【OOW09便り】マクニーリとエリソン、合併の意義を改めて強調

サンフランシスコで開催中のOracle Open Worldに取材に来ています。

初日(日曜日)の夕方からSUNdayと称してスコットマクニーリとラリーエリソンによる基調講演が行なわれました。日曜の夕方という時間帯にもかかわらず会場は満員。

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「スコットマクニーリ名場面集」のビデオが上映された後にご本人登場。サンCEO時代の終盤に見られたようないらついた感じがなく、とても元気そうに見えます。サン時代に恒例であったトップ10ネタ(ちなみにこれは米国のテレビ番組David Letterman Showの人気コーナーのパクリ)を2本やりました。

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最初のトップ10は「エンジニアをキレさせるテクノロジートップ10」。OS/2、Mainframe Linux等々と挙げていって最後にJava Ringという自虐ネタで閉めるという構成でしたがちょっとすべってましたw。

次のトップ10は真面目な話でサンが成し遂げたイノベーションのトップ10。SunRayはちょっと微妙な気がしますが(少なくとも市場での浸透度において)他は納得できるものでしょう。

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そして、Javaの父、James Goslingが登壇。「自分はソフトウェア会社で働くの初めてだ」(ゴスリング)、「俺たちが行くんだからもうソフトウェア会社じゃないよ」(スコット)みたいな会話がありました。まあ、Oracle下のJavaに関して心配する必要はあまりないでしょう。

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そして、Sunのハードウェアシステムの責任者John Fowlerが登壇。Sun+Orcaleのシステムが7つの主要ベンチーマークでトップとなったことを発表。そして、例のデータベース・アプライアンスEXADATA v2を紹介。Sunのフラッシュディスクがテクノロジー上の差別化要素になっているようです(SunのフラッシュというとサンディスクのSDカードのことかと思ってしまいそうですw)。

ところで、話の流れ的にSPARCはすばらしいと続けた後で、XeonベースのEXADATA2を説明したのはどうかなと思いました。あと、どうでも良い話しではありますが、EXADATA2は筐体がねずみ色のロッカーみたいで鳴り物入りマシンのわりにはすごく地味です。

続いてエリソンが登壇しマクニーリと固い握手(急にエリソンが来たのでまともな写真が撮れませんでした)。SPARCへの投資もMySQLへの投資も続けるよと例の広告キャンペーンの主張を再度繰り返します。エリソン自身の口からという点に意味があるでしょう。

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そして、話題はIBMとのTCP-Cベンチマーク比較の件へ。IBMの76ラック構成に対して、Sunは9ラック構成でより高性能を実現、IBMの消費電力はSunの6倍、「IBMのPOWERプロセッサとはこういう意味(power=電力)だったのか」とジョーク。(ちなみに、このTPC-Cの話はSPARCサーバベースでEXADATA2ベースではありません)

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全体的に総合ITベンダーとしてIBMに勝つぞというエリソンの意気込みが感じられました。元々OracleはSunのソフトウェア資産だけを買おうとしていたと伝えられていますが、この半年くらいでエリソンの野望は一気に大きくなったのでしょう。

ところで、このIBM対Oracleのベンチマーク合戦については当然にIBMも対抗策を用意しているようです。時間ができたら別エントリーとしてまとめる予定です。

最後に”The Network is The Computer”というクラウド時代の登場を予言していたSunの創業以来のメッセージ(そういうえば、エリソンは一言も「クラウド」とは言わなかったですね)が映される中、スコットが再登壇して「みなさんOracle Open Worldを楽しんでくださいね」とあいさつ。スコット元気そうでしたがちょっと寂しそうでもありました。まあ、もう悠々自適でしょうからゆっくりお休みくださいと言う他はありません。

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コルシカと他のサービスを比べてみる

やはりコルシカについては雑誌協会側が差止要求を出し、コルシカ側がそれに応じたようです(参照記事)。まあ、これは当然で、警告後も無視して販売を続けていれば刑事事件に発展する可能性もないわけではなかったと思います。ただ、興味深いのははてブ等や掲示板等を見てみると「こういうサービスがほしかった」という意見が結構見られることです。この消費者ニーズを無視すれば雑誌業界は凋落の一途でしょう。実際、一部有力誌が共同して雑誌デジタル配信を目指す動きもありますが、2011年の事業化を目指すということでまったく「速さが足りない」状況です(参照記事)。

さて、コルシカそのものの話はちょっとおいておいて、今までに著作権で物議を醸した他のサービスとちょっと比べてみましょう。

貸レコード:
貸レコード屋が始まった当所は買ったレコードを貸与することを禁止する法律がありませんでした。まさに法律の抜け穴を利用したと言えます。その後、貸しレコード業界と権利者側がすったもんだした上で、著作権法改正により貸与権が制定され、レコード会社側に利用料が回るようなルールにすることで、貸レコード業は一応お墨付きをもらいました。ところで、法律上はレコード会社側は新譜発売1年間はレンタルを禁止できるのですが、現実には(国内レコード会社は)その権利をフルに行使していない(新譜発売後3週間程度のみレンタル禁止にしている)ことから、権利者側もCDレンタルの価値をそれなりに認めていることがわかります。コルシカについては、前回書いたように明らかに著作権侵害なので、貸レコードのケースとは全然違います。

Google Book Search:
Google Book Searchはアメリカでの話(集団訴訟とベルヌ条約コンボで結果的に日本の著作権者にも影響が及びましたが)なので、そもそも適用される法律が違います。なお、コルシカ側は「出版社側に不利益が発生していない」ことを主張していますが、これはフェアユースの抗弁的であって、日本の著作権法では意味がありません。日本の著作権法では、損害の発生のあるなしにかかわらず差止請求が可能です(もちろん、出版社側が「損害が発生してないなら訴えるのはやめておくか、あるいは、許諾をするか」と考えてくれるだろうと期待してのことなら意味がありますが)。また、GoogleがGoogle Book Searchを行える根拠は、法律や判決ではなく和解なので、気に入らない人はいつでも離脱(オプトアウト)できます。ということで、権利者の承諾なしに勝手にスキャンしたという点では似てますが、ケースとしては全然違います。

それから単行本の場合は作者が権利を持つことが多く出版社が著作権(=侵害に対して訴えることができる権利)を持つことは少ないですが、雑誌の場合には出版社に著作権(編集著作権)がありますので、この辺の事情も違います(Google Book Searchでは雑誌は対象外)。

MyUTA:
自分のCDをサーバ経由で携帯に転送するサービスですが、「コピーをする主体はユーザー自身であるが、ただし、コピー機のケーブルがすごく長くてネットのむ向こう側にあるだけ、なので著30条の私的使用目的複製の要件に当てはまる」という理屈は一応納得できます(裁判で否定されましたが)。なお、公衆送信権についての議論もありますが長くなるので省略します。他にも、録画ネット等々類似の事例はあります。これまた、細かくなるので省略しますが、サービス提供者側は「行為を行なっているのはユーザー、あるいは、送信は特定のユーザーにしか行なっていない」ことを根拠にサービスの合法性を主張していました(裁判によって認められたり認められなかったりしています)。ということで、「ユーザー自身が複製を行なっている」と見ることができないコルシカのケースとは違います。

YouTube等のCGMサイト:
サービス提供者は「アップロードを行なっているのユーザー自身なので事業者に責任はない」という理屈で合法性を主張してきました。この主張は基本的に認められて米国ではDigital Millennium Copyright Act、日本ではプロバイダー責任制限法として制定されました。(なお、これらの法律はプロバイダーに対する免責を定めたものであって、アップロードを行なっているユーザー自身が法的責任を負うのは変わりありません)。これまた、コルシカのケースとは全然違います。

ということで、今までにあった「著作権上の問題」→「裁判沙汰」→「それなりに落としどころが決まる」という事例は、「グレーゾーン」とか「法の抜け穴」的なところから始まっています。その一方で、コルシカはこのような理屈付けが著しく困難であり、落としどころも何もないのではないかと思います。

しかしながら、冒頭にも書いたように、この種のデジタルサービスの利便性をユーザーに認知させ、正規サービスの出現を後押しする結果になれば、結果的にはコルシカの存在も全く無駄ではなかったと言えるかもしれません。

ところで、次回からは何回かOracle Open Worldの模様をお届けします。第1回はたぶんSun Microsystemsによる基調講演になります。お楽しみに。

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雑誌スキャン閲覧サービス「コルシカ」は徒花に終わりそうだが

本日付けで始まった雑誌オンライン販売・閲覧サービスの「コルシカ」が物議をかもしているようです(参考ニュース記事)。

コルシカの仕組みは、1)利用者がWebサイトから雑誌を買うとWeb上のビューアーでそのスキャンデータが読めるようになる(もちろん正規に購入した人しかスキャンデータは読めないようアクセス制御する)、2)雑誌の現物が欲しい人は別途送料を払うことで本の現品を送ってもらうこともできる、というものです。

雑誌をネットで買うと配送に時間がかかるし、置き場所も取るというユーザーの不満、そして、(少なくとも今のところは)雑誌の現物を売りたいと考えている出版社側の事情をうまくマッチさせたソリューションかなと思ったのですが、どうもこれは出版社の許諾を得ずに勝手に始めてしまったサービスのようです。出版社サイドからの抗議が殺到しているようで、プレスリリースを掲載していたニュースサイトも現在では当該記事を削除しているようです。

まず、このサービスの合法性について検討してみましょう。

前述のasahi.comの記事によると、

エニグモでは「ユーザーが購入した雑誌をスキャンして電子化することは、個人利用の範囲。我々はそれを代行している(略」としている。

となっていますが、この解釈は間違いです。私的使用目的の複製について定めた著作権法30条では以下のように定めています(太字は栗原による)。

第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。) は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、 その使用する者が複製することができる。(略)

つまり、私的使用目的として複製が認められる条件のひとつとして複製物を使用する人自身が複製することが求められているのです。

コルシカの場合、明らかに複製を行なっている主体は運営会社であり、私的使用目的の複製の条件に当てはまりません。

以前ちょっと触れたMyUTA(ユーザーが自分のCDをネット経由で携帯に転送するサービス)では、ユーザーが自分のパソコンを使って自分の操作により複製を行なうので私的使用目的の条件に合っているという理屈は成り立ちます(裁判によってこの理屈は否定されましたが)。しかし、今回の場合はどう理屈を付けても許諾をもらっていなければ複製権を侵害していると解釈するしかないと思います。「法律の抜け穴」とか「グレーゾーン」とかのレベルではありません。

では、次に合法・違法の議論を離れてビジネスモデルとしての妥当性について見てみましょう。もし、本当にビジネスモデルとして出版社にもメリットがあるものであれば、出版社は複製権(および公衆送信権の)許諾をする可能性があります。そうなれば合法です。

コルシカ側はユーザーの注文ごとに実際に物理的な本を仕入れるので出版社側にも利益になると言っています。実際にはスキャンデータだけ見て物理的な本はいらない(別途送料かかるし)というユーザーは多いと思われます。コルシカ側はスキャンデータの閲覧しかしない利用者のために物理的な本を買って社内に保存しておくのでしょうか?出版社側にはこれを確認する術がありません。仮にコルシカ側が1冊しか本を仕入れていなくてそこからスキャンしたデータを大量に売っていても知る手立てがありません。ということで、出版社的にはビジネスモデルとしても許容しがたい、つまり、複製・公衆送信の許諾を出すとは考えがたいと思います。

しかし、逆に考えると、本が売れた分だけ確実に出版社に売り上げが上がる保証があるのであれば結構魅力的なサービス形態かと思います。そして、はっきり言えばこのような新たな仕組みがなければ雑誌業界に未来がないのは明らかでしょう。

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セールスフォースドットコム社CMOにインタビューしました

Salesefore.com社が開催したイベントCloudForce Japanの会場で、同社CMO(Chief Marketing Officer)のKendall Collins氏にインタビューしてきました(ブログ掲載が遅くなってすみません)

SFDC_CMO

まず、Salesforce.com社における最近の動きについて質問しましたが、Collins氏は最も重要な点としてService Cloud2(コールセンター向けSaaS)におけるソーシャルメディアのサポートを挙げました。具体的には、facebook、twitter、そして、mixi等との連係機能です。この後、ソーシャルメディア全般の話で盛り上がってしまい結構な時間が立ってしまいました。

「日本でもソーシャルメディアは大きな流れになっていますが、まだ若い人々中心、テクノロジー好きな人中心という感があり、ビジネスの世界で一般化したとは言えないと思います」との意見を述べると、Collins氏は「それは時間が解決する問題だと思う」と回答。「米国のソーシャル・メディア普及は段階的に進んできたのでしょうか、それとも変曲点があったのでしょうかか」との質問には、米国の場合ではやはりfacebookが変曲点だろうとのお答え。

周知のようにfacebookはハーバード大学の学生向けソーシャル・ネットワークとして作られました。ハーバード大というのがポイントで、卒業生たちが社会に入って要職に就いてからもfacebookを使い続けたことが、facebookが企業の世界でも普及してきた理由のひとつだろうということです。

他に、Salesforce.com社の動きとしてはエントリー向けサービスであるContact Manager Editionの発表を挙げていました。個人事業者や小規模企業向けのシート当たり月額1000円程度から利用可能なサービスです(「テックバイザーでも採用してはいかがですか?」と言われました)。もちろん、データを維持しながら上位サービスにアップグレードも可能。このような小規模なケースからたとえば損保ジャパンなどの超大規模事例までシングル・コードベースで対応できるところがマルチテナントSaaSの強力なポイントだと思います。

また、個人によるSalesforce.com社SaaSの活用事例として興味深いものを教えてもらいました。Chester Frenchというバンド(ハーバード大出身のポップデュオ)がSalesforceのサービスを使ってファンの管理を行っているそうです。レコード会社や事務所ではなく、ミュージシャン自身が使っているということがポイントです。たとえば、公式サイトでファンクラブのメンバーが新曲の感想を書くとポイントがもらえて、ポイントがたまるとノベルティがもらえるなどの仕組みを管理しているそうです。

また、日本においてのマーケティング活動についても質問しました。「日本はかなり特殊性の強い市場であることは理解しています。具体的にはハイエンドのお客様にまず採用してもらうという方向性を取り成功できたと思っています」とのことでした。

11月に米国で開催予定のイベントDreamForceでは例によって大きい発表があるそうですが、「ヒントだけでも」という質問には完全にノーコメントでした。まだ、社内でも知る人が少ないお話しであるようです。この件については11月をお楽しみに。

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HPのクラウド戦略についてインタビューしました

HPのTSG(Technology Solution Group)(エンタープライズITの担当事業部)のクラウド戦略責任者であるRebecca Lawson氏と単独インタビューできる機会がありましたので、ここで概要をご紹介します。

Interview with Rebecca Lawson

クラウド戦略という観点から言うと、HPは他社と比較してあまり力を入れていないような印象があるかもしれませんが、実は、確固たるクラウド戦略があります(外部へのアピールが足りないのではないかという批判は妥当かもしれません)。

HPは、Adaptive InfrastructureというIT基盤のビジョンを長年にわたって推進してきていますが、その内容はクラウドにかなり近いところにあります。特に、イン ターナルクラウドとAdaptive Infrastructureはかなり近い領域にあります。マーケティング戦略的にクラウドという言葉を強調すると、昔から継続的にやってきたことなのに 単に時流に乗ったのではと誤解され、その一方でクラウドという言葉を使わないと顧客の評価の対象にされなくなるというジレンマがあったのですが、結局、クラウド (そしてインターナル・クラウド)という言葉をマーケティングタームとして活用するという結論に至ったようです。

HPにおけるクラウドの組織は、Lason女史が属するTSG、そして、PSG(Personal System Group)、IPG(Imaging and Printing Group)のそれぞれクラウドの責任者がおり、3者が協力の上、クラウド戦略を推進する形になっています。PSGではシンクライアントのホスティング(いわゆる、Desktop As Service)、IPGでは写真共有サイトのSnapFishなどの一般消費者向けサービス等々、クラウド事業を行っていますが、やはりTSGがクラウド戦略の中心と言ってよいでしょう。

HPが考える企業IT部門のあるべき姿とは社内外から調達したITサービスをポートフォリオにしたがって適材適所で組み合わせ、事業部門に対してビジネス上の価値を提供するというものです。クラウドはこのポートフォリオに新たなサービス調達先が加わったものと考えることができます。これを表現したのが下図。この図はなかなかわかりやすいですね。

HP-Cloud

以前も書きましたがHPが考えるクラウドビジネスの方向性として以下の3つがあります。

1. クラウド事業者に製品・サービスを売る

2. クラウドを利用するユーザー企業を支援する

3. 自らがクラウド事業を行なう

HPはこの3つとも追求しています。かつてのHPであれば1と2のみを追求することになるのでしょうが、今はEDS(現HP Enterprise Services)の資産があるので3も追求せざるを得ません。3の領域はは特定バーチカルに限定し「顧客との競合」を避けています(当然の戦略です)。このようなHP自身が推進するクラウド事業の中で特に興味深いのはカナダにおける食品製造業の商品バーコード情報の管理サービスの事例です。リコールが発生した時にはアクセスが急増するのでクラウド向けのアプリケーションだそうです。一般的に、何か不測の事態があるとアクセスが急増するリスク管理系のアプリケーションにおけるクラウドの活用というのは検討に値するテーマだと思います。

製品ポートフォリオ的にはHPはクラウド基盤において有利な立場にあると思います。Compaqの遺産であるIAサーバ、ブレード系製品群の品そろえ、クラウド管理ソフトウェアのOpsware、ミッドレンジのストレージ、そして、EDSによるアウトソーシングのノウハウとクラウドの実現に必要な要素はそろっています。特にOpswareの重要性は高くなっていると思います。Opswareは元々はMark Andreesenが1999年に創立したサービスプロバイダーであるLoudcloud社(社名に「クラウド」が入っている点に注目)の基盤ソフトウェアが元になっています(2007年にHPがOpsware社(その時点でLoudcloudから改名してました)を買収したことでHPの資産になっています)。最近、Andreesen氏はHPの取締役に任命されましたがこれも何かを表わしているのかもしれません。

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