったようです。こういうときに弁護士費用等を支援できる体制が整うとよいですね。

追記:石塚氏のブログにその後に関する記事が載っていました。やはり相手の要求を呑む形で和解ということになったそうです。JETROから連絡も来ましたが審査も必要で支援の確実性もないことから断ったそうです。これはこれでしょうがないと思います。ただ、この件は、石塚氏の店の問題だけではなく、今後日本の他のうどん店がスペインに進出する時、さらには、日本の食文化をスペインに紹介する時にも問題になり得るので、政府当局には事前に対策を考えて頂きたいものだと思います。

2位.「ペヤング」まるか食品の謎商標登録について

新商品「ペヨング」を発売したまるか食品が、「ペヨング」だけではなく「ペユング」を商標登録出願したいたこと、さらには、1991年に「ペヤング」だけではなく「ペアング」も商標登録してたいたことに関する記事です。

まるか食品に取材した報道記事によれば、他社の商標登録を防ぐための防衛的出願であるそうです。商標権は類似範囲にも及ぶのであまり意味がない(むしろ、ロゴやパッケージデザインを商標登録出願した方がよい)と思うのですが、まあ、いろいろ考えがあるということでしょう。

3位.島野製作所対アップルの裁判で何が起きたのかを推理する

小規模下請けメーカー島野製作所がアップルの横暴な姿勢に反発してしかけた特許訴訟の第一審が島野側敗訴になったというニュースです。判決内容が公開されていないのでほとんど情報がないのですが、一部報道の記載から「共同出願要件」が争点になった(つまり、島野単独の発明ではなく、島野とアップルの共同発明と判断された)のではないかと推理してみました。

なお、この裁判、つい先日に島野側が控訴しています(参照ニュース)。

追記:後で気がつきましたが3月30日付で裁判所のサイトに判決文が載りました。これをベースにフォローアップ記事を書いています。

4位.「新・民主党」の商標登録は可能なのか?

民主党の新名称について、ドクター中松氏が自分が商標権を持っている「新・民主党」の商標権を無償で許諾すると言ったとされるスポーツ新聞音報道について、そもそも「新・民主党」で商標登録できるのが疑問に感じて調べてみたところ、商標登録はされていなかった(ドクター中松氏の記憶違い)という記事です。小ネタ記事です。

なお、中松氏が、2月にドナルドトランプ氏に護身用カツラ「守り髪」を寄贈すると言った時には、ちゃんと商標登録も特許登録もされていたのですが、今回はそういうことはなかったようです。

5位.「小説家になろう」商標問題:長年使っている商標を他人が登録してしまった場合どうすればよいか?

山形県で19年の歴史を持つ講習会が、最近に同一名称で商標登録したウェブサービスに商標権侵害の警告を受けたというニュースの解説です。先使用権を主張できる典型的ケースですが、講座側が争いを避けて名前の変更をすることにしたようです(それもひとつの選択ではあります)。その後、ITmediaにフォローアップ記事が出ています。

このパターンは実はよくあり、弊所でもご相談を受けることが多くなっています。先使用権を主張できる(相手の出願時点でこちらの商標が周知になっている)のであればよいのですが、そうでない場合は対抗は困難です。やはり、保険として先に商標登録(出願)しておくのが最善の策です。


4月も真面目記事、小ネタを取り混ぜて書いていきたいと思います(どうしても小ネタ記事の方がアクセス数を稼いでしまうのですが)。

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ランサムウェアに対抗できるファイル管理法を考える

最近、仕事用のメールアドレスにINVOICEだとかREFUNDだとかの件名の怪しいメールが大量に届いて困っています(同じような形式で一度に大量に届くのでかえって怪しいことがすぐにわかってしまいますね)。添付ファイルを開くこともなく消していけばよいのですが、間違って仕事のメールまで消してしまわないように注意するのはめんどくさいです。

どうやらこのメールはいわゆるランサムウェアらしいです(参照ニュース)。添付ファイルを実行するとPC上のファイルが暗号化されてしまい、復号鍵を得るためには金を払わなければいけないというやり口です。ビットコインの普及により、ほぼ匿名で金を受け取れることになったことがこの手口の蔓延に拍車をかけていると思います。

仕事のファイルが使えなくなるとどえらいことなので、ランサムウェアのリスクは真剣に考えなければいけません。今回のような稚拙なやり方ではなく、もっとも巧妙にランサムウェアに感染させるやり口が将来的に出てくる可能性は十分にあるからです。

現在、仕事上の重要なファイルはミラーディスク上に置くと共に、Google Driveで同期しています。Google Driveは、仕事場のPC、家の(仕事用)PC、持ち運び用ラップトップ間でファイルを同期するために使っていますが、実質的にはバックアップとしても機能することになります(仮に大地震等でPCが全滅してもGoogleのクラウドにはファイルは残っています)。

このようなやり方は、ディスク障害等の対策としては十分と思いますが、ランサムウェアにファイルを書き換えられるリスクには不十分です。Google Driveもフォルダーとしてマウントされていることから、ランサムウェアに書き換えられてしまいます。家のPCのLANケーブルを抜いて立ち上げれば前回同期した分のファイルは残っているでしょうが、最新のファイルは取り戻せませんし、万一家のPCが立ち上げぱなしになっていると、ランサムウェアに書き換えられたGoogle Drive上のファイルと同期してしまうリスクもあります。

やはり、定期的に(できれば日に数回)差分バックアップを取って、PCには直接マウントされないクラウドやNASにアーカイブすることが必要だと思いますので、今、できるだけ運用がシンプルなソリューションを探しています。良いソリューションをご存じの方、教えてください。

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アドビシステムズの記者会見で著作権について講演しました

アドビシステムズが提供するストックフォトサービスAdobe Stockの記者会見で「素材写真利用における著作権法上の留意点」という講演を行ないました(スライドは後でSlideShareにアップします)。特にWebで素材写真を使う際の注意点について簡単にまとめています。

以下のような媒体記事でご紹介いただきました。

Webやプレゼン資料等での素材写真の無断利用は、ついついやってしまいがちな行為です。特に社内使用について「それは実は著作権侵害ですよ」と注意するのは学級委員長的でちょっと気が引けるのですが、万一問題になった時のダメージを考えると、倫理的問題以前に組織のリスク管理として避けるべきです。

さらに、一昔前とは異なり最近は素材写真も数100円レベルからと安く使えるようになっていますし、月額契約もあります、また、(素性がはっきりした)著作権フリーの素材もあります。

昨年の五輪エンブレム事件でも、空港の写真等を他人のブログから無断流用したことが佐野研二郎氏作エンブレム撤回の原因のひとつになってしまったわけですが、空港の写真が素材に欲しいだけであれば500円で提供しているサービスがあります。500円をけちったためにはるかに大きな損害を被ってしまったわけです。これ以外にも素材写真の無断使用で損害賠償支払いを命じられたケースは数多くあります。金額的な問題よりも信用失墜のダメージが大きいでしょう。

素材写真の著作権は今までは何となくなあなあで済んでいた領域だと思うのですが、もうそういう大らかな時代は終わったと考えるべきでしょう。

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【実務者向け】海外代理人とのメールにおける注意点

海外代理人との英文メールのやり取りにおいて普段気を付けていることをまとめてみました。挨拶文は書かずいきなり用件から書くといった、英文ビジネスメールにおける一般的お作法は大前提なので、ここでは触れません。

1.受領通知(ACK)を返す

メールの中身を読んで作業に入る前に、メールを受信した段階ですぐに受領通知を返した方が良いと思います。AcknowledgedとかReceived with thanksと返せば十分です。海外代理人でもちゃんとしたところはこの習慣を守っています。

特に期日があるものについては、てっきり作業中なんだろうなと思っていたらが、実はメールが届いてなかったなんてことがあると大変なので、この習慣を付けておくことは重要です。向こうがACKを返してくれないときはこちらのメールにPlease acknowledge safe receipt of this mail.とでも書いておけばよいでしょう。

今でもメールが届かないことなんてあるのと思われるかもしれませんが、共用のSMTPサーバが迷惑メールの送り手に使われており、そのSMTPからのメール全体がSPAM扱いで受信拒否にされていたことが実際ありましたのでまったくないとは言えません。届かなかったことはこちらでは数日後にならないとわからないので、期日が厳しい用件だと大変なことになります。

また、期日が厳しい用件でACKが帰ってこないときは別のメールサーバ(Gmail等)から送り直す等もした方がよいと思います。

2.件名に整理番号を入れる

メールの件名に案件の整理番号を入れておくと、メールのやり取りの途中で件名が変わったり、メールのスレッドが切れた場合でも、後で検索するときに楽になります。こちらの整理番号(OurRef)だけでなく、先方の番号(YouRef)も入れておいた方がよいでしょう。

これは日本におけるクライアントとのやり取りでもやっておいた方がよいでしょうね。

3.重要な依頼は添付レター形式で

出願の依頼や登録料支払いの依頼等の重要な用件はメールの地の文に書かず、別途、レター形式のPDFファイルを作って添付ファイルにした方がよいと思います。メールの地の文に書くと、重要な情報が正しく伝わらなかったり、書式が崩れて見にくかったり、後で検索しにくかったり、万一言った言わないの話になった時に証拠として使いにくかったりするからです。

以前、某海外代理人に登録料納付してよいかとメールしたときの返信に「添付ファイルを参照してください」と書いてあって、添付のレターには「登録料納付願います」と書いてありました。だったら最初からメールの地の文に書けよと思いましたが、金の動きが関連する用件については必ずレター形式で書くことにしているのだなと思い、弊所でも真似することにしました。もちろん、ちょっとしたやり取りまでいちいち添付ファイルにする必要はないとは思います。

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