米国における「まねきTV」的サービスについて(続き)

「ロクラク」についても、知財高裁判決が最高裁によりひっくり返されてしまいましたね。これについては週末にでもまとめて書きます。

ただ少なくも現時点の私の感触では、「まねきTV」でも「ロクラク」においても、裁判官の頭の中には、「これらはTV局のビジネスを邪魔する不当なサービスであり何とかして違法にしなければいけない」という規範的意識があり、その目的のためにやや強引な解釈がされているように思えます。

しかし、クラウドと言うバズワードを持ち出すまでもなく、1)自分で装置を所有するのではなく他人が所有・管理する装置を利用する、2)ひとつのネットサービス(さらには1台の物理的装置を)多くのユーザーが共用する、3)ネットサービスではデータだけではなく著作物(コンテンツ)も扱う、というのは今後ますます加速していく動向です。そういう点では「まねきTV」も「ロクラク」も全然特別なシステムではないのですが、その辺を裁判官は理解された上で結論を出しているのかが気になるところです。

さて、今回は、前回に引き続きプレースシフティングに関する米国の状況について私が知っている範囲内で書きます。

まず、ちょっとしたニュースとしてiviというシアトルの会社がキー局のテレビ番組をインターネット上で再送信し、PCやスマートフォンで視聴できるようにするサービスを開始しています(参考ブログ記事)。ユーザー所有のSlingboxをホスティング(ハウジング)するなんてことすらしないで、TV放送を(おそらくは通常のサーバで)そのまんまネット再送信して、ユーザーから料金を取るという「大胆」なビジネスモデルです。もし、日本でやったら速攻で警察に家宅捜索されるレベルではないでしょうか。

そして、昨年9月にこのivi社は、TV局側に対して著作権を侵害してないという確認訴訟を提起しました(TV局がiviを訴えたのではなく、ivi側がTV局を訴えた点に注意)(参考ブログ記事)。なんかめちゃくちゃな感じですが、まったく根拠なしというわけではありません。

米国では放送を有線放送で再送信することに対して放送事業者は禁止権を行使できません。所定の著作権料を払えば再送信は自由に(営利目的であっても)行なえます(米国著作権法111条(C))。ということでネットでの同時再配信も有線放送であるという解釈が許されるならばiviのビジネスもOKと言えなくもありません(なお、ivi社は規定の著作権料を払っていると述べています)。

一方、日本では、著作権法38条3項により、非営利・料金無料に限って、放送コンテンツを有線放送経由で同時再送信可能です(TV電波の難視聴地域対策)。日本の法解釈ではネット送信はたとえストリーミングであっても有線放送ではなく自動公衆送信であるとされていますが、自動公衆送信経由で同時再送信を行う場合には元々の放送対象地域に限ることになっており、TV地方局に優しい制度となっております。

38条3項 放送される著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、有線放送し、又は専ら当該放送に係る放送対象地域において受信されることを目的として自動公衆送信(略)を行うことができる。

米国でiviが合法とされるかどうかは別として(何となくアウトな気がしますが)、米国では地上波放送についてはある程度勝手に使われても許容せよ(公共の電波を使っているのだから)という意識があるように思えます。「まねきTV」、「ロクラク」に話を戻すと、TVコンテンツを利用したサービスに対して、TV局側の人は「自分たちが作ったコンテンツなんだから自分がコントロールできるのは当たり前」という感想を抱くかもしれませんが、「自分たちが作った」の前に「国民の共用財産たる電波を使わせてもらうという前提で」というフレーズが抜けているのではないかと思います。

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米国における「まねきTV」的サービスについて

昨日の「まねきTV」の最高裁判決が議論を呼んでいるようです(参考記事)。知財高裁への差し戻しとなっていますが、高裁で最高裁の認定をひっくり返すことはできない(そうでなければ最高裁の意味がない)ので、「まねきTV」の著作権侵害は確定です。明日(10/01/20)は類似システム(公衆送信ではなく複製が問題となっている)「ロクラク」事件の最高裁判決が予定されていますので、どうなるのか気になるところです。

早くも裁判所のサイトに判決文がアップされています。判決要旨は以下のとおりです。

1 公衆の用に供されている電気通信回線への接続により入力情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置は,単一の機器宛ての送信機能しか有しない場合でも,当該装置による送信が自動公衆送信であるといえるときは,自動公衆送信装置に当たる
2 公衆の用に供されている電気通信回線への接続により入力情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置が,当該電気通信回線に接続し,これに継続的に情報が入力されている場合には,当該装置に情報を入力する者が送信の主体である

時間ができたら再検討してみますが、これはいくらなんでも射程が広すぎるのではと思います。ハウジングサービスを経由して著作物を視聴すると全部著作権侵害になってしまうような気がします。

本判決の詳しい分析は後回しにさせていただいて、ここでは私の知っている範囲内で米国における「まねきTV」的サービスの状況についてご紹介します。

米国では、TV番組の映像をネット経由で遠隔地に飛ばしてパソコン等で視聴するための製品としてSlingBoxという製品が一般的になっています(日本で言うSONYのロケフリに相当する製品です)。エミー賞も受賞しておりアングラ的な製品ではありません(これはロケフリも同様)。

問題は、SlingBoxをサービス事業者のサイトにおいて管理してもらうSlingBoxホスティングというサービス形態です(どうも米国ではホスティングとハウジング(コロケーション)を明確に区別していないようで、ハウジングぽい形態でもホスティングという言葉を使うことがあるようです)。

SlingBox単体での使用(いわゆる”placeshifting”)はまったく問題ないとして、SlingBoxホスティングが合法であるかどうかは米国でも議論されているようです(少なくともSlingBoxの使用許諾条件には反するという問題点があります)。しかし、少なくとも訴訟問題にはまだ発展していないようです。

ちょっと前の記事ですがNewsWeek(英文)にこの辺の事情がまとめられています。時間ができたら内容を整理し紹介しますが、私が最も印象的だった部分は、SlingBoxホスティングのようなサービスでおそらくは最大の損害を被るであろうスポーツリーグ運営者(地域限定でライセンス契約するため契約地域外に番組が流れると困る)であるMLB.com(メジャーリーグベースボール)のCEOによる以下のコメントです。

“Our fans are never wrong,” says MLB.com CEO Bob Bowman. “We can never suggest that a fan shouldn’t do everything he or she is doing to watch a baseball game・・・

「私たちのファンが悪いなんてことはあり得ません。野球を見るためにあらゆる手段を取ろうとするファンに対してそれをやめるべきと言うことはできません...」

判決については明日の「ロクラク」判決が出たタイミングで詳しく分析・検討してみようと思います。

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AppleはApp Storeの商標を独占できるのか

「Appleが「app store」の商標申請 Microsoftが異議」という記事がITmediaに載っています。以下簡単に説明します。

商標の機能は自社の商品(サービス)を他社のものと識別することです。ゆえに、識別性がない商標は登録されません。典型的なケースはその商品(サービス)の普通名称です。「パソコン」という名称をパソコンという商品の商標として登録することはできません。

商標が登録されないパターンのもうひとつの例として「記述的商標」というものがあります。その商品の産地、販売地、品質、原材料等々をそのまんま表わした商標です。たとえば、「おいしい牛乳」だとか「はちみつレモン」だとかがそれに相当します。「おいしい牛乳」の場合には、たとえば、「森永のおいしい牛乳」といったように苦肉の策でメーカー名を付けて登録に持ち込んでいます。

「記述的商標」が登録されるケースもあって、それは商標の継続的使用によりそれが消費者に有名になり、識別性を確保したと判断されるケースです。このような使用によって得られた識別性を”secondary meaning”と呼びます。このような使用による識別性確保の例としては「サッポロビール」などがあります。

この辺の仕組みは日本も米国もほとんど同じです。で、ポイントは、消費者は”App Store”という言葉を聞いた時に「一般にアプリケーションを売ってる店(サービス)」と思うのか「あのアップル社のアプリケーション販売サービス」と思うのかということです。マイクロソフトは前者であると考え、”App Store”は「そのまんま」の商標で識別力がないので、登録すべきでないと異議申立したわけです。個人的には、App Storeと言えばApple、 AppExchangeと言えばSaleforce.com等々と十分識別力はあると思いますが、それはIT系の仕事をしているからであって、米国の一般消費者の感覚がどちらなのかは正直ちょっとわかりかねますので判断できないですね。裁定の結果を待ちたいと思います。

そういえば、一昨年のSalesforce.comのイベントの記者会見でマーク・ベニオフが「App Storeという名前はAppleにくれてやった」というような発言をして、隣のパーカー・ハリスが苦笑いというシーンがあったのを覚えています。

米国の商標検索システムで調べると、Salesforce.comもAPPSTORE(ブランクなし)という商標を2006年6月に出願していますがその後自ら放棄し、結局AppExchangeという名称を使い始めました(AppExchangeはその後商標として登録されています)。まあ詳しいことはよくわかりませんが何か一悶着あったということかもしれません。

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さらに、もしCiscoとDellとEMCが合併したら

昨日のエントリーでHPとSAPが一緒になった場合の事業ポートフォリオについて考えてみましたが、そのついでに、もしCiscoとDellとEMCが一緒になったらどうなるかを考えてみようと思います。あくまでも「もしそうなったら」の話であり「本当にそうなるのか」については考えません。

ビジネス領域HP

SAP
OracleIBMCisco
+
Dell
+
EMC
エンタープライズアプリケーション
ミドルウェア
コラボレーションアプリケーション
仮想化インフラ
DBMS
BI
サービス
クライアント機器
独自サーバ
IAサーバ
ストレージ◎+
ネットワーク機器◎+

この架空新会社の強力な武器はVMwareの資産だと思うので「仮想化インフラ」の枠を新たに作ってみました。インフラ系においてはかなり強力なポートフォリオになりますね。

実際にこのような構図になるかどうかは別として、ITベンダーの集約が進んで行くことはエンタープライズITの成熟化に伴う必然的な流れです。では、小規模ベンダーはなくなるのかというとそんなことはなくて、破壊的イノベーション的な領域や特定市場向けで真価を発揮することになるでしょう。

ということで、規模の経済と垂直統合で価値を提供する少数のメガベンダーとスピードとイノベーションで価値を提供する多数の小規模ベンダーの二局構造が、今後はさらにはっきりしてくるのではないかと思います。成功した小規模ベンダーはメガベンダーに買収されると共にまた新たな小規模ベンダーが登場して、市場を活性化していくでしょう。一番苦しいのは規模もスピードも中途半端な企業ということになります。まあ、これは別にITに限った話ではなく、ほぼすべての産業に当てはまることだと思いますが。

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もしHPがSAPと合併したら

PulicKeyの正月特集エントリー経由で知ったSan Jose Mercury Newsの2011年の予測記事”O’Brien: 11 Predictions for 2011, including Google buys Twitter, Yahoo axes Bartz and Facebook hits the billion mark“において「HPがSAPを買収する」という予測がされています。

HPがSAPと合併するか、そもそもそうい動きが進行しているかどうかは私にはわかりません(もし、内部情報を知っていたらブログには書きません(笑))。あくまでももし合併したらどうなるかという観点でちょっと検討してみたいと思います。

HP+SAPの新会社、Oracle、IBMの3社を事業ポートフォリオという点から評価してみると次の表のような感じかなと思います。

ビジネス領域HP+SAPOracleIBMコメント
エンタープライズアプリケーション
ミドルウェア
コラボレーションアプリケーション
DBMS
BI
サービス日本だとわかりにくいけどEDSは強力です
クライアント機器
独自サーバIBM System zは何だかんだ言ってドル箱
IAサーバ
ストレージ
ネットワーク機器

評価の点数については賛否両論あるかと思いますが、HP+SAPが結構漏れのないポートフォリオとなることがわかります(DBMS、ミドルウェア、コラボレーション分野がちょっと弱いですがMicrosoftとの戦略的提携でカバーできるんじゃないか)と思います。

もちろん、カバー領域が広ければ絶対良いかというとそういうわけでもなくて、たとえば、エンタープライズ・アプリケーション製品を売っていなければマルチベンダーのシステム統合で中立的なソリューションを求める顧客にアピールできるという逆のメリットもあるでしょう。しかし、ITの基盤テクノロジーの成熟化により、水平分業から垂直統合へのシフトが見られる中で、事業ポートフォリオの漏れをなくすのはますます重要になってくると思われます。

ところで、こういう水平分業から垂直統合へ向う動きを、昔のメインフレーム時代の回帰にたとえることがありますが、ちょっと違うと思います。昔のメインフレームの世界は、プロセッサからハードからソフトからサービスまで特定ベンダー独自仕様のクローズな世界ですが、現在は、たとえば、OracleのDBMSはHPのサーバやIBMのサーバ/統合ミドル上でも動いたりするわけであって、あくまでも基本はオープンな世界の中で垂直統合の価値を提供するというビジネス戦略が中心になっていくでしょう。

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