中国の新幹線特許出願に関する記事について

日経新聞に「中国版新幹線の特許審査、国際機関『関与せず』」という記事が載っています(訴えられると大変(笑)なのでリンクは省略)。以下、著作権法32条に定められた引用により検討します。全体としては間違ってはいないが微妙に誤解を招きがちという一般紙における知財系ニュースに典型的に見られるパターンになっています。

ことの経緯はご存じと思いますが、中国の車両メーカーが新幹線車両を川崎重工等の企業共同開発していたにもかからわらず単独で国際特許出願して問題になっているというお話です。

まず、記事中に

「可否は各国が決めることで、私はその立場にない」と語り、WIPOとして関与しない方針を明らかにした。

と書いてありますが、ちょっと違和感がある書き方です。WIPO(世界知的所有権機関)が今回のケースに限って関与しない方針を取ったかのように取られてしまいそうですが、そもそも、国際出願においてWIPOは事務作業の集約と予備的な調査・審査を行うだけであり、特許の査定そのものは各国の特許庁にゆだねられています。これは、「特許独立の原則」という大原則です。

あたかも「警視庁は民事には介入しない方針を明らかにした」と書いているような感じです。

また、国際予備審査を中国自身が担当していることも問題であるかのようにわざわざ書いていますが、これまた、予備審査(およびその前段階である国際調査)を一定以上の能力を有する国が担当するのはルールで決まっています。実際、日本の企業が日本語で国際出願すると、日本の特許庁が国際調査と国際予備審査を行なう運用になっています。

要は、この記事に書いてあることは国際出願の当たり前の運用であり、わざわざ記事にするような話ではありません。記事にする前にこの辺に詳しい弁理士に一言聞けばいいのになあと思います。

本当に問題なのは、中国の出願内容です。川重等の日本企業の発明したアイデアそのままであるとするならば、これは「冒認出願」と呼ばれるケースになります(冒認とは出願する権利がない者の出願という意味の専門用語)。そうであれば、特許の審査がWIPOから各国に移行した後に、川重等の当事者が各国特許庁に情報提供することで拒絶に導くことができます。川重等が社内の情報管理をしっかりやってラボノート等をちゃんと付けていれば(付けていると信じていますが)、一悶着あるかもしれませんがさほど大きな問題ではありません。

また、中国が独自の改良部分を出願したのであればそれ自体は問題ありませんが、共同開発における契約がどうなっているかということが問題です。もし、契約違反行為があるのなら厳格に対応していただきたいと思います(まさか、うやむやな契約であるということはないとは思いますが)。

一般的に、共同開発していて一方のみで特許出願してしまった場合には、真の発明者はどっちかということが問題になったりします。こういう時に頼りになるのは日付の証明ができるラボノートです。最近は電子署名によるラボノートが一般的になっています。宣伝モードになりますが、お世話になっているメキキクリエイツ社がジニアスノートというこういう電子認証付ラボノートのASPサービスを提供しています。

従来もこの種のサービスはありましたが、ドキュメントごとASP側に預ける構成になっていました。ジニアスノートは電子署名だけ付与してドキュメントをユーザーの元にすぐ返してくれますので、自社にあったやり方で管理できますし、セキュリティ面でも安心という点でメリットがあります(特許登録第4558099号)。

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堂島ロールの会社の商標問題について

asahi.comに「『モンシュシュ』の標章ダメ 堂島ロールの販売元敗訴」という記事が出てました。事件の経緯としては以下のような感じです。堂島ロールは有名だと思いますが、それを作っているのは株式会社モンシュシュという会社です(2007年に商号変更)。同社はMon Chouchouという商標を自社の菓子類に使用していました。一方、神戸にあるゴンチヤロフ製菓という会社はずっと前から「菓子、パン」を指定商品とする「Mon Chouchou/モンシュシュ」という商標権(第1474596号)を所有しており、モンシュシュ社を商標権侵害で訴え、モンシュシュ社には差止請求と損害賠償3500万円の支払いが命じられてしまったという話です。

記事から判断する限り、明らかな商標権侵害事件であり、モンシュシュ社が何を根拠に争っていたのか理解に苦しみます。何か特殊事情があるのかもしれませんが、まだ、判決文が裁判所サイトにアップされていないので今のところはわかりません。

この事件を例にとって、この記事を読んだ人が気になりそうな点を解説します。いずれも商標については基本的なポイントです。

1)商号と商標の関係

商号(会社名)と商標は異なる概念です。登録商標と同一・類似の商号を登記するだけ、および、商号を商号として使う分には商標権を侵害することはありません(周知商標については別途会社法や不正競争防止法上の問題があり得ます)。要は、会社名での表札を出したり、お菓子の包みに貼った小さなラベルに「製造元: 株式会社モンシェシェ」と書くことで、他者の商標権を侵害することはありません。

しかし、商号を商標的に使用すると、つまり、商品や役務(サービス)の標識として使用すると、商号登記してようがなかろうが他者の商標権を侵害し得ます。モンシュシュ社(堂島ロール)のWebサイトを見るとロゴデザインされたMon Chouchouの文字を大きく店のガラスに表示したりしていますので、これは商標的使用であると判断されてもしょうがないと思います。

なお、記事中にも「モ社の社名は訴訟の争点になっておらず、今後も使える」と書いてあります。要はモンシュシュという社名を付けること自体が問題なのではなく(この機会に変えた方がよいとは思いますが)、モンシュシュという名前の商標的使用が問題であるということです。

2)モンシュシュ社の登録商標との関係

記事中には全然触れられていないのですが、実は、モンシュシュ社も「モンシュシュ」の商標権(第4939769号)を有しています(指定役務は「ケーキ又は菓子を主とする飲食物の提供及びこれらに関する情報の提供」)。これと、ゴンチヤロフ製菓社の商標権の関係はどうなのでしょうか?

まず、基本的なポイントとして商標権は常に商品・役務(サービス)とのペアで考えられという点があります。商品・役務が非類似ならば商標権の効力は及びません。

そして、「飲食物の提供」という役務はレストランや喫茶店で食品を客に出してその場で食べてもらうサービスのことを指します(「提供」とは食品を持ち帰り用に販売することを指すのではありません)。要は、モンシュシュ社の商標権はケーキを出す喫茶店等の営業において「モンシュシュ」の名称を使うことができるという権利であって、「モンシュシュ」という名称のケーキをケーキ屋で販売できるという権利ではありません(その権利はゴンチヤロフ製菓社が有しています)。モンシュシュ社のWebサイトを見る限り、「Mon Chouchou」という名称を使ってケーキの一般への販売を行なっているようなので、ゴンチヤロフ製菓社の商標権を侵害しているように思われます。

商標法における「商品」とは市場で自由に流通するものを指します。レストランや喫茶店でその場で食べることを目的に提供される食べ物・飲み物は商標法上の「商品」ではないのです。食品の販売業を行ないたいのであれば「飲食物の提供」を指定役務とするのではなく、具体的な食品名を指定商品とした商標登録出願を行なう必要があります(そして、このケースでは1977年にゴンチヤロフ製菓が権利を押さえているのでモンシュシュ社が今から出願しても意味がありません)。

いずれにせよ、社名変更やブランド戦略を計画する時には(特に、造語ではなくて「あり物」の名前を使う場合は)既存登録商標のチェックくらいしておきましょうということです(特許電子図書館(IPDL)で無料でチェックできるのですから)。

なお、今後、判決文が裁判所のサイトにアップされた際には追記する可能性があります。

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【お知らせ】特許入門のスライドを作ってみました

「ITプロフェッショナル/アントレプレナーのためのソフトウェア特許入門(基本編)」というスライドをSlideshareにアップしてみました。このスライドを使ったプレゼンテーション動画もいずれ作成、公開する予定です。また、発明のアイデア出しのやり方、特許公報の読み方、外国での権利取得などをカバーした「応用編」もいずれ作成予定です。

内容的には当たり前のことしか書いていないですが、入門の入門という形、あるいは、知識の整理という形で使っていただければよろしいかと思います。

また、テックバイザーのサービスに関する情報ですが、今までは特許出願の手数料は出願時20万円、登録時の成功報酬10万円を基本としていたのですが、個人のお客様の場合には、出願時の料金を安くして、その分成功報酬を増す方法にしました。特許庁への料金と弊所への消費税も含めて10万円ポッキリで出願します。

一般に、個人の方の出願の場合には、権利が取れるかどうかもわからないのに多額の経費をかけるのは難しいですし、出願後に先行技術が発見されて権利化をあきらめた際の無駄になるコストも最小化したい要求も強いかと思います。

また、弊所では、中間処理(意見書、補正書、面接等)のたびに請求を行うシステムにはしておらず、全部成功報酬で一本化していますので、コストの予測可能性も高いですし、弁理士とお客様のリスクシェアという点でもメリットが大きいのではないかと思います。

コストが高いことを理由に、特許出願をあきらめていた方、あるいは、がんばって自分で出願しようとしていた方は是非ご検討ください。なお、弊所はソフトウェア関連発明を専門としていますので、その点ご留意ください。

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ホリエモンの「GO TO JAIL」Tシャツは商標権的にどうなのか

ホリエモンこと堀江貴文氏が収監直前の記者会見で来ていたTシャツがちょっと話題になっています(参照記事:「『GO TO JAIL』Tシャツに登場の企業は困惑」)。

“GO TO JAIL”というロゴの下に、ライブドアを含めてかつて粉飾問題を起こした企業名が列挙されているTシャツです。これらの企業はライブドアよりももっと巨額な粉飾事件を起こしていますが、代表者が懲役刑を科されたわけではありません。「ホリエモンが懲役ならこれらの会社も監獄行きじゃないの」というメッセージと受け取る人もいるのではないでしょうか。

記者会見の報道写真を通じてこのTシャツが多くの人の目に触れたために、名前を出された企業の人は迷惑しており、商標管理チームと相談すると言っているそうですが、商標権を根拠に堀江氏を訴えるのは難しいと思います。

商標法では「商標」を以下のように定義しています(太字は栗原による)。

第二条 この法律で「商標」とは、文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。

業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)

 

「商標は『業として』使うものである」という定義なので、個人としてTシャツを着る分には商標権の侵害となることはありません(もちろん、そのTシャツを販売したり、販売目的で所持していたりすれば話は別です)。ゆえに、商標権を所有する企業も堀江氏に対して商標権に基づいて何か権利行使することはできません。堀江氏のことなのでこのあたりの知識があったか、あるいは、専門家に相談した上で、法的に問題ないと理解した上でこういう行動を取っていると思われます。

さて、このTシャツ、私は最初は堀江氏(または、そのスタッフ)が自作したものと思っていたのですが、ある会社が作った「あり物」のTシャツで、それを堀江氏が敢えて着たという話のようです。そうなってくると、このTシャツ製造・販売会社は当然ながら「業として」商標を使っていることになります。

このTシャツ会社に対しては、商標を使われた企業は権利行使できるでしょうか?商標の話になじみがない方は本ブログの過去エントリー『【保存版】商標制度に関する基本の基本』あたりを参考にしてくださいね。

まず、商標権は常に使う商品(指定商品)とペアの権利になりますが、このTシャツで名前を挙げられた企業のひとつ「Kanebo」は被服を指定商品とする商標権を有していますので、この点についてはクリアーしています。

ポイントは、このTシャツの「Kanebo」のロゴが商標的機能、つまり、商品の出所を表すマークとして使われているかということになります。これは、あくまでも企業名の列挙であり、消費者はこのTシャツがカネボウ製と認識するはずはないという主張することも可能でしょう(たとえば、新聞記事に企業名が載る場合と同じ)。一方で、Tシャツの画像を見るとカネボウという単純な文字列ではなく「Kanebo」のデザインロゴをそのまま使っていることから、消費者がカネボウがこのTシャツを作っているとまではいわなくともカネボウと何らかの関係があると思う可能性ありと判断されることもないわけではありません。また、「Kanebo」は著名商標といえるので別途不正競争防止法的な問題もあります。

要は裁判してみなければわかりません。個人的には黒に近いグレーと思います。まあ、いずれにせよ、Tシャツに名前を使われた会社が法的手段に訴えてわざわざ騒ぎを大きくすることはないでしょうが。

なお、”GO TO JAIL”はモノポリーの盤面の枠のひとつに書いてある文句であり、このTシャツはゲーム盤上のイラストをそのまま使ってますので、別途、著作権法的な問題はあるでしょう。なお、Wikipediaの情報によると日本でモノポリーの権利関係を有しているのはタカラトミーだそうなので、訴えることができるのはカネボウ等の名前を使われた企業ではなくタカラトミーということになります。

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【お気に入りガジェットシリーズ】スケッチャーズ シェイプアップス

正確にはガジェットじゃないですが(笑)、この前にサンフランシスコで衝動買いしたスケッチャーズのシェイプアップスというスニーカーが結構ナイスだったのでご紹介します。歩くだけでシェイプアップ効果があるという触れ込みの靴。

靴底がかなりぶ厚くソフトになっています。また、かかととつま先がアーチ状になっているので立っている時も常にバランスを取っている感じになります。全体的にかなり重いので歩く時は積極的に足を前に出すような感じでないとうまく歩けません。また、靴底が柔らかいので歩いている時も常に足の裏の筋肉を使っているイメージです。

シェイプアップ効果があるかどうかはわかりませんが、これを履いて歩くと足の筋肉(特に足裏の筋肉)が適度に使用される感じで快適です。自分は扁平足気味なこともあり、ちょっと歩くとすぐふくらはぎの筋肉が張ってしまうのですがそういう問題が減少したような気がします。それから、靴底が厚めなのでいわゆるシークレットシューズ的な効能もあります(笑)。

ところで、この手の靴としてはMBTというのが元祖ですがこちらは2万円以上します。これに対して、シェイプアップスはサンフランシスコのダウンタウンの店で8,000円で買えました(国内でも1万円強くらい)。まあ正直シェイプアップスはインスパイア物ですが、まあ、スケッチャーズならそれなりのブランド価値はあるのでいいかなと。

あと、一般にスケッチャーズの靴は幅が狭いので日本人には合わないという説を聞いていましたが、この靴に関しては普段履いているサイズと同じ番号で大丈夫だったです。

底がソフトなこともありすぐダメになってしまいうという説もあるのですが、この値段ならしょっちゅう買い換えてもOKかなということで、サンフランシスコ出張の時はスケッチャーズ シェイプアップスを買って帰るのを定番にしようかと思います(まあ日本でも買えますけどね)。

 

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