【実務者向け】日本の代理人は国際意匠登録出願の更新を気にする必要はありません(為念)

ちょっと前に国際意匠登録出願(海外の出願人が日本を指定国に含めて行った意匠の国際出願(ハーグ))の補正手続を代理したことがありました。その意匠登録について、海外の代理人が「更新時期が近づいてきたので見積もりを出してほしい」と連絡してきたので「あれっ?」と思いました。意匠の国際登録はIB代理人(最初に国際出願を行った代理人)が更新すれば、すべての指定国に対して自動的に更新される(要するにマドプロと同じ)と思っていたからです。

特許庁に問い合わせましたが、やはり、私の理解は正しく、国際登録の更新は誰でもできるので日本の代理人がやってやれないことはないが、通常は、IB代理人(今回の場合は連絡してきた海外代理人)が行うものであると確認が取れました。国際意匠登録出願については、日本の代理人は中間処理して登録になれば後は基本的にやることはない(せいぜい登録証の転送くらいでしょうか)ということ(要するにマドプロと同じ)です。要は、この海外代理人の思い違いでした。こちらとしても、思い込みで重大なミスを犯す可能性を排除できて良かったです。めったにやらない手続は、たぶん大丈夫と思っていても、念のために特許庁に確認すべきと思います。

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今でもあるのか翻訳クラウドソーシング詐欺

前々回の記事を書くために、昔の(嫌な)思い出を思い返していたら、蘇ってきました、詐欺にひっかかった事件。知財とは関係ないです。

今は忙しくてやってませんが、開業直後の時期は、翻訳のクラウドソーシングサイトに翻訳者として登録していたことがありました。空いた時間に案件を受けて納品すればお小遣い稼ぎになるというレベルです。

ある日、特急だが割とレートが良い案件がメールで来たのでサクッとこなして納品すると、次の依頼が来ます。何件か終えて報酬の残高が10万円を超えたので、翻訳会社に請求したら音沙汰がありません。この段階で詐欺にひっかかったことがわかりました。Googleで検索するとその時点で結構な数の被害者がいたようです。

やり口はこうです。

1.詐欺師Xは、クラウドソーシングサイトAに登録(ネット上にある別の人のプロフィールを流用するものと思われます)。

2.Xは、正規の翻訳業者Oから依頼を受け、別の正規の翻訳業者Pを語って、クラウドソーシングサイトBに登録している翻訳者Y(被害者)にメールで依頼。

3.Yの成果物を受け取ったXはOに自分の成果物として納品して報酬を得る。

4.YがPに報酬を請求しても「何ですかそれ?」となる。

という仕組みです。相手のメールがgmailであること、欧州の翻訳会社なのにアジアの時間帯で営業しているように思えること等、今にして思えば怪しいこと満載だったのですが、当時は、クラウドソーシングで来た案件をこなしまくっていたのでうっかり騙されてしまいました。

別に翻訳に限った話ではなく、あらゆるタイプのクラウドソーシングで使われそうな手口です。今でもこのタイプの詐欺はあるのでしょうか?

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来年の4月1日からは期間徒過しても大丈夫(一応)

日本の特許制度では審査請求、翻訳文提出、優先権期間等々の期日が諸外国と比較してめちゃくちゃ厳しく「正当な理由」があれば救済されるものの、実際には天変地異(とコロナ)くらいにしか適用されません。期限がテキトーでよいのは特許査定(登録査定)後の料金納付くらいでしょうか?法律上は30日ですが実務上は3カ月くらいは待ってくれますし、ごていねいに督促ハガキまで送ってくれます。

裁判所サイトの知財関連判決文を見ていると、海外の出願人が、代理人との連絡ミスで翻訳文提出を期間徒過してしまい、それが「正当な理由」として認められなかったので、行政訴訟したがやはり認められなかったといったパターンがよくあります。海外の出願人(代理人)の中には「万一期間徒過しても上申書出して謝って、ペナルティ料金払えば何とかしてもらえるんやろ」と甘く考えている人がいるようです。これから考えても、日本の特許庁は期日に対して異常に厳しいということがわかります(なので、弊所も、海外代理人とのメールのやり取りのたびに日本では期間徒過したらリカバリできないことを口をすっぱくして説明してきました)。

しかし、このような状況も法改正により、諸外国並みになります。具体的には、「正当な理由」ではなく「故意でないこと」が要件となるので、たとえば、事務所によるうっかり事故も救済されることになります。

この改正の施行日が来年(2023年)の4月1日になりました。対象となる主な手続は、出願審査請求、翻訳文(外国語書面出願およびPCT国内移行)、優先権(国内+パリ)、特許料追納等です。回復期間は最長で1年です。料金は21万2100円です。ペナルティが結構高額なのでめったに使えるものではないですが、出願審査請求を失念して損害賠償請求されるといった最悪の事態が避けやすくなったことは事務所的に喜ばしいと思います。

その一方で、クリアランス調査において、出願審査請求期間を過ぎているから、あるいは、更新されなかったから安心と思っていても1年以内であれば権利が復活する可能性がわずかにあるので、その点は注意が必要でしょう。

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知財業界でのピンチ?:アドバイスだけもらって勝手に出願してしまう人について

昨日の記事を書いて急に思い出したので、知財業界でのピンチかどうかわからないのですが、書いておきます。詳細はわからないようにぼかして(あるいはちょっと変えて)書いてます。

ある個人からちょっと複雑な商標出願の相談が来たので、出願の方法をアドバイスしました。最終的に出願することになったので、見積書を出して欲しいと言われ、相談料の分も含めて金額を出したら、音沙汰がなくなりました。(特に個人相手の場合)相談だけしてそこでおしまいというパターンはある程度想定していますので特に気にもしていませんでしたが、ふとしたことでその個人が代理人なしでその商標を出願していることに気が付きました。ちょっとムカつきましたが、たいした金額でもないのでクレームするまでもなく放っておきました。

その出願ですが、素人が見よう見まねでやっただけあって微妙な瑕疵があり、どうなるのかとたまに審査経過を見ていました(気にしてるやん)が、案の定、拒絶理由通知を受けて、そのタイミングで別の弁理士先生を中途委任してましたが、結局拒絶になってしまってました(商標の場合、出願時点で瑕疵があると、後は指定商品の削除くらいしかできることはないのでしょうがないです)。最初から自分に任せてれば何の問題もなかったのにと思いました。ピンチというよりはメシウマの話でしたね。

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知財業界でのピンチ:期限日(と思ってる日)に手続きはしない方がよい

弁理士の日(7月1日)の企画で「知財業界でのピンチ」についてブログ記事を書いてる人が多いようです。もう期間徒過wしてしまいましたが、思い出したネタがあるので書いておきます。自分の話ではなく、相手方の話です。特定されないようにぼかしています。

ある会社から商標登録の異議申立の通知書が来たと相談を受けました。通知書の差出人はちゃんとした特許事務所です。「異議申立を取り下げてほしければ、該当する一部商品を放棄せよ」と要求しているのですが、商標権放棄は将来効(過去に遡って権利がなくなるわけではない)であり、異議申立は査定時点の判断の可否の話なので、放棄しても異議申立が解消するわけではありません。

そもそも、異議申立が通れば、その対象になっていた指定商品・役務のみが取り消されるのであって、商標権全体がなくなるわけではないので、(異議申立が通らない可能性もあるのに)わざわざ先んじて放棄しておく意味はありません。異議申立に対して一部商品の放棄で対応できると説明しているページもあったりしますが、間違いです。拒絶理由通知に対する対応とごっちゃになっているのだと思います。

ということで放置していたのですが、しばらくして経過情報を見ると、異議申立請求に対する手続補正書(請求の理由を補充するもの)が、期限日を1日徒過していたたため却下になり、結果的に異議申立請求自体が手続却下になっていました。たぶん、異議申立請求に対する期日の計算は期日管理ソフトでは対応していないので手で入力した時に、小の月と大の月を間違えたりしたのだと思います。相手のオウンゴールにより、こちらとしては異議申立の心配は無用になったのですが、相手方の事務所はどうクライアントに説明したのだろうと考えるとちょっと胃が痛くなってしまいました(なんで自分が痛くならないといかんねんw)。

なお、自分は、やむをえない場合を除き、期限日に手続きを行うことはしません。万一の日付計算間違い、事故や病気で出所不可、パソコンが立ち上がらない(可能性としては一番ありそう)などのトラブルが怖いからです(救済措置はありますがそれに頼るのも怖いです)。必ず3日前には行います。万一何かあっても最悪、郵便局から送るか、特許庁に持参すれば期間徒過は免れられるからです。

追記:何で1日間違えたのか推察してみましたが、補正書提出期間が異議申立期間完了後30日+在外者は職権で60日プラスであるところ、30日経過後が祝日であったため、プラス分の60日をその翌日から起算してしまったものと思われます。こういう場合は、90日をひとつの期間として考えなければいけません(90日後が祝日なら当然に繰越になります)。これ、短答にも出たことあると思いますが、間違いがちなポイントですね。こういうことがあるので、期限日ギリギリの手続はよろしくないですね。

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