【Teradata PARTNERS便り】進化するeBayのAnalytics on Demand

eBayによるセッションをもうひとつ聴講しました。昨年に引き続き、eBayのデータウェアハウス・オペレーション/アーキテクチャー責任者であるOliver Rotzesberger氏の講演(昨年の講演内容の記事)です。

ebayoliver

この講演のポイントは”Analytics on Demand”(別名 Analytics-as-a-Service)、つまり、社内の分析担当者の要求に応えて迅速に環境を用意できる仕組み作りです。

通常、このような仕組みを実現するためには、別途サーバを立ててデータマートを作ることになりますが、このようなアプローチではサーバ/DBMSの導入・設定やデータのコピーに時間がかかりすぎること、そして、データ管理の負担、データ不整合のリスクが高すぎることから、データウェアハウス内にテーブルとして仮想データマートをダイナミックに構築する仕組みを開発しています。

分析担当者の定義済テンプレートを使ったセルフサービス操作により、5分でデータマートの分析環境が利用可能になるそうです。

なお、このプロビジョニングの仕組みは、eBayとTeradataの共同開発によるもので、今回Teradataが発表したクラウド・ソリューションの一部として提供されます。プライベート・クラウド・ソリューションとは言っても「仮想化+イントラネット」とどこが違うんだというケースもある中で、Teradataはクラウドとしての付加価値を一応ちゃんと提供しています。

ところで、eBayのデータウェアハウスのサイズは5ペタバイト(Active-Active構成なので実質2.5ペタバイト)に達しているわけですが、ここまでに至った経緯については、「1999年にTeradataで1テラバイトのデータウェアハウスを構築し、その後、ノードを追加して、年率2倍強のペースで拡大して現在に至った」とのことです。成功したデータウェアハウスは年率2倍程度で拡大していくこともあるというのが経験則として知られていますが、まさにそのパターンに当てはまっています。さらに言えば、ノードの追加だけで1TB→5PB(5000倍)への拡張を可能とするTeradataのスケーラビリティも賞賛に値します(この製品はxxxPBまで拡張可能(理論的には)というような製品は多いですが、現実の企業の本番システムでこれほどのレベルの拡張性を実現したシステムはさほど多くないのではと思います)。

Teradataというと金融系とかのお堅いエンタープライズ系という一般的イメージがあるかもしれませんが、eBayだけではなくAmazon.comもTeradataを採用しているようで、米国の大規模ネットサービス企業のデータウェアハウスとして実は定番的な存在のようです。

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【Teradata PARTNERS便り】今年のゲスト基調講演者はドンタプスコット

今年のPARTNERSの基調講演は拙訳『デジタルネイティブが世界を変える』(原題: Grown Up Digital)の著者であるカナダのコンサルタント/リサーチャーのドン・タプスコット氏でした。

一昨年のPARTNERSの基調講演者は拙訳『ライフサイクルイノベーション』(原題: Dealing with Darwin)の著者であるジェフリームーア氏、そのときは、Teradata社にお願いして講演後にごあいさつをお願いしましたが(関連ブログ記事『ジェフリームーアさんとお話ししました)、今年も同じパターンとなりました。

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握手をしたタプスコット氏の手は大きくて暖かでした(笑)。

さて、講演の内容ですが基本的には著書の内容の抜粋でした。なので、興味がある方は『デジタルネイティブが?』を買ってください(笑)。本ブログにもちょこっとだけ抜粋してます(関連ブログ記事)。

と言いつつ、本には書いていなかったいくつか最新の事例も紹介していました。

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卒業後の収入の2%を毎年死ぬまで支払うので私が大学に行けるよう出資してくださいとeBayに出品したデジタルネイティブ世代の話(すぐにeBayの規約違反で削除されてしまったようですが)。

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Ryppleというサイト。自分の仕事上の関係者(信頼できる人々)にサーベイ(例: 今日の自分の講演はどうだったか?)を送り、匿名で返事をもらえるという仕組み。facebookと連動しているようです。

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ブロガー集団を中心としたネット新聞であるThe Huffington Postと伝統的新聞であるThe New York Timesのユニークビジターの違いを表わしたグラフ(赤い方がNY Times)。注目すべきはこのデータを生成したcompete.comというサイトです。Alexaのようにサイトのアクセス数調査を行なう会社なのですが、複数のサイトのビジター数がどのように変化しているかを簡単にグラフ化できるようになっています。マーケティング担当者が競合サイトとの比較を行なうのには便利そうです(ただし、米国内のネットユーザーしか調査対象になっていません)。

ところで、TeradataというとITベンダーの中でもかなりエンタープライズ寄りであり、デジタルネイティブとかソーシャル・メディアとかとの距離があるかもしれません。しかし、Teradataユーザー会代表による別のスピーチでは、LinkedInやfacebookのサービスデリバリチャネルとしての重要性が強調されていました。また、メディア向け会見ではちゃんと冒頭に公式ハッシュタグを指定するなど、twitterによる中継も前提としているようでした。米国に来る度に思うことですが、ソーシャル・メディアはエンタープライズITの世界にも深く関係するようになっています。ちょっと日米の差を感じるところです。

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【Teradata PARTNERS便り】「企業文化は電話線では伝わらない」

Oracle Open Worldの後連続して、TeradataユーザーグループのコンファレンスPARTNERS(@ワシントンDC)に参加しています。

eBayの運用担当マネージャーSarang Kirpeker氏の”Data Warehouse Support Considerations for eBay”というセッションに参加してきました。eBayはご存じのように世界最大のオークション会社です。日本ではヤフオクに敗れて撤退という失態を演じてしまいましたが、グローバルでは8,800万人のアクティブユーザー(登録ユーザーではない)をサポートする超大規模なネットサービスとなっています。

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同社のデータウェアハウスも合計サイズ5PBを越えており、商用分野では世界最大のデータウェアハウスと推定されます。そのようなデータウェアハウスのDBAの仕事はかなり大変そうです。

eBayでは基本的にTeradata社にデータウェアハウスの管理業務をアウトソースしています(ETLの管理は、業務システムに関する深い知識が必要であることから自社で行ない、データウェアハウスと分析機能の管理はアウトソースするという切り分けを行なっています)。そして、Teradata社はインドにあるグローバルサービスの拠点でリモートによる管理を行なっています。米国では典型的な形態です。

Kirpeker氏によれば「当初はすべての管理業務をインドからリモートで行なっていたが、後に一部要員をオンサイトに置き、残りをインドに置く形態に変更した」そうです。さらに、リモートの要員を年に1週間ほどeBayのサイトに呼び、対面でのコミュニケーションを実施しているそうです。その理由は、「企業文化は電話線やチャット画面では伝わらないから」ということであり、このような対面コミュニケーション強化戦略はきわめてうまく機能しているそうです。

そういえば、6月にやった日経BP主催のMDMコンファレンスでもP&Gジャパンのグローバル ビジネス サービスディレクター玉置肇氏が、フィリピンのマスターデータ管理者を日本に呼んで交流したことでデータ品質の改善が見られたとおっしゃっていました(参考記事)。

如何に世界がフラット化しようとも、わざわざ飛行機に乗って対面で交流するという要素が(少なくなるとは思いますが)まったく無くなるということはないと思います。

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もしコルシカがアメリカのサービスだったらどうなっていたか

コルシカですが、結局すべての雑誌の販売を中止したようで、このままフェードアウトしていく可能性が高いと思われます。そういう意味ではもう済んだ話ではあるのですが、仮にコルシカが米国でサービスを開始していたらどうなっていたかを考えてみましょう(米国では主要雑誌はほとんどWebでコンテンツを提供してますので、雑誌のスキャンサービス自体の商売としての意味があまりないですが、ここでの目的は日米の著作権制度の違いを説明することです)。

コルシカが米国でサービスを始めれば、当然に権利者側はなんらかの法的手段に訴えるでしょう。裁判かそれ以前の交渉であるかは別として、コルシカ側はフェアユースの抗弁を主張できます。具体的には「利用者がデジタルコピーを買った分だけ、物理的な雑誌が購入されているので、出版社には損害が発生していない、そればかりか、雑誌の売り上げ増に貢献にしている」と主張することになるでしょう。

この主張が認められない可能性もありますが、たとえば、「コルシカがちゃんと本を買っているかを担保できるよう権利者側が監査できる」との条件の下にサービスを継続できるという形で落ち着く可能性などがあります(あくまで仮説)。

これに対して日本の著作権制度ではフェアユースの抗弁という考え方がありませんし、差し止め請求(著112条)の規定がありますので、損害が発生しているか否かにかかわらず、権利者側はサービスの停止を請求できます(これは損害賠償請求とは別の話)。そして、著30条に「使う人自身がコピーしなければ私的使用目的複製ではない」旨が明記されているため差止請求はほぼ確実に認められることになるでしょう。交渉の余地はほとんどありません。

要するに、何か新しいサービスが出てきたときに、米国の著作権制度ではフェアユースの抗弁の考え方があるがゆえに、利害関係者が交渉して新しいWin-Winの秩序を作れる余地が大きいと言えます。なお、新しい秩序ができた後は、それが成文化されることもあります(フェアユースの制度があると何でもかんでも裁判に持ち込まれるというわけではありません)。日本の著作権制度では、法律に書いてある著作権侵害の要件に合致しさえすればメカニカルに差止請求できてしまいますので、このような全体最適化を行なう余地は法律を変えない限りほとんどないと言えます。

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【OOW09便り】OOWでエリソンが語らなかったこと

ラリーエリソンの基調講演により、Oracle Open Worldが終了しました(イベントはもう1日残っていますがメディアの取材日は終わりました)。OOWでエリソンが何を語ったかについては、他の多くのメディアの人が書くと思いますので、私は「何を語らなかったか」について書こうと思います。

「語らなかった」ことの中で最大のトピックはやはりクラウドでしょう。今回のOOWでは、あたかもクラウドがNGワードになっているかのようでした。あるセッションでCLOUDというスライドが出てきましたが、講演者が「これはOracleの検閲通ってるから大丈夫だよ」とジョークを言ったほどです。そして、そのスライドの内容もプライベート・クラウドに関するものでした。

もちろん、OracleはCRM on DemandなどのSaaSビジネスもやっていますし、Amazon EC2のインスタンスでOrcale DBMSをサポートする等、テクノロジー的にもクラウドをサポートしています。しかし、ビジネス戦略としてはかたくなにクラウドを拒否しているように見えます。

この理由は明らかで、クラウドビジネスに乗り出すことが、Oracleの既存ビジネスモデルに与える影響を無視できないということです。言うまでもなくOracleは企業に対してソフトウェアを販売し、ライセンス料金と保守料金で収益を上げる会社です(これから先はハードウェアも収益になってきますが)。顧客の維持さえできれば最も高利益率のビジネスモデルのひとつです。オラクル的にはこのビジネスモデルをしばらく守りたい、そして、十分に守っていけると思っているということでしょう。

では、同じようなビジネスモデルのマイクロソフトがなぜAzureに乗り出したかですが、これは、同社がソフトウェアライセンス料金中心型のビジネスモデルにそろそろ限界が来たと感じたからでしょう。実際、デスクトップOSやOfficeスイートに依存して成長していくのはますます困難になっていくと思います。このような過去にとらわれない切り替えの速さはマイクロソフトならではと思います。

もちろん、オラクルもいずれはクラウドに大々的に乗り出す可能性は十分にあります(エリソンがクラウドのモデルをまったく評価していないのであればSalesforce.comに投資するわけはありません)。実際、Fusion Applicationはセルフサービスの管理機能を提供することでSaaS-readyであることを売りのひとつにしています。来年か再来年のOOWでは、Oracleが大々的にクラウド戦略を打ち出してもまったく驚くことはないでしょう。

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