電話帳掲載詐欺的商法の特許版について

守秘義務の関係もあってあまり弁理士業務についてはブログに書かないようにしているのですが、ちょっと注意喚起という意味で書いておきます。(この件は、弁理士の先生はほとんど皆様ご存じだと思いますが、代理人通さないで国際出願する人もいるかと思いますので)。

あるクライアントより、ヨーロッパの聞いたことない組織から英文で特許登録料の支払の請求が来たが、これは詐欺ではないかとの問い合わせがありました。「はい詐欺です」と答えておきました。特許にせよ商標にせよ国際出願をすると、WIPO(世界知的所有権機構)のサイトに出願人情報が載りますので、そこからランダムにピックアップしてメールを送りつける商法のようです。特許庁のサイトにも注意すべしとの情報が載っています。WIPOからも同様な警告が出されており具体的な組織名が載っています(上記クライアントにメールを送付してきた組織もこのリスト内にあります)。

この商法が巧みなところは、「当社が展開している特許情報データベースに掲載したいので料金を支払っていただけないか」という書き方をしているところです。さらには、よく読むと「当社は公的機関とは関係がありません」とも書いてあります。要は、この会社が勝手に作っているデータベースに掲載しますよという話で、権利取得に必要なプロセスでも何でもありません。そして、実際にこのデータベースはこの会社のWebサイト上で提供されています(全件検索しても6000件程度しか出てこないので何の役にも立たないデータベースではありますが)。

ということで、先ほどは「詐欺」と書きましたが、厳密に言えば何もウソは言っていません。公的機関であるとの誤認を招く詐欺的商法とでも言えるでしょうが、なかなか違法性は問いにくいところです。1000社に1社でもひっかかれば儲けものと思っているのでしょう。普通、国際出願は弁理士を代理人に立てるのであまりひっかかることはないと思うのですが、個人で出願していると公的機関の権利取得に必要なプロセスだと誤解したり、また、ある程度大きい会社だと英文なので中身をあまりチェックしないで請求書として経理が支払ってしまうことがあるのかもしれません(稟議がいらない程度の金額であることもポイントなんでしょう)。

ここまで書いて気が付いた人もいると思いますが、これって電話帳の「掲載商法」に酷似していますよね。NTTと紛らわしい名称の会社から当社の職業別電話帳に広告を載せたければ料金を支払くださいと書類を送ってくるという商法です。小さい字で「当社はNTTとは関係ありません」と書いてありますし、しょぼい独自電話帳を一応は制作しているらしいのでウソを言っているわけではないのですが、誤認を招く商法といってよいでしょう。

ヨーロッパ発の特許関連商法と日本初の電話帳商法の「ビジネスモデル」が酷似しているのはシンクロニシティなのでしょうか、それとも、どちらかがどちらをパクったのでしょうか(まあ、どうでもいいですけど(笑))。

いずれにせよ、このような厳密には詐欺とは言えないまでもギリギリの手口には気をつけましょうというお話しです。

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iTunes on Cloudは日本で展開可能なのか(著作権法的な意味で)

(追記:2011/02/22 12:30)本エントリーは2011年1月24日付のものです。最新情報についてはこちらのエントリーをご参照下さい。

「まねきTV」および「ロクラク」の両方において知財高裁の判断を否定する最高裁判決が出たことで、コンテンツを事業者のサイトのサーバに置いておくと、外部から見た限りはプライベートなサービスのように見えても、行為の主体が事業者であるとされ結果的に違法となってしまうケースが増えそうです。

両判決については、ブログ「企業法務戦士の雑感」において詳しく分析がされています(「まねきTV」の方「ロクラク」の方)。ブログ主さんは、両サービスが違法であるとの認定をされたことについては別としてその結論に至るまでの論理構成について大丈夫なのかという懸念を持たれているようですが、私もその点は同意見です。

前回も述べたように、今までは個人が所有していた機器で行っていたことをクラウド上で事業者が所有・管理するサーバ上で行なうようになるケースがますます増えてきます。上記判決が、このような将来の方向性と合致しているのか気になるところです。

ひとつ例を考えてみると、Appleが計画中とされているiTunesのクラウド版があります(たとえば、San Jose Mercury Newsのコラムニストによる2011年の予測記事を参照)。今まで自宅のパソコン上に置いてあったiTunesのライブラリをAppleが提供するデータセンターで管理してもらうという形態です。こうしておけば、どこにいても自分のiTunsライブラリにあるコンテンツをスマートフォンにストリームしたり、ダウンロードできるので大変便利ですね。と言うよりも、これはある意味当たり前のサービスであって、既にAmazon S3等に勝手に自分のiTunesやWinAmpのライブラリを置いている人もいるようです。

さて、この”iTunes on Cloud”(仮称)の日本の著作権法上の扱いはどうなるのでしょうか?サーバはAppleの管理であり、コンテンツ配信に特化した有償サービス(たぶん)であること等々を考えると公衆送信(ストリーミングの場合)や複製(ダウンロードの場合)の主体はAppleであると判断される可能性は十分にあります(そもそも、この”iTunes on Cloud”は、違法であるとの地裁判決が確定してしまったMYUTAと構成がほとんど変わらないと思われます)。

“iTunes on Cloud”上でコンテンツを買う場合は、権利者はコンテンツの使われ方をわかった上でAppleにコンテンツ販売を許諾しているわけですから、あまり問題は起きないと思います。問題になるのは、自己所有のCDをリップしてクラウド上のiTunesライブラリに置く場合です。自分のCDを自分が操作してアップロードして自分だけで聴く場合でも、複製の主体(あるいは、公衆送信の主体)はAppleであるとされて、違法という解釈が出されかねません。

ここで、裁判官の「規範」が「自分が正規に買ったCDを個人として便利な形態で聞くのは自由である」であればよいのですが「レコード会社がCDを売った時はクラウド上に音楽コンテンツを置くことなど想定していなかったのだから、クラウド上に音楽コンテンツを置きたい消費者はそのような許諾を受けているコンテンツを改めて買い直すべき」だっととしたら違法にされてしまう可能性は高いと言えそうです。

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米国における「まねきTV」的サービスについて(続き)

「ロクラク」についても、知財高裁判決が最高裁によりひっくり返されてしまいましたね。これについては週末にでもまとめて書きます。

ただ少なくも現時点の私の感触では、「まねきTV」でも「ロクラク」においても、裁判官の頭の中には、「これらはTV局のビジネスを邪魔する不当なサービスであり何とかして違法にしなければいけない」という規範的意識があり、その目的のためにやや強引な解釈がされているように思えます。

しかし、クラウドと言うバズワードを持ち出すまでもなく、1)自分で装置を所有するのではなく他人が所有・管理する装置を利用する、2)ひとつのネットサービス(さらには1台の物理的装置を)多くのユーザーが共用する、3)ネットサービスではデータだけではなく著作物(コンテンツ)も扱う、というのは今後ますます加速していく動向です。そういう点では「まねきTV」も「ロクラク」も全然特別なシステムではないのですが、その辺を裁判官は理解された上で結論を出しているのかが気になるところです。

さて、今回は、前回に引き続きプレースシフティングに関する米国の状況について私が知っている範囲内で書きます。

まず、ちょっとしたニュースとしてiviというシアトルの会社がキー局のテレビ番組をインターネット上で再送信し、PCやスマートフォンで視聴できるようにするサービスを開始しています(参考ブログ記事)。ユーザー所有のSlingboxをホスティング(ハウジング)するなんてことすらしないで、TV放送を(おそらくは通常のサーバで)そのまんまネット再送信して、ユーザーから料金を取るという「大胆」なビジネスモデルです。もし、日本でやったら速攻で警察に家宅捜索されるレベルではないでしょうか。

そして、昨年9月にこのivi社は、TV局側に対して著作権を侵害してないという確認訴訟を提起しました(TV局がiviを訴えたのではなく、ivi側がTV局を訴えた点に注意)(参考ブログ記事)。なんかめちゃくちゃな感じですが、まったく根拠なしというわけではありません。

米国では放送を有線放送で再送信することに対して放送事業者は禁止権を行使できません。所定の著作権料を払えば再送信は自由に(営利目的であっても)行なえます(米国著作権法111条(C))。ということでネットでの同時再配信も有線放送であるという解釈が許されるならばiviのビジネスもOKと言えなくもありません(なお、ivi社は規定の著作権料を払っていると述べています)。

一方、日本では、著作権法38条3項により、非営利・料金無料に限って、放送コンテンツを有線放送経由で同時再送信可能です(TV電波の難視聴地域対策)。日本の法解釈ではネット送信はたとえストリーミングであっても有線放送ではなく自動公衆送信であるとされていますが、自動公衆送信経由で同時再送信を行う場合には元々の放送対象地域に限ることになっており、TV地方局に優しい制度となっております。

38条3項 放送される著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、有線放送し、又は専ら当該放送に係る放送対象地域において受信されることを目的として自動公衆送信(略)を行うことができる。

米国でiviが合法とされるかどうかは別として(何となくアウトな気がしますが)、米国では地上波放送についてはある程度勝手に使われても許容せよ(公共の電波を使っているのだから)という意識があるように思えます。「まねきTV」、「ロクラク」に話を戻すと、TVコンテンツを利用したサービスに対して、TV局側の人は「自分たちが作ったコンテンツなんだから自分がコントロールできるのは当たり前」という感想を抱くかもしれませんが、「自分たちが作った」の前に「国民の共用財産たる電波を使わせてもらうという前提で」というフレーズが抜けているのではないかと思います。

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米国における「まねきTV」的サービスについて

昨日の「まねきTV」の最高裁判決が議論を呼んでいるようです(参考記事)。知財高裁への差し戻しとなっていますが、高裁で最高裁の認定をひっくり返すことはできない(そうでなければ最高裁の意味がない)ので、「まねきTV」の著作権侵害は確定です。明日(10/01/20)は類似システム(公衆送信ではなく複製が問題となっている)「ロクラク」事件の最高裁判決が予定されていますので、どうなるのか気になるところです。

早くも裁判所のサイトに判決文がアップされています。判決要旨は以下のとおりです。

1 公衆の用に供されている電気通信回線への接続により入力情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置は,単一の機器宛ての送信機能しか有しない場合でも,当該装置による送信が自動公衆送信であるといえるときは,自動公衆送信装置に当たる
2 公衆の用に供されている電気通信回線への接続により入力情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置が,当該電気通信回線に接続し,これに継続的に情報が入力されている場合には,当該装置に情報を入力する者が送信の主体である

時間ができたら再検討してみますが、これはいくらなんでも射程が広すぎるのではと思います。ハウジングサービスを経由して著作物を視聴すると全部著作権侵害になってしまうような気がします。

本判決の詳しい分析は後回しにさせていただいて、ここでは私の知っている範囲内で米国における「まねきTV」的サービスの状況についてご紹介します。

米国では、TV番組の映像をネット経由で遠隔地に飛ばしてパソコン等で視聴するための製品としてSlingBoxという製品が一般的になっています(日本で言うSONYのロケフリに相当する製品です)。エミー賞も受賞しておりアングラ的な製品ではありません(これはロケフリも同様)。

問題は、SlingBoxをサービス事業者のサイトにおいて管理してもらうSlingBoxホスティングというサービス形態です(どうも米国ではホスティングとハウジング(コロケーション)を明確に区別していないようで、ハウジングぽい形態でもホスティングという言葉を使うことがあるようです)。

SlingBox単体での使用(いわゆる”placeshifting”)はまったく問題ないとして、SlingBoxホスティングが合法であるかどうかは米国でも議論されているようです(少なくともSlingBoxの使用許諾条件には反するという問題点があります)。しかし、少なくとも訴訟問題にはまだ発展していないようです。

ちょっと前の記事ですがNewsWeek(英文)にこの辺の事情がまとめられています。時間ができたら内容を整理し紹介しますが、私が最も印象的だった部分は、SlingBoxホスティングのようなサービスでおそらくは最大の損害を被るであろうスポーツリーグ運営者(地域限定でライセンス契約するため契約地域外に番組が流れると困る)であるMLB.com(メジャーリーグベースボール)のCEOによる以下のコメントです。

“Our fans are never wrong,” says MLB.com CEO Bob Bowman. “We can never suggest that a fan shouldn’t do everything he or she is doing to watch a baseball game・・・

「私たちのファンが悪いなんてことはあり得ません。野球を見るためにあらゆる手段を取ろうとするファンに対してそれをやめるべきと言うことはできません...」

判決については明日の「ロクラク」判決が出たタイミングで詳しく分析・検討してみようと思います。

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AppleはApp Storeの商標を独占できるのか

「Appleが「app store」の商標申請 Microsoftが異議」という記事がITmediaに載っています。以下簡単に説明します。

商標の機能は自社の商品(サービス)を他社のものと識別することです。ゆえに、識別性がない商標は登録されません。典型的なケースはその商品(サービス)の普通名称です。「パソコン」という名称をパソコンという商品の商標として登録することはできません。

商標が登録されないパターンのもうひとつの例として「記述的商標」というものがあります。その商品の産地、販売地、品質、原材料等々をそのまんま表わした商標です。たとえば、「おいしい牛乳」だとか「はちみつレモン」だとかがそれに相当します。「おいしい牛乳」の場合には、たとえば、「森永のおいしい牛乳」といったように苦肉の策でメーカー名を付けて登録に持ち込んでいます。

「記述的商標」が登録されるケースもあって、それは商標の継続的使用によりそれが消費者に有名になり、識別性を確保したと判断されるケースです。このような使用によって得られた識別性を”secondary meaning”と呼びます。このような使用による識別性確保の例としては「サッポロビール」などがあります。

この辺の仕組みは日本も米国もほとんど同じです。で、ポイントは、消費者は”App Store”という言葉を聞いた時に「一般にアプリケーションを売ってる店(サービス)」と思うのか「あのアップル社のアプリケーション販売サービス」と思うのかということです。マイクロソフトは前者であると考え、”App Store”は「そのまんま」の商標で識別力がないので、登録すべきでないと異議申立したわけです。個人的には、App Storeと言えばApple、 AppExchangeと言えばSaleforce.com等々と十分識別力はあると思いますが、それはIT系の仕事をしているからであって、米国の一般消費者の感覚がどちらなのかは正直ちょっとわかりかねますので判断できないですね。裁定の結果を待ちたいと思います。

そういえば、一昨年のSalesforce.comのイベントの記者会見でマーク・ベニオフが「App Storeという名前はAppleにくれてやった」というような発言をして、隣のパーカー・ハリスが苦笑いというシーンがあったのを覚えています。

米国の商標検索システムで調べると、Salesforce.comもAPPSTORE(ブランクなし)という商標を2006年6月に出願していますがその後自ら放棄し、結局AppExchangeという名称を使い始めました(AppExchangeはその後商標として登録されています)。まあ詳しいことはよくわかりませんが何か一悶着あったということかもしれません。

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