スマホから視聴できる「専用テレビ」は誰得商品なのか?

日経に「NHK・民放番組、スマホでどこでも 専用TV経由」なんて記事が載ってます(最近は日経の記事も信憑性を欠いているので他媒体にも載るまでは信用できないですが)。

要は、ソニー、東芝、パナソニックが年内をめどにテレビ放送をインターネット経由でスマホ、PC、タブレットに転送する「専用TV」を作るという話です。「価格は通常のテレビより最大で数万円高くなる見通し。テレビの買い替え需要が発生する可能性がある」ということで、3Dテレビが(笑)になってしまった現状、テレビの新規需要を喚起するための苦肉の策という感じです。

テクノロジー的に言えばSlingBox内蔵テレビということだと思いますが、テレビ以外のボックスを買ったり設定したりするのは躊躇する層が、スポーツ中継などを通勤時に見たり、国外から日本のテレビを見たりしたいといニーズは多少はあるのかもしれません。

ただ、日経の記事から判断するに録画番組の視聴には対応してないように見えます。もし、そうなら、録画番組の視聴もレコーダーの遠隔操作もできるSlingBoxの方が全然便利ですね。

著作権的にはどうなのかというと、この「専用テレビ」もSlingBoxもPoint-to-Pointの転送なので「公衆送信」にはあたらず著作権を侵害することはありません(ただ、同じことをクラウドサービス経由でやるとアクセスコントロールをしっかりやって他人が見られない仕組みになっていても「公衆送信」とされて著作権侵害と判断される可能性が高いです)。

こんなことするんだったらいっそTV局自身がネット配信すればいいじゃないかという意見もあると思いますが、1) 地デジ電波じゃなくてもいい(むしろネットの方が優れているケースもある)ということが知れわたるとTV局(特に地方局)のビジネスモデルが崩壊する、2)現行の著作権法の解釈ではIPストリーミングは同時再配信の場合も含めて一般に「放送」ではなく「自動公衆送信」(要はYouTubeなどのオンデマンド配信と同じとされている)ので権利処理が一気にややこしくなる(電波放送と同じ放送地域に限定したマルチキャスト方式による同時再配信の場合(主に難視聴地域対策)に限って放送と同様の扱い)という問題があります。

たとえば、放送の場合は原盤権の処理が楽(報酬請求権化されているので後で金だけ払えばよい)ですが、自動公衆送信になると個別の許諾が必要になるので一気に話がややこしくなります。ラジオ番組のIP同時再配信であるradikoも権利処理は結構ややこしいようです(参照Wikipediaエントリー)。

(同時再配信型の)IPストリーミングは「放送」ではなく「自動公衆送信」というのは法文に書いてあるわけではなく文化庁の解釈の問題なので、文化庁が「やっぱりIPストリーミングブロードキャストは放送ということで」と前言を翻していただければ世の中がだいぶ楽になる気がします。

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【連休ネタ】ウィンク操作で写真を撮るGoogle Glassアプリが登場

Google Glassには装着者のまばたきやウィンク操作(さらには、ダブルウィンク等)を検知するコードが入っているようで、それを利用して手の操作なしにウィンク操作だけで写真が撮れるアプリ(その名もWinky)が登場したそうです(参照記事(英文))。(追記:CNET Japanにも載りました)。下の動画は英文記事からの引用です。

気がつかないうちに写真を撮られていてプライバシーの侵害にならないか(これは、グラス系のデバイスによる写真撮影一般に当てはまる問題ですが)、しょっちゅう顔をしかめる癖のある人は誤動作しないかなど、の問題はあると思いますが、この手のナチュラルUI系のアイデアはこれからもどんどん出てくるでしょう。

ところで、特許的にはどうかと調べてみると、少なくとも、ウィンク動作でカメラのシャッターを切るというアイデアが1993年にニコンにより出願されてます(特開H07-191405)ので、このアイデアだけで特許化するのは難しそうです(もちろん、何かプラスアルファのアイデアがあれば別です)。

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新たな業界秩序の形成に水を差すエセ自炊代行業

昨日、「自炊代行」業者が著作権侵害容疑で逮捕されたというニュースが流れました。当初流れたニュースでは、情報が十分でなかったために、本来的な自炊代行行為(顧客が送った本をスキャンし、本は廃棄して、電子化データを返却)によって逮捕されたのか、それとも自炊代行業者がやっていた別件の著作権侵害行為によって逮捕されたのかがはっきりしませんでした。

しかし、ITmedia eBook USERの取材によればどうやら後者であるようです。「大人買い電子化サービス」と銘打ったサービスが実質的には勝手にスキャンしたPDFの販売でしかないと判断されたようです。

確かに、問題となったサイトを見ても、少なくとも「大人買い電子化サービス」というサービスについては自炊でも何でもなく、単にマンガのPDF化されたファイルを結構なお値段で売っているようにしか見えません。また、会員登録特典として「ハンター×ハンター1巻〜10巻までプレゼント中!!」なんて表記もあります。

そもそも、BOOKSCANなどの真の意味での自炊代行業が始まった時には、電子化した後の書籍のオリジナルを廃棄することで権利者には不当な損害を与えないよう配慮している点がポイントになっていました。

法律を厳密に解釈すればこれも違法になってしまいます(私的使用目的複製が認められるためには使用者自身が複製を行なうことが要件のため)。しかし、道義的・社会通念的には許容すべきである(法律の方が現実に合っていない)という意見にも納得できます。

真の意味ので自炊代行(スキャン代行)ビジネスについては、法律改正による合法化(以前に本ブログでも検討しました)、裁判所における法律の「画期的」解釈(たとえば、「代行業者はユーザーの手足として動いているのでユーザーが複製しているのに等しい」という解釈)、権利者へのライセンス料支払による許諾等々、新たな業界秩序を作っていく方向性はあったと思うのですが、このようなエセ「自炊代行業」が水を差す結果になってしまいそうで心配です。

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ドコモを訴えたユーペイド社の特許公報の中身を読んでみた

ちょっと前に触れた、ドコモに侵害訴訟を提起したUpaid Systems社の問題の特許3516339号の中身をちょっと分析して見ようと思います。

この特許の実効出願日(優先日)は1998年9月15日です。一般論になりますが、出願日(優先日)が1999年以前のネット間連特許は強力なことが多いです。2000年にドットコムバブルが崩壊する時点でネット系のアイデアが一通り出尽くした感がありますが、逆にそれ以前の出願だと「今では当たり前になっているが当時としては新規だった」発明である可能性が高いです。

以前に「強力な特許は潮の変わり目を狙え」なんてエントリーを書きましたが、ネット間連の発明については、2000年がひとつの潮の変わり目と言えるでしょう。

さて、私の場合、英語を翻訳した明細書の場合、日本語で読むより英語で読んだ方がわかりやすいので、この特許の元になっている国際出願の公報(国際公開番号:WO00/016568)から読みました。ただし、クレーム(請求の範囲)については、最終的にどのような権利になるかが各国で違うので日本語で確認するしかありません。

明細書を読んでわかりましたが、本特許の元々のアイデアは、従来型のアナログ電話網上で、交換機をデジタルに買い換えることなく、プリペイドカードを使ってユーザーに様々なサービス(ボイスメール等)を提供することにあったようです。それに、補正を重ねて、かなりの抽象化が加えられています。

では、iモードとの関係においてクレーム1を検討してみましょう(ラベルは栗原による追加)。

(a) 種類の異なる複数のネットワークの外部にある機能拡張されたサービスプラットホームを用い、1以上のネットワークを介して、事前に許可された通信サービスや取引を提供するサービス提供方法であって、
(b)前記機能拡張されたサービスプラットホームにおいて、ユーザから個人識別情報を受信するステップと、
(c)前記個人識別情報を認証するステップと、
(d)前記通信サービス、前記取引及び前記ユーザの口座情報を提供する前記機能拡張されたサービスプラットホームを介し、前記個人認識情報の認証の際に、該通信サービス、該取引及び該ユーザの口座情報のうち少なくとも1つの提供についての要求を、前記ユーザから受け付けるステップと、
(e)前記通信サービス、前記取引又は前記ユーザの口座情報のうち前記ユーザにより要求されたものを該ユーザが受取る権限を有するか、前記個人識別情報と関係付けられた口座が、前記通信サービス又は前記取引のうち前記ユーザにより要求されたものについて十分な支払い能力を有するかを前記機能拡張されたサービスプラットホームを介して検証するステップと、
(f)権限のある前記ユーザに対して、前記通信サービス、前記取引及び前記ユーザの口座情報のうち要求されたものを、前記種類の異なる複数のネットワークの外部にある前記機能拡張されたサービスプラットホームから、該種類の異なる複数のネットワークにおける一以上の交換機又はリモートアクセスサーバをシグナリングにより制御して提供するステップと、
(g)前記通信サービス及び前記取引のうち前記ユーザに提供されたものについて、前記機能拡張されたサービスプラットホームを介して、権限のある前記ユーザの口座に課金するステップと、を含み、
(h)前記機能拡張されたサービスプラットホームは、前記通信サービス、前記取引又は前記ユーザの口座情報を提供するための前記種類の異なる複数のネットワークのそれぞれを制御するよう構成されていることを特徴とするサービス提供方法。

まず、(a)でいう「種類の異なる複数のネットワーク」とは、従属クレームを見るとわかりますが、地上通信回線ネットワーク、無線通信ネットワーク、広域ネットワーク、 グローバル・コンピュータ・ネットワーク、ケーブル・ネットワーク、衛星ネットワークなどです。インターネットだとこの条件は自動的に満足してしまいます。「事前に許可された通信サービス」がiモードに接続サービスに相当するとしているのでしょう。また、「サービスプラットフォーム」((h)で定義されています)は、通信事業者社内の管理システムに相当すると考えられます。

(b)の個人識別情報は元々の明細書では通話カードに書かれたPIN(パスワード)を指していましたがそれが抽象化されています。まあ、たぶん、iモードのパスワードとIDがそれに相当するということなのでしょう。

(c)(d)の認証ステップはやらないわけにはいかないでしょう・

(e)の「十分な支払能力を有するかどうかの検証処理」はどうなんでしょうか?iモード料金はプリペイドではないので関係ない気もします(自分はiモード使ったことないのでわかりませんが、ひょっとしてプリペイド型のサービスもあった?)

(f)明細書をもっと読み込まないと「リモートアクセスサーバをシグナリングにより制御して提供」するという記載の具体的意味がよくわかりませんが、まあ、必須のステップのように思えます。

(g)課金のステップなのでやってないということはないでしょう。

(h)前述のとおり「サービスプラットフォーム」という用語の定義です。

ということで、元々の明細書をここまで抽象化して補正して登録まで持って行ったテクニックはすごいと思いますが、上記の(e)の要件が気になります(プリペイド型のサービスだとひっかかりそうですが)。後は、当然、進歩性、記載要件の議論もあると思いますが、利害関係者でもないのにそんなに時間を使っているわけにもいかないので、このくらいにしておきます。

なんか、大昔にあったインターナショナルサイエンティフィック社の特許の件を思い出してしまいました(なお、この特許は異議申立成立により取消になってます)。ちなみに、同社が今何をやっているのかWebサイトをアクセスしてみたところ、今は「重水素減少水」なるものを売っているようです。

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高い金で買ったMotorolaの特許が無駄になりそうでGoogle涙目(たぶん)

Googleが、2012年に125億ドルという大金でMotorola Mobilityを買収した目的がその特許ポートフォリオの獲得にあったことはLarry Page自身が認めているところです。Motorola Mobilityの特許資産は約24,000件(うち、7,000件は審査中)という数としては厖大なものでした。

この特許ポートフォリオによって、AppleやMicrosoftからの特許攻撃への反撃の武器とするというのがGoogleの思惑だったわけですが、少なくとも現時点ではGoogleにとって残念な状況であると言わざるを得ません。

特に、最近の出来事でGoogleにとってダメージが大きかったのが、Microsoftに対するMotorola由来の標準必須特許(H.264とWiFi関係)に基づいたGoogleの高額なライセンス料要求(年間40億ドル)を認めず、FRAND(公平、合理的、非差別的)なライセンス料として年間180万ドル(機器1台あたり5セント程度)しか認めてくれなかったシアトル連邦地裁の判断です(参照ニュース)。これは、米国の裁判所における標準必須特許のライセンス条件に関する最初の判断であり、今後の同種の判断にも影響を与える可能性が高いです。

FOSS Patentでは「このライセンス料でMotorola買収の元を取るには7,000年かかる」とちょっとシニカルな書き方がされています。FOSS Patentの中の人(Florian Mueller氏)は、OracleとMicrosoftにコンサルティングを提供していたそうなので完全に中立的立場とは言えないですが、Googleの特許戦略のまずさを批判し続けています。GoogleにもAppleにもMicrosoftにもコンサルティングを提供していない(できることならしたいですw)私も、やはりGoogleの特許に対する見方が甘かったというのは同意せざるを得ません。

一般的な考えでは、標準必須特許は重要性が高く、長期的に確実にライセンス収益が見込めるので「良い特許」なのですが、今回のように特定企業(AppleおよびMicrosoft)にプレッシャーをかけるという点では、差し止めも禁止的に高い損害賠償も認められにくいことから有効な武器にするのは難しいです。逆に、1件でも差止めに結びつく強力な(かつ標準必須でない)特許があれば、千金の価値があることになります。

特許資産の価値算定、さらには、一般的に特許戦略というのは難しいものだと思いますが、少なくともAndroidの領域では、社内で独自の技術革新を行なって、それを特許出願しておくという基本を十分に行なってこなかったGoogleが払うツケは大きなものになると思います。

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