【雑談】ソフトウェア発明におけるプロダクトバイプロセスクレームはあり得るのか?

プロダクト・バイ・プロセス・クレーム(製造方法によって物の発明を特定するタイプのクレーム)についての最高裁判決に伴い、特許庁の審査運用が変わったのは周知かと思います。

プロダクト・バイ・プロセス・クレームは物の構造は直接的にはわからないが、こういう方法を使えばこういう物ができるんだということがはっきりしている場合に有効で、通常は、化学・生物関係の発明で使われます。

自分は、化学・生物関係はまったく専門ではないので、この話は全然関係ないかと想っていました。しかし、ひょっとするとソフトウェア関連発明でも関係することもあるかもしれないと考えてみました。

特許法上、ソフトウェア(コンピュータープログラム)は物ですし、コンピュータープログラムを製造する方法(たとえば、プログラムジェネレーターのアルゴリズム)は観念できます。ただし、コンピュータープログラムの作成方法はわかるが、それがどう動作しているかはわからないというケースは従来型のプログラムではあり得ないと思います。プログラムを作成するためにはフローチャート(的なもの)が必要ですし、フローチャートがあるということは、どのようなステップがそのプログラムに含まれているか明らかということです。これはプログラムジェネレーターで自動生成する場合も同じで、できたプログラムがどういう原理で動いているかわからないというのは想定しにくいでしょう。

ただ、従来型プログラミングを離れて、機械学習の領域にまで踏み込むと必ずしもそうとは言えないかもしれません。ニューラルネット(これは一種のプログラムなので特許法上の物です)の学習方法に特徴があって、その結果、顕著な効果を発揮するニューラルネットが作れるとしたら、プロダクト・バイ・プロセス・クレームで表現するしかないかもしれません。ニューラルネット自体はブラックボックスでありその構造やステップを特定するのは困難(不可能?)だからです。たとえば、「xxxの特性を持つ入力データにより学習させたことを特徴とするニューラルネット」みたいな感じです。

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【実務者向け】情報提供における匿名バレ問題について

特許庁の運用として、審査中の特許・商標出願に対して情報提供(刊行物等提出)を行ない、登録要件の欠如を主張することが可能です。情報提供は匿名で行なうことが可能です。商標の場合は紙でしか提出できないのですが、特許の場合はインターネット出願ソフトで提出することができます。この場合に、添付ファイル(通常はPDFか画像ファイルになると思います)のプロパティデータに注意が必要です。

インターネット出願ソフトでファイル記録事項の閲覧を行ない、送付されてきた刊行物等提出書に対して「HTML変換」を実行すると、添付ファイルがオリジナルのままで復元されます。つまり、PDFファイルのプロパティデータに作成者や作成企業の名前が入ったままで情報提供すると、せっかく匿名にしてもそれをヒントに提出者がバレるリスクがあるということです(事務所名が入っているならまだしも、企業名がプロパティに入った資料をクライアントからもらってそのまま送ったりすると大変です)。

これに限った話ではなく、たとえば、クライアントにメール添付ファイルで送ったパワポやPDFファイルのプロパティに別会社の名前が入っていて、資料の使い回しがバレるなどというケースもありますので、社外に送るファイルのプロパティには十分な注意が必要です。

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Appleが中国でiPhone登録商標の奪還に失敗

「”iphone”革製品に商標権侵害ない、中国裁判所アップルの訴え退ける」というニュースがありました。中国のメーカー新通天地が所有する革製品等を指定商品とするIPHONEの登録商標を無効にするAppleの訴えが棄却されたという話です。ゆえに、記事タイトルの「”iphone”革製品に商標権侵害ない」は不正確で、「”iphone”革製品の商標登録は有効」とすべきです。

中国の裁判資料を読むのはちょっとつらいので、中国商標局のデータベースおよび他の様々な報道からの情報を総合すると以下のような経緯と思われます。

2006年頃:Appleが中国でiPhoneの商標登録出願(ただし、皮革製品は指定せず)
2007年7月:Appleが米国でiPhoneを発表
2007年9月:新通天地社が中国でIPHONEの商標登録出願(皮革製品を指定)
2009年:Appleが中国でiPhone販売開始
2014年:新通天地社のIPHONEが(異議申立後に)商標登録

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Appleにとっての問題は、Appleでの出願では皮革製品(18類)を指定していなかったので先願として新通天地社の商標登録を排除できなかったこと、Appleは2007年9月時点での新通天地社の不正の目的を立証すれば無効にできたにもかかわらず、裁判所(および商標局)は中国国内でのiPhoneの周知性を認定しなかったこと、の2点と言えます。前者については、商品が類似しないと先願の地位が及ばないのはどの国も同じなので、中国特有の問題とは言えません(どちらかというとAppleのミスです)。後者については、現在の中国の商標制度の問題(海外でのみ著名になっている商標の勝手出願を禁止する明示的規定がない)と言えます。

ちなみに、日本の場合には商標法の4条1項19号という規定があるので、海外で有名になった商標を抜け駆け出願されても比較的容易に無効にできます。

第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。

(略)

十九 他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの(前各号に掲げるものを除く。)

この条文のポイントは海外のみで周知であれば国内では知られていなくても無効にできる点、および、商品が類似でなくても無効にできる点にあります。残念ながら現時点では中国にはこの条文に相当する規定がありませんので、中国国内でまだ周知ではない商標を中国で抜け駆け出願され登録されてしまうと、後から無効にするのは困難です。

アップルにとってやっかいなのは、iPhone用のケース(通常は携帯電話付属品として9類を指定します)の権利は押さえているのに、新通天地社が皮革製品の商標権に基づいてiPhone用ケースを製造販売する行為に対して権利行使できない点です。Appleは控訴して徹底的に争う姿勢のようです。

ポジショントークを承知で言えば、将来的に中国でビジネスを行なう可能性が少しでもあるのであれば、抜け駆け出願されてしまう前に先に中国で出願しておくことが最善策です。さらには、そのものずばりの商品・サービスだけではなく、取られると困る商品・サービスを防衛的に手広く指定しておくことも重要です。

中国の商標登録出願費用は1区分あたり10万円くらいです。さすがにあらゆる商品・サービスを指定すると450万円くらいになってしまいますが、AppleのiPhoneビジネスにとっては誤差のような金額なので、五輪エンブレム級に手広く出願しておくべきだったでしょう。

弊所でも中国への商標登録出願サービスを提供しています。1区分であれば約7万円で対応できますので、抜け駆け出願対策にご利用ください。

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Yahoo!ニュース個人のヒット記事(2016年4月版)

Yahoo!ニュース個人に自分が書いた記事の中から毎月アクセス数が多かったものを紹介していく定期投稿です。

1位.フランク三浦裁判に思う

2位.フランク三浦裁判の判決文が公開されました

1位と2位はともに、高級腕時計メーカーのフランク・ミューラーが提起していた審決取消訴訟でネタ商品のフランク三浦側が勝訴したという件でした。一部マス・メディアの報道では、侵害訴訟でフランク三浦側が勝訴したかのような言い方をしていましたが、これは、「フランク三浦」の商標権の有効性を争う裁判であって、侵害の話とは直接的には関係ありません。

いろいろな考え方があると思いますが、個人的見解としては、パロディ商品は本家にネタとして黙認してもらってやるのが本筋であって、商標登録して大々的に商売するというのはちょっと違うんじゃないかと思います。

3位.島野製作所対アップルの特許裁判の判決文が公開されました

「リアル下町ロケット」裁判の3月末の判決、判決文公開に時間がかかるかと思ってましたが、あっさりと公開されました。内容はストレートにアップルの非侵害(他の争点は論じず)というものでした。島野側はその後に控訴していますのでまだどうなるかわかりません。

4位.西村博之氏が2chの商標権を獲得

2ちゃんねる創立者のひろゆき氏が出願していた2chの文字商標が不服審判の後に登録されたという話です。今後、現運営との間で一悶着ありそうな気がします。なお、「2ちゃんねる」の文字商標も不服審判中でまもなく結果が明らかになる予定です。

5位STAP特許出願と佐野エンブレム商標登録出願の現状について

小保方氏を発明者の一人とするSTAP細胞関連発明の特許出願(理研は権利放棄し、ハーバード大が唯一の出願人になっています)が、出願審査未請求により取下げられた可能性が高いという小ネタ記事です。小ネタついでに昨年大騒ぎになった佐野エンブレムの商標登録出願が(取下げられてはおらず)審査中であることについても触れました。


毎月のトップ5を紹介するつもりだったのですが、今月に限り6位が興味深かったのでついでにご紹介します。

6位招致エンブレムを大会エンブレムとして使うことは本当にできないのか?(その2)

昨年の9月に書いた記事ですが、新エンブレムの発表と共にアクセスが急増しました。あの桜エンブレムが良かったのにな~と思っている人は結構多そうです。

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【実務者向け】海外代理人とのメールにおける注意点(追加)

ちょっと前に「海外代理人とのメールにおける注意点」という記事を書きましたが、もう1点大事なことを思い出したので追加です。

4. 日付は絶対に誤解されない形式で

たとえば、2016年4月5日を例に取ると、アメリカ式だと4/5/2016と書きますし、イギリス式だと5/4/2016と書きます。ヨーロッパだとだいたいイギリス式ですが、カナダ等両方使う国もあります。

特許実務で、万一、日付を読み間違えるとどえらいことになりますので、Apr-5-2016のように間違えようがない形で書くべきでしょう(まあ、ちゃんとした海外事務所ならそう書くと思いますが)。

また、PCT国内移行の翻訳文提出や審査請求のように、徒過するとリカバリーがきかない日付については、たとえば、”Apr-5-2016(firm)”といったように書くようにしています。特に翻訳文はアメリカ式で遅れても補正命令が来てそれに応答して提出すればよいみたいなつもりになっている出願人がいる可能性もある(ちゃんとした海外事務所ならそんなことはないと思いますが)の念のためでです。

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