【お知らせ】特許出願の審査請求料金引き下げについて

特許権取得に至るまでに必要な費用の中で結構大きいものに出願審査料金があります。日本の特許制度では出願するだけでは形式的なチェックしか行なわれず、実体審査は出願審査請求を待って行なうことになります。そして出願人は出願審査請求の際に審査請求料を支払いますが、これが20万円近くと結構な金額でした(審査請求により特許庁での審査ワークロードが発生するのはしょうがないですが)。

政令の改正により、8月1日より出願審査請求料が約25%値下げされることになりました(経産省のニュースリリース(PDF))。どんなに弁理士ががんばっても、あるいは、自分で出願しても審査請求料金はかかりますので、この値下げは大きいですね。

先日SlideShareにアップした特許制度の入門のスライドもこの料金引き下げを反映して更新しています。

現在の日本の特許政策においては、特許出願数が激減していることが問題となっています。弁理士業が厳しくなる以前に、日本の国際競争力という点でも問題です。特に、中国に抜かれて出願件数世界2位の座を明け渡したというニュースは政府的にもかなりショックだったのではないでしょうか?

料金を引き下げれば単純に出願件数が増えるというわけではないと思いますが、特に個人発明家やベンチャー企業の方にとっては朗報だと思います。

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SOHO向けFAXにおすすめですeFax

FAXなんてレガシーの極致で現時点で使う意味はほとんどないというのは誰もが思うことでしょう。捺印や署名等をした書類を送りたい場合でもスキャンしてメールで添付して送ればすむ話ですし。

と言いつつ、SOHOにおいてFAXがまったくないと困るケースもわずかながらあります。弁理士業の場合ですとスイスにあるWIPO(世界知的所有権機関)とのやり取りにはFAXがほぼ必須です。電子メールは公式の通信手段としては認められていませんし、郵便ですと当然ながら時間がかかります。また、FAXの場合は受領証がもらえるという点で大きなメリットがあります。電子メールや郵便ですと受領証の発行が義務付けられていないので本当に届いているのかわからないないという問題があります。

以前はいわゆる複合機のFAXをIP電話のサブ電話番号で使ってたのですが以下のような問題点がありました。

1) 当然ながら外出中、出張中は見られないし、送信できない
2) 紙で管理するのは大変(FAXをまたスキャンするというのもばかばかしい)
3) プリンタとの複合機だとFAXがプリント出力と一緒になって見逃したりする危険あり(プリント出力をほっぽらかしにしておかなければいい話ですが)
4) IP電話だとごくまれにエラー受信できないケースがある
5) 複合機の設置場所がもったいない

PC FAXにしてもPCの電源付けっぱなしにしなければいけないですし、上記の1)および4)の問題は解決できません。。

ということで、FAXとメール変換のASPを検討することにしました。条件は以下のような感じです。

1) 固定費が安い
2) 多様な添付ファイル形式をサポート
3) 当然ながら送信受信両方のサポート
4) 03番号がもらえる
5) 海外との送受信に強い
6) 一括送信機能とかは不要

いくつか検討したところ米国系のサービスであるeFAXというのがよさげなのでそれにしてみました。今のところうまく使えています。

FAXの送信はメールで相手の電話番号+指定ドメインにPDFファイルを添付して送ればよいですし、受信は自分のメールアドレスに直接送られてきます。相手先で送信完了すると確認メールが送られてきます。FAXとメールが同じメールボックスで時系列管理できるので一種のUnified Communicationが提供できていることになります。スイスへの送信も1枚11円と安いですし、月額基本料金995円で受信は130ページまで送信は300円分まで基本料金に含まれてますので、結構低コストで運用できます。なお、初期コストも無料ですし、解約もいつでも無料で可能です。

もっと良いサービスもあるのかもしれません(ご存じの方がいれば教えてくださいな)が、今のところ満足して使えています。

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ニコニコ動画でEMIのCD音源(ケミカルブラザーズ、ダフトパンク等)が利用可能に

Internet Watchに「ニコニコ動画、EMIミュージック・ジャパンの音楽原盤を利用可能に」という記事が載りました。

ご存じのように、ニコニコ動画(およびYouTube等の動画サービス)はすでにJASRAC等の著作権権利団体との契約により、(洋楽を含む)これらの団体の管理楽曲(要するにほとんどの曲)を使用することができるようになっています。ニコニコ動画の収益から一定割合がJASRAC等に支払われ、それが著作者(作詞家・作曲家)に分配されますので特に誰も損をすることはありません。

しかし、CD音源を使う場合には作詞家・作曲家の権利だけではなく、CD製作者の著作隣接権(通称、原盤権)の処理を行なう必要があります。原盤権にはJASRACのような権利の集中管理の仕組みがありませんのでユーザーが原盤権の権利処理を行うことは現実的に不可能でした。

とは言え、権利者がOKと言えば何でもできるのが著作権の世界ですから、別途契約で原盤権を自由に使えるようにする(そして対価が権利者に回るようにする)ことは何の問題もありません。人と人の間の契約の話ですから法律を改正する必要すらありません。

昨年(2010年)の3月には著作権管理団体のJRCがUSTREAMと提携することで、USTREAMにおいて一部楽曲の原盤権まで含めた利用が可能になりました。正直、使える楽曲は限定的でしたが日本の著作権制度における重要な一歩と言えると思います。

その後、ニコニコ動画も2010年12月にエイベックスの一部の原盤を使用可能にしました(関連記事)。まあ、エイベックスはニコ動運営会社のニワンゴの親会社のドワンゴの大株主なのでまあわかります。

今回はそういう事情を離れてより一般的な洋楽楽曲の音源が使えるようになったことが大きいですね。使える音源のリストはまだ限定的(発表時点で301曲)ですが、けっこうメジャーな曲(ダフトパンク「ワン・モア・タイム」、ケミカルブラザーズ「ミュージックレスポンス」等々)も含まれています。」ケミカルやダフトパンクなどの無機質なクラブ系の曲はテレビ番組やCMでもBGMやSEで使われることが多いですし、動画サイトの投稿作品や生放送のBGMでも使いやすいのではないかと思います。

また、これと時期をほぼ同じくして、株)ランティスが原盤権を所有する「涼宮ハルヒの憂鬱」関連楽曲、「らき☆すた」関連楽曲の原盤権の利用が可能になったことも発表されてますが、あんまりこの辺は詳しくないのでちゃんとコメントできません。

原盤権の包括処理(報酬請求権化)は大変な話のように思われるかもしれませんが、既にテレビやラジオなどの放送では法律で手当てされています。テレビ局やラジオ局がCD音源を使う場合には、いちいち原盤権者に許諾をもらう必要はありません。使いたい音源を使って事後報告すれば(そして所定の料金)をよい仕組みになっています。ニコ動をはじめとする動画サイト(少なくともニコ生などのストリーミング系サイト)は放送のような存在になりつつありますから原盤権の包括処理は必然的な流れと言えます。個人的には著作権法改正で(現在の放送と同じように)強制ライセンス化してもよいと思うのですが、まあそこまで行かなくても権利者側と動画サービス提供側の合意による提携がもっと進むことを期待します。

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中国の新幹線特許出願に関する記事について

日経新聞に「中国版新幹線の特許審査、国際機関『関与せず』」という記事が載っています(訴えられると大変(笑)なのでリンクは省略)。以下、著作権法32条に定められた引用により検討します。全体としては間違ってはいないが微妙に誤解を招きがちという一般紙における知財系ニュースに典型的に見られるパターンになっています。

ことの経緯はご存じと思いますが、中国の車両メーカーが新幹線車両を川崎重工等の企業共同開発していたにもかからわらず単独で国際特許出願して問題になっているというお話です。

まず、記事中に

「可否は各国が決めることで、私はその立場にない」と語り、WIPOとして関与しない方針を明らかにした。

と書いてありますが、ちょっと違和感がある書き方です。WIPO(世界知的所有権機関)が今回のケースに限って関与しない方針を取ったかのように取られてしまいそうですが、そもそも、国際出願においてWIPOは事務作業の集約と予備的な調査・審査を行うだけであり、特許の査定そのものは各国の特許庁にゆだねられています。これは、「特許独立の原則」という大原則です。

あたかも「警視庁は民事には介入しない方針を明らかにした」と書いているような感じです。

また、国際予備審査を中国自身が担当していることも問題であるかのようにわざわざ書いていますが、これまた、予備審査(およびその前段階である国際調査)を一定以上の能力を有する国が担当するのはルールで決まっています。実際、日本の企業が日本語で国際出願すると、日本の特許庁が国際調査と国際予備審査を行なう運用になっています。

要は、この記事に書いてあることは国際出願の当たり前の運用であり、わざわざ記事にするような話ではありません。記事にする前にこの辺に詳しい弁理士に一言聞けばいいのになあと思います。

本当に問題なのは、中国の出願内容です。川重等の日本企業の発明したアイデアそのままであるとするならば、これは「冒認出願」と呼ばれるケースになります(冒認とは出願する権利がない者の出願という意味の専門用語)。そうであれば、特許の審査がWIPOから各国に移行した後に、川重等の当事者が各国特許庁に情報提供することで拒絶に導くことができます。川重等が社内の情報管理をしっかりやってラボノート等をちゃんと付けていれば(付けていると信じていますが)、一悶着あるかもしれませんがさほど大きな問題ではありません。

また、中国が独自の改良部分を出願したのであればそれ自体は問題ありませんが、共同開発における契約がどうなっているかということが問題です。もし、契約違反行為があるのなら厳格に対応していただきたいと思います(まさか、うやむやな契約であるということはないとは思いますが)。

一般的に、共同開発していて一方のみで特許出願してしまった場合には、真の発明者はどっちかということが問題になったりします。こういう時に頼りになるのは日付の証明ができるラボノートです。最近は電子署名によるラボノートが一般的になっています。宣伝モードになりますが、お世話になっているメキキクリエイツ社がジニアスノートというこういう電子認証付ラボノートのASPサービスを提供しています。

従来もこの種のサービスはありましたが、ドキュメントごとASP側に預ける構成になっていました。ジニアスノートは電子署名だけ付与してドキュメントをユーザーの元にすぐ返してくれますので、自社にあったやり方で管理できますし、セキュリティ面でも安心という点でメリットがあります(特許登録第4558099号)。

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堂島ロールの会社の商標問題について

asahi.comに「『モンシュシュ』の標章ダメ 堂島ロールの販売元敗訴」という記事が出てました。事件の経緯としては以下のような感じです。堂島ロールは有名だと思いますが、それを作っているのは株式会社モンシュシュという会社です(2007年に商号変更)。同社はMon Chouchouという商標を自社の菓子類に使用していました。一方、神戸にあるゴンチヤロフ製菓という会社はずっと前から「菓子、パン」を指定商品とする「Mon Chouchou/モンシュシュ」という商標権(第1474596号)を所有しており、モンシュシュ社を商標権侵害で訴え、モンシュシュ社には差止請求と損害賠償3500万円の支払いが命じられてしまったという話です。

記事から判断する限り、明らかな商標権侵害事件であり、モンシュシュ社が何を根拠に争っていたのか理解に苦しみます。何か特殊事情があるのかもしれませんが、まだ、判決文が裁判所サイトにアップされていないので今のところはわかりません。

この事件を例にとって、この記事を読んだ人が気になりそうな点を解説します。いずれも商標については基本的なポイントです。

1)商号と商標の関係

商号(会社名)と商標は異なる概念です。登録商標と同一・類似の商号を登記するだけ、および、商号を商号として使う分には商標権を侵害することはありません(周知商標については別途会社法や不正競争防止法上の問題があり得ます)。要は、会社名での表札を出したり、お菓子の包みに貼った小さなラベルに「製造元: 株式会社モンシェシェ」と書くことで、他者の商標権を侵害することはありません。

しかし、商号を商標的に使用すると、つまり、商品や役務(サービス)の標識として使用すると、商号登記してようがなかろうが他者の商標権を侵害し得ます。モンシュシュ社(堂島ロール)のWebサイトを見るとロゴデザインされたMon Chouchouの文字を大きく店のガラスに表示したりしていますので、これは商標的使用であると判断されてもしょうがないと思います。

なお、記事中にも「モ社の社名は訴訟の争点になっておらず、今後も使える」と書いてあります。要はモンシュシュという社名を付けること自体が問題なのではなく(この機会に変えた方がよいとは思いますが)、モンシュシュという名前の商標的使用が問題であるということです。

2)モンシュシュ社の登録商標との関係

記事中には全然触れられていないのですが、実は、モンシュシュ社も「モンシュシュ」の商標権(第4939769号)を有しています(指定役務は「ケーキ又は菓子を主とする飲食物の提供及びこれらに関する情報の提供」)。これと、ゴンチヤロフ製菓社の商標権の関係はどうなのでしょうか?

まず、基本的なポイントとして商標権は常に商品・役務(サービス)とのペアで考えられという点があります。商品・役務が非類似ならば商標権の効力は及びません。

そして、「飲食物の提供」という役務はレストランや喫茶店で食品を客に出してその場で食べてもらうサービスのことを指します(「提供」とは食品を持ち帰り用に販売することを指すのではありません)。要は、モンシュシュ社の商標権はケーキを出す喫茶店等の営業において「モンシュシュ」の名称を使うことができるという権利であって、「モンシュシュ」という名称のケーキをケーキ屋で販売できるという権利ではありません(その権利はゴンチヤロフ製菓社が有しています)。モンシュシュ社のWebサイトを見る限り、「Mon Chouchou」という名称を使ってケーキの一般への販売を行なっているようなので、ゴンチヤロフ製菓社の商標権を侵害しているように思われます。

商標法における「商品」とは市場で自由に流通するものを指します。レストランや喫茶店でその場で食べることを目的に提供される食べ物・飲み物は商標法上の「商品」ではないのです。食品の販売業を行ないたいのであれば「飲食物の提供」を指定役務とするのではなく、具体的な食品名を指定商品とした商標登録出願を行なう必要があります(そして、このケースでは1977年にゴンチヤロフ製菓が権利を押さえているのでモンシュシュ社が今から出願しても意味がありません)。

いずれにせよ、社名変更やブランド戦略を計画する時には(特に、造語ではなくて「あり物」の名前を使う場合は)既存登録商標のチェックくらいしておきましょうということです(特許電子図書館(IPDL)で無料でチェックできるのですから)。

なお、今後、判決文が裁判所のサイトにアップされた際には追記する可能性があります。

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