【実務者向け】特許査定後の分割出願について

知財高裁のウェブサイトで最近の判決文を見ていたら「特許分割出願却下処分取消請求事件」というタイトルの判決が目に止まりました。

特許査定後の分割出願(特許法44条1項2号)の解釈に関する訴訟です。

44条 特許出願人は、次に掲げる場合に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。

二 特許をすべき旨の査定(略)の謄本の送達があつた日から三十日以内にするとき。

原告は、自分の特許出願の特許査定の日から30日以内に分割出願をしたのですが、それより先に特許料を納付して特許の設定登録が終わっていたことから、出願が特許庁に係属していないことを理由に分割出願が却下されました。それに対する処分取消訴訟です。

取消理由は、①出願が特許庁に係属しているということは要件として条文上に書かれていない、②出願人は特許証を受領するまでは特許権が設定登録された事実を知ることができないので、分割出願不可化の効力発生時期は特許証の受領日でなければならない(これはちょっと無理筋では)ということですが、裁判所は①については「特許出願」と書いてあることは特許庁に係属していることが前提であることは文理上明らか、②については「独自の見解」として認めませんでした。まあ妥当ではあります。

ということで、弁理士としては、特許査定の時は、特許料納付の前に分割出願の意図がないかを出願人に確認するのが大事という当たり前の話になります。

今回の訴訟に至る経緯がよくわかりません(弁理士が分割出願の意思を確認せずに特許料を納付してしまったというパターンはちょっと考えにくいです)が、このような特許庁の手続に関する取消訴訟の判決はどういった事情があるのだろうと想像してしまい、読んでいてドキドキしてしまいます。

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【実務者向け】マドプロ事後指定で区分数にかかわらず料金一定の国について

ちょっと細かい話です。

マドプロ国際登録にロシアを事後指定で追加することになって、どの区分に絞るかを検討していたのですが、よくよく見ると、ロシアは事後指定については個別手数料を徴収していないので、区分数にかかわらず料金は固定(基本料金300CHF+ロシアの指定分100CHF)なのですね。したがって、事後指定の際に区分数を絞るのはあまり意味がないことがわかりました。

ただし、国際登録の更新の際には区分数が増えると更新料金が増えてしまうので、不要な区分は更新前に削除しておくことが必要です。この場合、マドプロ国際登録では、日本の登録商標のように、一部の区分だけ更新するということができないので、更新の前に区分の削除(限定要求)を完了しておく必要があります(関連過去記事)。

事後指定の料金が区分数にかかわらず一定の国はロシア以外にも結構ありました。メジャーな国としては、ドイツ、フランス、スペイン、ポルトガル、オーストリア等があります。区分数が多い国際登録において、これらの国をMM2で指定しないで国際登録された後に事後指定すれば料金を節約できることになります。出願日が繰り下がってしまうのであまりやらないとは思いますが。

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ChatGPTは弁理士業務に使えるか?

今さら言うまでもないですがChatGPT凄すぎますよね。文法の知識もなく、構文解析もせず、ルールベースがあるわけでもないのに、統計的処理だけで、あれほど知的(に見える)回答を返してくれるのは脅威です。真の破壊的テクノロジと言えると思います。あまりにも便利なのでChatGPT plus(月額20ドル)を契約してみました。言語モデルをGPT4に設定できるので、さらに正確性が高まります。

たとえば、GPT3.5に「栗原潔について教えてください」と質問すると以下の回答が返ってきました。

栗原潔(くりはら きよし)は、日本の小説家、推理作家です。1948年に福岡県に生まれ、京都大学文学部卒業後、出版社勤務を経て、1980年に『踊る神殿』でデビューしました。

栗原潔の作品は、主に推理小説や歴史小説が中心で、特に江戸時代を舞台にした作品が多いです。代表作には『鞍馬天狗』シリーズや『京都桜京極殺人事件』シリーズがあります。また、多くの作品で京都を舞台にしており、京都の風景や文化を緻密に描写した作品が多く、京都愛が感じられます。

栗原潔は、日本推理作家協会会員や日本文芸家協会会員などの資格を持ち、多くの文学賞を受賞しています。また、テレビドラマや映画の原作も手がけており、作品は幅広い世代から愛されています。

何一つとして合ってないですねw このように大規模言語モデルが学習データに含まれていない情報を勝手にでっち上げてしまう現象を”hallucination”と呼ぶそうです。人間の「妄想」と同じように、言語モデルはこれが間違った情報であることに気付かず、あたかも事実のように堂々と回答してきます。

同じ質問をGPT4にすると、まともな回答が返ってきました。

栗原潔(Kiyoshi Kurihara)についての情報が限られており、著名な人物としての情報が不足しています。もしご質問が特定の職業や分野における栗原潔を指している場合、具体的な情報をお知らせいただければ、関連する情報を提供できるかもしれません。それとも別の栗原潔について情報が必要でしょうか?もしそうでしたら、どのような分野や背景の栗原潔について知りたいかお教えいただけると助かります。

しかし、GPT4にしたからと言って「妄想」の問題がすべて解決するわけではありません。たとえば、GPT4に”What are imporant patents on the large languge model?”と聞いてみました。そうすると「As an AI language model, I cannot provide a real-time or comprehensive list of patents related to large language models.」と前置きしつついくつか特許の例を挙げてくれました。たとえば、以下です。

1. Word2Vec (Google) – US Patent No. 9,467,859, titled “Efficient Estimation of Word Representations in Vector Space,” filed in 2013 by Tomas Mikolov, Ilya Sutskever, and others at Google, describes the process of training distributed word vector representations using neural networks. Word2Vec was a key milestone in the development of modern NLP techniques.

いかにも正しそうな情報ですが、このような特許はありません(この番号は全然別の特許です)。同じタイトルの出願すらありません(同じタイトルの論文ならあります)。適当な情報をでっち上げてもっともらしく回答しているだけです。ChatGPTはあくまでアシスタントとして使い、知識のある人がチェックすればよいという考え方もありますが、番号や日付をちょっと間違えているくらいならまだしもまったく存在しない情報を「ありました」と自信満々で回答するアシスタントというのもどんなものかと思います

ということで、現時点でChatGPTを特許調査等に使用するのはあまりにも危険だと思います。一方、たとえば、文章をわかりやすく直す、記事の見出しを作る、訴求するコピー文を作るといった文章表現に関する仕事ではきわめて有能です。特に英語関連の仕事ですと、ノンネイティブである自分には表現のニュアンスがわかりにくいのでとても助かります。弊所の英語サイトの文章表現、全部添削してもらいました。

また、試しに、私がYahoo! Newsに書いた記事「氏名を含む商標が登録できない問題を解決する商標法改正案について」の本文を読ませて、タイトルを付けてもらいました。結果は、

「商標法改正で氏名を含む商標登録問題が解決へ! ファッション業界も救われる?」

です。すごくないですか?この問題がファッション業界において特に問題になっていたことがちゃんと反映されています。「解決へ」「救われる?」と断定を避けつつ、読者の関心を呼ぶタイトルになっていると思います。

ということで、大雑把に言うと、ChatGPTは「ファクト」に関する仕事には使いにくいが、「表現」に関する仕事ではきわめて有能ということかと思います。

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「請求項xに従属する場合の請求項yまたは請求項zに記載の〜」といったクレームについて

外内案件で、送られてきたクレーム案に以下のような記載がありました。

as claimed in any one of the preceding claims when dependent on claim 2

特許庁では”any one of the preceding claims”(先行する任意の請求項)という記載はNGなので、たとえば、「請求項1から請求項5のいずれかに記載の」と具体的な数字に直して書く必要があります(経験済み)。

問題なのはwhen dependent on claim 2の記載です。たとえば、以下のようなパターンです。

請求項1:Aを備える装置
請求項2:さらにBを含む請求項1に記載の装置(A+B)
請求項3: さらにCを含む請求項1、または、請求項2に記載の装置(A+CまたはA+B+C)
請求項4:さらにDを含む請求項1から請求項3のいずれかに記載の装置(A+D、A+B+D、A+C+D、A+B+C+D)
請求項5:BがB’である、請求項2に従属する請求項2から請求項4に記載の装置(A+B’、A+B’+C、A+B’+D、A+B’+C+D)

「請求項2に従属する」の限定がないと、出てきていない発明特定事項Bを引用するパターンが出てきてしまうので明確性要件違犯になってしまいます。同じことを請求項をばらすことで行おうと思うと、請求項数が増えて大変そうです。

ということで、このようなパターンで登録されている特許がないか調べてみましたが普通にありました。ということで、これについては、そのまま訳してしまってよさそうです。

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検察審査会から親展が来た

先日、以下のような親展が届きました。

検察と名が付く組織から「必ず開封してください」とは心臓バクバクでしたが、私が検察審査員の候補に選ばれたというお知らせでした。選ばれるのは、17000人に1人(0.007%)だそうです。こんな所で運を使ってどうすると思いましたが、めったにできない経験でおもしろそうだと思いました。

しかし、中の書類を見ると、審査員になれない者として、国務大臣、裁判官、検察官、弁護士等に加えて、弁理士も記載されています。ということで、残念ながら、次回に調査票が送られてきたときに弁理士である旨を告げて辞退することになるでしょう。弁護士はわかるとして、弁理士がなぜ審査員になれないかと一瞬思いましたが、たとえば、偽ブランド販売による商標法違反で起訴すべきかといった判断の時には中立的に意見をできない可能性があるのでしょうがないかと思います。

ところで、検査審査会法の法文上は、検察審査員の職務に就くことができないものとして、弁護士及び弁理士等と並んで、「天皇、皇后、太皇太后、皇太后及び皇嗣」が挙げられています。この項目いるのかと思ってしまいました。

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