【速報】Amazonのワンクリック特許(を元にした分割出願)が日本で登録された件

日経BPのTechOn!の記事「出願から14年、Amazonの「1クリック特許」が日本で成立」によると、Amazonのワンクリック特許出願を元にした分割出願2件(4,937,434号および4,959,817号)が最近登録されたようです(ワンクリック特許は日本では拒絶になったと思っていましたが分割出願が残っていたのですね)。

ワンクリック特許とは、住所やクレカ情報を入力しなくても注文ができるというアイデアの特許であり米国では1997年に出願され、1999年に登録されています(米国特許番号5960411)。ビジネスモデルやソフトウェアの特許性が問題になっていた時期であり、こんな自明なアイデアに特許を与えてよいのかということで、当時はFSFなどによるAmazonボイコット運動が起こったのを覚えています。

今回、日本で成立した特許はこのワンクリック特許そのものではなく、それを元にした分割出願です。特許明細書に出願時点で書いてあるアイデアであれば、後の段階で、特許の範囲(クレーム)に含めるような補正を行なって別の出願とすることができますが、この制度を利用しています。

両出願の出願日は14年前(米国出願への優先権まで考えると15年前)なので現在では自明となっているアイデアが特許化されている可能性があります。出願公開はされているので厳密にはサブマリンではないですが、サブマリン特許的な脅威はあります。

両特許の内容について簡単に紹介します。

まず、4,937,434号の名称は「ギフト発送方法及びそのシステム」であり、ワンクリックで他のユーザーにギフトを送れることが特徴のようです(12/04/25追加: よく見てみると当初の出願を大幅に補正しており実質的にギフトとは直接関係がないワンクリック注文の特許になっていました)。第一の請求項(登録時点)は以下のようになっています。

【請求項1】 アイテムを注文するためのクライアント・システムにおける方法であって、 前記クライアント・システムのクライアント識別子をサーバ・システムから受信することであって、前記クライアント識別子は、前記クライアント・システムから前記サーバ・システムが予め受信した前記ユーザの購入者固有注文情報と対応付けて前記サーバ・システムに予めストアされていること、 前記クライアント・システムで前記クライアント識別子を永続的にストアすること、 アイテムを特定する情報の要求を前記サーバ・システムに送信すること、 前記アイテムを特定する情報と、前記特定されたアイテムの要求を受け付け、ストアしておくための記憶領域を示すショッピングカートの指示部分と、前記特定されたアイテムを注文するのに実行すべきシングル・アクションの指示部分とを、前記サーバ・システムから受信して、ディスプレイに表示すること、 前記シングル・アクションが実行されることに応答して、前記特定されたアイテムの注文要求を、前記ショッピングカートにはストアせずに、前記クライアント識別子とともに前記サーバ・システムに送信することにより、前記サーバ・システムが、前記受信したクライアント識別子により、予めストアされた前記購入者固有注文情報を特定し、前記シングル・アクションの選択のみによって注文を完成させることであって、前記シングル・ア クションの実行により、他のアイテムについての注文であって、前記クライアント識別子 に関連付けられた1または複数の以前のシングル・アクション注文を、そのアイテムの有 用性に基づいて結合し、前記有用性は、短期間または長期間に分類され、前記短期間は、 在庫のある注文に相当し、注文要求を受けたときに出荷可能であり、前記長期間は、注文 要求を受けたときに出荷可能でない注文に相当すること、および、 前記特定されたアイテムの前記注文要求を、ある時間期間内にキャンセルするのに実行すべき指示部分を前記ディスプレイに表示すること を備えたことを特徴とする方法。

構成要件が結構多いのでそんなに範囲は広くないと思うのですがもう少し読み込まないと何とも言えません。

4,959,817号の方も名称は「アイテムを注文するためのクライアント・システムにおける方法及び アイテムの注文を受け付けるサーバ・システムにおける方法」で、第一の請求項は、

【請求項1】 アイテムを注文するためのクライアント・システムにおける方法であって、 前記クライアント・システムのクライアント識別子を、前記クライアント・システムのコンピュータによりサーバ・システムから受信すること、 前記クライアント・システムで前記クライアント識別子を永続的にストアすること、 複数のアイテムの各々のアイテムについて、  前記アイテムを特定する情報と、前記特定されたアイテムを注文するのに実行すべきシングル・アクションの指示部分とを、前記クライアント・システムのディスプレイに表示することであって、前記シングル・アクションは、前記特定のアイテムの注文を完成させるために前記クライアント・システムに要求される唯一のアクションであり、前記クライアント・システムに対して前記シングル・アクションの実行に続いて前記注文の確認を要求しないこと、および  前記シングル・アクションが実行されることに応答して、前記特定されたアイテムの注文要求と前記クライアント識別子とを、前記サーバ・システムに送信することであって、前記注文要求は、前記シングル・アクションによって示されたシングル・アクション注文要求であり、前記クライアント識別子は、ユーザのアカウント情報を特定することを備え、 前記サーバ・システムが、前記シングル・アクションによって示されたシングル・アクション注文要求と、前記クライアント識別子に関連付けられた1または複数の以前のシングル・アクション注文要求とを組み合わせ、1つの注文に結合することを特徴とする方法。

となっています。こちらは元のワンクリック特許に近いように思えます。

これらの特許を無効にしようと思うと15年前に遡って先行技術を探さないと行けないので結構厳しそうです。権利範囲はそんなに広くなさそうですし、特許の存続は2018年9月までなので残り6年強、Amazonが強硬に権利行使する可能性は低いとは思いますが、Web系、モバイル系のビジネスを行なっている方は一応気にしておいた方がよいかもしれません。

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スタートアップ企業における社名の商標登録出願について(ステマではありません)

私も定期的に読んでいる「企業法務マンサバイバル」というブログに「スタートアップといえども社名は商標登録しておいたほうがいい3つの理由」というエントリーが載っています。

詳しくはブログエントリーを見ていただきたいと思いますが、1) 社名をブランドとしてそのまま使う時に便利、2) 同じ社名の会社がでてきても対抗できる、3) ドメインネーム紛争リスクを低減できる、というのがその3つの理由です。

まことにごもっともだと思いますので、起業された(しようとしている方は)是非社名での商標登録出願を検討すべきと思います。また、まだ社名(商号)を決めていない方は、商標登録しやすい名前を選ぶよう考慮された方がよいと思います。さらに言えば、他社の登録商標と類似の社名にしてしまうと差止請求されるリスクもでてきますので、その点でも社名選択には注意が必要です。

テックバイザーであれば総額58,900円から商標登録が可能です(1区分、5年分納の場合)。他所さんと比較する場合は必ず総額で比較してください(調査料や成功報酬が別になっているところもあるようです)。(何かステマみたいですが(笑)、「企業法務マン」のブログ主様と私はまったく面識がありませんので念のため)。

もちろん、自分で出願することも可能ではあります(弁理士でない人が他人の出願代理業務を行なうと弁理士法違反となりますが、自分で自分のために出願するのは問題ありません)。ただし、その場合でも特許庁料金33,900円はかかります。書類作成のための勉強や調査の手間、万一、特許庁とのやり取りが必要となった場合の手間とリスク、特許印紙を買いに行く手間等と、特許事務所の事務手数料(弊所の場合総額25,000円)とを比較して検討されるとよいと思います。

ここで、「テックバイザー」は商標登録しているのかという突っ込みが入るかもしれません。もちろん検討はしたのですがまだしてません。会社(事務所)の規模が大きくなり、「栗原潔」という個人名を離れて「テックバイザー」というブランドが独り立ちするようになればしようと思っていたのですが、残念ながらまだ個人事業というスケールから離脱できていないからであります。

追加: スタートアップ企業に限らず、社名での商標登録をされていない企業は、この機会に登録されておいても損にはならないと思います。また、中国で社名を冒認出願(抜け駆け出願)されることもあるようです。この場合下手すると中国で商品を販売するときに本家が商標権侵害で訴えられるという本末転倒な事態にもなりかねませんので先んじて中国に出願しておくべきケースもあるでしょう。

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【お知らせ】EnterprizeZineにビッグデータ関連記事を寄稿しました

翔泳社のIT Initiativeに寄稿した記事『「ビッグデータ」テクノロジー戦略を現実的に考える』がEnrterpriseZineにも転載されました。一般にIT Initiativeへの寄稿記事はだいたい1ヶ月遅れでEnrterpriseZineに転載されるようなので、早く読みたい方はIT Initiativeを申し込まれるとよろしいんじゃないかと思います(無料)。

さて、本記事は、「ビッグデータ」も他のIT関連用語と同様ちょっと混乱が見られるので少し整理して考えてみてはいかがですかという内容が中心です。「ビッグデータ」を「エマージング・ビッグデータ」と「トラディショナル・ビッグデータ」の2カテゴリーに分類して検討することを提唱しています。簡単に言うと、「エマージング・ビッグデータ」はMapReduceやNoSQLを活用する世界、「トラディショナル・ビッグデータ」はRDBMSを活用する世界です。もちろん、両者は排他的ではないですし、境界線も明確なわけではないですが、このようなカテゴライズを行なうことで、議論の混乱をある程度防げるのではないかと思います。また、『「ビッグデータ」すなわちHadoop採用だ』というような近視眼的なテクノロジー選択を防ぐ効果もあるのではないかと思います。

ご興味ある方は是非ご一読ください。

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【小ネタ】確認会社が知らない内に解散されてしまうリスクについて

平成18年に施行された会社法改正により今では資本金1円でも株式会社が設立可能になっているのはご存じかと思います(もちろん、相応の運転資金は別途必要ですが)。昔は株式会社設立のためには資本金が最低1,000万円は必要で起業の障壁のひとつになっていました。

この改正直前の経過措置として、5年内に増資するか、解散するかという条件付きで資本金1,000万円以下で株式会社を設立できる特例期間がありました。この5年内の増資、あるいは、登記事項からの解散事由削除を忘れていると自動的に会社が解散になってしまいます。で、実際にそのような目に遭った人の話がBLOGOSに載っていました。法人登記簿を取りに行ったところ、会社が既に解散状態になっており、再登記が必要であるとのこと。

会社が解散になっていても、法人税や厚生年金は払い続けていたようで、役所間の相互チェックはまったくなされていないようです(既に払った税金や保険料はどうなってしまうのでしょうか)。また、「このままだと会社が解散になってしまうよ」との通知もまったく来ていなかったようです(ただし、法務局の話では通知が行っているはずだとのことであり、この点では話が食い違っています)。

株式会社テックバイザージェイピーもこの会社と同様に平成17年に確認会社としてスタートしていますので急に心配になって、法人登記謄本を取ってきましたが、ちゃんと解散事由は削除されており、会社は存在していました(ほっ。

当時の記憶がよみがえってきましたが、改正会社法が施行された時、会社設立時に定款作成をお願いした行政書士さんから直しておいた方がよいんじゃないですかと連絡があって、そのついでに直していたようです。行政書士さんとお付き合いがなければ見逃していたかもしれません。

一般的に法律的な手続きをする時には士業の人に委任せずとも自分でやってしまうこともできます。特に個人事業主や小規模企業の場合には、単に書類作って出すだけの作業に手数料を払うのはもったいないという気持ちがあるのはわかります。しかし、自分でやってしまうと、手続きの時点ではよいとしても、その後のフォローがおろそかになって手痛い目に会う可能性がないとは言えません。

書類作成だけの作業に何十万円も払うのはどうかと思いますが、数万円の出費であれば、その後のフォローや制度改正によるリスクの保険として払っておくのは賢い選択と言えるのではないでしょうか?たとえば、意匠や商標の出願も自分でやろうと思えばできないことはないのですが、数万円の手数料であれば弁理士に頼んだ方が、リスクを加味すれば結局お得と言えるのではと思います(ものすごいポジショントークですみません(笑))。

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【速報】FacebookがYahoo!の特許攻撃に逆襲の件

少し前に米Yahoo!がfacebookに特許侵害で訴訟しました(参考記事)。良いか悪いかは別として、本業の先行きが怪しくなると知財に関して攻撃的になるのはよくあるパターンです。これに対してFacebookは自社の特許権でYahoo!を逆提訴しました(参考記事)。これまたよくあるパターンです。

Facebookの特許ポートフォリオは他社と比べて見劣りしており、それを拡充するためにIBMから特許を購入したという見方もありました。しかし、それに頼るまでもなく既存の特許ポートフォリオだけでもYahoo!を逆提訴するのは十分だったようです。Facebookは今までもソーシャルネットワーキング関連にフォーカスして社内で発明するだけではなく、他社から特許権を取得していますので、それなりに攻撃力はあると思われます。

以下が今回の逆提訴に関連した特許です(名称の日本語訳は栗原による)。これらの特許10件のうち、Facebook社内で開発されたものは最初の2件だけで残りは以前に他社から購入していたものです。さすがに全部は見ている時間はないですが、重要ぽいものの中身を後日紹介するかもしれません(あくまで予定)。

米国特許番号

名称

名称(日本語)

備考

7,827,208Generating a feed of stories personalized for members of a social networkソーシャルネットワークのメンバーにパーソナライズされたストーリーのフィード生成flickrがこれに抵触すると主張しているようです
7.945,653Tagging digital mediaデジタルメディアのタグ付けザッカーバーグ自身の発明
6,288,717Headline posting algorithm見出し表示のアルゴリズムDietpowerという会社から購入
6,216,133Method for enabling a user to fetch a specific information item from a set of information items, and a system for carrying out such a method複数の情報項目から特定の情報項目取得を可能にする方法とその方法を実現するシステムエージェントを使ったマルチメディアデータの検索関連のアイデア。元はPhilips社の発明
6,411,949Customizing database information for presentation with media selectionsメディア選択による表示のためのデータベース情報のカスタマイズ同じくマルチメディアデータ検索関連、元はPhilips社の発明
6,236,978System and method for dynamic profiling of users in one-to-one applications1対1のアプリケーションのユーザーの動的プロファイリングのためのシステムと方法静的・動的プロファイルからユーザー・プロファイルを生成するアイデア、元はNYUの発明
7,603,331System and method for dynamic profiling of users in one-to-one applications and for validating user rules.1対1のアプリケーションのユーザーの動的プロファイリングとユーザー・ルールの検証のためのシステムと方法上記の関連発明、元はNYU
8,103,611Architectures, systems, apparatus, methods, and computer-readable medium for providing recommendations to users and applications using multidimensional data多次元データを使うユーザーとアプリケーションに推奨情報を提供するためのアーキテクチャー、システム、装置、方法、コンピュータ可読媒体データベース検索関係か?(中身を読み込まないとわかりません)元はNYUの発明
8,955,896System for controlled distribution of user profiles over a networkネットワーク上でユーザー・プロファイルをコントロールされた形で配布するためのシステム中身を読まないとよくわからないです。Cheah IP LLCという会社から購入
8,150,913System for controlled distribution of user profiles over a networkネットワーク上でユーザー・プロファイルをコントロールされた形で配布するためのシステム上記の関連発明

個人的予想ですが、Facebook対Yahoo!は、Apple対SamsungやOracle対Googleのような泥沼にはならず(Apple対Samsungに関しては和解の可能性もでてきたようですが)、クロスライセンスで和解という形で収まるのではないかと思います。

特許を取得するのは他社を訴えるためだけではありません。このように他社から特許攻撃を受けた時の防衛策として自社の特許ポートフォリオを拡充しておく(自社で発明するだけではなく他社が不要な特許を買っておく)戦略は重要です。

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