商標の異議申立に商品の一部放棄で対応することに意味はあるか?

登録商標に異議申立が請求されても権利者側としてはあまりできることはありません(異議申立は請求人vs権利者の構造ではなく請求人vs特許庁の構図だからです)。

しかし、取消決定がされそうになると、取消理由が権利者側に通知され、それに対して意見を述べる機会が与えられます。この時に問題になっている指定商品・役務を一部抹消(放棄)することで取消を回避できるかのような書き方をしているウェブサイトがありました。

しかし、登録後の指定商品一部放棄は遡及効がないですし、異議申立は登録の可否を問うものなので、一部放棄する意味はないのではと思います。特許庁の異議申立に関するQ&Aにも以下の記載があります(一部放棄でも同様であることを特許庁に確認済)。

Q12:登録異議の申立て後に、対象となる商標権が放棄された場合には、ど のような扱いになるのでしょうか。
A12:商標権が放棄されても、その登録の効果が登録異議の申立て前に溯る ことはない(商§35、特§98)ため、通常どおり審理され、異議決定が されます。

現実の異議申立の決定文でも、権利者が取消理由を解消するために一部商品を放棄したにもかかわらず審判官が「 先の取消理由の認定判断に何ら影響を及ぼすものではない。 」と一蹴したケースがあります。

そもそも、取消決定の効果は異議申立がされた指定商品・役務のみですから、それを権利者が先んじて抹消したところで、印紙代(と手間)が無駄なだけではないでしょうか?審査段階の拒絶理由通知に対応した指定商品・役務の補正とごっちゃになっている人がいるということではないかと思います。

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新J-PlatPatの審判情報検索に意外な価値

新J-PlatPat性能問題が厳しい状況になっていますが、いろいろ便利になったのは確かです。特に、審判情報がリアルタイムで検索可能になったのはうれしい限りです。

さて、先日、自分が代理した商標登録に異議申立が請求されました。番号通知が来て副本の送達を待っていたのですが、この段階でJ-PlatPatで、当該登録の審判情報を検索したところ、異議申立の請求人だけはわかりました(審判官指定通知の宛先を見ればわかります)。請求の理由等はわかりませんが、誰が請求しているかわかっただけでも、その後の方針決定に役立つので助かりました。


異議申立の場合、権利者側は少なくとも最初のうちはあまりできることはないですが、類似先登録に基づく異議申立だったりすると、事業で使用する商標の変更等も検討しなければならなくなるため、早めに状況を知れるに越したことはありません。

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J-PlatPatが大幅(本当に大幅)機能改善

特許庁からJ-PlatPat(特許情報プラットフォーム)の機能改善が発表されました。

  1. 審査・審判経過情報が参照可能になるまでの期間を、約3週間から、原則1日に短縮。
  2. 特許・実用新案に加え、意匠・商標(平成31年1月以降の書類 のみ)にまで拡充。
  3. 拒絶された商標出願や、権利が抹消された商標登録を新たに検索可能に。
  4. 中国の特許文献を日本語で検索可能に。
  5. AIを活用した最新の機械翻訳アルゴリズムにより、質の向上した日英翻訳を提供。
  6. 初めての方でもスムーズにご利用いただけるよう、メニューや初期画面を整理。

ということで相当な機能向上で、大変喜ばしいです。これくらい向上するなら、休日メンテも我慢できますね。特に3は、出願の登録可能性の判断基準のひとつとして重要で、これだけのために有償の商標検索サービスを使用していた人もいるのではないでしょうか?商標検索サービス業者の事業にも影響があるかもしれません。

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実用新案は金の無駄か?

Googleで「実用新案」をキーワードにして検索すると「実用新案は費用の無駄」と主張する特許事務所のサイトがトップに表示されたりします。もちろん、無審査登録なので特許ほどの価値はないですが本当にそうでしょうか?

模倣品を製造販売しようとする競合他社が、その製品が実用新案登録済であることを発見した場合、以下のオプションが取れるでしょう。

1.無視する
2.技術評価を請求する
3.無効審判を請求する

いずれもリスクを(そして、2と3では費用を)伴います。万一、2か3のオプションを取って新規性・進歩性ありの結論が出てしまえば、金を使って他人の権利にお墨付きを与える結果になってしまいます。そのリスクを嫌って、丸パクリはやめるように方針転換する可能性もあります。

競合他社がリスクを取ってでも権利を無効化する決意がある場合、あるいは、当該考案が明らかに新規性・進歩性を欠く場合は別として、一定の抑止効果はあります。

また、 実用新案登録に基づく特許出願という手段もあります。 まずは、実用新案で早期に権利化しておいて、競合他社を牽制しつつ、市場の状況を見つつ特許化するという戦略も取り得ます(この場合の実用新案の価値としては費用の安さよりも早期の権利化ということになるでしょう。

実用新案登録するなら意匠登録出願した方がよいという話もありますが、当然ながら、意匠登録は特定の工業デザインを保護するものなので、技術的アイデア(考案)そのものを保護できるわけではありません。外観を変えてしまえば容易に回避されてしまいます。仮に、特定の考案を実現するために不可欠な形状を意匠登録出願すると「 物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなる意匠 」(5条3項)として拒絶になってしまいます。実用新案と同時にその特定の工業デザインを意匠登録出願するのならわかりますが、実用新案の代わりに意匠登録出願を行なうことが有効なケースがそう多いとは思えません。

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出願人住所と法人登記簿の関係について

特許等の出願人の住所は建前上は法人登記簿の記載に合わせることになっていると思いますが、実際は、登記簿上はビル名なし表記、出願人住所はビル名あり表記といった状態になっているケースも多いかと思います。

このような状態でも、日本の特許庁の運用では住所は実質同一であればよく、あまりうるさいことを言われないので問題はほとんどないと思いますが、海外では必ずしもそうとは限らないので注意が必要です。

先日、韓国にPCTで移行した特許出願が登録になったのですが、出願人住所が変更になっていたので住所変更手続を合わせて現地代理人に依頼しました。その際に法人登記簿の提出(スキャンコピーで可)が必要だったのですが、出願上の住所がビル名あり表記、登記簿上の旧住所がビル名なし表記だったので一致しないということで、手続却下になってしまいました。これを回避するために公証済の住所変更依頼が必要となり、公証人料金が余計にかかることになってしまいました。

ということで、出願人住所は登記簿表記に厳密に合わせておいた方が無難ということになります。

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