キングジム ショットノートにおけるさすがの商標戦略

かねてから話題になっていたキングジムのショットノートが本日正式発売になりました(メーカー公式ページ)。スマートフォンの小さな画面でノートを取るのは結構めんどくさいですが、この問題を解決するために手書きで紙のノートパッドにメモを書いて、それをiPhoneのカメラで撮影して専用ソフトでデジタル化するという逆転の発想的商品。私も既にソフトはダウンロードしてます。次に大型文具店行ったら専用ノートパッドも即買う予定です。

さて、この製品のポイントは専用ノートパッドの四隅に記号が印刷してあって、それをガイドに画像の台形補整とかサイズ調整をすることにあります。これで、デジタル化したメモも見やすくなりますし、OCRの精度も上がるというわけです。逆にポイントはこれだけの一発芸的商品です(一発芸はキングジム社のお家芸ですね。)

専用メモパッドはA5サイズ70枚で630円でちょっとお高めですが、ソフトを無償で提供して、メモパッドで儲けるというカミソリ替刃型のビジネスモデルであります。しかし、仕組みはきわめて単純なので四隅に記号を印刷さえしておけば別に専用メモパッドを買う必要はなくなってしまいます。安い摸倣製品が出たらどうするのだろうと思っていました。

で、まさかと思ってキングジム社の最近の商標登録出願をチェックしてみると、件の四隅のマーク(下図)を「紙類」等を指定商品にして2010年11月16日付けで出願していたのでした(商願2010-89100)。この商標が無事登録されれば、他社は同じマークを付けた紙類を製造・販売できなくなりますので、摸倣製品の販売もできないということになります。なお、個人が自分で互換ノートパッドを作って自分で使う分には問題ありません(商標権は「業としての使用」にしか及びません)。

昔、任天堂がファミコンの互換カートリッジを他社が製造・販売するのを防ぐために、カートリッジの形状を意匠登録しましたが、それと類似の戦略と言えそうです。

追加(11/02/08): はてブで「特許は取ってないのか」と書いている人がいますが、出願している可能性はあります(新規性をどうクリアするかはちょっと難しそうですが)。ただし、特許は出願してから1年半経たないと公開されませんので、現時点では出願しているかどうかすらもわかりません。なお、商標は出願後速やかに(現実には1ヶ月くらいで)公開されます。

追加(11/02/10): コメントによれば専用ノートパッドのSHOT NOTEという文字も認識してチェックしているそうです(自分でも追試しましたがそのとおりでした)。SHOT NOTEという名称も当然ながら商標登録出願されてますので「互換」ノートパッドの製造・販売はほぼ不可能になりそうです。あと、現時点ではわかりませんが意匠登録出願もされている可能性があります(意匠は登録されないと公開されません)。

追加(11/02/13): いくつかのブログでショットノート互換ノートパッドを作った報告が上がっているようです。ここでも書いたように自分で作って自分で使う分には問題ないですが、ネット等で配布するとたとえ無料であっても(商標が登録された後では)キングジムの商標権を侵害することになります。商標法の「業として」は非営利目的も含むからです。まあ、キングジムがどう思うか次第なのですが、万一、警告が来たら止めておくべきでしょう(著作権と同様に商標権侵害の罪は結構重いです)。

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DVDのリップ規制を著作権法に取り込むことの難しさ

ちょっと間が空いてしまいましたが、DVDリップ規制の件の続きです。

前に書いたとおり、DVDのコンテンツはCSSと呼ばれるアクセス制御機能で保護されています。CSSを回避してDVDをリップするツールの販売・譲渡等は不正競争防止法で既に禁止されていますが、それだけでは足りなくて、リップ行為自体を違法にしたがっている人たちが著作権法を改正しようとしています。

この問題を考える際には、著作権法という法律の仕組みを知る必要があります。たとえば、著作権法は著作物の複製をコントロールしているわけですが、複製してはダメよと書いてるわけではなくて、以下のような書き方をしています。

第21条 著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。

これによってデフォ状態では著作者以外の人が複製をすると、差止請求をされたり、損害賠償請求をされたり、刑事罰の対象になったりするわけです。もちろん、著作者が複製権を許諾したり、譲ったりすることができます(ちなみに、著作権法では権利を放棄するという規定が直接的にはないのでクリエイティブ・コモンズのような考え方を取り入れるにはちょっとトリッキーなことになります)。

さて、複製に限らず、上映、上演、譲渡、貸与等々の直作物の「利用」行為については、全部同じように著作者に独占権を自動的に付与するという仕組みになっています(このような権利のひとつひとつを支分権と言います)。この権利は契約等によって生じるものではなく、法律により自動的に効力を持つ(物理的な物の)所有権のような独占排他権です(本当にこのような制度が適切なのかどうかの議論はありますが別論)。

ということで、DVDリップのようなアクセス制御を著作権法に取り込もうとすると、最もストレートなやり方としてアクセス権を支分権のひとつとして新設することになるのではないかとの議論がありました。これは、本来的に著作物の視聴行為(「使用」)をコントロールしないという著作権法の「基本設計」に反しますし、検閲にもつながり得る(たとえば、「尖閣ビデオを見るのはアクセス権侵害なので警察に逮捕されます」なんてことが原理的にあり得てしまいます)ので副作用が大きすぎると思われます。

で、今回のDVDリップ規制の改正案では、さすがに、アクセス権を支分権として著作権法に取り込むという大胆なことはしないで小改造でこの問題に対応しようとしています(「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会?平成21・22年度 報告書(案)」(PDF)のp42以降を参照)。

結構長いのでポイントだけ書くと、現状の私的使用目的複製の規定(30条)の例外を拡張することで対応する方向性であるようです。

30条1項 (略)「著作物」は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(略)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

1号 (略)(公衆が使用できる自動コピー機でコピーするケース)

2号 技術的保護手段の回避(略)により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、その事実を知りながら行う場合

3号 (略)(いわゆる「違法ダウンロード」のケース)

上記の30条1項2号の「技術的保護手段」は現在では厳密な意味でのコピー制御(マクロビジョン等)に限定されているわけですが、それをCSS、場合によってはマジコンのアクセス制御にも拡張するという方向性です。こにれより、DVDのリップは個人使用目的であっても権利者の許可が必要(要するに、通常は違法)となるわけです。いわゆる「違法ダウンロード」と同じ規定ぶりですので、「違法ダウンロード」同様に刑事罰は適用されないことになると思われます。まあ、落としどころとしてはこんなところでしょうがないかなという気はします。

とは言え、自分としては、レンタルDVDをリップするのと買ったDVDのリップするのは分けてほしいんですよね(法的にどういう規定ぶりにするかは難しそうですが)。前者については、レンタルCDとは異なり、権利者が想定していない複製なので規制されてもしょうがないとは言えますが、後者については、DVDをリップしてホームサーバにおいて家庭内の複数のテレビのどこからでも視聴できるようにするのはテクノロジーを活用して消費者の利便性を向上していることになる一方で、権利者の権利を不当に害しているとは思えないからです(リップできないなら茶の間と寝室用にDVDを1枚ずつ買おうという人は普通いない)。

ついでに書いておくと、以前、著作権法は著作物を「使用」(見たり、聴いたり、使ったり)行為をコントロールすることはないと書いた時に、「ほんのちょっとだけ例外あり」と書きましたが、その例外とは、以下のプログラムの使用に関するみなし侵害規定です。

113条2項 プログラムの著作物の著作権を侵害する行為によつて作成された複製物(略)を業務上電子計算機において使用する行為は、これらの複製物を使用する権原を取得した時に情を知つていた場合に限り、当該著作権を侵害する行為とみなす。

要は、会社等で違法コピーを行なっていたことを知った上でソフトを使うと、コピーした人だけではなく、使っている人も違法ということです(こちらは刑事罰も適用されます)。

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ホテルでのゲーム貸し出し事件のその後

ホテルがゲームを客に貸し出していたことが著作権(上映権)侵害に問われ警察の捜索を受けたという件の法律的意味について、このブログで解説しましたが(「ホテルが客にゲーム機を貸してプレイさせるのは犯罪になり得るようです」「なぜ本を貸すのは良くてゲームを貸すのはダメなのか」)、ホテルの役員が逮捕されるに至ったようです(参照記事)。

著作権侵害で刑事罰を適用するためには故意が要件とされるのですが、故意性の証明はどうなんでしょう?まあ、それは裁判で決まる話で警察が故意であろうと合理的な疑いを持って裁判所を説得できれば逮捕はできてしまいますが(なお、もし、権利者から警告を受けていたにもかかわらず無視していたというのならば故意性を疑われてもしょうがないとは言えます)。

ちなみに、著作権侵害に対して権利者側が取れる対策とその要件をまとめると以下のようになります。

差止め請求故意も過失も不要
損害賠償故意または過失が要件
刑事罰故意が要件

ホテルが家庭用ゲーム機を貸し出して客にプレイさせるのはよくあるサービスのようですが、形式的に違法であるとは言え、逮捕にまで至った事例は他に知りません。今回のホテルは偽装ラブホテルだったらしいので別件逮捕的な要素はあると思われます。

こういう形式的には違法だけど世の中的には大目に見られているという状況は、警察がこいつを逮捕したいなあという時に利用されてしまう可能性は常にあります。特に、著作権法は誰でもある程度は違法行為をしている状態ですし、さらに刑事罰もありますので、警察にとっては「便利」な法律と言えそうです。

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アクセス制御とコピー制御の違いとは

コンテンツを権利者が望まない形で視聴されないようにするための技術的防止策としては大きくアクセス制御とコピー制御があります。両者は関連してはいますが別の概念です。この2つの違いを明確に理解しておくことは重要です。

コピー制御(コピー・コントロール、コピー・プロテクト、コピー・ガード)とは、文字通り、コピー(複製)を技術的に禁止することです。たとえば、CCCDのCDをリップしようとするとエラーになってリップできません(実際には機器によってリップできちゃうこともありますが、CCCD技術の本来の目的が達成されていればリップできません)。マクロビジョン等のアナログビデオのコピーガードシステムもダビング(コピー)そのものができなくなりますのでコピー制御技術の一種です。

一方、コピーは禁止しないのですがコピーしてできたもの視聴ができないようにするのはアクセス制御です。たとえば、DVDをPCにマウントすると、***.VOBというようなファイルが見えますが、それをHDDにコピーすることは問題なくできます。ただし、コピーしたVOBファイルをMedia Player等で見ようとしてもちゃんとした音声・画像は表示されません。これは、CSSという仕組みでコンテンツに暗号化(スクランブル)が施されているからです。CSSはアクセス制御技術の一種です。

また、NINTENDO DSにおいて、一般のSDカードにゲームソフトのコピーをすることは可能です。ただ、そのSDカードをDSに刺しても、DSが正規カードでないことを認識するのでゲームはプレイできません。これをプレイできるようにしてくれるのがいわゆる「マジコン」です。「マジコン」はコピー制御回避機器ではなくアクセス制御回避機器と言えます。最近はあまり見ないですが、ソフトウェアについてくるドングル(USBキー)も同じような考え方です。別のパソコンにインストール(コピー)はできてもドングルがないとソフトが使えません。複製が関係しないアクセス制御の例としては地デジのB-CASカードがあります。録画するかしないかに関係なく、B-CASカードがないと地デジ番組は視聴できないですね(この例を考えるとコピー制御とアクセス制御は別概念であるという点が理解しやすいと思います)。

ここで、前回書いたように著作権法では「利用」形態のひとつである複製をコントロールしていますのでコピー制御は著作権法が扱う範疇です、一方、アクセス制御はコンテンツの視聴、すなわち「使用」をコントロールする技術なので本来的には著作権法の範疇ではありません

しかし、アクセス制御の回避行為が野放しなのは問題なので、日本の制度では著作権法ではなく、不正競争防止法で手立てをしています。不正競争防止法は業界秩序を乱す行為を具体的に指定して禁止する法律であり、必要に応じて「不正競争行為」が追加されることからごった煮的な規定ぶりになっています(たとえば、食品の産地偽装や産業スパイ行為などもぜんぶ不正競争防止法がカバーしています)。

不正競争防止法(2条1項11号および12号)ではアクセス制御回避のみを提供する機器やプログラムの販売を禁じており、これを根拠として(一部で争いはありますが)「マジコン」は販売が禁止されています(刑事罰がないので実効性がないのではという議論がありますが別論(参考ブログエントリー))。

ここで、不正競争防止法は不正な商売を禁止するための法律なので、機器の販売という商行為を規制するのにはよいのですが、家庭内でのアクセス制御回避行為そのものを規制するのは法目的から考えてちょっと厳しいことになります。

そこで、アクセス制御の回避行為そのもの、より具体的にはDVDのリップ行為そのものを著作権法で禁止したいという話が持ち上がっており、このまんまですと法改正が行われる可能性が高い状況になっています。しかし、「使用」をコントロールする技術であるアクセス制御をどうやって著作権法に取り込むかはやっかいな問題です。

ちょっと長くなったので次回に続きます。

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なぜ本を貸すのは良くてゲームを貸すのはダメなのか

元タイトルは「なぜ本を貸すのはよくてゲーム機を貸すのはダメなのか」だったのですが問題の本質はゲームソフトの貸し出しにあるので「ゲーム機」→「ゲーム」に変えました。どうもすみません。

ちょっと前のエントリーでホテル(に限らず営利事業をやっているお店)が客にゲーム機とソフトを貸し出して店内で遊ばせるのは著作権的にダメであると書きました(もちろん別途営利利用のライセンス契約を行なっていれば別です)。一方、客に本を店内で読むために貸し出すのはOKであるとも。なぜ、ゲームと本で扱いが異なるのでしょうか?これ、実は著作権制度の根幹にかかわる結構深い問題なのでここで解説してみます。

まず、押さえておきたいポイントは、著作権法では、著作物を本来の目的で使う行為をコントロールするという概念はないということです。つまり、音楽を聴いたり、本を読んだり、映像を観たりする行為です。こういう人間の心の中で起こる行為をコントロールするのは本質的に難しいですよね。たとえば、仮に著作権契約でこのCDは買った本人と家族しか聴けないと決められるものします。だけど、そのCDの音が家の外に漏れてしまってたまたまそれを聴いちゃった人はどうなるんでしょうか。「お前はこの音楽を聴いたはずだ」、「いや耳には入ったかもしれないが単なるノイズとしか認識していません」、「そんなことはない、ちゃんと音楽としての良さを感じたはずだ」なんて議論してもしょうがないですよね。

また、著作物の視聴をコントロールすることは検閲にもつながり得ます。「尖閣ビデオ(公開されてしまった後の話)は国の著作物なので国民は見てはいけない」と言っても意味ないですし、検閲以外の何者でもありません。

ということで、著作権法では、著作物の視聴そのものではなく、複製、譲渡、貸与、上演、上映、公衆送信等々の能動的な行為を限定的に列挙し、それをコントロールする仕組みを取っています(これは日本に限った話しではありません)。

著作権法上の用語では、著作物を視聴等する行為を「使用」、上記の能動的行為を「利用」と呼んで区別しています。著作権法とは著作物の「利用」をコントロールする法律であり、「使用」をコントロールする法律ではないと言えます(ほんのちょっとだけ例外あり)。

ゲーム機店内貸し出しの話しに戻ると、ゲームの映像を画面に表示する行為は著作物の上映なので「利用」に相当し著作権法によりコントロールされます(権利者の許諾がなければ違法)。一方、本を読む行為は著作物の「使用」なので著作権法によりコントロールされません(なお、ゲームも本も店外に持ち出すわけではないので貸与権は効いてきません。)

実は、この話はマジコンやDVDのリッピングを著作権法上でどう扱うべきかという話にもつながってくるのですが、これについてはまた次回。

追加(11/01/27):はてブ等で「まだよくわからん」との声が聞かれますが、これはある意味当然です。デジタル・テクノロジーの登場により、伝統的に存在した「使用」と「利用」の境界線が曖昧になっているケースが増えているからです。たとえば、紙の本を読む行為は明らかに「使用」ですが、電子書籍を読むは「使用」なんでしょうか「利用」(上映)なんでしょうか?もし、電子書籍にコンテンツを表示することが上映ではないとするならば、ポータブルゲーム機はどうなんでしょうか、などと考えると境界線は明確ではないことがわかります。この論点についてはまた機会を改めて書くことにします。

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