「白い恋人」と「面白い恋人」が和解の件

吉本興業らによる「面白い恋人」の商標使用について「白い恋人」の製造元である石屋製菓が訴えていた件が和解となったようです。「面白い恋人」がパッケージデザインを変更し、原則として関西6府県での販売に限定するなどが条件になっています(参照記事)。

この件については、このブログでも提訴のタイミングで「イマイチ面白くない「面白い恋人」について」という記事を書いています。

この過去記事でも書いたように、私見ではありますが、法律的な問題とは別に、1)パロディ元に対するリスペクトが感じられない、2)「面白い恋人」を商標登録出願し独占しようとした(結果は拒絶査定)、3)ギャグとして成立していないという点で、吉本の企業姿勢は問題ありと感じます。

と言いつつ、ガチンコで争うべき案件でもないと思うので結果は妥当かと思います。特に、石屋製菓側の提訴の理由が「吉本関連ショップのみで一時的に販売されるジョーク商品と思って黙認していたが、空港や都内でも売られるようになり、さらには道内での販売も検討と聞き、加えて、一部の客から間違った買ったと苦情が寄せられたケースもあった」ということなので、販売地域を限定したというのは適切かと思います、

正直、個人的には(顧客の誤認混同が発生していることを前提に)侵害訴訟の場で商標が類似と判断されるのか、不正競争の周知商標混同惹起行為が成立すると判断されるのかを知りたかったですがしょうがありません。

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アップルのバウンスバック特許は日本ではどうなっているのか

ちょっと前にAppleのSlide-to-Unlock特許(と意匠権)の話を書きましたので、ついでに、Bounce-Back特許の現状についてまとめておきます。

改めて説明しておくとBounce-Backとは、iOS系のデバイスに特有の挙動で、ページやリストのスクロール操作をしていて、最後のページに達するとページが先に行こうとしてある程度はみだすがそこから先には進まない、指を離すと何か弾力のある壁に跳ね返ったかのように元に戻るという表示することで、最後のページであることをユーザーに直感的に教えてくれるUIです。

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最後のページでいきなりスクロールが止まってしまうと、ユーザーとしては、最後に達したのか機器が反応しなくなったのかの区別がつきません。かといって、最後のページを越えてスクロールしようとするとエラーメッセージを表示したり音を出したりする、あるいは、スクロールバーを表示してページ位置を示すというのもいかにも旧世代のUIという感じで、ユーザー体験(UX)的にはかなり劣ります。

Bounce-Backは、特許性うんぬんの話を越えてAppleのUI(UX)設計能力の高さを表わしていると思います。

手持ちのNexus 7でページのスクロール動作をやって、最後に達すると青いシェードを使ってページが奥行き方向に傾くようなイメージを表示します。これはAppleの特許回避の苦肉の策と思われます。目的としてはBounce-Backと同じなのですが、ちょっと工業デザイン的な洗練性には欠けると思います。

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特許侵害回避のために、このようなデザインを無理矢理考え出したりするのはイノベーションを阻害しているのではないかという考え方もあるかと思いますが、「Bounce-Backよりもエレガントな方法はないのか」、「いやそもそもスクロール自体を不要にするようなUIは考えられないものか」と特許侵害回避で苦労することで生まれるイノベーションもあると思います。

さて、米国のBounce-Backに関する中核的特許はUS7469381です。北カリフォルニア地裁でSamsungによる侵害が認定されています。同様の特許関して、韓国や欧州においても、それぞれ、Samsung、Motorolaによる侵害が認められています。また、米国で2010年4月に請求された再審査を一度クリアーしていることから、非常に価値が高い「値千金」の特許と考えられていました。特許評価会社によるスコアリングも高かったようです。

ところが、2012年5月に請求された2度目の再審査で、全クレームが新規性欠如により無効という暫定判断が出されてしまいました。再審査の請求人は不明(法律事務所名義になっている)のですが、まあおそらくはGoogle、あるいは、Googleサイドの企業なのでしょう。通常、再審査によって無効にされる場合でも一部のクレームは生き残ることも多いのですが、今回は全クレーム無効、かつ、進歩性ではなく新規性が否定されているので、一般論として言えば挽回は難しいと思われます。(この再審査の具体的内容はまだ見れていない(再審査の文書を読むのは結構大変)のですが、時間ができたらこのブログで書くかもしれません)。

このように、きわめて高い価値があると考えられていても、突然に無効に(無価値に)なってしまう可能性がある点が特許価値鑑定の難しいところです。

さて、本題の日本ではどうなっているかですが、US7469381に相当する特許は第4743919号(「タッチスクリーンディスプレイにおけるリストのスクローリング、ドキュメントの並進移動、スケーリング及び回転」)です。現在、この特許は、現在サムスン(三星電子)を請求人とする無効審判に係属中です。アップルが日本でこの特許に基づいてサムスンを侵害訴訟で訴えているのに対する対抗措置です。米国で無効になりそうなので、日本でも同様の証拠と理由付けにより無効になる可能性が高いですが、前回も書いたように米国特許庁の判断と日本の特許庁の判断が必ずしも一致するとは限りません。日本では進行中の無効審判の書類は特許庁まで閲覧しに行かないと見られないのでこれ以上詳しい情報は書けません。

この特許第4743919号ですが、明細書にはアップルのタッチ操作系のUIのアイデアがかなり網羅的に開示されていますので、UI系の特許を調査されている方は一読しておくとよろしいんじゃないかと思います。特許化したいのであれば、ここに開示されていないアイデアを考え出す必要があります。また、この出願から派生した分割出願も1件特許化されています(第5130331号)が、これについてはいずれ書く予定です。

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Amazonガチャ問題と弁理士・弁護士の相談料について

「Amazonガチャ」というサービスが一悶着起こしています(参照記事)。月額5,000円支払うとAmazonからランダムに4,500円分の買い物をして届けてくれるというサービスです。何が届くかわからないという楽しみを味わえるサービスという触れ込みですが、有名人がセレクトしてくれる等の付加価値がないと、ビジネスとしては厳しいような気がします。

それよりも問題なのはこのサービスがAmazonとまったく関係ないのに「Amazonガチャ」という商標を使っている点です。このサービスのWebサイトには、

「Amazonガチャ」、「AmazonGACHA」は現在、商標登録されておらず、サービス名として利用可能との判断を行っております。

なんてことが書いてあるのですが、商標権は同一の商標だけではなく、類似範囲にも及びます。そして、類似の判定には、取引実情を考慮して需要者(消費者)が出所を混同するかどうかが重要な要素になりますので、Amazonのような著名商標の場合には当然類似範囲は広くなります。多くの消費者は「Amazonガチャ」と聞くと当然Amazonと何らかの関係があると思うでしょう。他にも、不正競争防止法上の問題もありますので、「Amazonガチャ」商標の使用に問題なしとは到底言えません。仮に、商標法や不正競争防止法を知らなくても、直感的にまずいなと思うのが普通ではないでしょうか。

正直、ネットサービスを立ち上げるのであれば商標法関係くらいは簡単に勉強しておけばよいのにと思います。そして、微妙と思われるところがあれば弁理士や(知財系の)弁護士に相談すればよいのです。

相談料金が高い、あるいは、いくら取られるかわからないので怖いと思われるかもしれませんが、テックバイザーの場合の相談料を書いてしまいますと30分5000円です。その後、出願案件につながった場合には、出願手数料に充当しますので実質無料になります。(以前は初回相談無料にしておいたのですが、話だけ聞いてさようなら(たぶん、後で自分で出願)のパターンが多かったので、新規のお客様の場合はチャージさせていただくことにしました)。超大手は別として、他もこんなもんではないかと思います。不安であれば事前に問い合わせて料金をきけばよいのです。また、5,000円も出せないということであれば、日本弁理士会等の無料相談を受けるという手もあります。

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AppleのSlide-to-Unlockの権利は日本ではどうなっているのか

CNETに「アップル、「スライド式ロック解除」と初代「iPhone」の意匠権を取得」という記事が出ていました(”design patent”をちゃんと「意匠権」と訳してくれているのは喜ばしいですね)。初代iPhoneの意匠の話はおいておいて「スライド式ロック解除」の方の話をします。

iPhoneやiPadのロック画面をスライダーを横にスライドする操作で解除するのは、シンプルなわりに誤操作がなくてナイスなUIだと思います。Appleはこのアイデアを米国ではUS8046721号としてし、欧州ではEP1964022号として特許化しており、それぞれサムスン、モトローラに対して権利行使しています(ただし、再審査で無効にされる可能性あり)。前述のニュースはこれが特許に加えて、意匠としても保護されたという話です。

ひとつのものを、技術的アイデアとしては特許権で、工業デザインとしては意匠権で保護することも可能と知財の教科書に書いてあったりしますが、まさにこれがその例です。ただし、意匠権はあくまでも工業デザインの保護なので、たとえば、ボタンの外観を変えれば容易に回避されてしまいます。どちらかというとデッドコピーを防げることに意匠権の意義があります(これに対して特許権は背後にあるアイデアが同じであれば表面上の実装を変えた場合でも権利行使できます)。

なお、AndroidではiPhone/iPadとはちょっと違う感じのスライド操作でアンロックを行なうようになっていることが多いと思いますが、これはこのAppleの権利回避のためと思われます。

では、日本ではこの権利はどうなっているかというと、実は意匠権の方が先に成立していました(1356981号)(EnterpriseZineで書いてる知財の連載記事でも書いてます)。日本では意匠権は物理的物品に付随するのが前提なのでプログラム画面は保護できないのですが、携帯電話等の物理的物品に付随する液晶画面のデザインは保護できます。

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これに対応する日本国内の特許はというと、米国の出願とほぼ同じ内容の出願2008-547675が拒絶査定確定しており、それを限定した分割出願の2012-091352が審査中です。日本では、少なくとも米国と同じようにはSlide-to-Unlockの特許は成立しないと思われます。(訂正:拒絶査定確定は勘違いでその後拒絶査定不服審判により、特許5457679号として登録されていました。どうもすみません。)

同じ発明に対して同じ背景情報で新規性・進歩性を判断しているはずなのに、米国で特許化できているのに日本ではできない(あるいはその逆)が往々にしてあるのがやっかいなところです。

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【雑談】「理想のトマト」の商標登録について

伊藤園の「理想のトマト」というジュースがあります。濃くて大変おいしいジュースなのですが、ネーミングもなかなかナイスだと思います。そして、しっかり商標登録もされています(他にも「理想の野菜」、「理想のフルーツ」、「理想のお茶」が伊藤園名義で登録済です)。

以前のブログ記事で、商品の材料、品質、産地等をそのまんま商標にした記述的商標は原則的に登録されないと書きました。たとえば、「おいしい牛乳」はこのような例になると思います。「おいしい牛乳」という名称の商品を販売しているメーカーは「明治おいしい牛乳」や「森永のおいしい牛乳」等、識別力のある言葉を付加してようやく登録しています(この商標登録によっては、他社が(単に)「おいしい牛乳」という名称の商品を販売することを禁止できませんので権利としてはあまり強力ではありません)。

「理想のトマト」も品質と材料だけなので記述的商標ではないかという見方もできるかもしれませんが、特許庁の判断としてはそうではないとされたようです(使用による識別性の発生を問われれるまでもなく登録されています)。そもそも「理想の〜」の後に食材が来る言い回しがそれほど一般的ではなくちょっとひねったものである点も大きいと思います。

さらに調べてみると実は「理想の〜」パターン(〜には商品の種類が入る)の商標登録はけっこうありました。「理想の保険」(AIGスター生命)、「理想のプリン」(森永乳業)、「理想の梅酒」(宝ホールディングス)等々です。

この種の記述商標ぎりぎりの商標は独占できるメリットが大きいので、拒絶のリスクを承知の上でダメ元で出願してみる価値はあると思います。特許の場合もダメ元で最初は権利広めで出願してみることは一般的です。

なお、特許の場合は権利広めで攻めてみて駄目だった場合(拒絶理由を通知された場合)には補正して権利範囲を狭くすることができますが、商標の場合は商標自体の補正は実質的に不可能なので、駄目だった場合は出願し直しになる点に注意が必要です。

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