Chikirinを商標登録することにどのような意味があるのか

アルファブロガー(死語?)の「ちきりん」さんの中の人と思われる人物がCHIKIRINを商標登録したことが話題になっています(NAVERまとめ)。※ ところで、書いている内容から見て中の人は普通の主婦ではないと思っていましたがやはりそれなりのバックグラウンドの方でしたね。

さて、このCHIKIRINの商標登録(5521211号)ですが標準文字商標で、以下のような指定役務です。

41類 知識の教授,セミナーの企画・運営又は開催,電子出版物の提供,書籍の制作,教育・文化・娯楽用ビデオの制作(映画・放送番組・広告用のものを除く),放送番組の制作

この商標登録によってどのような効力が得られるのでしょうか?

重要な点はそもそもペンネームは商標ではないという点です。

たとえば、架空の例として「禿げるほどよくわかるシリーズ: 本当は怖いビッグデータ」(ゴンザレス栗原著)(禿山堂出版) という書籍があったとします。ここで、商標に相当し得るのは、シリーズ名「禿げるほどよくわかるシリーズ」と出版社名「禿山堂」だけです。(単発の)書籍タイトル「本当は怖いビッグデータ」と作者ペンネーム「ゴンザレス栗原」は商標ではありません。商標登録できないという意味ではなく、そもそも「商品・サービスの出所を表す標識」という商標の定義に合致していないのです(つまり、書籍を指定商品にして登録したところでその商標権に基づいては他人の使用を排除できません)。

つまり、CHIKIRINの商標登録があったところで、他人がCHIKIRINのペンネームを使って本を出すのを差し止めできるわけではありません(もちろん、業界の仁義的にあり得ないですし、民法の一般不法行為として損害賠償請求はできると思いますが、それは商標登録のあるなしには直接関係ありません)。

もちろん、たとえば、誰かがChikirin出版という会社を作って書籍の制作というサービスを行なうのを差し止めることはできます。

ちきりんさんがどういう意図で商標登録をされたかはわかりません(会社作ってChikirinブランドでいろいろやっていこうということかもしれません)が、商標の機能を理解する上でよい題材だと思いましたのでネタにさせていただきました。

ところで、ペンネームと同様、芸名・アーティスト名もそのままで使っただけでは通常は商標ではありません。もちろん、芸名・アーティスト名を使ったキャラクターグッズの販売は当然に考えられるので、その場合にはたとえばTシャツ等々を指定商品にして商標登録する意味があります(AKB48のとんでもない商標登録についての過去エントリー)。

しかし、現在の特許庁の運用では、CD(録音又は録画済み記録媒体)を指定商品にして芸名・アーティスト名で商標登録出願すると「商品の質を表すだけの商標」という理由で拒絶されてしまうようです(参考文献(PDF))。たとえば、最近のジャニーズ関係の芸名の商標登録出願は「録音又は録画済み記録媒体」の指定商品については拒絶されています(グッズ関係の指定商品については登録されています))。

以前に音楽アーティスト向けの商標セミナーで「アーティスト名の商標登録は偽物キャラクターグッズを防ぐ意味では有効だが、CDやコンサート活動という本来のアーティスト活動するだけであればあまり意味がない」といったような話をした記憶がありますが、実際には拒絶される運用になっていたのでした。(追加:正確に言えば日本の出願に基づいて外国に国際登録出願するケースもあるのでまったく意味がないわけではないです(米国等ではCDを指定商品としてアーティスト名を商標登録出願しても問題ないようです))。

これについては、つい最近、諸外国の運用と違ってちょっと困るので是正して欲しいという要望書(PDF)が弁理士会の商標委員会から特許庁に対して出されていますので、また変わるかもしれません。

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1 Response to Chikirinを商標登録することにどのような意味があるのか

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