【暫定】facebookのニュース配信(?)特許について

All FacebookというFacebook関連情報専門のブログに、2/25付けで“Facebook Patents The News Feed”というエントリーが掲載されました。タイトルだけ読むとFacebookがニュース・フィードそのものの特許権を取得したかのように見えますが、実際は、SNSの中でフレンドのアクティビティ(コミュニティに参加/脱退、プロフィール更新、写真のアップ等々)をまとめて表示するという方法に関する特許のようです。

当該特許は2010年2月23日付けに米国で登録されています。特許番号は7669123。USPTO(米国特許商標庁)の公報はこちらです。

なお、当該特許は国際出願されており、日本でも出願されています(ただし、日本ではまだ登録されていませんし、登録されるかどうかも現時点ではわかりません)。日本での公表番号は特表2010-500648ですIPDL(特許電子図書館)で、特許実用新案検索→特許実用新案公報DB→文献種別にA、文献番号に2010-500648を入れると検索可能です。当該文献の要約部分は以下のようになっています。

【要約】
ソーシャルネットワーク環境においてニュース配信を表示するための方法を記述する。その方法は、所定の組の視聴者に対してニュース項目へのアクセスを制限 するステップと、ニュース項目に序列を割り当てるステップと同様に、ソーシャルネットワーク環境のユーザに関連した活動に関するニュース項目を生成するス テップと、活動の少なくとも一つに関連した情報リンクをニュース項目の少なくとも一つに結びつけるステップとを含む。その方法は、所定の組の視聴者の少な くとも一人の視聴ユーザに割り当てられた序列でニュース項目を表示するステップと、表示されたニュース項目を動的に制限するステップとをさらに含んでもよ い。

また、具体的な権利範囲を決める「請求の範囲」の項目である「請求項」の第一番目は以下のようになっています。

【請求項1】
ソーシャルネットワーク環境においてニュース配信を表示する方法であって、
ソーシャルネットワーク環境のユーザに関連した複数の活動に関する複数のニュース項目を生成するステップと、
前記複数の活動の少なくとも一つに関連した情報リンクを前記複数のニュース項目の少なくとも一つに結びつけるステップと、
所定の組の視聴者に対して、前記複数のニュース項目へのアクセスを制限するステップと、
前記複数のニュース項目に序列を割り当てるステップと、
前記所定の組の視聴者の少なくとも一人の視聴ユーザに割り当てられた序列で前記複数のニュース項目を表示するステップと
を含むことを特徴とする方 法。

これだけ見ると何のことかわかりませんが詳細な説明の部分を読んでいくとわかります。かいつまんで説明すると、ここで言う「ニュース配信」とは一般的なRSSフィードなどの話ではなくて、SNSにおけるユーザーのアクティビティ関連情報のことを指しています。具体的にはプロフィール更新、イベントへの招待、写真のアップ、コミュニティの作成等です。facebookやLinkedInのトップ画面で「xxxさんがプロフィールを更新しました」という感じでフレンド(自分と直接つながってる人)の情報が一覧されていますが、まさにその機能のことを指します。mixiですと、たとえばサンシャイン牧場のアプリケーションで「xxxさんの牧場に虫が発生しました」等々表示されますがそれに近いと思われます(mixiアプリの実装がこの特許の権利範囲に含まれるかどうかはもっとよく調べないとわかりません)。追加:「サンシャイン牧場の虫発生」はユーザーのアクティビティに基づいているとは言えない(システムが勝手に決めること)なので範囲外かもしれません。

TechWaveの2/26付けのエントリー“FacebookがTwitter風の画面表示で特許取得=ソーシャルメ ディアへの影響は?”では、

Twitterを初め、Google Buzzや、日本のAmebaなう、Greeなどにも該当しそう。

と書いてありますが、それはなさそうです。Twitterの表示はあくまでもユーザーが入力したメッセージがそのまま表示されるだけであって「xxxさんがyyyさんをフォーローしました」というようなシステムが生成したメッセージが表示されるわけではないからです。

というわけでめちゃくちゃ範囲が広いというわけではないですが、SNSの機能としては割と便利な機能を押さえていますので、米国ではちょっと影響があるかもしれません。

#本記事は後日加筆・修正する可能性があります。

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ソフトウェア特許の取り方入門(6):特許権とはどういう権利か?

今回は、ソフトウェア特許に限らず、一般に特許権とはどういう権利なのかを説明します。特許法において特許権の効力について定義しているのは以下の条文です。

第68条 特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する。(以下略)

ここで、「実施」とは生産、使用、譲渡、輸出、輸入等々と定義されています(2条3項)。また、「業として」と書いてあることから、特許権は個人的な活動には及ばず、あくまでも商売の上での権利であることがわかります。「権利を専有する」というと、特許権を取得すれば、その権利者はその特許発明を自由に実施できるように思えますが実はそうでもなくて(この説明は長くなるので省略)、他人の実施を禁止できるという意味(禁止権)と考えた方がより正確です。

特100条に特許権の禁止権たるところが差止請求権として規定されています。これは損害賠償や刑事罰とは別の特許権に固有の強力な権利です(この辺の考え方は著作権法等も同様)。

第100条 特許権者(略)は、自己の特許権(略)を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。

差止請求は故意・過失を前提としません。裁判で特許権を侵害していることが認定されれば自動的に差し止めの判決が出ます。たとえば「このアイデアが特許になっているとは知らなかった」と言っても差し止め請求に対する防御にはなりません

なお、特許化されていることを知らずに、偶然同じ発明をしていた場合でも差し止めされます。ここは特許権と著作権の違うところで、著作権の場合には、仮に似たような表現を創作しても独立して創作したこと(つまり、似ていたのは偶然の一致であること)が証明されれば権利は及びませんが、特許権の場合にはたとえ偶然の一致であっても差し止めされます。

差止請求権を行使されると否応なしに販売・製造・輸入・輸出等々の中止ということになりますので、訴えられた方はかなりダメージが大きいです。通常は、和解によりライセンス料金支払いあるいはクロスライセンス契約という解決策に落ち着きますが、交渉において権利者側は相当に有利な立場に経つことになります。

差止請求に加えて、民法上の損害賠償(民709条)も請求できます。ここでも、権利者側に有利な規定があります。全部説明すると長くなるのでひとつだけ例を挙げると「過失の推定」という規定があります。

第103条 他人の特許権(略)を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する。

通常の訴訟では訴えた側が過失(あるいは故意)があったことを証明しなければなりませんが、特許侵害訴訟では過失があったことがデフォになっており、過失がなかったことを証明するのは訴えられた側の責任になります。そして、実際上は過失がなかったと認められることはほとんどないようです。つまり、商売をする以上、その分野でどういう特許権があるかどうかを調べておき侵害しないように努めることは当然と考えられていると言えます。

さらに、故意の侵害(具体的には警告があったのに侵害をし続けるなど)には刑事罰もあります。個人には、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、法人には3億円以下の罰金とかなり重い罪となっています。ということで、特許侵害については「バックレ得」はないと思って良いでしょう。

というわけで特許権はかなり強力な権利であることがわかります。それがゆえに、ベンチャー企業がアイデアだけで大企業と正面から勝負できる可能性を開いてくれるわけですが、その一方でパテント・トロール(特許ゴロ)といった問題も生じてくるわけです。そして、これをもって特許制度はイノベーションを阻害しているという意見も聞かれたりするわけです。この点についてはメールでコメントも入っていたりしますので、次回に触れたいと思います。

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ソフトウェア特許の取り方入門(5):では気になるお値段です(笑)

特許取得の費用を説明するためにはまず特許取得までの流れを説明する必要があります。細かい話を省略したのが下図です。上から下に時間が流れると見て下さい。

patentflow

まず、特許出願すると出願日から1年半後に自動的に(強制的に)出願の内容が公開されます(前回も書いたように特許制度では発明の公開が前提)。

また、出願しただけでは書類上の不備がチェックされるだけであり、新規性・進歩性等の実体的な審査は行なわれません。実体的な審査を行なってもらうためには、別途出願審査請求という手続きが必要です。出願審査請求は出願日から3年以内に行なう必要があります(行なわないと出願が取り下げになってしまいます)。ということで、とりあえず出願して出願日を確定しておいて、最大3年間ゆっくり考えて実体審査に回すかどうかを決めることができます。ゆっくり考えた結果、特許化できそうもないと判断されれば(たとえば、同じような先行技術が見つかったなど)、そのままほっぽっておけば3年後に自動的に出願が取り下げになり、それ以降の費用は発生しません。

出願審査請求を行なうとだいたい2?3年くらいで査定が出ます。特許査定が出た場合には、1年目から3年目の特許料を支払うと特許が登録されて特許権が発生します。その後4年目以降は毎年特許料を払うことで特許権が存続できます。出願日から20年経つと特許権が満了します。実際には、登録査定を行なうまでには、補正・意見書などによる特許庁とのやり取り(中間処理と呼ばれる作業)が必要となることが多いです。

特許が拒絶査定になった場合には、審判請求して争うこともできますが説明は省略します。

通常、上図で色付きの楕円がついた部分で費用が発生します。なお、費用は大きく特許庁に支払う印紙代と弁理士(特許事務所)に払う料金(報酬)に分かれます。弁理士の料金は、過去においては標準料金が定められていたのですが、今は各事務所が自由に決めて良いようになっています。一応の目安として、日本弁理士会がアンケート調査を行なっています。これを見ると大体の相場観がわかると思います。テックバイザーでは業界の最頻値よりは低めの料金を設定しています。

あくまで例ですが権利取得までに必要な費用をまとめると以下のようになります。大企業の出願ですと安全策をとって請求項の数がめちゃくちゃ多い出願もありますが、ここでは、請求項が5個の比較的シンプルな出願の例で計算してみます。ここで、請求項というのは権利の単位みたいなものです(また後で詳しく説明します)。

出願時: 特許庁に15,000円 弊事務所に200,000円(シンプルな発明の場合)

審査請求時: 特許庁に188.600138,000円(個人・中小企業向け割引制度あり) 弊事務所手数料は無料(注:2011/08/01より料金引き下げになりました)

中間処理: 特許庁は無料、弊事務所手数料原則無料

登録時: 特許庁に9,900円(最初の3年分) 弊事務所成功報酬100,000円

特許料(4年目以降年金): 毎年2万5千円程度から20万程度まで(年が経つごとに増額していきます)

ということでうまくいくケースだと50万円弱くらいで特許権が取れます(思ったより安いのではないでしょうか?)。

料金体系は事務所により様々なので作業に入ってもらう前にしっかり見積もりを取ることをお勧めします。もちろん、当事務所でも事前に個別に見積書をお出しします。

また、出願前の相談料ですが以前は依頼人との信頼関係に基づいて無料でやっていたのですが、こちらに説明だけさせて出願依頼まで至らずにキャンセル (ひょっとすると自分で出願?)というような悲しいケースがありましたので、出願まで至った場合には相談料は出願手数料に含む、そうでない場合は初回(30分)無料、その後は1時間につき1万円という料金体系にさせていただいております。

次回は特許権とは具体的にどういう効果がある権利なのかについて説明します。

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ソフトウェア特許の取り方入門(4): 具体的にどこまで準備すればよいのか

新規性・進歩性を満足できそうなアイデアがあって、特許出願することになりますと通常は弁理士に相談することになるでしょう。具体的にどの程度の資料を用意しておけば弁理士との話を先に進められるでしょうか?

そもそも論を言うと、特許制度のポイントは発明の公開の代償として、一定期間の独占権を与えることにあります。ということなので発明の内容を公開せずして特許権だけを得るということはできません。ということで、特許法では、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載した」(36条4項)書類を提出することが求められています。

ここでちょっと余談になりますが、発明の内容を極秘にしておきたいのであれば特許出願せず秘密のノウハウとして維持しておくという選択肢もあります。ただし、この場合は偶然他社が同じアイデアを思い付いたり、リバースエンジニアリングによってアイデアをコピーされたりしても防御の手立てがなくなります。たとえば、自社工場内だけで完結する製法特許のようなものであればこの選択肢も有効かもしれませんが、ソフトウェア関連特許の場合は公に実施すると中身がわかってしまうことが多い(少なくとも、リバースエンジニアリングされるリスクはある)ので、秘密ノウハウ化は難しい面もあるかと思います。

話を戻しますが、では具体的にどの程度まで細かく書けば「明確かつ十分」と言えるかですが、ソフトウェア関連特許の場合の目安としてはシステム概要設計書くらいの具体的情報があれば出願まで比較的容易に持って行けると思います。全体的なシステム構成図、データ・フローとコントロール・フロー、代表的画面イメージ、トップ・レベルのフローチャートくらいの情報です。もちろん、アルゴリズムやデータ構造に特徴があるのならばその部分はある程度詳細に書く必要があります。プログラムのソースコードは参考にはなるかもしれませんが基本的には不要です。実際には、これらの情報から発明の本質的部分を抽出して、できるだけ広い範囲で、かつ、新規性・進歩性を否定されないくらいに範囲を絞って出願書類を作っていくことになります(というかそもそもこれが弁理士の本質的仕事です)。

追加: すみません、大事なポイントを書き忘れていました。従来の技術と比較してこの発明のどの点が優れているのかを明確化しておくことも重要です。もし、それが思い付かないということであれば特許庁の審査において進歩性のハードルを越えられる可能性はないと言ってよいでしょう。

もちろん、もっとぼやっとしたアイデアの段階からディスカッションを重ねて発明を固めていくというやり方もあるかと思います。ただ、これはどちらかというとVCとかインキュベーターが仕切るべき仕事かと思います。なお、私はこのように発明の初期段階から参画するやり方でも対応できますので、ご興味あるVC/インキュベーターの方いらっしゃいましたらよろしくお願いします。

費用の話について書くと前回書きましたが、ちょっと長くなりそうなので次回に回します。

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ソフトウェア特許の取り方入門(3):進歩性について

今回は、おそらくは特許取得の上で最大の難関となるであろう進歩性の要件について説明します。

進歩性とは、発明の技術分野における一般的技術者なら誰でも思い付くようなものではない画期的な発明であるということです。いくら今までにないアイデアであっても、誰でも思い付くようなアイデアに特許としての独占権を与えるのはおかしいのでこれは当然です。進歩性に関しては明確な境界線があるわけではないので、どの程度画期的であればよいかを判断するのは難しいですが、ソフトウェア関連発明の場合にはたとえば以下のような発明には進歩性がないとされ特許化することはできません。

1) 既知のアイデアの他分野への適用
たとえば、効率的なデータベース検索のアイデアが既に知られている時にこれを音楽ファイルの検索に適用しても進歩性がないとされます。

2) 既知のアイデアの一部を同等の機能で置き換え
たとえば、既存の発明のキーボード入力の部分を携帯電話からの入力に変えただけでは進歩性がないとされます。

3) ハードウェアで既に実現されている機能のソフトウェア化

4) 人間が行なっている既知の業務の単なる情報システム化

5) 既知の事象の仮想空間内での再現

6) 既存システムの単なる組み合わせ
複数のシステムを統合して新たな価値を生み出すことはITの世界では日常的に行なわれているので組み合わせによほど斬新な特徴がない限り、進歩性がないとされます。

要は「その発想はなかったわ」と思わせる要素がないとダメということです。私見になりますが、たとえば、GoogleのAdSenseなどはサーチとネット広告という既存の技術の組み合わせですが「その発想はなかったわ」に相当する、つまり進歩性があると考えてもよいのではないかと思います。

具体的にどういう発明であれば進歩性のハードルを乗り越えられるかは実際に特許化された発明を分析してみるとだいたい感覚がつかめると思います。いずれ、当ブログでもいくつか事例をご紹介する予定です。

次回は、特許出願のために具体的にどのような準備をすればよいか、またお金はいくらかかるのか(これは重要ですね)について簡単にご紹介します。

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