サムスン敗訴はAndroidの終わりの始まりなのか

#今朝は不正確なエントリーを書いてしまいどうもすみません、気を取り直して再度書きます。

今、世界各国で進行中のアップル対サムスンの知財権訴訟合戦の中でも最も重要度が高いと考えられているカリフォルニア州地裁の陪審員評決が出ました(参考記事)。

サムスンがアップルの特許権と意匠権をを侵害したとされ(具体的な特許権・意匠権の内容は本ブログで後日カバーする予定(12/08/27:書きました))、サムスンが主張していたサムスンの無線技術に関する特許権のアップルによる侵害は一切認められませんでした。結果として、サムスンには約10億ドルの損害賠償が命じられました(懲罰的賠償金を含む最終的な賠償額、サムスンに販売差止めが命じられるか否か等を含む最終判決はこれからです)。

サムスン全面敗訴と言ってよい内容だと思います(もちろん、上訴は行なわれるでしょうからこれで確定ではありませんが)。

サムスン側にとって最もショックだったのは、自社によるアップルの特許権・意匠権の侵害が認定されたことよりも、自社の特許権による反訴の効果がなかったことでしょう。アップルの特許侵害が認められればクロスライセンスによる和解というシナリオがあり得たからです。

ここで、意匠権については筐体のデザインの問題なので、サムスンがデザインを変更すればすむ話ですが(もちろん、過去の販売についての損害賠償の責はありますし、金型の変更は容易な話ではないと思いますが)、特許についてはサムスンの問題というよりもAndroid OSの設計にかかわるところもあるので、影響はサムスンだけではなくAndroid陣営すべてに及び得ます。もちろん、UIの設計を変更すれば回避できるケースは多いとは思いますが、今回の件と同様に過去の販売に対する損害賠償の問題はあります。

また、この分野のオーソリティのFOSSPatentによれば、アップルには今回敢えて訴訟の対象外とした特許権もあります。また、カリフォルニア州では別の裁判(今回の特許権よりも回避困難なようです)も進行中です。さらに、グーグルによるモトローラの特許権によるアップルへの起死回生攻撃もどうもあまりうまく行っていない感があります(たとえば、Bloombergの記事「アップルは無線技術関連のモトローラの特許侵害せず-ITC」)。要は、アップルにはまだまだ弾は残っていますが、Android陣営は「弓折れ矢尽きた」状態に近くなっています。

ということで、Android撤退とまではいかないでしょうが、サムスンを始めとするAndroid陣営はしばらく厳しい状況に置かれるでしょう。

この評決に対してサムスンの広報担当者が「特許制度はイノベーションを阻害している」というような趣旨のことを言ったようですが、サムスンは2011年米国特許取得件数第2位(1位はIBM)の企業ですし、グーグルもPageRankやAdWordsの特許を活用して成長してきた企業なので「ダブスタの遠吠え」でしかないと思います。

他社の知的財産権を尊重し、デザインのデッドコピーはせず、回避できるところは創意工夫で回避するという普通のメーカーであればどこでもやっていることをちゃんとやっていればこんなことにはならなかったのにというだけの話です。

カテゴリー: 知財, 特許 | 2件のコメント

【夏休みネタ】仕事用PCアップグレードの四苦八苦

ここ数年間、仕事用のデスクトップPCは、Core 2 Quad Q6600を使ってて特に問題なかった(Aero切ってOfficeにしか使わないのであれば問題なし)のですが、ちょっと休んでいたDAWを再開したいこと、および、Windows標準の拡大鏡をスムーズに使いたいという理由によりアップグレードを行なうことにしました。

ところで、なぜ、Windowsの拡大鏡が必要かというと、画面の細かい操作(特にソフトシンセ)に便利だからです(老眼始まってる人におすすめです)。Windowsの拡大鏡をストレスなく使おうとと思うとそれなりのCPUとグラボが必要になります。

新マシンの構成は、iCore7 3770K、ASUS P8Z77-Pro、玄人志向 GF-GTX560TI-E1GHWGT7600、ADATA(PC3-12800) 4GB×2という価格.comでも売れ筋の定番的商品を選んでみました。

Windows再インストール後、最初は順調に稼働していたのですが、Chromeで表示エラー(目がバッテンのアイコン)が出るようになりました。そして、ファイル大量コピーなどのヘビーな処理をするとブルースクリーンが出ます。しかも、MEMORY_MANAGEMENTだとかPFN_LIST_CORRUPTとかのやばめのエラーコードです。オーバークロックのせいかと思って標準に戻しても同様。

こういう場合、最初に疑うのはメモリですね。ということで、Windows 標準のメモリ診断やmemtest86+を流して見ましたが問題ありません。

そうなると電源の容量不足かということで、電源ユニットを新調しました。が、駄目。

グラボ替えても、駄目。怪しいソフト全部アンインストールしても駄目。HDDの温度は問題なし。SATAケーブルを替えると、一瞬直ったように見えて「なーんだこんな問題だったのか」と思ってると(死亡フラグ)と、やっぱりしばらくしてBOD。仕事が少なめな夏休み期間でなかったら泣きたくなる状況でした。

もう万策尽き果てて、またメモリに照準を合わせて、メモリのデュアルチャネルを無効にするために、ソケットの位置を変えてみました。なんか直ったような気もするのですが、一晩通電しておくと翌朝にはBODになってます。しかし、メモリの動作を変えたことで現象が変わるということはやはりメモリなのかという目星がつきました。

ネットを調べてmemtest86+が通るようなケースでもメモリ容量フルに使って極悪ストレスをかけてエラーを発見できるというフリーウェアIntelBurnTestを入手し、流して見ました。そうすると案の定エラーがでます。メモリ1個はずすと出ません。はずしたメモリだけ挿入してテストするとエラーになります。ということで、メモリの1枚が不良品だったという何のことはない結論となりました。

まあ、結構な時間を使ってしまいましたが、やはりiCore7の環境は最高です。自分の場合、仕事、趣味合わせて1日10時間はPCの前にいるわけなので、ある程度投資しても十分元は取れます。それと、メモリが怪しいときは(memtest86+よりも)まずはIntelBurnTest、勉強になりました。

カテゴリー: 雑談 | コメントする

「ラジオライフ」出版社の中の人が逮捕の件

ちょっとタイミング的に遅くなってしまいました(事件自体は7月17日の話)が、前回記事でBLACKCAS使用で警察に書類送検(場合によっては逮捕)の件について書いたのでその流れで書いておきましょう。

DVDリップソフト(アクセス制御解除機能付き)が付録についた書籍を販売したとして、「ラジオライフ」等でおなじみの三才ブックスの取締役らが不正競争防止法違反の疑いで逮捕されました(参照記事)。

不正競争防止法の改正により、アクセス制御回避を行なうソフトや機器を販売すると刑事罰の対象になることについてはこのブログでも以前に触れました(「12月1日からマジコン販売に刑事罰適用です」)。その時はマジコンについての話でしたが、アクセス制御回避という点ではマジコンもDVDリップソフトも同様なので、刑事罰に関しても同等の扱いがされます。

記事によると、三才ブックスの人は、権利者側から販売の自粛を求められていたようですが無視していたようです。刑事罰の対象となるという意味を理解していなかったのでしょうか、それとも、警察に逮捕されてもよいという覚悟の上だったのでしょうか。

なお、この問題となったムック持っている人が「レアもの」としてオークションに出品したりしてもアウトです。また、DVDリップソフトを売るだけではなく、ネットで配布しても同様です。

「でもネットではDVDリップソフトがまだ売られているではないか」という声も聞かれるかもしれません。たとえば、AnyDVDなんてソフトはまだ売ってますね。調べてみるとこのソフトを売っているSlySoftはカリブ海にあるアンティグア・バーブーダという小国にあります。入金処理はキプロスの会社が代行しているようです。たぶん、本拠地はアメリカかイギリスになどにある会社のトンネル会社なのでしょう。

では、こういうソフトを日本から買う行為はどうなのでしょうか?不正競争防止法では、販売や輸出だけでなく輸入の行為も規制対象になっています。

不正競争防止法2条1項11号(強調は栗原による)

他人が特定の者以外の者に影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録をさせないために営業上用いている技術的制限手段により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録(以下この号において「影像の視聴等」という。)を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有する装置(当該装置を組み込んだ機器及び当該装置の部品一式であって容易に組み立てることができるものを含む。)若しくは当該機能を有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を当該特定の者以外の者に譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能を有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為(当該装置又は当該プログラムが当該機能以外の機能を併せて有する場合にあっては、影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする用途に供するために行うものに限る。)

ということで、DVDリップソフトのパッケージを輸入したりすると税関で差し止められる可能性があります。ネット経由でダウンロード購入することが輸入にあたるかは微妙なところです。また、刑事罰の要件としてはさらに「不正の利益を得る目的で、又は営業上技術的制限手段を用いている者に損害を加える目的で」という条件が入ってます(21条2号4項)。

ということで、業者がDVDリップソフトのパッケージを販売目的で輸入したりすれば確実に刑事罰の対象になるでしょうが、個人が自分で使用するためにネットで購入するだけであれば大丈夫のようにも思えます(とは言え、警察がそう思ってくれるかどうかはわかりません)。また、10月以降は著作権法改正によってリップ行為そのものも違法になってしまいます(なお、さすがにこれは刑事罰の対象外)ので、ツールの入手行為の合法性を議論してもあまり意味がないですね。

手持ちのDVDをiPadにリップして旅行に持ってくなんていうのは誰でもやっていると思いますが、この道がふさがれてしまうのは困ったことです。しょうがないので、アナログキャプチャーボードでも買おうかと思いますw。

カテゴリー: メディア, 知財, 著作権 | 1件のコメント

【速報】BLACKCASは使っただけでも送検されるようです

本ブログのちょっと前の記事「BLACKCASの違法性について」において、BLACKCAS(黒C-CAS)カードの製造、販売、改造プログラム配布が刑事罰の対象になると書いた一方で、カードの購入・使用は違法(放送法違反)ではあるものの刑事罰の対象にはたぶんならないのではないかと書きましたが、使っただけでも書類送検されてしまったケースが出ました(参考記事)。記事によりますと、(例によって)京都府警により、男女8人が黒B-CASを使って自宅で有料放送を無料で見るなどした疑いで書類送検されたそうです。

容疑は「不正作出私電磁的記録供用」です。

刑法 第161条の2(磁的記録不正作出及び供用)

  1. 人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
  2. (略)
  3. 不正に作られた権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を、第1項の目的で、人の事務処理の用に供した者は、その電磁的記録を不正に作った者と同一の刑に処する。
  4. 前項の罪の未遂は、罰する。

BLACKCASを(作るのではなく)使うだけでも上記3項に相当すると判断されたということでしょう。最終的にどのような司法の判断がなされるかはわかりません(自分はこの領域はあまり専門ではないです)が、前にも書いたとおり、BLACKCAS関係が洒落にならないのは確実でしょう。特に、ネットオークションのように身元がわかる形で購入することは自殺行為と言えそうです。

カテゴリー: メディア, 知財 | コメントする

中国iPad商標権問題が約48億円で和解の件

ロイターの報道によりますと、中国のProview Technology(唯冠科技)と米Appleの間のiPad商標権問題(関連過去エントリー)が、Appleが6000万ドル(約48億円)をProview側にに支払うことで和解したようです。

繰り返しますが、これは中国でよくある商標ゴロ事件ではなく、Proview Technologyがずっと昔からiPadの商標権を所有していたのをApple側が適切に購入(またはライセンス契約)していなかったことによる問題です。

Proview Technologyは破産しており、iPadの商標権も債権者である銀行側に移転しているようなので、最終的には金で解決することになるのは当然と考えられていましたが、結構な金額になりましたね(以前にAppleが富士通米国子会社からiPadの商標権を買った時の金額は推定400万ドル(参照Wikipediaエントリー)だったので一桁以上違うことになります)。

なんでこんな金額になってしまうかというと商標権は所有権に近い権利で、持っている人が圧倒的に有利だからです。土地の持ち主が相場の10倍じゃないと売らないよと言うのがその人の自由なのと同じです。どうしてもその土地が欲しい人は言い値を払うしかありません(土地収容等の例外的ケースもありますが)。

一般に商標権に関するトラブルは動く金額が大きいですが、取得は10万円くらいからでできてしまいますので、特にグローバルでビジネスを展開する企業にとっては、とりあえず商標登録出願をしておくのは安い保険と言えるかと思います。

追加: 絶妙のタイミングで出た東洋経済の記事によりますと、日本のインターフォーン・メーカー、アイホンのAppleに対する商標ライセンス料は年間1億円と推定できるようです。

追加(12\07/03 18:00): WSJの記事によりますと、Proviewの米国支社は米裁判所で20億ドルを請求していたたそうなので、Appleにとってはかなり「割安」で和解できたとの見方もあるようです。

カテゴリー: 商標 | コメントする