「ラジオライフ」出版社の中の人が逮捕の件

ちょっとタイミング的に遅くなってしまいました(事件自体は7月17日の話)が、前回記事でBLACKCAS使用で警察に書類送検(場合によっては逮捕)の件について書いたのでその流れで書いておきましょう。

DVDリップソフト(アクセス制御解除機能付き)が付録についた書籍を販売したとして、「ラジオライフ」等でおなじみの三才ブックスの取締役らが不正競争防止法違反の疑いで逮捕されました(参照記事)。

不正競争防止法の改正により、アクセス制御回避を行なうソフトや機器を販売すると刑事罰の対象になることについてはこのブログでも以前に触れました(「12月1日からマジコン販売に刑事罰適用です」)。その時はマジコンについての話でしたが、アクセス制御回避という点ではマジコンもDVDリップソフトも同様なので、刑事罰に関しても同等の扱いがされます。

記事によると、三才ブックスの人は、権利者側から販売の自粛を求められていたようですが無視していたようです。刑事罰の対象となるという意味を理解していなかったのでしょうか、それとも、警察に逮捕されてもよいという覚悟の上だったのでしょうか。

なお、この問題となったムック持っている人が「レアもの」としてオークションに出品したりしてもアウトです。また、DVDリップソフトを売るだけではなく、ネットで配布しても同様です。

「でもネットではDVDリップソフトがまだ売られているではないか」という声も聞かれるかもしれません。たとえば、AnyDVDなんてソフトはまだ売ってますね。調べてみるとこのソフトを売っているSlySoftはカリブ海にあるアンティグア・バーブーダという小国にあります。入金処理はキプロスの会社が代行しているようです。たぶん、本拠地はアメリカかイギリスになどにある会社のトンネル会社なのでしょう。

では、こういうソフトを日本から買う行為はどうなのでしょうか?不正競争防止法では、販売や輸出だけでなく輸入の行為も規制対象になっています。

不正競争防止法2条1項11号(強調は栗原による)

他人が特定の者以外の者に影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録をさせないために営業上用いている技術的制限手段により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録(以下この号において「影像の視聴等」という。)を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能を有する装置(当該装置を組み込んだ機器及び当該装置の部品一式であって容易に組み立てることができるものを含む。)若しくは当該機能を有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を当該特定の者以外の者に譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能を有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為(当該装置又は当該プログラムが当該機能以外の機能を併せて有する場合にあっては、影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする用途に供するために行うものに限る。)

ということで、DVDリップソフトのパッケージを輸入したりすると税関で差し止められる可能性があります。ネット経由でダウンロード購入することが輸入にあたるかは微妙なところです。また、刑事罰の要件としてはさらに「不正の利益を得る目的で、又は営業上技術的制限手段を用いている者に損害を加える目的で」という条件が入ってます(21条2号4項)。

ということで、業者がDVDリップソフトのパッケージを販売目的で輸入したりすれば確実に刑事罰の対象になるでしょうが、個人が自分で使用するためにネットで購入するだけであれば大丈夫のようにも思えます(とは言え、警察がそう思ってくれるかどうかはわかりません)。また、10月以降は著作権法改正によってリップ行為そのものも違法になってしまいます(なお、さすがにこれは刑事罰の対象外)ので、ツールの入手行為の合法性を議論してもあまり意味がないですね。

手持ちのDVDをiPadにリップして旅行に持ってくなんていうのは誰でもやっていると思いますが、この道がふさがれてしまうのは困ったことです。しょうがないので、アナログキャプチャーボードでも買おうかと思いますw。

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【速報】BLACKCASは使っただけでも送検されるようです

本ブログのちょっと前の記事「BLACKCASの違法性について」において、BLACKCAS(黒C-CAS)カードの製造、販売、改造プログラム配布が刑事罰の対象になると書いた一方で、カードの購入・使用は違法(放送法違反)ではあるものの刑事罰の対象にはたぶんならないのではないかと書きましたが、使っただけでも書類送検されてしまったケースが出ました(参考記事)。記事によりますと、(例によって)京都府警により、男女8人が黒B-CASを使って自宅で有料放送を無料で見るなどした疑いで書類送検されたそうです。

容疑は「不正作出私電磁的記録供用」です。

刑法 第161条の2(磁的記録不正作出及び供用)

  1. 人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
  2. (略)
  3. 不正に作られた権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を、第1項の目的で、人の事務処理の用に供した者は、その電磁的記録を不正に作った者と同一の刑に処する。
  4. 前項の罪の未遂は、罰する。

BLACKCASを(作るのではなく)使うだけでも上記3項に相当すると判断されたということでしょう。最終的にどのような司法の判断がなされるかはわかりません(自分はこの領域はあまり専門ではないです)が、前にも書いたとおり、BLACKCAS関係が洒落にならないのは確実でしょう。特に、ネットオークションのように身元がわかる形で購入することは自殺行為と言えそうです。

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中国iPad商標権問題が約48億円で和解の件

ロイターの報道によりますと、中国のProview Technology(唯冠科技)と米Appleの間のiPad商標権問題(関連過去エントリー)が、Appleが6000万ドル(約48億円)をProview側にに支払うことで和解したようです。

繰り返しますが、これは中国でよくある商標ゴロ事件ではなく、Proview Technologyがずっと昔からiPadの商標権を所有していたのをApple側が適切に購入(またはライセンス契約)していなかったことによる問題です。

Proview Technologyは破産しており、iPadの商標権も債権者である銀行側に移転しているようなので、最終的には金で解決することになるのは当然と考えられていましたが、結構な金額になりましたね(以前にAppleが富士通米国子会社からiPadの商標権を買った時の金額は推定400万ドル(参照Wikipediaエントリー)だったので一桁以上違うことになります)。

なんでこんな金額になってしまうかというと商標権は所有権に近い権利で、持っている人が圧倒的に有利だからです。土地の持ち主が相場の10倍じゃないと売らないよと言うのがその人の自由なのと同じです。どうしてもその土地が欲しい人は言い値を払うしかありません(土地収容等の例外的ケースもありますが)。

一般に商標権に関するトラブルは動く金額が大きいですが、取得は10万円くらいからでできてしまいますので、特にグローバルでビジネスを展開する企業にとっては、とりあえず商標登録出願をしておくのは安い保険と言えるかと思います。

追加: 絶妙のタイミングで出た東洋経済の記事によりますと、日本のインターフォーン・メーカー、アイホンのAppleに対する商標ライセンス料は年間1億円と推定できるようです。

追加(12\07/03 18:00): WSJの記事によりますと、Proviewの米国支社は米裁判所で20億ドルを請求していたたそうなので、Appleにとってはかなり「割安」で和解できたとの見方もあるようです。

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BLACKCASの違法性について

先日のエントリーで、「(B-CASのアクセス制御機能を回避できるように改造した)黒B-CAS(BLACKCAS)の提供」は不正競争防止法違反で刑事罰の対象となるだろうという趣旨のことを書きましたが、やはり、現実の事件となってしまいました(参照記事)。

記事によると、BLACK-CASをオークションで販売した人は不正競争防止法違反の疑いで逮捕されたようです。アクセス制御回避機器を譲渡したということで刑事罰の対象になるということで、ここまでは想定の範囲内です。

問題は、最近明らかになったB-CASカードの脆弱性をついた改造の方です。まず、改ざんのためのプログラムをインターネットで配布した人が不正競争防止法違反の疑いで逮捕されたようです。厳密に言うと、アクセス制御を回避するプログラムそのものを不正の利益を得る目的等で配布すると刑事罰の対象になるのですが、B-CASを改造するプログラムもそのようなプログラムであると解釈されたということでしょう(ここは多少議論の余地ありですが、これは裁判で議論すべき論点であって逮捕しようとしている警察に言っても通じないでしょう)。

そして、自宅で改ざん行為を行なったことをネットでカミングアウトしていた人(通称「平成の龍馬」という有名人のようです)は、電磁的記録不正作出の疑いで逮捕されたようです。電磁的記録不正作出とは聞き慣れないかもしれないですが、昭和62年に新設された刑法161条の2に規定されており、テレフォンカード等の偽造を行なうとこの罪に該当します(実際に使わなくても改ざんを行なっただけで犯罪となります)。

刑法161条の2
1項 人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。(以下略)

「人の事務処理を誤らせる目的」の要件については若干の疑義がありますが、これも司法の判断を待つしかないでしょう。

さらに、記事によれば、BLACKCASをオークションで購入しただけの人にも警察が家宅捜索をしているようです(令状があるのか任意なのかは不明)。道義的な問題は別として、BLACKCASを使うだけであれば、放送法の以下の規定に反する可能性はある(ゆえに、損害賠償等の民事上の責任を負う可能性がある)ものの、刑事罰の対象となる理由付けはないように思えます(私が見落としているだけかもしれませんが)。

放送法第百五十七条
何人も、有料放送事業者とその有料放送の役務の提供を受ける契約をしなければ、国内において当該有料放送を受信することのできる受信設備により当該有料放送を受信してはならない。

とは言え、他の刑事事件(この場合はオークションでの販売)の全容解明という理由付けにより買っただけの人にも(起訴されることはなくとも)警察の捜査の手が及ぶのはある意味当然とも言えます。

簡単にまとめると以下のようになるかと思います。

  • BLACKCASの販売 → 刑事罰(ブラック)
  • B-CASの改造プログラムの配布 → 刑事罰(ブラックに近いグレー)
  • B-CASの改造 → 刑事罰(グレー)
  • BLACKCASの購入・使用 → 放送法違反だが刑事罰なし(たぶん)、ただしオークションで購入した場合等は警察の捜査対象になる可能性あり

一応書いておくと、刑事罰の対象となるということは、1)警察の捜査対象になる、2)令状があると家宅捜索されてしまう可能性がある(パソコン等を押収される可能性があります)(警察が令状を取るのは形式さえ整っていれば割と容易)、3)警察に逮捕される可能性がある(手錠かけられます)、4)刑事裁判で有罪になると前科が付く、5)起訴されて有罪になれば懲役および罰金の対象になる(なお、罰金と賠償金は別なので念のため)、6)仮に不起訴や無罪になったとしても警察に逮捕された時点で社会的に結構なダメージを受ける可能性が高い、ということを意味します。BLACKCAS関係は洒落にならないと考えておいた方がよいと思います。

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著作権法改正:何が違法で何が合法なのかまとめてみた

違法ダウンロード行為へのの刑事罰適用、アクセス制御を回避しての複製の違法化等を含む著作権改正法案が、6月15日に衆院で可決されました(参考記事)。このまま参院も通過して改正が成立してしまう可能性は高いと思います。

本来であればこのトピックについてはもっと早く触れておくべきでしたが、いろいろと忙しくてブログが更新できておらずどうもすみません。

さて、メディアの記事タイトルで「リッピング違法化」などのちょっと省略し過ぎの用語が使われていることもあってか、一部で混乱が見られるようです。そこで、まずは、何が合法で、何が違法なのか、さらには、犯罪になるのか否かについてまとめてみます。

1.CDからのリッピング行為→今までもずっと合法です。今回の法改正が成立しても合法です。

通常のCDには著作権法上の「技術的保護手段」に相当するコピー制御もアクセス制御も施されていませんので、個人またはそれに準ずる範囲で使用するのであれば合法的にコピー可能です。ただし、コピー制御のついているCD(CCCD)のコピー制御を解除してその事実を知りながらリッピングするのは前から違法です。

なお、ついでに書いておくとレンタル屋で借りたCDをリッピングしてから返却するのも合法です。さらに社会通念的に見ても、レコード会社(原盤権者)には新譜発売後1年間はレンタルを禁止できる権利が昔からありますが、その権利を行使せず敢えて新譜発売2週間後からレンタル解禁していることから、権利者側も許容していると見て良いでしょう(それをおかしいと言って権利者以外の人が騒ぐのはお門違いです)。

2.DVDからのリッピング行為→現時点では合法です。今回の法改正が成立すると違法になります(ただし刑事罰なし)。

DVDのプロテクト(CSS)はコピー制御ではなくてアクセス制御と考えられているので、今では著作権法による規制の対象外でした(参考ブログ記事)。しかし、今回の法改正が成立するとCSSを回避する形での複製をその事実を知りながら行なうことは(たとえ個人使用目的であっても)違法になります。ただし、刑事罰の適用はありません(今のところは)。自分で買ったDVDをiPadにリッピングして旅行中に見るというような使い方が違法になってしまうとちょっと困りますね。

3.DVDのリッピングツールの提供(販売、配布)→前から違法です。さらに、昨年の12月から刑事罰が適用されています。

アクセス制御回避ツールの提供は著作権法ではなく不正競争防止法で前から禁止されています。加えて昨年の12月から不正競争防止法改正により刑事罰が適用されるようになりました。これはDVDのリッピングツールだけではなく、マジコンにも適用されます(既に逮捕者が出ています)。いわゆる「黒B-CAS」の販売も同様と考えられます。

4.ネットに許諾なくアップロードされた動画・音楽をそれと知ってダウンロード→今までも違法(ただし刑事罰なし)、今回の法改正が成立すると刑事罰が適用されるようになります

これが今回の改正の重要な論点です。権利者寄りとされている弁護士先生も反対されているようでありいろいろと問題が多い改正であることがわかります。これについては別エントリーで考察しようと思います。

追加(12/06/18 23:55:00) すみません、CCCDとDVDのリッピング行為が違法になる要件として「その事実を知りながら」という条件を書き忘れていたので追加しました。

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