【商標小ネタ】アイホンのチャイム音が米国で商標登録されている件

スマートフォンのiPhoneではなく、インターホンのアイホンのお話です。

中日新聞の記事『アイホン、北米で売り上げ最高に』によりますと、米国でもテロや銃乱射事件の影響で防犯意識が高まり、テレビ付インターホンが売れており、アイホン社は、

「ブランドイメージの定着」を狙って昨年1月、日本でおなじみの「ピンポン」という呼び出し音を、米国で商標登録。あの手この手で攻勢を強めている

ということです。商標の本質的機能は消費者(需要者)が商品やサービスの出所を識別できることにあるわけですが、マークや名称だけではなく、音でも出所識別機能があれば、商標として登録できるという制度です。米国を初めとしていくつかの国では採用されていますが、日本ではまだ採用されていません。

アイホンの米国登録サウンドマークですが、検索してみると登録番号は85063162でした。Description of Markは以下のようになっています(翻訳は栗原による)。

The mark consists of a sound. The mark consists of an electronic chime playing an E5 quarter note, followed by a C5 half note, and E5 quarter note, and a C5 half note. The sound is similar to a simple doorbell chime that is repeated.

本商標は音から成る。四分音符のF5、八分音符のC5、四分音符のF5、八分音符のC5の電子チャイム音から成る。普通のドアベルが繰り返し鳴る音に似ている。

出願時には実際の音声ファイルを提出する必要がありますが、登録上はこのように文章で表現してあり、何か争いがあった時に音声ファイルを使うという運用のようです。

USPTO(米国特許商標局)のサイト内の子供向けの教育ページでは、代表的なサウンドマークが、こちらは音声ファイル付きで紹介されています(あくまでも教育用のページなのですべてのサウンドマークが網羅されているわけではありません)。日本の消費者にとっては、Intelのチャイム音などがなじみ深いと思います。

ところで、サウンドマークの話が出るとよく引き合いに出される例にハーレイダビッドソンのエンジン音というのがあると思います。しかし、ハーレイ社が出願したのは確かですが、その後、他社からの異議申立て(V型エンジンのエンジン音だけでは他社と識別できないという理由)があり、結果的にハーレイ社は出願を取り下げたようです(参照記事)。

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特許法の新規性喪失の例外規定についてまとめてみました

前回の記事『出願前に公表・販売してしまった発明にも特許化の道が開けた件』はそれなりに反響を呼んだようです(発明家にとって影響が大きい改正と思うのですがイマイチ周知されていないのでしょうか?)

この機会に「新規性喪失の例外」(特許法30条)について簡単にまとめてみました。ちょっとややこしい部分ではあります。なお、以下の説明は4/1施行の改正前も改正後も共通です。改正前後での違いは、救済(新規性喪失の例外)の対象となる行為が改正前は比較的狭かったのが、改正後はきわめて広くなるという点にあります。

1.普通のパターン

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発明者(あるいは、発明者から「特許を受ける権利」を契約により譲渡された者(典型的ケースは職務発明の規定により社員から会社に「特許を受ける権利」が自動的に移転された場合))自身が公表(販売も含む)した場合、公表日から6ヶ月以内に出願すれば、その公表を理由として新規性・進歩性を否定されることはありません(もちろん、他の理由により拒絶されることはあり得ます)。なお、この救済策を受けるためには所定の手続きが必要ですので個人で出願等される場合はご注意ください。

2.「特許を受ける権利」が途中で移転しているパターン

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「特許を受ける権利」が契約により適切に譲渡されているのであれば、公表した人と出願する人が違っていてもパターン1と同じです。たとえば、社員が個人で発明を公開、その後、会社の規定により「特許を受ける権利」が会社に移転して、会社名義で出願するようなケースです(職務発明の内容を出願前に個人として公開したことで会社に怒られるかもしれませんが、それは別論)。

3.冒認出願(パクリ)のパターン

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「冒認出願」とは「特許を受ける権利」を持っていない人による出願、要するに人のアイデアを勝手にパクった出願を意味する専門用語です。発明者であるAさんの公表の内容を見たBさんが勝手にAさんより先に出願してしまうと、Bさんの出願が冒認であることが立証されない限り、Aさんの出願はBさんを先願(拡大先願)として拒絶されてしまいます。冒認であることの立証は、同じ会社の同じ部門で共同研究していたうちの一人が退職して勝手に出願等々であればまだしも、Bさんが自分で独自に考えましたと主張するとそれに反証するのはかなり困難と言えるでしょう。Bさんの冒認が立証できないと、以下のパターン4と同じ扱いになります。なお、Bさんの出願は冒認であろうとなかろうとAさんの公表を理由として新規性欠如により拒絶されます。

万一、Bさんの発明が特許化されてしまった後でも、冒認を証明できればAさんは権利を取り戻せますが細かくなるので説明は省略します。

4.独立して発明した第三者が先に出願してしまったパターン

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冒認(パクリ)ではなく、第三者が偶然同じ発明をして先に出願してしまったパターンです(シンクロニシティではないですが、同じようなアイデアを同時期に複数の人が思いつくケースはないとは言えません)、この場合は、結論から言うと、AさんもBさんも特許を受けることはできません。(説明は次の段落に書きますが、結構ややこしいので読み飛ばしてしまってもかまいません)。

まず、Bさんの出願はAさんの公表を理由として新規性欠如により拒絶されます。しかし、通常は拒絶される前に出願日から1.5年後に出願公開が行われます。出願公開がされると特許法29条の2の拡大先願の地位が生じます。拡大先願の地位は出願が拒絶されても消えません(一方、39条の先願の地位は消えます)ので、Aさんの出願はBさんの出願を拡大先願として29条の2の規定により拒絶されます。結果として、AさんもBさんも共倒れになります。なお、29条の2は先願と後願の発明者が同一の場合には適用されませんので、パターン3で冒認を証明できた場合には、Bさんの出願は冒認出願を理由として拒絶され、Aさんの出願は39条でも29条の2でもBさんの出願には影響されないことになります(もちろん、別の理由で拒絶されることはあり得ます)


と、いろいろとややこしいことを書いてきましたがポイントは以下の3点です

  • 新規性喪失の例外は出願日の遡及規定ではない
  • 新規性喪失の例外規定はあくまでも非常手段(公表前に出願が原則)
  • 新規性喪失の例外規定を使う場合でも可及的速やかに出願することが望ましい
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出願前に公表・販売してしまった発明にも特許化の道が開けた件

ちょっと前の特許関係の入門書等を見ると、発明の内容を特許出願前に公表してしまうと、新規性の喪失により特許化が不可能になるので、出願は必ず発明の公表前にやっておけと書いてあると思います。今後この基本ルールが大きく変わります。

今までも、発明者自身による新規性喪失には一定の条件による救済措置が規定されていました。たとえば、博覧会へ出品や学会への発表等々のパターンですが、条件が限定的であり、あまり使えるケースがありませんでした。

今年の4月1日から施行される特許法改正により、この救済条件が大幅に緩和されます。発明者自身(より正確に言えば特許を受ける権利を有する者)の行為に起因して新規性を喪失するに至った場合には、その日から6ヶ月以内に出願すれば救済措置が受けられます。つまり、行為に対する限定が一気になくなりました。発表だけではなく、発明を使用した製品やサービスを販売した後で出願しても大丈夫です。(なお、意匠についてはずっと前からこのような規定になっています)。

あまり特許のことなどは考えずに新製品を売り出したところ予想外に売れたので、他社の模倣を防ぐためやVCの投資を受けるために特許化したいという相談は、以前は問題外だったわけですが、この改正により道が開けました。特に、スタートアップ系企業にとっては朗報だと思います。大企業ですと製品発表前の出願がプロセス化されているのが通常でしょうが、スタートアップ企業ですとアイデアを何でもかんでも前もって出願しておく余裕がないと思われるからです。

なお、この改正が有効になるのは、今年の4月1日以降の「出願」です。つまり、昨年の10月1日以降に発表しているのであれば出願日を調整することでこの救済措置を受けられます。(ただし、たとえば10月1日の発表ですと出願日は4月1日でなければならず、これより早くても遅くてもこの救済措置の対象になりませんのでちょっと大変ではありますが)。

なかなか便利な改正ですが、あくまでも例外的な救済措置である点には注意しておく必要があります。たとえば、出願前に販売してしまうと海外での権利化が不可能になるケースもあります。また、発表したアイデアを他人に盗まれて先に出願されてしまうとやっかいな事態になり得ます(法律上はそのような出願は拒絶されるはずですが実際には立証が困難なこともあります)。さらに、公表後にそれを知らない第三者が偶然同じ発明をして先に出願してしまえばそちらが先願(拡大先願)になりますのでそれを理由に自分の出願は拒絶されてしまいます。ということで、大原則としては公表前に出願しておくべきという点に変わりはありません。


去年の10月以降、新しいアイデアを発表したり、新製品・新サービスを販売開始していて、これはひょっとして特許化できるのではないかとお考えの方は是非ご相談ください。

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HPソフトウェア担当SVPインタビュー:HPが提唱するITパフォーマンス管理

HPのソフトウェア部門SVPのHans-Peter Klaey氏にインタビューしました(グループインタビューだったので同氏の話を再構成する形で記事化しています)。

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一般的にはHPというとサーバ/ストレージの会社、あるいは、パソコンの会社(人によってはプリンタの会社)というイメージがあると思いますが、実はソフトウェア事業で見ても収益ベースで世界3位の企業です(1位はIBM、2位はMS、Oracleは4位です)。伝統のOpenViewに加えて、Mercury、Pregrine, Opsware、Vertica、Autonomy等々M&Aで獲得したソフトウェア製品の資産も相当にあります。(OLTP)系のDBMSやWebアプリケーションサーバ系はパートナーに任せて管理系の製品にフォーカスすることが基本的戦略です。

今回のお話の中心は同社が昨年に発表したITPS(IT Perfomance Suite)についてです。ここでいう「パフォーマンス」とはシステムの性能の話ではありません。業務上の定量的指標を指します。つまり、KPIという言葉で使われる時の「パフォーマンス」です(日本語だと「業績」と訳されることがありますが、それよりもずっと広い概念です)。

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「営業、マーケティング、生産等の部門にはパフォーマンス管理システムが提供されてきたが、IT部門に対しては同等のものは存在しなかった。その穴を埋めるのがITPSだ」とKlaey氏は述べます。

ビジネス系のパフォーマンス管理システムでは、売上、利益等々の財務的指標に加えて、たとえば、顧客満足度アンケート結果、在庫切れ件数、従業員の研修出席率等々、定量化できるビジネス関連指標をダッシュボード等のUIで一覧できるようにすることがポイントですが、ITPSも基本は同じです。ただ、扱う指標がIT部門特有のものになります。たとえば、サービスの可用性、開発プロジェクトの進捗、ヘルプデスクの回答時間等々がKPIの候補となるでしょう。HPではベストプラクティスのKPI群をプリセットして提供しています。

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画面イメージも従来の企業パフォーマンス管理システムによく似ており、KPIをダッシュボードで一覧表示し、目標達成度をメーター、グラフ、色で表せるようになっています。もちろん、詳細情報にドリルダウンすることもできます。

「ITバランスト・スコア・カードのような概念は以前からあったと思うのですが?」の質問に対しては「概念としては古くからあったが実現できたのは我々が最初だ」とKlaey氏は述べました。また、当然ながら、HPのIT部門もITPSを活用しているそうです。

また、一般にスコアリング系のアプリケーションを導入する際に最大の障害となることが多い重要ポイント「自分のミスがあからさまになることを恐れるミッドマネージャーが抵抗勢力になることはないのか?」を質問してみましたが、残念ながら「CIOはこのシステムを大変気に入ってくれている」とあまり明確な回答を得られませんでした。問題はCIOではなく中間管理職だと思います。トップダウンで企業文化の改革も行いつつ導入することが必要であるということなのでしょう。

ITPSの話とは別にHPのソフトウェア戦略全般の話もありました。「ツールレベルでの議論は我々のフォーカスではありません。フォーカスはアプリケーションライフサイクルです」とのことです。また、クラウドに関しては「HPはクラウドとはオートメーション(運用自動化)と同義と考えています。オートメーションに対応せずにクラウドを採用しても得られるものはあまりありません。また、パブリックとプライベートの区別なくサービスを活用できるハイブリッドクラウドこそが目指す方向性です」と述べました。マイクロソフトのSoftware+Service戦略もそうですが、ほとんどの企業にとってはハイブリッドクラウドが中心になるというのは正しいと思います。

番外: HP社内は至る所にPCのCMやってるAKBの巨大ポスターが貼ってあります。HPの人に写真を撮ってもらいました(光宗薫ちゃんフィーチャーで撮ってみましたが自分の本当の推しメン(笑)は峯岸みなみちゃんです)

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eBayの分析プラットフォーム開発責任者にインタビューしました

日本テラデータ主催のイベントTeradata Universe Tokyo 2012のために来日していた、eBayの分析プラットフォーム担当ディレクターLiang Hu氏にインタビューしました(なお、同氏の講演は私自身の講演が同じ時間帯で入っていたため聞けていません)。

eBayは日本ですとほとんど存在感がないですが、世界最大のネットオークション会社であり、登録ユーザー数4億5,000万人、1日の新規出品数1,000万件以上という目もくらむような規模のネット企業です。同社のデータウェアハウスは、商用ではおそらく世界最大、Hadoopも活用しており、まさに「ビッグデータ」の典型と言えるシステムを活用しています。

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栗原「まずは、Huさんの職務とバックグラウンドについて教えてください。」
Hu「中国にあるeBayオフショア開発センターで分析プラットフォームの担当ディレクターをしています。大学卒業後、IBMなどのいろいろなITベンダーやスタートアップ企業を経験してeBayに入社して8年になります。」

栗「eBayの開発チームは中国に集中しているのですか?」
Hu「中国に150名ほどのスタッフがいます。それはグローバルのほぼ半数で、残りは主にカリフォルニアにいます。分析系の開発者の大部分は中国にいます。」

栗「いわゆるデータサイエンティストと呼ばれるタイプの人々も中国にいらっしゃるのですか?」
Hu「中国では少数です、多くは米国と欧州に分散しています」

栗「マシン自体は米国にあるのですよね?」
Hu「中国にも開発マシンはありますが、メインのマシンはカリフォルニアとアリゾナにあります。」

栗「eBayは世界最大のデータウェアハウスを運用しているということですが。」
Hu「いわゆるエンタープライズ・データウェアハウスのサイズが6PBくらいです。これとは別にSingularityというプロジェクト名で呼んでいるクリックストリームの分析データベースがあります。これは40PBくらいです。どちらもTeradataベースです。」

栗「その40PBというのは生データ量でしょうか?」
Hu「ディスク容量です。圧縮がかかっていますから実際のデータ量はもっと多いです。」

栗「これに加えてHadoopも活用していると言うことですね。」
Hu「Hadoopは主にイメージやテキストの分析に使っています。Hadoopの分析結果をデータウェアハウス側にフィードしています。また、Cassiniと呼ばれている社内開発のサーチエンジンにも使っています。」

栗「Hadoopを社内で活用してみてどうでしょうか?」
Hu「非常にバグが多いと言わざるを得ませんね(苦笑)。eBayではかなりリライトやワークロード管理などの機能追加を行っておりオープンソース・コミュニティへの貢献を行っています。eBayのシステムの最大のポイントはやはり前述のSingularityです。クリックストリームという非構造化とまでは言えない準構造化データをきわめて効率的に分析できています。SQL+というUDFを追加開発してアドホックな分析に対応しています。」

栗「一般的にRDBMSはラージオブジェクトでの検索はあまり得意ではないと思うのですが?」
Hu「詳細は申し上げられないのですがきわめて効率的に稼働できています。」

栗「少し話を変えて中国における開発者の人材市場についてはどうでしょうか?」
Hu「きわめて健全ですね。優秀な人材が数多くいます。eBayでは優秀な学生をインターンとして雇っており、その多くが卒業後に正社員として入社します。新入社員の60%程度がインターン経験者です。」

栗「中国における従業員の離職率についてはどうでしょうか?お話ししにくいのあればあくまで一般論でもよいのですが。」
Hu「決して悪くありません。米国、さらには、インドよりも良好と言えるでしょう。また、仮に私のチームのメンバーが転職してスタートアップ企業に参加したとします。それでもLinkedIn等で常にコンタクトを取り、また戻ってくる意思があれば積極的に再雇用しています。もちろん、こちらで欲しくない人材は呼び戻しませんが、欲しい人材が戻ってくるケースは結構あります。」

栗「それは健全な環境と言えますね。ところで、eBayは中国ではあまり存在感がないようですが、その理由は何だとお思いですか?」

Hu「『あまり』どころかまったくないと言ってよいですね、その理由は私からはちょっと言えません(笑)。ネットを探せば他の人の分析が見つかるんじゃないでしょうか?ただ、一点だけ申し上げておきたい統計値があります。eBayに米国向けに出品されている商品のおよそ50%(12/03/21修正: 15%の間違いでしたどうもすみません)は中国からのものです。つまり、eBayは中国経済に十分根付いていると言ってよいと思います。」

栗「本日はどうもありがとうございました。」

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