米国における「まねきTV」的サービスについて

昨日の「まねきTV」の最高裁判決が議論を呼んでいるようです(参考記事)。知財高裁への差し戻しとなっていますが、高裁で最高裁の認定をひっくり返すことはできない(そうでなければ最高裁の意味がない)ので、「まねきTV」の著作権侵害は確定です。明日(10/01/20)は類似システム(公衆送信ではなく複製が問題となっている)「ロクラク」事件の最高裁判決が予定されていますので、どうなるのか気になるところです。

早くも裁判所のサイトに判決文がアップされています。判決要旨は以下のとおりです。

1 公衆の用に供されている電気通信回線への接続により入力情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置は,単一の機器宛ての送信機能しか有しない場合でも,当該装置による送信が自動公衆送信であるといえるときは,自動公衆送信装置に当たる
2 公衆の用に供されている電気通信回線への接続により入力情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置が,当該電気通信回線に接続し,これに継続的に情報が入力されている場合には,当該装置に情報を入力する者が送信の主体である

時間ができたら再検討してみますが、これはいくらなんでも射程が広すぎるのではと思います。ハウジングサービスを経由して著作物を視聴すると全部著作権侵害になってしまうような気がします。

本判決の詳しい分析は後回しにさせていただいて、ここでは私の知っている範囲内で米国における「まねきTV」的サービスの状況についてご紹介します。

米国では、TV番組の映像をネット経由で遠隔地に飛ばしてパソコン等で視聴するための製品としてSlingBoxという製品が一般的になっています(日本で言うSONYのロケフリに相当する製品です)。エミー賞も受賞しておりアングラ的な製品ではありません(これはロケフリも同様)。

問題は、SlingBoxをサービス事業者のサイトにおいて管理してもらうSlingBoxホスティングというサービス形態です(どうも米国ではホスティングとハウジング(コロケーション)を明確に区別していないようで、ハウジングぽい形態でもホスティングという言葉を使うことがあるようです)。

SlingBox単体での使用(いわゆる”placeshifting”)はまったく問題ないとして、SlingBoxホスティングが合法であるかどうかは米国でも議論されているようです(少なくともSlingBoxの使用許諾条件には反するという問題点があります)。しかし、少なくとも訴訟問題にはまだ発展していないようです。

ちょっと前の記事ですがNewsWeek(英文)にこの辺の事情がまとめられています。時間ができたら内容を整理し紹介しますが、私が最も印象的だった部分は、SlingBoxホスティングのようなサービスでおそらくは最大の損害を被るであろうスポーツリーグ運営者(地域限定でライセンス契約するため契約地域外に番組が流れると困る)であるMLB.com(メジャーリーグベースボール)のCEOによる以下のコメントです。

“Our fans are never wrong,” says MLB.com CEO Bob Bowman. “We can never suggest that a fan shouldn’t do everything he or she is doing to watch a baseball game・・・

「私たちのファンが悪いなんてことはあり得ません。野球を見るためにあらゆる手段を取ろうとするファンに対してそれをやめるべきと言うことはできません...」

判決については明日の「ロクラク」判決が出たタイミングで詳しく分析・検討してみようと思います。

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AppleはApp Storeの商標を独占できるのか

「Appleが「app store」の商標申請 Microsoftが異議」という記事がITmediaに載っています。以下簡単に説明します。

商標の機能は自社の商品(サービス)を他社のものと識別することです。ゆえに、識別性がない商標は登録されません。典型的なケースはその商品(サービス)の普通名称です。「パソコン」という名称をパソコンという商品の商標として登録することはできません。

商標が登録されないパターンのもうひとつの例として「記述的商標」というものがあります。その商品の産地、販売地、品質、原材料等々をそのまんま表わした商標です。たとえば、「おいしい牛乳」だとか「はちみつレモン」だとかがそれに相当します。「おいしい牛乳」の場合には、たとえば、「森永のおいしい牛乳」といったように苦肉の策でメーカー名を付けて登録に持ち込んでいます。

「記述的商標」が登録されるケースもあって、それは商標の継続的使用によりそれが消費者に有名になり、識別性を確保したと判断されるケースです。このような使用によって得られた識別性を”secondary meaning”と呼びます。このような使用による識別性確保の例としては「サッポロビール」などがあります。

この辺の仕組みは日本も米国もほとんど同じです。で、ポイントは、消費者は”App Store”という言葉を聞いた時に「一般にアプリケーションを売ってる店(サービス)」と思うのか「あのアップル社のアプリケーション販売サービス」と思うのかということです。マイクロソフトは前者であると考え、”App Store”は「そのまんま」の商標で識別力がないので、登録すべきでないと異議申立したわけです。個人的には、App Storeと言えばApple、 AppExchangeと言えばSaleforce.com等々と十分識別力はあると思いますが、それはIT系の仕事をしているからであって、米国の一般消費者の感覚がどちらなのかは正直ちょっとわかりかねますので判断できないですね。裁定の結果を待ちたいと思います。

そういえば、一昨年のSalesforce.comのイベントの記者会見でマーク・ベニオフが「App Storeという名前はAppleにくれてやった」というような発言をして、隣のパーカー・ハリスが苦笑いというシーンがあったのを覚えています。

米国の商標検索システムで調べると、Salesforce.comもAPPSTORE(ブランクなし)という商標を2006年6月に出願していますがその後自ら放棄し、結局AppExchangeという名称を使い始めました(AppExchangeはその後商標として登録されています)。まあ詳しいことはよくわかりませんが何か一悶着あったということかもしれません。

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さらに、もしCiscoとDellとEMCが合併したら

昨日のエントリーでHPとSAPが一緒になった場合の事業ポートフォリオについて考えてみましたが、そのついでに、もしCiscoとDellとEMCが一緒になったらどうなるかを考えてみようと思います。あくまでも「もしそうなったら」の話であり「本当にそうなるのか」については考えません。

ビジネス領域HP

SAP
OracleIBMCisco
+
Dell
+
EMC
エンタープライズアプリケーション
ミドルウェア
コラボレーションアプリケーション
仮想化インフラ
DBMS
BI
サービス
クライアント機器
独自サーバ
IAサーバ
ストレージ◎+
ネットワーク機器◎+

この架空新会社の強力な武器はVMwareの資産だと思うので「仮想化インフラ」の枠を新たに作ってみました。インフラ系においてはかなり強力なポートフォリオになりますね。

実際にこのような構図になるかどうかは別として、ITベンダーの集約が進んで行くことはエンタープライズITの成熟化に伴う必然的な流れです。では、小規模ベンダーはなくなるのかというとそんなことはなくて、破壊的イノベーション的な領域や特定市場向けで真価を発揮することになるでしょう。

ということで、規模の経済と垂直統合で価値を提供する少数のメガベンダーとスピードとイノベーションで価値を提供する多数の小規模ベンダーの二局構造が、今後はさらにはっきりしてくるのではないかと思います。成功した小規模ベンダーはメガベンダーに買収されると共にまた新たな小規模ベンダーが登場して、市場を活性化していくでしょう。一番苦しいのは規模もスピードも中途半端な企業ということになります。まあ、これは別にITに限った話ではなく、ほぼすべての産業に当てはまることだと思いますが。

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もしHPがSAPと合併したら

PulicKeyの正月特集エントリー経由で知ったSan Jose Mercury Newsの2011年の予測記事”O’Brien: 11 Predictions for 2011, including Google buys Twitter, Yahoo axes Bartz and Facebook hits the billion mark“において「HPがSAPを買収する」という予測がされています。

HPがSAPと合併するか、そもそもそうい動きが進行しているかどうかは私にはわかりません(もし、内部情報を知っていたらブログには書きません(笑))。あくまでももし合併したらどうなるかという観点でちょっと検討してみたいと思います。

HP+SAPの新会社、Oracle、IBMの3社を事業ポートフォリオという点から評価してみると次の表のような感じかなと思います。

ビジネス領域HP+SAPOracleIBMコメント
エンタープライズアプリケーション
ミドルウェア
コラボレーションアプリケーション
DBMS
BI
サービス日本だとわかりにくいけどEDSは強力です
クライアント機器
独自サーバIBM System zは何だかんだ言ってドル箱
IAサーバ
ストレージ
ネットワーク機器

評価の点数については賛否両論あるかと思いますが、HP+SAPが結構漏れのないポートフォリオとなることがわかります(DBMS、ミドルウェア、コラボレーション分野がちょっと弱いですがMicrosoftとの戦略的提携でカバーできるんじゃないか)と思います。

もちろん、カバー領域が広ければ絶対良いかというとそういうわけでもなくて、たとえば、エンタープライズ・アプリケーション製品を売っていなければマルチベンダーのシステム統合で中立的なソリューションを求める顧客にアピールできるという逆のメリットもあるでしょう。しかし、ITの基盤テクノロジーの成熟化により、水平分業から垂直統合へのシフトが見られる中で、事業ポートフォリオの漏れをなくすのはますます重要になってくると思われます。

ところで、こういう水平分業から垂直統合へ向う動きを、昔のメインフレーム時代の回帰にたとえることがありますが、ちょっと違うと思います。昔のメインフレームの世界は、プロセッサからハードからソフトからサービスまで特定ベンダー独自仕様のクローズな世界ですが、現在は、たとえば、OracleのDBMSはHPのサーバやIBMのサーバ/統合ミドル上でも動いたりするわけであって、あくまでも基本はオープンな世界の中で垂直統合の価値を提供するというビジネス戦略が中心になっていくでしょう。

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ホテルが客にゲーム機を貸してプレイさせるのは犯罪になり得るようです

無許可で宿泊客にWiiを貸し出して遊ばせていたホテルが著作権(上映権)の侵害で警察の捜索を受けたという事件があったそうです(神戸新聞の元記事)。

twitterなどでは「これ違法なの?」という意見が聞かれましたが、警察が動くような事件なのかどうかは別として違法であることは確かなようです。

1.TVゲームの画面をテレビに映すことは著作権法上の「上映」に相当します(なお、TVゲームの多くは判例上「映画の著作物」であるとされていますが、たとえそうでなくても(映画の著作物でなくても)著作物を画面に映すことは「上映」です。)

2.上映権は権利者の許可がないと行使できませんが、ゲームソフトを買った人は非営利で上映できる旨がライセンスに規定されているはずです。これとは別に、非営利・無報酬・無料の場合は自由に上映できる旨が著作権法に規定されています(38条1項)ので、個人が楽しみのために(非営利で)ゲームをプレイする際に上映権が及ぶことはありません。

3.ということで営利目的でゲームソフトを使う行為には(仮に料金を取らない場合でも)権利者の許可が必要になります。無許可で使うと著作権(上映権)侵害です。故意でやれば刑事罰の対象ですから警察が関与することもあり得ます。

4.このケースではゲームを「上映」しているのは客なので非営利・無報酬・料金無料のように見えますが、例の「カラオケ法理」により、ホテルが上映の主体と考えられ営利目的とみなされてもしょうがないと言えます。また、これとは別にゲームソフトのライセンス違反になるかもしれません(Wiiソフトのライセンスに今アクセスできないのではっきり書けなくてすみません)。いずれにせよ上映権侵害です。仮にゲーム機をレンタルするのではなく、部屋に1台ずつ置いてあってゲームソフトも台数分買ってあったとしても営利利用の許可を得ていなければ上映権侵害です。

では、マンガ喫茶などで客に店内で使うゲームを貸し出している場合はどうなのかというと、営利利用のライセンスを別途受けて権利者にお金を払っているらしいです。また、書籍の場合は、そもそも「上映」という概念がない(ページをカメラで撮影してテレビ画面に映せば「上映」になるのかもしれませんが)ので上映権が関係することはありません。なので、ホテルにマンガが置いてあってそれを客に閲覧させても何の問題もありまません(これが問題だったら定食屋や床屋に雑誌が置いてあるのもアウトになってしまいます)。なお、電子書籍を公衆に閲覧させるというケースで上映権が効いてくるのかは興味深いところです。

聞くところによるとホテルでのゲーム機の貸し出しはよくあるサービスらしいのですが、これらがちゃんと権利者のライセンスを受けているやっているサービスなのか、それとも単に大目に見られているだけで警察がいつでも捜査できる違法状態にあるのかはよくわかりません。この事件では「同署が偽装ラブホテルの立ち入り調査を実施した際に発覚した」ことにより警察の捜索に結びついたようです。

追加(11/01/13): はてブやtwitterのコメントを見ると誤解している人がいるようなので念のため説明しておきますが、ホテル内のケーブルテレビで使う業務用ゲームシステムや飛行機内で使うゲームシステムは権利者から業務用のライセンスを得てそれなりの料金を払っているので問題ありません。本エントリーで言っているのは家庭用ゲームソフトをゲーム会社の許可なく客に使わせる場合です。

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