昨日書いたエントリー「フェイスブックのNews Feed特許が日本でも成立してしまった件」に結構アクセスが来たようなので簡単に特許の中身を解説してみます。昨日のエントリーにも書いたように比較的回避は容易な特許と思われます。
まず、前提として一般的なお話をしておきます。特許権の権利範囲は【特許請求の範囲】によって決まります。特許請求の範囲は【請求項】という項目から成り、各請求項に対してひとつの特許権が対応しています。通常、最初の請求項に一番広い範囲の発明が記載されており、以下の請求項に権利を限定した発明が記載されています。これは、万一、広い範囲の請求項が無効になった場合でも狭い範囲の請求項の方で権利行使できる可能性があるためです。
請求項には、特許権の範囲を明確化するための事項が過不足なく書かれており、また、名詞句として記載しなければいけないので、修飾関係が複雑になって大変読みにくいです。特許公報を読むときは、まずは、【明細書】の方を読んで発明の全貌を理解してから請求項をチェックするのが普通です(とは言え、明細書の方も(特に翻訳の場合)わかりにくいことが多いですが)。
特許発明を侵害しているか否かの判断には請求項に記載された構成要素(発明特定事項と呼ばれます)を全部実施しているかをチェックすることが必要です。構成要素の中のひとつでも実施していないものがあれば原則として特許権を侵害することはありません。
これを踏まえて、フェイスブックのNews Feed特許の請求項1(2011/08/05付の補正が適用されたもの)について見てみましょう。
【請求項1】
コンピュータシステムを用いたソーシャルネットワーク環境においてニュースフィードを表示する方法であって、
前記コンピュータシステムによって、ソーシャルネットワーク環境における複数の活動を監視するステップと、
前記コンピュータシステムによって、前記複数の活動をデータベースに記憶するステップと、
前記コンピュータシステムによって、1以上の前記活動に関する複数のニュース項目を生成するステップと、ここで、1以上の前記ニュース項目が、一人以上の視聴ユーザに対して提示されるためのものであり、かつ、他のユーザによって行われた活動に関係しており、
前記コンピュータシステムによって、前記他のユーザの前記複数の活動の少なくとも一つに関連したリンクを前記複数のニュース項目の少なくとも一つに結びつけるステップと、ここで、前記リンクは、或る視聴ユーザが該リンクが結びつけられた前記ニュース項目の主題である活動に参加できるようにするものであり、該リンクが結びつけられた前記ニュース項目の主題である活動とは、該或る視聴ユーザが当該他のユーザの活動に係るグループやクラス、クラブと同じ活動に係るグループやクラス、クラブに入会することからな り、
前記コンピュータシステムによって、一組の視聴ユーザに対して、前記複数のニュース項目へのアクセスを制限するステップと、
前記コンピュータシステムによって、前記一組の視聴ユーザ中の少なくとも一人の視聴ユーザに対して前記複数のニュース項目中の2以上のニュース項目からなるニュースフィードを表示するステップと
を含むことを特徴とする方法。
頭から読んでもわけがわかりませんので構成要素に分解して見てみましょう。6つのステップからなる方法の特許であることがわかります。原則的にはこの6つのステップのすべてを実施している場合にのみ、この請求項1の特許を侵害することになります。
以下、大雑把に分析します。なお、この分析をするために私は明細書の中身を(ざっとですが)読んでます。いきなり、上の請求項の情報だけから以下のステップに落とし込んでいるわけではありません。
ステップ1: SNSにおけるユーザーの活動の監視(ソーシャルネットワーク環境における複数の活動を監視するステップ)
ステップ2: 活動をDBに保管(前記複数の活動をデータベースに記憶するステップ)
ステップ3: 他のユーザーに表示するニュース項目を生成(複数のニュース項目を生成するステップ)
ステップ4: ニュース項目にリンクを対応づける(前記他のユーザの前記複数の活動の少なくとも一つに関連したリンクを前記複数のニュース項目の少なくとも一つに結びつけるステップ)
ステップ5:ニュース項目をアクセス制御する(一組の視聴ユーザに対して、前記複数のニュース項目へのアクセスを制限するステップ)
ステップ6: 特定ユーザーに対してのみニュースフィードを表示(前記一組の視聴ユーザ中の少なくとも一人の視聴ユーザに対して前記複数のニュース項目中の2以上のニュース項目からなるニュースフィードを表示するステップ)
ここで、ステップ1,2,3,5,6は、おそらく、ニュースフィード的な仕組みを作ろうと思うと必須のステップのように思えます(たとえば、ユーザーの活動を監視せずにニュースフィードを実現することは不可能なのでステップ1は必須)。ポイントはステップ4ということになりますのでもう少し詳しく見ていきます。
ステップ4では大きく2つの限定がかかっています。
第一に、「前記ニュース項目の主題である活動とは、或る視聴ユーザが当該他のユーザの活動に係るグループやクラス、クラブと同じ活動に係るグループやクラス、クラブに入会すること」となっているので、この特許がカバーするのはニュースフィードのうち、他のユーザーがグループ(コミュニティ)に参加したという情報を表示するケースのみということになります。
第二に、「前記リンクは、或る視聴ユーザが該リンクが結びつけられた前記ニュース項目の主題である活動に参加できるようにするもの」と書いてあるので、ニュース項目のリンクをクリックするとその項目に関連したグループ(コミュニティ)に参加できるようになっているということです(普通のUI設計者であればこういう方法にするでしょう)。
と言うことで、たとえば、twitterのアクティビティタブとの本特許の関係を考えてみると、そもそもtwitterにはコミュニティの概念がないので、侵害しないようにも思えますが、特定ユーザーのフォローが「他のユーザの活動に係るグループやクラス、クラブと同じ活動に係るグループやクラス、クラブに入会すること」と解釈できないこともないのでちょっと微妙なところです。いずれにせよ、「お気に入りに登録しました」、「リツイートしました」の表示だけであればこの特許を侵害することはないと思われます。
仕事納めもしてちょっとヒマなのでwさっくりと分析してみました。もちろん、有償サービスとしてならばもっと厳密な分析・鑑定も行ないますので、ソフトウェア特許関連の侵害調査・先行技術調査のご用命がありましたらよろしくお願いします(上のメニューのCONTACTあるいはkurikiyo[アットマーク]techvisor.jpからお問い合わせください)。