話の前提として最初に一般的なことを書いておきます。
特許権とは「特許発明を独占的に実施できる権利」です。もっと簡単に言えば、他人が特定のアイデアを実施(生産・販売・輸出入等)することを禁止(差し止め)できる権利です。もちろん、他人の実施を禁止するのではなく、ライセンス(実施許諾)契約を結んで対価を得る代わりに実施を特別に許可することもできます。また、特許の侵害行為に対しては差し止めに加えて損害賠償を請求することもできます。他人の実施を禁止するのか、ラインセス料金をもらって許諾するのか、あるいは、大目に見るのか、さらには、損害賠償を請求するのかしないのかの選択はすべて特許権者の自由です。企業は自社の知財戦略にしたがって特許権を行使することになります。なお、この辺の仕組みは特許権も著作権も(さらには、商標権も意匠権も)ほぼ同じです。
では、対Android訴訟に関与している巨大ITベンダー、Oracle、Microsoft、Appleの3社がどのように自社の特許権を使おうとしているかを見てみましょう。
まず、Oracleですが、最近、OracleのGoogleに対する巨額賠償請求をカリフォルニア州地裁判事が却下したというニュースがありました(参照記事)。これは別にGoogleが勝訴したというわけではなく、Oracleが請求した26億ドルという賠償金額が法外かつ根拠が薄いものだったので判事が算定のやり直しを命じたという話です。Oracleはまずはできるだけ多くの賠償金を取るという戦略に出ていることが伺えます。以前あったSAPとの訴訟(こちらは特許は関係なくてソフトウェアの不正コピーに関するもの)で、13億ドルというIT業界の知財関連訴訟としては史上最大の賠償金を勝ち取ったことで欲が出てしまったのかもしれません。Sun買収の元を取りたいという動機も強いでしょう。
一方、Microsoftはライセンス優先型です(もちろん、Barnes&Nobleのようにライセンスを断れば訴えてしまうわけですが)。HTCのケースのように1台あたり5ドルという金額でのライセンスを行うにやぶさかではないようです(なお、この5ドルという金額は両社から公式に発表されているものではなく、証券アナリストによる推定です)。HTCだけではなく、他の多くの企業とすでにライセンス契約を結んでいますし、さらには、Android関連に限らず広く自社IP(知的財産)のライセンス戦略を進めています。IPライセンスを募集する専用のウェブサイトすらあります。競合他社であっても積極的にライセンスしてIPをマネタイズするというのは、まさにオープンイノベーションの思想を実現していると言えます。
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一方、AppleはMicrosoftと比較してかなり閉鎖的です。そもそも自社の特許権を積極的にライセンスするという事例がほとんどありません(水面下ではいろいろやっているのかもしれませんが)。ましてや、HTC等のAndroid陣営に塩を送るようなことはないだろうと考えられています。ちょっと前にこのブログでも紹介したソフトウェア特許の専門家Florian Mueller氏は自身のブログで、「HTCがAppleに5ドル払って得られるものは何か?iTunesの楽曲が2、3曲は買えるかもしれないけど特許ライセンスは得られないだろう」とかなりシニカルな書き方をしてます(たぶんAppleのクローズドなIP戦略が嫌いなんでしょうね)。
というわけで三者三様なわけであります。一発大金狙いのOracle、ライバルにもライセンスして広く薄く儲けるMicrosoft、俺様主義のAppleという感じでしょうか。各社の事情は違うので一概には言えないのですが、やはりMicrosoftのようなオープンイノベーション的やり方があるべき姿だろうと個人的には思ってしまいます。
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