Googleブック検索に米司法省介入の件の続き

#ちょっと更新が滞っておりすみません。本来的にはほぼ毎日更新を目標としています。

ちょっと前にGoogleのブック検索和解に対して米国司法省が調査したとのニュースについて触れました。そこで「Googleと版権レジストリの契約は非独占的なはずでは?」と書いたのですが、別記事によると、確かに契約は非独占的ではあるのですが、Googleが他企業と比較して有利な立場になる条項が加えられていたことが米消費者団体Consumer Watchdogにより問題とされ、司法省の調査につながったようです。

ところで、上記別記事のはてブでGoogleのブック検索のスキーム自体が米消費者団体に否定されたかのように書いている人がいますがまったくの失当です。Consumer WatchdogはこのスキームにGoogleだけではなく他企業も参入して公正な競争が行なわれるようにせよと主張しているのですから。絶版本をスキャンして販売するというスキーム自体は消費者のメリットになるのでどんどんやってくださいというわけです。なお、マイクロソフトは昨年の5月にブック検索事業から撤退しています(ソース)。ということで、可能性のある新規参入者はやはりAmazonということになるでしょうか。

さて、記事中でConsumer Watchdogが問題としている条項のひとつは「最恵国待遇」と呼ばれています。これは、Google以外の企業と版権レジストリが契約を結ぶ際に、Googleよりも有利な契約を結ぶことを禁じる条項です。これは、契約自由の原則に反し、Googleに不当な優位性を与えますので問題とされてもしかたないと考えます。

こういう新しいスキームが生まれようとする時に、さまざまな利害関係者が徹底的に意見を戦わせて新たな秩序が生まれるのは健全な姿だと思います。一部の関係者だけが(特に肝心なユーザーのあずかり知らない)密室でものごとを決めてしまうよりははるかに健全でしょう。

ところで、「最恵国待遇」(most favored nation)という言葉ですが、本来の意味は国際条約において外国間の扱いの差別を禁止する規定のことです。記事(と言うよりも元となったConsumer Watchdogのプレスリリース)では「たとえ」としてこの言葉を使っています。しかし、実際には、ブック検索のスキームにはTRIPS協定経由で著作権における(本来の意味の)「最恵国待遇」も関係してくるので、この言葉を「たとえ」として使うのは混乱の元だと思います。

一応説明しておくと、ベルヌ条約が規定する内国民待遇とは「外国人に対する保護」≧「自国民に対する保護」とせよという規定です。TRIPS協定の最恵国待遇とは「外国Aの国民に対する保護」=「外国Bの国民に対する保護」…とせよという規定です。ということで、たとえば、Googleブック検索のスキームにおいて英国民はオプトアウトだが日本国民はオプトインとするというような規定にするとTRIPS協定の最恵国待遇の規定に違反する可能性があります。

なお、TRIPS協定は知的財産権(特許・著作権等全部含む)の国際条約であり、著作権の保護についてはベルヌ条約を補完するものです。ベルヌ条約のアドオンであって、それをオーバーライドするものではありませんので、「ベルヌ条約が著作権法を適正化する上での足かせになっている」という見解に対して「いやTRIPS協定があるじゃないか」と反論するのはまったくの失当ということになります。

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自家製生キャラメルと商標問題について

生キャラメルなかなかおいしいですが、花畑牧場の商品はなかなか入手しにくいですね(抱き合わせ商法が問題になっていたりしました(ソース))。それとちょっとお高いです。テレビで製法を見ましたが人手でひたすら生乳を煮詰めていくという作業なので人件費がかかるのはしょうがないと言えます。

で、森永製菓のWebサイトで自家製生キャラメルのレシピを見つけました。生キャラメルの材料として(普通の)キャラメルを使うという逆転の発想。普通のキャラメルにバターと生クリームを足して溶かしてもう一度固め直すだけです。実は既に何回か作っていますが、習熟した結果大変おいしくできるようになりました。コツは、

1.レシピ上は電子レンジでもできるように書いてますが、やはりガスの火で煮詰めた方がおいしくできるようです。

2.普通のキャラメルよりも塩キャラメルをベースにした方がおいしいと思います。

3.レシピに書いてあるよりも生クリームを多めにいれて長く煮詰めた方がおいしくなると思います。

ちょっとメタボ的な観点からは難ありですが、簡単なわりにおいしくできますのでぜひお試し下さい。

さて、自家製の話とは直接関係ないですが昨年の5月にあの田中義剛氏が「生キャラメル」の商標登録出願を行なっていました(なぜか、花畑牧場名義ではなく個人名義で出しています)。いろいろとあったようですが、この3月に拒絶査定が一応確定しております。さすがに「生キャラメル」は普通名詞そのまんまですし、しかも、花畑牧場が出す以前にもが生キャラメルという商品はあったようなので、商標としての独占が許されないのは当然といえます。たまに思いきっりの普通名称で商標権を取れないかとの相談がきたりしますが(例:ミネラルウォーターの商標として「フレッシュウォーター」)、これは無理な相談です。

これに関連して、花畑牧場の生キャラメルの偽物を販売していたスーパーの担当者が逮捕されてしまったという事件があったのを記憶されているかたもいるかもしれません(ソース)。この事件は商標法ではなく不正競争防止法違反なので、商標登録とは直接関係ありません。周知の商品名や企業名であれば、商標登録がされていなくても不正競争防止法により他人の模倣を差し止めることができます(この事件のように刑事罰も問える強力な権利です)。ただし、周知性の証明などが必要になってきますので、商標登録できるのであればしておいた方がよいのは確かです。

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Googleはこうして膨大な数の本をスキャンしているようだ

言うまでもなくGoogle Books Library Projectでは、図書館の膨大な蔵書をスキャンしてOCR処理をしてテキスト化するという作業が必要になります。ここではOCRの認識率などの問題もありますが、何と言っても最大の課題は物理的なスキャン作業でしょう。

一般に本をフラットベッド・スキャナーやコピー機でスキャンするのは相当面倒くさいですし、特に本が厚い場合にはうまく読み取れないこともありますね。最後の手段として本をばらすという方法もありますが、そもそもGoogle Books Library Projectでは図書館の貴重な蔵書を扱っている以上、それも非現実的と思われます。

で、Techmeme経由のブログ経由で知りましたが、Googleは書籍のスキャン手法に関して米国で特許を取得しています(米国特許7508978)。

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本の上方から2つのカメラでページを撮影し、ページの凹凸の画像補正をかけて正確に読み取るという特許です。いかにも先行技術がありそうな感じですが、どんなもんなんでしょうか(まだ、明細書の中身はちゃんと読んでないですが)。

この特許の出願は2004年で、ちょうどLibrary Project開始の時期にも重なりますので、このような技術的裏付けがあってプロジェクトを始めたのだなと推定されます。

追加: ブック検索のヘルプでは、

スキャン処理によって図書館の書籍は損傷を受けますか。

スキャンによって損傷を受けることは一切ありません。 Google は、書籍を傷つけることなく内容をスキャンできる革新的な技術を開発しました。 さらに、提携図書館側で、非常に傷つきやすいと判断された書籍についてはスキャンしません。また、スキャンした書籍についてはスキャン後速やかに図書館へ 返却しています。

と書いてあります。この「革新的技術」が上記特許発明いうことでしょう。

追加^2:この話はTechCrunch(日本語版)で1週間前に既にカバーされてましたね。ちょっと速さが足りなかったようです orz

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【勝手にお知らせ】「売れない学術書の著者が集まりグーグル電子図書館への対応を議論する会」

5月19日に情報通信政策フォーラム(ICPF)主催で首記研究セミナーが開催されます。私は出席予定です(売れないビジネス書の翻訳者(著作権者)と言えなくもないので)。

グーグルの電子図書館構想に対して米国の著者および出版社が起こしていた集団訴訟は和解に達しました。これに伴って日本国内でも、各出版社から「著作権に関する重要なお知らせをさせていただきます」といった表題で著者に通知が届き始めました。
国内ではこれについて様々な意見が表明されています。しかし「日本の出版物にまで影響が出るのはおかしい」といったベルヌ条約の原則である内国民待遇を理解しない発言や、「グーグルはきちんと説明もせず横暴だ」といった感情論(本当は和解管理者のRust Consulting, Incに.説明責任があります)も多く、和解の意義と問題点についての理解が進んでいるとはいえません。4月15日には日本文芸家協会が抗議声明を発表しましたが、すべての著者、とりわけ売れない学術書の著者の意見を代表しているものではありません。
そこでICPFでは、主にそんな売れない学術書の著者を対象に、事実を理解した上で対応について議論する研究セミナーを開催することにしました。米国弁護士の城所岩生さんをお招きし解説していただいた上で、参加者が気楽に意見を交わす会としたいと思います。どうぞ奮ってご参加ください。

日時:5月19日(火曜日)午後6時30分?8時30分
講師:城所岩生氏(米国弁護士)
モデレータ:山田肇(東洋大学教授、ICPF副理事長)
場所:東洋大学白山校舎 5B11教室(5号館地下1階)
資料代:1000円

お申し込み方法はICPFのサイトで見てください(ここにメアドを載せてボットに見つかるのも悪いので)。定員数が少ないので参加希望の方は急いだ方がよいかもしれません。

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【お知らせ】日経BPのMDMセミナーで講演します(6/2)

6月2日に行なわれる日経BP社主催「マスターデータマネジメント・カンファレンス2009会社を強くする新データ管理手法?戦略的情報活用セミナー?」(長い)で講演します。場所は青山ダイヤモンドホール。入場無料です。詳細はこちら

MDM(マスターデータマネジメント)とは企業内に存在する多様なマスターデータベースの中身の標準化や同期を行なう取り組みやテクノロジーのことです。地味ではありますが企業ITの最重要部分です。はるか昔から企業が取り組んできたにもかけわらず、なかなか決定的な解決策がない「永遠の課題」的なトピックでもあります。

およそ30年前、私が日本IBMの新人SEとして研修を受けていた時にも、「企業内のデータの標準化を行なうためにデータ・ディクショナリを構築しましょう」みたいなことを習ったのを覚えています。当時は、「なんでそんなものが必要なの?そもそもデータを標準化してそれに基づいて設計するのがデータベースではないの?」と大学の情報工学の授業レベルの知識で考えていたものでした。

当然ながら、現実の情報システムでは、完全な標準化を行なってそれに基づいてすべてのシステムを作るというような理想は実現不可能です。かといって、各アプリケーションが勝手にやっていたのではカオスになるだけです。この理想とカオスの間の現実的な解決策を見つけることこそが、MDM(というよりもあらゆるシステム統合プロジェクトの)ポイントです。適切な妥協点を見つける上での勘所についてお話しする予定です。

他には、IBM、インフォテリア、オラクル、P&G、大日本印刷の講演者が話されます。私としては、P&Gというグローバルな企業の品番管理はどうなっているか(国ごとに製品体型が異なったり、中身は同じで名前が違ったり、名前が同じでも中身が違ったりすると思うので)が特に興味あるところです。

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