アクセス制御とコピー制御の違いとは

コンテンツを権利者が望まない形で視聴されないようにするための技術的防止策としては大きくアクセス制御とコピー制御があります。両者は関連してはいますが別の概念です。この2つの違いを明確に理解しておくことは重要です。

コピー制御(コピー・コントロール、コピー・プロテクト、コピー・ガード)とは、文字通り、コピー(複製)を技術的に禁止することです。たとえば、CCCDのCDをリップしようとするとエラーになってリップできません(実際には機器によってリップできちゃうこともありますが、CCCD技術の本来の目的が達成されていればリップできません)。マクロビジョン等のアナログビデオのコピーガードシステムもダビング(コピー)そのものができなくなりますのでコピー制御技術の一種です。

一方、コピーは禁止しないのですがコピーしてできたもの視聴ができないようにするのはアクセス制御です。たとえば、DVDをPCにマウントすると、***.VOBというようなファイルが見えますが、それをHDDにコピーすることは問題なくできます。ただし、コピーしたVOBファイルをMedia Player等で見ようとしてもちゃんとした音声・画像は表示されません。これは、CSSという仕組みでコンテンツに暗号化(スクランブル)が施されているからです。CSSはアクセス制御技術の一種です。

また、NINTENDO DSにおいて、一般のSDカードにゲームソフトのコピーをすることは可能です。ただ、そのSDカードをDSに刺しても、DSが正規カードでないことを認識するのでゲームはプレイできません。これをプレイできるようにしてくれるのがいわゆる「マジコン」です。「マジコン」はコピー制御回避機器ではなくアクセス制御回避機器と言えます。最近はあまり見ないですが、ソフトウェアについてくるドングル(USBキー)も同じような考え方です。別のパソコンにインストール(コピー)はできてもドングルがないとソフトが使えません。複製が関係しないアクセス制御の例としては地デジのB-CASカードがあります。録画するかしないかに関係なく、B-CASカードがないと地デジ番組は視聴できないですね(この例を考えるとコピー制御とアクセス制御は別概念であるという点が理解しやすいと思います)。

ここで、前回書いたように著作権法では「利用」形態のひとつである複製をコントロールしていますのでコピー制御は著作権法が扱う範疇です、一方、アクセス制御はコンテンツの視聴、すなわち「使用」をコントロールする技術なので本来的には著作権法の範疇ではありません

しかし、アクセス制御の回避行為が野放しなのは問題なので、日本の制度では著作権法ではなく、不正競争防止法で手立てをしています。不正競争防止法は業界秩序を乱す行為を具体的に指定して禁止する法律であり、必要に応じて「不正競争行為」が追加されることからごった煮的な規定ぶりになっています(たとえば、食品の産地偽装や産業スパイ行為などもぜんぶ不正競争防止法がカバーしています)。

不正競争防止法(2条1項11号および12号)ではアクセス制御回避のみを提供する機器やプログラムの販売を禁じており、これを根拠として(一部で争いはありますが)「マジコン」は販売が禁止されています(刑事罰がないので実効性がないのではという議論がありますが別論(参考ブログエントリー))。

ここで、不正競争防止法は不正な商売を禁止するための法律なので、機器の販売という商行為を規制するのにはよいのですが、家庭内でのアクセス制御回避行為そのものを規制するのは法目的から考えてちょっと厳しいことになります。

そこで、アクセス制御の回避行為そのもの、より具体的にはDVDのリップ行為そのものを著作権法で禁止したいという話が持ち上がっており、このまんまですと法改正が行われる可能性が高い状況になっています。しかし、「使用」をコントロールする技術であるアクセス制御をどうやって著作権法に取り込むかはやっかいな問題です。

ちょっと長くなったので次回に続きます。

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なぜ本を貸すのは良くてゲームを貸すのはダメなのか

元タイトルは「なぜ本を貸すのはよくてゲーム機を貸すのはダメなのか」だったのですが問題の本質はゲームソフトの貸し出しにあるので「ゲーム機」→「ゲーム」に変えました。どうもすみません。

ちょっと前のエントリーでホテル(に限らず営利事業をやっているお店)が客にゲーム機とソフトを貸し出して店内で遊ばせるのは著作権的にダメであると書きました(もちろん別途営利利用のライセンス契約を行なっていれば別です)。一方、客に本を店内で読むために貸し出すのはOKであるとも。なぜ、ゲームと本で扱いが異なるのでしょうか?これ、実は著作権制度の根幹にかかわる結構深い問題なのでここで解説してみます。

まず、押さえておきたいポイントは、著作権法では、著作物を本来の目的で使う行為をコントロールするという概念はないということです。つまり、音楽を聴いたり、本を読んだり、映像を観たりする行為です。こういう人間の心の中で起こる行為をコントロールするのは本質的に難しいですよね。たとえば、仮に著作権契約でこのCDは買った本人と家族しか聴けないと決められるものします。だけど、そのCDの音が家の外に漏れてしまってたまたまそれを聴いちゃった人はどうなるんでしょうか。「お前はこの音楽を聴いたはずだ」、「いや耳には入ったかもしれないが単なるノイズとしか認識していません」、「そんなことはない、ちゃんと音楽としての良さを感じたはずだ」なんて議論してもしょうがないですよね。

また、著作物の視聴をコントロールすることは検閲にもつながり得ます。「尖閣ビデオ(公開されてしまった後の話)は国の著作物なので国民は見てはいけない」と言っても意味ないですし、検閲以外の何者でもありません。

ということで、著作権法では、著作物の視聴そのものではなく、複製、譲渡、貸与、上演、上映、公衆送信等々の能動的な行為を限定的に列挙し、それをコントロールする仕組みを取っています(これは日本に限った話しではありません)。

著作権法上の用語では、著作物を視聴等する行為を「使用」、上記の能動的行為を「利用」と呼んで区別しています。著作権法とは著作物の「利用」をコントロールする法律であり、「使用」をコントロールする法律ではないと言えます(ほんのちょっとだけ例外あり)。

ゲーム機店内貸し出しの話しに戻ると、ゲームの映像を画面に表示する行為は著作物の上映なので「利用」に相当し著作権法によりコントロールされます(権利者の許諾がなければ違法)。一方、本を読む行為は著作物の「使用」なので著作権法によりコントロールされません(なお、ゲームも本も店外に持ち出すわけではないので貸与権は効いてきません。)

実は、この話はマジコンやDVDのリッピングを著作権法上でどう扱うべきかという話にもつながってくるのですが、これについてはまた次回。

追加(11/01/27):はてブ等で「まだよくわからん」との声が聞かれますが、これはある意味当然です。デジタル・テクノロジーの登場により、伝統的に存在した「使用」と「利用」の境界線が曖昧になっているケースが増えているからです。たとえば、紙の本を読む行為は明らかに「使用」ですが、電子書籍を読むは「使用」なんでしょうか「利用」(上映)なんでしょうか?もし、電子書籍にコンテンツを表示することが上映ではないとするならば、ポータブルゲーム機はどうなんでしょうか、などと考えると境界線は明確ではないことがわかります。この論点についてはまた機会を改めて書くことにします。

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電話帳掲載詐欺的商法の特許版について

守秘義務の関係もあってあまり弁理士業務についてはブログに書かないようにしているのですが、ちょっと注意喚起という意味で書いておきます。(この件は、弁理士の先生はほとんど皆様ご存じだと思いますが、代理人通さないで国際出願する人もいるかと思いますので)。

あるクライアントより、ヨーロッパの聞いたことない組織から英文で特許登録料の支払の請求が来たが、これは詐欺ではないかとの問い合わせがありました。「はい詐欺です」と答えておきました。特許にせよ商標にせよ国際出願をすると、WIPO(世界知的所有権機構)のサイトに出願人情報が載りますので、そこからランダムにピックアップしてメールを送りつける商法のようです。特許庁のサイトにも注意すべしとの情報が載っています。WIPOからも同様な警告が出されており具体的な組織名が載っています(上記クライアントにメールを送付してきた組織もこのリスト内にあります)。

この商法が巧みなところは、「当社が展開している特許情報データベースに掲載したいので料金を支払っていただけないか」という書き方をしているところです。さらには、よく読むと「当社は公的機関とは関係がありません」とも書いてあります。要は、この会社が勝手に作っているデータベースに掲載しますよという話で、権利取得に必要なプロセスでも何でもありません。そして、実際にこのデータベースはこの会社のWebサイト上で提供されています(全件検索しても6000件程度しか出てこないので何の役にも立たないデータベースではありますが)。

ということで、先ほどは「詐欺」と書きましたが、厳密に言えば何もウソは言っていません。公的機関であるとの誤認を招く詐欺的商法とでも言えるでしょうが、なかなか違法性は問いにくいところです。1000社に1社でもひっかかれば儲けものと思っているのでしょう。普通、国際出願は弁理士を代理人に立てるのであまりひっかかることはないと思うのですが、個人で出願していると公的機関の権利取得に必要なプロセスだと誤解したり、また、ある程度大きい会社だと英文なので中身をあまりチェックしないで請求書として経理が支払ってしまうことがあるのかもしれません(稟議がいらない程度の金額であることもポイントなんでしょう)。

ここまで書いて気が付いた人もいると思いますが、これって電話帳の「掲載商法」に酷似していますよね。NTTと紛らわしい名称の会社から当社の職業別電話帳に広告を載せたければ料金を支払くださいと書類を送ってくるという商法です。小さい字で「当社はNTTとは関係ありません」と書いてありますし、しょぼい独自電話帳を一応は制作しているらしいのでウソを言っているわけではないのですが、誤認を招く商法といってよいでしょう。

ヨーロッパ発の特許関連商法と日本初の電話帳商法の「ビジネスモデル」が酷似しているのはシンクロニシティなのでしょうか、それとも、どちらかがどちらをパクったのでしょうか(まあ、どうでもいいですけど(笑))。

いずれにせよ、このような厳密には詐欺とは言えないまでもギリギリの手口には気をつけましょうというお話しです。

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iTunes on Cloudは日本で展開可能なのか(著作権法的な意味で)

(追記:2011/02/22 12:30)本エントリーは2011年1月24日付のものです。最新情報についてはこちらのエントリーをご参照下さい。

「まねきTV」および「ロクラク」の両方において知財高裁の判断を否定する最高裁判決が出たことで、コンテンツを事業者のサイトのサーバに置いておくと、外部から見た限りはプライベートなサービスのように見えても、行為の主体が事業者であるとされ結果的に違法となってしまうケースが増えそうです。

両判決については、ブログ「企業法務戦士の雑感」において詳しく分析がされています(「まねきTV」の方「ロクラク」の方)。ブログ主さんは、両サービスが違法であるとの認定をされたことについては別としてその結論に至るまでの論理構成について大丈夫なのかという懸念を持たれているようですが、私もその点は同意見です。

前回も述べたように、今までは個人が所有していた機器で行っていたことをクラウド上で事業者が所有・管理するサーバ上で行なうようになるケースがますます増えてきます。上記判決が、このような将来の方向性と合致しているのか気になるところです。

ひとつ例を考えてみると、Appleが計画中とされているiTunesのクラウド版があります(たとえば、San Jose Mercury Newsのコラムニストによる2011年の予測記事を参照)。今まで自宅のパソコン上に置いてあったiTunesのライブラリをAppleが提供するデータセンターで管理してもらうという形態です。こうしておけば、どこにいても自分のiTunsライブラリにあるコンテンツをスマートフォンにストリームしたり、ダウンロードできるので大変便利ですね。と言うよりも、これはある意味当たり前のサービスであって、既にAmazon S3等に勝手に自分のiTunesやWinAmpのライブラリを置いている人もいるようです。

さて、この”iTunes on Cloud”(仮称)の日本の著作権法上の扱いはどうなるのでしょうか?サーバはAppleの管理であり、コンテンツ配信に特化した有償サービス(たぶん)であること等々を考えると公衆送信(ストリーミングの場合)や複製(ダウンロードの場合)の主体はAppleであると判断される可能性は十分にあります(そもそも、この”iTunes on Cloud”は、違法であるとの地裁判決が確定してしまったMYUTAと構成がほとんど変わらないと思われます)。

“iTunes on Cloud”上でコンテンツを買う場合は、権利者はコンテンツの使われ方をわかった上でAppleにコンテンツ販売を許諾しているわけですから、あまり問題は起きないと思います。問題になるのは、自己所有のCDをリップしてクラウド上のiTunesライブラリに置く場合です。自分のCDを自分が操作してアップロードして自分だけで聴く場合でも、複製の主体(あるいは、公衆送信の主体)はAppleであるとされて、違法という解釈が出されかねません。

ここで、裁判官の「規範」が「自分が正規に買ったCDを個人として便利な形態で聞くのは自由である」であればよいのですが「レコード会社がCDを売った時はクラウド上に音楽コンテンツを置くことなど想定していなかったのだから、クラウド上に音楽コンテンツを置きたい消費者はそのような許諾を受けているコンテンツを改めて買い直すべき」だっととしたら違法にされてしまう可能性は高いと言えそうです。

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米国における「まねきTV」的サービスについて(続き)

「ロクラク」についても、知財高裁判決が最高裁によりひっくり返されてしまいましたね。これについては週末にでもまとめて書きます。

ただ少なくも現時点の私の感触では、「まねきTV」でも「ロクラク」においても、裁判官の頭の中には、「これらはTV局のビジネスを邪魔する不当なサービスであり何とかして違法にしなければいけない」という規範的意識があり、その目的のためにやや強引な解釈がされているように思えます。

しかし、クラウドと言うバズワードを持ち出すまでもなく、1)自分で装置を所有するのではなく他人が所有・管理する装置を利用する、2)ひとつのネットサービス(さらには1台の物理的装置を)多くのユーザーが共用する、3)ネットサービスではデータだけではなく著作物(コンテンツ)も扱う、というのは今後ますます加速していく動向です。そういう点では「まねきTV」も「ロクラク」も全然特別なシステムではないのですが、その辺を裁判官は理解された上で結論を出しているのかが気になるところです。

さて、今回は、前回に引き続きプレースシフティングに関する米国の状況について私が知っている範囲内で書きます。

まず、ちょっとしたニュースとしてiviというシアトルの会社がキー局のテレビ番組をインターネット上で再送信し、PCやスマートフォンで視聴できるようにするサービスを開始しています(参考ブログ記事)。ユーザー所有のSlingboxをホスティング(ハウジング)するなんてことすらしないで、TV放送を(おそらくは通常のサーバで)そのまんまネット再送信して、ユーザーから料金を取るという「大胆」なビジネスモデルです。もし、日本でやったら速攻で警察に家宅捜索されるレベルではないでしょうか。

そして、昨年9月にこのivi社は、TV局側に対して著作権を侵害してないという確認訴訟を提起しました(TV局がiviを訴えたのではなく、ivi側がTV局を訴えた点に注意)(参考ブログ記事)。なんかめちゃくちゃな感じですが、まったく根拠なしというわけではありません。

米国では放送を有線放送で再送信することに対して放送事業者は禁止権を行使できません。所定の著作権料を払えば再送信は自由に(営利目的であっても)行なえます(米国著作権法111条(C))。ということでネットでの同時再配信も有線放送であるという解釈が許されるならばiviのビジネスもOKと言えなくもありません(なお、ivi社は規定の著作権料を払っていると述べています)。

一方、日本では、著作権法38条3項により、非営利・料金無料に限って、放送コンテンツを有線放送経由で同時再送信可能です(TV電波の難視聴地域対策)。日本の法解釈ではネット送信はたとえストリーミングであっても有線放送ではなく自動公衆送信であるとされていますが、自動公衆送信経由で同時再送信を行う場合には元々の放送対象地域に限ることになっており、TV地方局に優しい制度となっております。

38条3項 放送される著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、有線放送し、又は専ら当該放送に係る放送対象地域において受信されることを目的として自動公衆送信(略)を行うことができる。

米国でiviが合法とされるかどうかは別として(何となくアウトな気がしますが)、米国では地上波放送についてはある程度勝手に使われても許容せよ(公共の電波を使っているのだから)という意識があるように思えます。「まねきTV」、「ロクラク」に話を戻すと、TVコンテンツを利用したサービスに対して、TV局側の人は「自分たちが作ったコンテンツなんだから自分がコントロールできるのは当たり前」という感想を抱くかもしれませんが、「自分たちが作った」の前に「国民の共用財産たる電波を使わせてもらうという前提で」というフレーズが抜けているのではないかと思います。

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