【Lodsys】日本のスマホアプリ開発者にとっての特許ゴロリスクについて

米国のパテントトロールLodsys(メディアではNon-Practcing EntityやPatent Holding Company等の中立的な用語が使われることが多いですが、Lodsysについては敢えて「パテントトロール」(特許の怪物)と呼びたくなってしまいます)に関して、最近、重要な動きがありました。日本のiOSやAndroid開発者の方にも影響があると思いますので注意喚起しておきます。

一応書いておくと「パテントトロール」とは、特許権を買い集めて他社に訴訟をしかけることを専業としている企業のことです。比較的穏健なビジネスモデルのところもあれば、「特許ゴロ」に近いエグいビジネスモデルのところもあります(Lodsysは後者だと思います)。

Lodsysの保有特許の中で、現在、特に注目を集めているのがアプリ内課金に関する特許(US 7,222,078)です。アプリ内課金もわざわざ説明するまでもないと思いますが、ソフトは無料で提供しておいて、追加のコンテンツやアップグレードを有料で購入させるビジネスモデルです。Angry Birdを初めとして特にゲーム等では一般的な方式です。

そして、Lodsys社のブログによれば、このアプリ内課金特許はGoogleの請求によって米国特許庁の再審査(Rexam)のプロセス(日本で言えば無効審判のようなもの)にかけられていたのですが、いくつかのクレーム(特に、アプリ内課金に直接関係するクレーム24)の有効性が米国特許庁により認められたようです(ほぼ確実にGoogleは不服審判を請求すると思いますので、これで確定ではありません)。

Lodsysはこの078特許をAppleやGoogleにライセンスしているのですが、それに加えて、個別のアプリ開発者(小規模なものも含む)にも権利行使してます(ライセンス料を支払わなければ訴えると警告を出しています)。各アプリのアプリ内購入は通常はiOSやAndroidのAPIを使うので、AppleやGoogleが正規にライセンスしている以上、アプリ開発者は関係ないように思えますが、Lodsysは、ライセンスが有効なのはAppleやGoogle製のアプリの話だけであって、サードパーティアプリの話はまた別だと主張しているわけです。

常識的に考えれば、プラットフォーム提供者からもプラットフォーム利用者からもライセンス料を取るのは二重取りだと思うのですが、こういう常識はLodsysには通用しないようです。Appleはこの件について裁判で争っていますが、結論が出るのは来年以降になるようです(ソースは同じくLodsys社ブログ)。

Lodsysの特許は米国内でしか成立していないと思われます。しかし、日本で開発したアプリでもAppStoreやAndroid Marketで販売する以上は米国でも販売が行なわれることになり、日本のデベロッパーも権利行使の対象になり得ます。収益の何パーセントかのみかじめ料ライセンス料を支払えばすむとは思います。ある意味何するかわからない企業と特許ライセンス契約を結ぶのはあまり気持ちのよいものではないですが、しょうがありません。

この078特許の具体的内容についてはまた時間ができたら書くことにします。

【重要追加情報】7,222,078特許は1992年8月6日の出願に基づく継続出願なので今年の8月に20年の存続期間が満了しているようです。とは言え、特許権が無効にならない限り、特許権が有効であった期間の過去の行為に関しては権利行使できます(過去の行為を差し止めすることはできないので、ライセンス料の支払いを求める(払わないと損害賠償請求されてもっと払うことになるぞとプレッシャーを与えて)しかないですが)ので、依然として注意は必要です。

これからアプリを販売しようとしている人は安心ですが、今年の8月以前にアプリ内課金を米国で実施していた会社には何らかの権利行使(ひょっとすると法外なライセンス料請求)があるかもしれません。

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違法ダウンロード刑事罰化の問題点を考える【今更ですみません】

本ブログの以前のエントリー(1, 2)ではダウンロード刑事罰化が制度的にどうなっているかという点についてできるだけ客観的に書いてきました。今回は、このような制度の何が問題なのかという点から私見を述べてみたいと思います(今頃言ってもしょうがないという話ではあるのですが)。

まず大前提として世の中は「けいさつはわるいことをしたやつはどんどんつかまえればよい」という仕組みでは動いていない点を念頭に置く必要があります。

刑罰(および、それに伴う逮捕・拘留等)は、個人の人権を大きく損なう可能性があります。ゆえに、刑罰は最後の手段として使うべきであり、違法行為なら何でも罰せばよいというものではありません。この刑事罰はできるだけ控えめに使うべきという考え方を「謙抑(けんよく)主義」と呼びます。謙抑主義は近代国家の刑法制度の基本です。

たとえば、米国著作権法における刑事罰の規定は以下のようになっています。

第506条 刑事犯罪

(a)著作権侵害罪
(1)総則-著作権を故意に侵害する者は、その侵害が以下の態様で行われる場合には、合衆国法典第18編第2319条の規定に従って処罰される。
(A)商業的利益または私的な経済的利得を目的とする行為、
(B)180日間に、1つ以上の著作権のある著作物について1部以上のコピーまたはレコード(その小売価格の総額が1000 ドルを超える場合に限る)を複製もしくは頒布(電子的手段によるものを含む)する行為、または
(C)商業的頒布を目的として作成中の著作物を、公衆がアクセス可能なコンピュータ・ネットワーク上に置いて利用可能にする方法によって頒布する行為(当該著作物が商業的頒布のために作成中の著作物であることを当該者が知りもしくは知るべきであった場合に限る)。

(2)証拠-本項において、著作権のある著作物の複製または頒布の証拠は、それだけでは、故意侵害を立証するに十分ではないものとする。

(以下略)

ポイントは、1)非営利目的の複製(DL含む)は原則的に刑事罰の対象にはならない、2)少量のカジュアルコピーは刑事罰の対象とならない、3)制作中で発表前の作品を故意に公開するパターンは特別に刑事罰の対象(これは制作者の被害が甚大なのでしょうがないと思います)、4)複製・頒布をしているというだけで故意であると推定してはいけない、ということであります。結構、謙抑的だと思います。

日本においてダウンロード刑事罰化が推進された時の推進派の根拠のひとつとして「米国では既に違法DLも刑事罰化されている」というのがあったと思いますが、日本の刑罰規定の方が相当厳しいですね(ただし、米国では懲罰的賠償金とか法定賠償金等、民事の規定が結構厳しい点は考慮する必要はあります)。

「条文上は厳しいけど実際には悪質なケースしか逮捕されないからいいんじゃないか」という意見の方もいるかもしれないですが、形式上は犯罪だけど警察に大目に見てもらっている(恣意的にいつでも検挙できてしまう)という状況はあまりよろしくありません。

特に、アップロード行為は外界からの監視でわかりますので、十分な証拠を押さえた上で家宅捜索等ができます。ところがダウンロードはあくまでもプライベートな世界です。パケットを盗聴したり、ハニーポットサイトでも作らない限り、ダウンロード者の特定は難しいです。また、仮に何らかの形でログを見たところで、ストリーミング視聴しているのか、ダウンロードしているのかは区別しにくいです。「違法ダウンロードしている疑いがある」ということで家宅捜索されたのではたまりません。

先日、私が聞きにいった明治大学知的財産法政策研究所(IPLPI)セミナー「平成24年著作権法改正の評価と課題」 のパネルディスカッションにおいても、パネリストの先生は何度も「謙抑性」という論点を口にされていたと記憶しています。また、日弁連会長の声明でも「違法ダウンロードはコンテンツ産業の健全な成長を阻害するおそれのある由々しき問題であるとの認識を持ちつつも、直ちに刑事罰を導入することに対しては反対」と述べられています。

特に、違法ダウンロード行為に対して刑罰を最後の手段として適用することが本当に必要なのかという議論が十分になされたとは言い難い点が問題です。文化庁の審議会では「刑事罰までは不要」という見解であったのを、会期末近くの国会でほとんど審議なしに土壇場で刑事罰が追加されているからです。先の日弁連会長の声明を引用すると、

インターネットの利用に関して刑事罰を科すという国民生活に重大な影響を及ぼす可能性がある法律改正が、国民的な議論がほとんどなされないまま、衆参両院において、わずか1週間足らずで審議されて可決されたということはあまりにも拙速であった。このように、今回の立法には手続的にも大きな問題があったと指摘 せざるを得ない。今後、このような形で私的領域における刑事罰の立法がなされることを、断じて許してはならない。

ということであります。

なお、違法ダウンロード刑事罰化は衆参ともほぼ全会一致で決まったのですが、民主党の森ゆうこ参院議員と川内博史衆院議員が最後まで反対の立場であったようです。ちなみに、推進派の中核としては自民の馳浩衆院議員がいます。有権者の方は選挙の際の参考にされるといいんじゃないかと思います。

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【小ネタ】ドクター中松の「ウデンワ」特許について

まさかの3連続でドクター中松間連小ネタです。

前回のドクター中松名義の登録商標の中の「ウデンワ」ですが、聞き覚えがあると思ったら、2003年のITmediaの記事で紹介されていた「発明」でした(参照記事:「ドクター中松、第4世代携帯電話を発明!?」)。要は腕に携帯を取り付ける器具の「発明」です。楽天でも販売中です。(というか、楽天内にドクター中松ショップがあったんですね)

携帯を手から一番遠いところに置くことで心臓への電磁波の影響を防ぐ(ペースメーカー使ってない人でも意味があるんでしょうか?)、携帯の紛失を防ぐ、バッグがなくても携帯が邪魔にならないなどの特徴があるようです。

なお、スマートフォン版の「スマ手」もあるようです(こちらも、まだ登録はされていませんが、商標登録出願済みです)。

さて、この「ウデンワ」ですが、商標登録だけではなくて、特許も成立しています(第3227362号)。発明の名称は「腕電話」です。

2012100319201041881020121003193246287599
(特許公報中の画像を引用)

元々は、「手甲に載せ手首に固定し得、且つ人体の熱が伝わる事を特徴とする電話」というクレームで、「人の体温でバッテリーを充電したり、バッテリーの持ちを良くする」などの効果も主張されていたようですが、最終的には、「左手(右手)を右方向(左方向)に曲げて右頬(左頬)に近づけた時に、送話口を口に近く、受話口が耳に近い位置とし、左右の手を使わずに迅速に通話が出来るように本体が少なくとも手首に固定され、且つ前記本体は手首部分から手甲方向に及んでおり、手首は自由に屈曲でき、前記手を顔に近づけると本体の送話口に近く、受話口が耳の近くにある事を特徴とする腕電話」というそのまんまのクレームになっています。

この特許、一度拒絶査定になってから不服審判が請求された結果成立しており、中松氏も苦労して成立させたようです。

しかし、それにもかかわらず、この特許は4年目の特許料が支払われていないために権利抹消されています。登録時に1年目から3年目の特許料支払いをするので、要は、最初の支払いをしなかったことになります。4年目の特許料は2万円くらいなのでさすがにお金がなくてというのではなくて、単に忘れてただけでしょう(今は自動振替ができるのですが、昔は自分で管理するしかなく、特許庁から支払時期の連絡等も来ませんので、代理人がいない場合は支払いを忘れることもあったと思います)。

さらに、ドクター中松氏の他の特許についても調べてみましたが、なんとそのほとんどが特許料未納により権利抹消になっています。何年か支払った後に未納になったのもあれば、「腕電話」のようにいきなり1回目から未納のものもあります。まあ、特許権が不要になったのであえて放棄するまでもなく、特許料を支払わないでおくというパターンはよくあるのですが、数が多すぎるのではと思います。

特許権が取れればそこで発明家としての目標達成で権利存続には興味がないのか、単に忘れっぽいのかのいずれかだと思いますが、もし後者だとするならば、特許料の納付を忘れない発明をすればいいんじゃないかと思います。

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【小ネタ】ドクター中松氏の華麗なる商標権ポートフォリオについて

特許電子図書館(IPDL)で「中松義郎」氏が権利者あるいは出願人になっている商標登録(出願)を検索してみました。

1.登録2129938テレビがおいしい
2.登録2355769【図有】
3.登録2355782メ∞においしい
4.登録2373516メ∞においしい
5.登録2378161あたまにおいしい
6.登録2383680§メ においしい
7.登録2405841頭の良くなる
8.登録2405958風呂不老\フロフロ-\FLO-FLW
9.登録2423427頭 においしい!
10.登録2430382ENEREX
11.登録2459663新・民主党
12.登録2488348Dr.中松
13.登録2684665からだにおいしい
14.登録2701319からだにおいしい
15.登録3302082ドクター中松\Dr.NaKaMats
16.登録3334694ホレモン\HOREMON
17.登録4033263ミュジアム
18.登録4093847DR NAKAMATS
19.登録4110188ブレン ドリンク\BRAIN DRINK
20.登録4111435WAO\ワオ
21.登録4115779ウデンワ
22.登録4133849美人を発明する
23.登録4299557Cerebrex\セレブレツクス
24.登録4303383ReBody
25.登録4314889ムカンホ
26.登録4339555フロフロー\風呂不老\FLOFLOW
27.登録4495856JUMPING JAX\ジャンピングジャックス
28.登録4609655Stayung\ステイ ヤング
29.登録4624346Young Again
30.登録4671796ラブジエット
31.登録4737781§増加 け\まかしと毛
32.登録4962061き じゅ し\喜寿司
33.登録4994136ReBody∞活脳長寿\リボデイ∞55
34.登録4997536ザ・カサ\座
35.登録4997537デカ\ヅラ刑事
36.登録5023766ReBody\リボディ
37.登録5046027はげ\ません\べい
38.登録5054157ヒト\人メディア
39.登録5075305§Talent∞Olympic
40.登録5222943美バスト\VIVAST
41.登録5277120知本主義
42.登録5277139しあわ\幸せんべい
43.登録5491506ステイヤング\STAYOUNG
44.登録5494693ECON
45.登録5503113東京都維新の会
46.登録5503114平成維新の会
47.商願2011-090946日本維新の会
48.商願2011-090947東京維新の会
49.商願2012-032488フロフロー\風呂不老\FRO‐FLOW
50.商願2012-045613HAND SMART PHONE\SMARTE\スマ手

様々な「アイデア商品」の名称についてはよいとして、「東京都維新の会」や「平成維新の会」が登録されてしまっているのが気になります(特に、「平成維新の会」は大前研一氏による実在の団体名だと思うのですが)。「新・民主党」が登録されてしまっているのもちょっと気になるところです。

「日本維新の会」がNGで「平成維新の会」がOKな理由が解せないですが、審査官により判断が違うのはよくある話です。また、いったん登録になっても後から利害関係人(典型的には「大阪維新の会」)から物言いが付けば無効にされてしまう可能性はあります。

なお、IPDLは登録済み、および、審査中の商標しか検索できず、出願したが拒絶されてしまったものについてはデータベースから早晩削除されてしまいます。中松氏の場合、どちらかというと拒絶されてしまったものの方を見たいのですが、そのためには、調査会社が提供する有料の商標データベースサービスを使わないといけないので、これまた迷っています(笑)。

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【小ネタ】ドクター中松が「日本維新の会」を商標登録出願したが拒絶された件

facebookで知りましたがあのドクター中松(中松義郎)氏が昨年の12月16日に「日本維新の会」を商標登録出願したようです(2ちゃんねるでもスレ「【政治?】「日本維新の会」の名称が中松義郎氏によって商標登録されていた」が立ちましたが、スレタイの「商標登録されていた」は「商標登録出願されていた」の間違いです。登録はされていません。)

そして、特許電子図書館の経過情報で検索すると8月16日付けで拒絶査定になっています。不服申立をしている可能性があるので確定ではないですが、たぶん拒絶が確定するでしょう。拒絶の理由はネット情報だけでは詳細にはわからないので推定になりますが、おそらく「大阪維新の会」との誤認混同を招くということだと思います(商標法4条1項15号)。昨年末時点でも「大阪維新の会」は全国的に知られてましたのでまあうなずけるかと思います。料金(600円)を払って審査資料を閲覧すると本当の拒絶理由、さらに、それに対する中松氏の反論(意見書)も読めるので、今、閲覧請求するかどうか迷ってます(笑)。

一般的に他人の功績や名声にフリーライドするような商標登録出願をしてもほぼ確実に拒絶されます(万一登録されても後で無効にされてしまいます)ので、他人に買い取ってもらうことを前提に関係ない人が商標登録出願するのは出願料金の無駄になるだけです(ドクター中松氏には商標権の買取以外にももっと崇高な目的があったのかもしれませんが)。

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