今年(令和5年)の4月1日より、一部の手続の期限について、「故意でなければ」救済可能という特許法の改正が施行になりました。
特許庁の当該ページを見ると、特許における対象の手続として以下が挙げられています。
(1)外国語書面出願の翻訳文の提出(特許法第36条の2)
(2)特許出願等に基づく優先権主張(特許法第41条)
(3)パリ条約の例による優先権主張(特許法第43条の2)
(4)出願審査の請求(特許法第48条の3)
(5)特許料及び割増特許料の追納(特許法第112条の2)
(6)外国語でされた国際特許出願の翻訳文の提出(特許法第184条の4)
(7)国際特許出願における在外者の特許管理人の選任の届出(特許法第184条の11)
この(6)の「外国語でされた国際特許出願の翻訳文の提出」ですが、国内書面を出していたにもかかわらず、翻訳文を期限までに出さなかったケース(翻訳文提出特例期間が適用される場合に期限を国内書面提出から2カ月目ではなく、国際出願の優先日から32カ月目と勘違いしてしまうミスはありそうです)のみに適用されるのではなく、そもそも国内書面を国際出願日の優先日から30カ月目までに出していない場合にも適用されます。
上記の特許庁ページにも書いてあるように、翻訳文を(国際出願翻訳文提出書ではなく)国内書面と共に提出すれば、「故意でない」、回復期限内、追加料金(21万円痛い)等の要件が満足されれば救済されます。
この点、いまいちはっきりしなかったので、特許庁の方式審査課に「国内書面が期日までに出せなかった点はどうなるのか?」と聞いてみたのですが、「救済の対象になるのは翻訳文提出であって国内書面提出ではありません」等の微妙に方向性がずれた回答しか得られませんでした。
しかし、ちゃんと法文を読んでみると国内書面については気にする必要がないことがわかりました。国際出願(PCT)出願が取下・却下になる場合は2パターンあります。
(1)外国語特許出願の場合
期限までに翻訳文を提出しないと184条の4第3項により否応なしに取下擬制となります。
(2)日本語特許出願の場合
期限までに国内書面が提出されないと184条の5第2項により、特許庁長官は補正命令を出すことができ(任意規定)、この補正命令に期限内に従わないと184条の5第3項により特許庁は出願を却下できます(任意規定)。
すなわち、国内書面を期日までに出さなかったことだけを理由にいきなり出願が取下・却下になることはないということです(少なくとも補正命令は出ます)。
期限徒過した翻訳文を184条の4第4項の救済規定により国内書面と共に提出すると、184条の4第5項の規定により、翻訳文は期限日(優先日から30カ月目)に提出されたとみなされるので、国内書面についてもこれでクリアーになるのか、一度補正命令が出るのかはよくわかりません(おそらく前者だと思います)。
なお、この点は、旧制度(「正当な理由」基準)の救済規定のQ&Aで、「救済規定の対象となる期間は、翻訳文の提出のための期間ですが、国内書面提出期間内に国内書面の提出を行っていない場合は、翻訳文の提出とともに国内書面の提出をすることができます」と書いてあるのですが、新制度(「故意でない」基準)になってからについて明記していないのでわかりにくいです。
なお、細かい話ですが、国際段階で34条補正がされていると、その翻訳文を国内処理基準時までに提出しなければならないところ、救済規定を使うと既に国内処理基準時は過ぎています(翻訳文特例期間は適用されないとのことです)ので、34条補正の翻訳文の提出機会がなくなります。この場合、34条補正がなかったものとみなされるだけなので、別途、国内手続として自発補正すれば足ります(特許庁確認済)。