Salesforce.com社CMOにインタビューしました

Cloudforceのイベントで来日していたSalesforce.com社CMO Kraig Swensrud氏にインタビューしました。

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栗原「Kraigさんのレスポンシビリティについて教えていただけますか?」
Sewensrud「製品マーケティング全体とコーポレート・メッセージング全体を統括しています。」

栗「今回は、Cloudforceのために来日されたわけですが、貴社にとって今最も重要なメッセージは何でしょうか?」
S「それはやはりSocial Enterpriseということになるでしょう。改めて言うまでもないことですが、今現在、クラウド、スマートフォンやタブレットなどのモバイル機器、そして、ソーシャル・コンピューティングという3つの動向が互いに影響を与えながら進展しています。これは、大きな変革のタイミングです。企業はこの動向を活用しなければなりません。それが、Social Enterpriseのメッセージングの意味です。」

栗「米国における”social”という言葉のニュアンスはどうなのでしょうか?というのも、今、ハーバードビジネススクールのAndrew McAfee教授の”Enteprise 2.0”という本を読んでいるのですが、同教授は”social”という言葉は経営陣にとっては何か仕事に直接関係ない懇親会やサークル活動をイメージさせるためできるだけ使いたくない、その代わりに”collaboration”という言葉を使いたいと言っているからです。」
S「2009年頃であれば”social”という言葉にそのようなニュアンスはあったかもしれません。しかし、2年間でその状況は大きく変わりました。今では、”social”という言葉に悪いイメージはまったくないと思います。」

栗「確かに、”Enteprise 2.0”は2009年に出版された本ですね(笑)。では、米国企業におけるエンタープライズ・ソーシャル・コンピューティングの受け入れ状況についてはどうでしょうか?まだ懐疑的な企業がいるのでしょうか?」
S「当社がChatterを発表した2009年には確かに懐疑的な意見も聞かれました。しかし、これも先ほどの話と同じです。この2年間で状況は大きく変わりました。今は懐疑的なマネージメントは少数派だと思います。」

栗「トップ・マネージメントは良いとしても、現場の中間管理職はこの種のソリューションに拒否反応を示すことが多いと思うのですがいかがでしょうか?自分の仕事がなくなるのではと不安に感じるということです。」
S「その懸念は理解できます。エンタープライズ・ソーシャルには組織をフラットにする効果があります。中抜きされる管理職が出てくるのは当然です。しかし、階層型の企業組織からソーシャル・グラフで表現されるネットワーク型の企業組織への変革は必然的な流れです。拒絶してもしょうがない段階に来ています。」

栗「日本企業のエンタープライズ・ソーシャルへの対応はどうでしょうか?米国と比べて大きく遅れていると感じられますか?」
S「そのようなことはないと思います。たとえば本日の豊田章男トヨタ社長の話を聞かれたでしょう。典型的日本企業であるトヨタがソーシャル・コンピューティングの価値を高く評価しています。自動車をソーシャル・コンピューティングの世界に取り込むというビジョンも提唱されています。多少の普及タイミングの遅れはあると思いますが、日本企業にエンタープライズ・ソーシャルがそぐわない理由はないと思います。日本でのtwitterの普及率もきわめて高いですよね。」

栗「少し話は変わりますが元々はSMB向けにフォーカスしていた貴社が、日本ではトヨタや郵便局などの大規模組織にフォーカスしているように思えるのですが、何か理由があるのでしょうか?」
S「主な理由はタイミング的なことだと思います。弊社が米国でSMB中心でビジネスを展開し、そこから大規模組織へのフォーカスを強めようとしていたまさにそのタイミングで日本でのビジネスも始まったということです。しかし、結果的には、日本の大企業の信頼を勝ち取れたということは、日本のSMBのお客様へのプロモーションとしてはきわめて有効だったと思います。」

栗「トヨタの話に戻りますが、たとえば、自動車がSNSに参加するような世界になるとプライバシーが今まで以上に問題になってくると思いますが。」
S「まさにその点が当社の優位性です。他のソーシャル・サービス、たとえば、facebookやtwitterはどう見てもプライバシーをあまり得意とはしていません。Chatterは最初からエンタープライズ市場に向けてセキュリティ/プライバシーを重要視しています。」

栗「今後とも貴社のフォーカスはソーシャルということになるでしょうか?」
S「はい、当面はそうなるでしょう。今のSalesforceの画面を見ればわかりますが、すべての情報がフィード化されています。Chatterのユーザー層も拡大しています。たとえば、最近ではDellが全社的に展開しています。少し前のNY Times紙のインタビュー記事でMark(Benioff)はSOCIALをSpeed、Open、Collaboration、Individuals、Alignment、Leaderlessだと述べています。まさにその通りで、ソーシャルはきわめて大きな潮流でありこれからも最重要動向と言えるでしょう。」

栗「本日は貴重なお時間をどうもありごとうございました。」

栗原の感想:ソーシャルの企業への浸透度についての同氏の意見にはもちろんベンダーのCMOとしてのポジション・トークは入っているでしょう。少なくとも日本においてはまだソーシャルの意味するところをわかってない人は数多いと思います。とは言えこの2年間でソーシャル・コンピューティング、特に、エンタープライズ・ソーシャルに対する世の中の見方が大きく変わったのは確かです。インタビュー中でも”game-changing”という言葉が何回も出てきました。これからも世の中をひっくり返す不連続な影響を与えていくのがソーシャル・コンピューティングの世界だと思います。わかってる人には大チャンス、わかってない人には大リスクです。

ベンダー広報の皆様へ: トップマネージメントへのインタビュー案件はいつでも歓迎です(通訳不要)、基本的にはブログに掲載しますし、その時点で関連テーマでの媒体の連載が入っていたときは可能な限り反映します。

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Appleと特許ゴロがタッグを組んだ!?

Appleが特許戦略において(特にAndroid陣営に対する特許戦略において)きわめてアグレッシブであることは改めて言うまでもありません。しかし、そういう前提で考えてもびっくりするような記事がTechCrunchに出ていました。

“Apple Made A Deal With The Devil (No, Worse: A Patent Troll)”(Appleは悪魔と契約した(いやもっとひどいぞ特許ゴロと契約したのだ))という記事によると、米国のDigitubeという会社(特許のライセンスだけをビジネスにしている会社、要はパテントトロールです)が、RIM、HTC、LG、Motorola、Samsung、Sony、Amazon、Nokiaなどを特許侵害でITC(米国国際貿易委員会)に訴えているのですが、 その根拠となった特許権のうちの2件が今年の初めにAppleから譲渡されたものであったようです。

ここまでは事実関係です。さらに、記事中では、なぜAppleがこんなことをしたのかをTechCrunchの中の人が類推しています。

シナリオ1.AppleはDigitubeをいわば鉄砲玉として使っている説:特許訴訟をすることでイメージが悪くなることを恐れている会社であればこのようなやり方はありかもしれませんが、Appleは既に積極的に特許訴訟をしているので、わざわざ他社に委譲しなくても自分自身で訴訟すればよい話なので、このシナリオは考えにくいのではとしています。

シナリオ2.Digitubeが最初にAppleに特許侵害の警告をしており、Appleはそれに対する防御策として自社特許を譲渡した説: 「これあげるから訴えないで、俺らを訴えなきゃ他に何に使ってもいいから」という感じですね。TechCrunchはこのシナリオの方があり得そうだとしています。

また、EFFの弁護士の意見として通常「特許を(ライセンスでなく)譲渡するのは企業がよほど金に困っているケースだがAppleはどう見てもそういう状態ではない」というコメント(あまり役に立たない)も紹介されています。

TechCrunchの記事では検討されていないもうひとつのシナリオとして、私としては「Android陣営からの逆訴訟によるクロスライセンス和解をやりにくくするため」という要素もあるのではと見ています。特許訴訟における防衛策のひとつとして訴えられた方が別の特許で訴え返して最終的にクロスライセンスに持ち込むという手があります(実際、MotorolaやSamsungはAppleを訴えています)。ところがパテントトロール相手ではこのクロスライセンス戦略が使えません(パテントトロールは特許ライセンス以外の商売をしていないので、特許権侵害で訴えられることがないからです)。

当然ながらDigitubeもAppleもこの件についてはノーコメントなので真実はわかりませんが確実に言えることは「Appleはエグイ」ということであります。

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なぜ第3世界の著作権侵害損害賠償金額が1億7000万円になってしまうのか

違法着うた配信サイト「第(3)世界」(3は丸数字)の民事(損害賠償請求)の判決があり、東京地裁はサイト管理人に対して損害賠償金1億7千万円を原告JASRACへ支払うことを命じました(参照記事)。これは日本の著作権侵害訴訟として個人に命じられた損害賠償額としては結構大きいのではと思います。(これは刑事罰の罰金ではなく、民事の損害賠償であることに注意。刑事の方は既に執行猶予付有罪判決が出ています。)

そもそも、日本の法律では米国のような懲罰的賠償制度というものはなく、損害賠償額は実際の被害額以下になります。たとえば、過失や故意によって時価100万円の車を壊して使えなくしたのであれば、最大でも100万円を賠償すればよいことになります(状況によっては、これに加えて逸失利益だとか精神的苦痛に相当する金額を支払わなければならないこともあるでしょう)。

ところが、著作権のような無体財産権の場合は具体的な損害額の算定が困難です。ということで、著作権法には損害額の推定に関する規定(著作権法114条)が定められています((これは特許権等でも同様)。簡単にまとめると以下のようになります。

  • 海賊版の販売(ダウンロード)数に正規版販売の1件ごとの利益をかけた額
  • 海賊版の販売(ダウンロード)数に正規版のライセンス料金の1件ごとの利益をかけた額
  • 海賊版業者の不当利益額

これはあくまでも推定規定なので被告側は反証することができますし、原告側もこれ以上の額を請求することが可能です。今回は被告側は争っていないようなので原告(JASRAC)側の請求額がそのまま損害額として認定されました。

この裁判で、どういう根拠により1億7000万円という賠償金が算定されたかはわかりません(ちゃんと調べればわかるかも)が、一般的な例で考えると、たとえば、1000曲を違法に公開していて、それぞれ1000回ダウンロードされ、正規ダウンロードの利益が1回ごとに100円だとすると1億円になってしまいますので、一般的に違法アップロードを大々的に行なうと損害賠償額が相当の額になることがわかります。

なお、サイト管理人男性はアフィリエイト収入として1億2000万円程度の収入を得ていたようなので(JASRACのプレスリリース参照)、1億7000万円という数字も法外ではないと言えます。不当収益に満たない損害賠償額しか請求できないのであれば、いわば「やり得」状態になってしまいますからね。

カテゴリー: メディア, 著作権 | 1件のコメント

イマイチ面白くない「面白い恋人」について

北海道銘菓「白い恋人」の製造元である石屋製菓が「面白い恋人」という商品を製造している吉本興業と販売会社を商標権侵害で訴えた件がちょっと話題になっています(参照記事1(朝日)参照記事2(日経))。

最初この話を聞いたときは、パロディ商品を訴えるとは、いわゆる「ネタにマジレス」であり、石屋製菓は大人気ないと思ったのですが、どうもメディアの報道から判断する限りちょっと違うのではないかという感じがしてきました。

日経の記事によれば、最初は、石屋製菓側も、吉本関連ショップのみで一時的に販売されるジョーク商品と思って黙認していたが、空港や都内でも売られるようになり、さらには道内での販売も検討と聞き、加えて、一部の客から間違った買ったと苦情が寄せられたケースもあったということで提訴に踏み切ったそうです(警告や和解交渉なしにいきなり提訴するのはちょっと珍しいかもしれません)。

また、参照記事のパッケージ画像を見るとわかりますが「面白い恋人」は名称以外特にひねった部分があるわけでもなく、ジョーク商品やパロディとして成立していないと思います。しかも「白い恋人」と類似しており、これでは単なる偽物です。(たとえば、白い犬がパッケージに描いてあって「尾も白い」とか寒いながらも何らかのギャグが入っているのかと思っていたのですがそうではありませんでした)。

また、吉本側(正確には関連会社の吉本倶楽部)は「面白い恋人」を商標登録出願(2010-66954号)までしています(先願である「白い恋人」を理由に拒絶査定)。これはちょっと洒落の域を越えていると思えるので石屋製菓が怒るのも無理ないと思えます。

なお、商標法だけではなく不正競争防止法に基づく提訴も行なっているようですが、「白い恋人」は商品等表示として周知と思われますので、顧客が混同しているということを立証できれば十分根拠があると思います。

ここから先は法律の話というよりも商売の仁義みたいな話になるのですが、パロディ商品を出そうとするのであれば、

  1. 元の商品に対するリスペクトがあること(元商品の商売を邪魔していないこと)
  2. 洒落として成立していること(元商品の製造元も「これには思わず苦笑い」になることが望ましい)
  3. 元の商品の製造元からクレームが付いたときは直ちに販売をやめること

くらいのルールはあるのではと思います。今回は、特に警告もなくいきなり提訴されたようなので、3.のルールについては適用外になってしまいますが、1.と2.のルールについては守られていないように思えます。

ところで、「色+恋人」というパターンの商標ですが簡単に調べた限り、以下の商標が既に登録されています。まあこれらについてはそもそも登録されている時点で特許庁は「白い恋人」とは非類似と判断されたわけですし、パロディ(というほどでもないですが)としては一応成立しているのかなと思います(黒い恋人の方は同じチョコ菓子ですし北海道みやげでもあるのでちょっと微妙かもしれません)。

赤い恋人(第4777974号)

明太子+こんにゃくのようです

黒い恋人(第4514509号等)

青い恋人(第4903168号等) Googleでは該当商品らしいものは見つからず

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【お知らせ】ジェフリームーアの最新作『エスケープベロシティ』を翻訳しました

『キャズム』、『ライフサイクルイノベーション』等でおなじみの米国のハイテク業界コンサルタント、ジェフリームーア氏の最新作『エスケープベロシティ』を翻訳しました。ただいま、Amazonで予約受付中。発売予定日は12月14日です。

タイトルの「エスケープベロシティ」(=脱出速度(第二宇宙速度))とは、ロケットが地球の重力を振り払って宇宙に飛び出すために必要な速度のことです。これを、企業が過去のしがらみという重力を振り払って真の差別化を達成する戦略にたとえたわけです。

ムーア氏の過去の著作の集大成とも言える本です。原書の方は米Amazonですでに高い評価を受けています。発売日がもう少し近づきましたら、このブログでも解説記事を載せていこうと思います。

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