先日のエントリーで、「(B-CASのアクセス制御機能を回避できるように改造した)黒B-CAS(BLACKCAS)の提供」は不正競争防止法違反で刑事罰の対象となるだろうという趣旨のことを書きましたが、やはり、現実の事件となってしまいました(参照記事)。
記事によると、BLACK-CASをオークションで販売した人は不正競争防止法違反の疑いで逮捕されたようです。アクセス制御回避機器を譲渡したということで刑事罰の対象になるということで、ここまでは想定の範囲内です。
問題は、最近明らかになったB-CASカードの脆弱性をついた改造の方です。まず、改ざんのためのプログラムをインターネットで配布した人が不正競争防止法違反の疑いで逮捕されたようです。厳密に言うと、アクセス制御を回避するプログラムそのものを不正の利益を得る目的等で配布すると刑事罰の対象になるのですが、B-CASを改造するプログラムもそのようなプログラムであると解釈されたということでしょう(ここは多少議論の余地ありですが、これは裁判で議論すべき論点であって逮捕しようとしている警察に言っても通じないでしょう)。
そして、自宅で改ざん行為を行なったことをネットでカミングアウトしていた人(通称「平成の龍馬」という有名人のようです)は、電磁的記録不正作出の疑いで逮捕されたようです。電磁的記録不正作出とは聞き慣れないかもしれないですが、昭和62年に新設された刑法161条の2に規定されており、テレフォンカード等の偽造を行なうとこの罪に該当します(実際に使わなくても改ざんを行なっただけで犯罪となります)。
刑法161条の2
1項 人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。(以下略)
「人の事務処理を誤らせる目的」の要件については若干の疑義がありますが、これも司法の判断を待つしかないでしょう。
さらに、記事によれば、BLACKCASをオークションで購入しただけの人にも警察が家宅捜索をしているようです(令状があるのか任意なのかは不明)。道義的な問題は別として、BLACKCASを使うだけであれば、放送法の以下の規定に反する可能性はある(ゆえに、損害賠償等の民事上の責任を負う可能性がある)ものの、刑事罰の対象となる理由付けはないように思えます(私が見落としているだけかもしれませんが)。
放送法第百五十七条
何人も、有料放送事業者とその有料放送の役務の提供を受ける契約をしなければ、国内において当該有料放送を受信することのできる受信設備により当該有料放送を受信してはならない。
とは言え、他の刑事事件(この場合はオークションでの販売)の全容解明という理由付けにより買っただけの人にも(起訴されることはなくとも)警察の捜査の手が及ぶのはある意味当然とも言えます。
簡単にまとめると以下のようになるかと思います。
- BLACKCASの販売 → 刑事罰(ブラック)
- B-CASの改造プログラムの配布 → 刑事罰(ブラックに近いグレー)
- B-CASの改造 → 刑事罰(グレー)
- BLACKCASの購入・使用 → 放送法違反だが刑事罰なし(たぶん)、ただしオークションで購入した場合等は警察の捜査対象になる可能性あり
一応書いておくと、刑事罰の対象となるということは、1)警察の捜査対象になる、2)令状があると家宅捜索されてしまう可能性がある(パソコン等を押収される可能性があります)(警察が令状を取るのは形式さえ整っていれば割と容易)、3)警察に逮捕される可能性がある(手錠かけられます)、4)刑事裁判で有罪になると前科が付く、5)起訴されて有罪になれば懲役および罰金の対象になる(なお、罰金と賠償金は別なので念のため)、6)仮に不起訴や無罪になったとしても警察に逮捕された時点で社会的に結構なダメージを受ける可能性が高い、ということを意味します。BLACKCAS関係は洒落にならないと考えておいた方がよいと思います。