Yahooに会社を30億円で売った高校生プログラマーの特許出願が公開されてます

ちょっと前に「17歳で28億円をゲットしたプログラマーは特許出願をしていた」なんて記事を書きました(円安により28億円→30億円になってますが)。ニュース記事のサマリーを自動作成するソフトウェアを開発し、そのソフトウェアを活用したWebサービスの会社(SUMMLY社)をYahooに買ってもらったロンドン在住の高校生ニック・ダロイシオさんの話です。その記事では、

上記から少なくとも2011年9月1日から2011年12月17日の間に何件かの特許を出願したと推定されます。通常、出願内容は出願日から1.5年後に公開されるので、遅くとも今年の6月頃までには公開されるんじゃないかと思います

と書きましたが、予想通り2012年9月11日に国際出願(PCT)されており、先日(2013/05/10)に国際公開されていました(WO/2013/066497)(IPDLと違って固定リンクが張れて便利ですね)。発明の名称は、METHOD AND APPARATUS FOR AUTOMATICALLY SUMMARIZING THE CONTENTS OF ELECTRONIC DOCUMENTSです。発明者は、ニック・ダロイシオさん以外にもいて、全部で4名。国内移行はまだされてません(国際出願すると優先日から2.5年まで国内移行(各国での実体審査の開始)を待てるのでぎりぎりまで待つことはよくあります)。

発明の内容については、遺伝的プログラミング関係らしいということは分かっているのですが、内容を読み込んで理解し、特許性を判断するのはちょっと骨が折れそうです。

さて、このケースのように権利化を急がずとも、特許出願をしておく意味はいくつかあります。第一に、出願しておくことで、その出願日(正確には優先日)以降に出願された同じアイデアが特許化されるのを防げます(後願排除)。第二に、発明者が出願日にそのアイデアを思いついていたことの一応の証拠になります(アイデアをパクった、パクってないの争いが生じた時に有効です)。もちろん、権利化が必要ない場合には、特許出願せずとも、たとえば学術論文等で発表してしまってもよいのですが、特許出願の場合は1.5年間内容を非公開にしつつ、出願日(優先日)時点での権利を確保できる点がポイントです。

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ソーシャルゲーム系企業の特許出願状況を調べてみた

前回の記事で、破壊的イノベーターには特許戦略が重要というような話を書きました。ということで、ゲーム業界における破壊的イノベーターと考えられるソーシャルゲーム系企業の特許出願状況(登録件数、公開件数)がどんな感じになっているかを簡単に調べてグラフ化してみました。

なお、特許は出願してから1.5年経たないと公開されない(出願した事実すらも外からはわからない)のでタイムラグがあります。関連会社で特許出願しているケースや、他社から権利を買っているケースもあると思いますが、カウントしていません。社名表記の揺れによるカウント漏れがあるかもしれません。また、発明のカテゴリーがソーシャルゲーム関連以外のものも含めてカウントしています。その他、さくっと作ったので数え間違いがあるかもしれません。おおまかな比較のためのグラフであると考えてください。

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こうしてみるとDeNAとNHNが突出しているのがわかります(両社はゲーム専業ではないので他ジャンルで出願しているものもの含まれますが)。NHNは韓国本社が特許出願に熱心なようです。サイバーエージェントが1件も出願していないのが不思議です(関連会社経由で出しているのかもしれないですが)。

ステマと言えばステマなんですがw、これからソーシャルゲーム関連分野に参入しようと思っている企業は、既にある特許を調べておくこと、そして、できれば他社と交渉材料にできるレベルの強力な特許を取得しておくことが重要だと思います。

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破壊的イノベーションのワークショップを聴講してきました

クレイトン・クリステンセンHBS教授が創立した戦略コンサルティング会社Innosight社のワークショップ(主催は日本のコンサルティング会社INDEE Japan)を受講してきました(クリステンセン教授本人は来てません)。有償のセミナーでしたが会場(キャパ100名強)は満席、事業会社のキーマンとなる方々が多数出席されていたように思えます。

Innosight社というと拙訳『イノベーションへの解 − 実践編』の著者らがパートナーをやっている会社でもあります。今回の講師はこの著者の人たちではなく、COOのKevin R. Bolen氏という人でした。『〜実践編』も、参考書として受講者に配布されたようです(ところで、この本、翻訳してから5年経ちますが最近になって増刷になりました。長く売れるというのは喜ばしいことです)。

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講師のInnosight社COO Kevin R. Bolen氏と記念撮影(プロジェクタ直撃w、髪の毛ぼさぼさですみませんw)

さて、Innosight社の役割はクリステンセン教授の理論を経営の現場で実践することにあります。収益源にするということもあるでしょうが、理論が現場でどの程度効果的かを検証すると共に、現場の知恵から新たな理論を生み出すというサイクルを回す効果が重要だと思います。他にもたとえばジェフリー・ムーア氏がChasm Instituteというコンサル会社を経営しています。

破壊的イノベーション(disruptive innovation)の概念については改めて説明するまでもないと思いますが、単に「従来の常識を破壊するイノベーション」という緩い意味で使われているケースもあるので、クリステンセン教授が言うところの「破壊的イノベーション」について簡単に説明しておきます。

業界の機能強化競争により、これ以上機能を強化しても顧客が十分に価値を享受してくれなくなったovershooting(「過剰満足」)状態になったときに、機能そのものは必要十分レベルに抑えて、「安い」、「便利」、「使いやすい」などの別のベクトルで攻めてくるプレイヤーが市場を奪うパターンが数多く見られます。これが、破壊的イノベーションです。

たとえば、グラフィック性能の過剰満足状態になっていたゲーム機市場で、グラフィック性能はそこそこだが直感的な操作ができるコントローラーによって破壊的イノベーションを起したのが任天堂のWiiと言えます。さらに、今やWii(というかゲーム専用機市場全体)は、ソーシャルゲームによる破壊的イノベーションで攻め込まれています。

ひさしぶりにこの概念について考えてみて、ちょっと思ったのは破壊的イノベーターと知財管理戦略の関係は重要論点ではないかということです。業界の今までの競争とは違うベクトルで勝負するということは、今までに誰も思いついていないアイデアを活用するということであり、強力な特許を取得できる可能性が高いです。また、破壊的イノベーターが強力な特許を取得しておけば、既存プレーヤーからの反撃に対して圧倒的に強い立場でいられます。実際、任天堂はWiiのコントローラー関連でそれなりの特許を抑えています。

この点をもう少し考察してレポートでも書こうかなと思います(ブログに掲載するにはちょっと長くなるのでKindle100円本にでもしようかなと考えています)。

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【週末ネタ】「コンテンツ特区」ってこういう意味だったのか

ちょっと前にクールジャパン政策関連で出てきた「コンテンツ特区」なるものにどういう意味があるんだろうかと書きました

基本的に、国(行政)と私人の間ではなく、私人と私人の間の権利関係を定める法律である著作権法を政府が地域別に調整することは難しいですし(もちろん、当事どうしが契約で決めることは可能ですが、それは「特区」とは呼べないでしょう)、そもそもコンテンツ制作では地域的制限なしにいくらでもネットでコラボできるのに地域を限定して何か意味があるのかという点が主な疑問です。

「コンテンツ特区」をキーワードにググってみると、札幌コンテンツ特区なるものが、国の認定を受けたようです。その認定申請書(PDF)を見てみると、以下のようなことが特区の実体のようです。

1)映画ロケをやりやすくすることで観光客を増やす

2)観光客に対応できる通訳の育成を支援する

3)セミナーや国際見本市の開催

これ自体は別に悪いことではないですし、どんどんやれば良いと思うのですが、自分が「コンテンツ特区」からイメージしていたものとはずいぶん違うなと思いました。著作権も二次創作もほとんど関係ありません。

また、京都も同様に「コンテンツ産業特区」の申請を予定しているようですが、主な取り組み例として以下が挙げられています。

  • 太秦メディアパークにおいて、クロスメディア展開による新産業創出を図る共同研究開発拠点として「クロスメディア・クリエイティブセンター(仮称)」を創設するとともに、共同事業の支援を行うリエゾン・オフィスを設置
  • 京都国際マンガミュージアムを核とし、町家等を活用してクリエイター人材育成のためのインキュベート施設を整備するなど、「マンガクラスター」を形成

要は「箱物」系の話に思えます。また、国への提案例として、以下が挙げられています。

  • 拠点内でのデジタル・アーカイブ構築及び利用に限り、著作権のフェアユース実現
  • 運用益活用型のコンテンツ振興基金造成への国の無利子(低利子)融資制度の創設

2番目の項目はまだいいとしても、1番目の著作権のフェアユースについては、国(自治体)と市民の関係ではなく、権利者と利用者という私人間の話なので、勝手に許可できるものではありません。また、仮にフェアユースが実現できたとして、その規定を利用して制作された二次著作コンテンツは京都に行かないと見られないということなんでしょうか?(ネットでどこへでも配信できるのでは「特区」ではないと思います)。

やはり「特区」という考え方そのものが物理的場所の制約を受ける従来型産業を前提としたパラダイムであって、デジタルコンテンツ産業との相性はあまりよくないのではという気がします(「インパク」という言葉が頭に浮かびます)。

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依然としてよくわからないダウンロード刑事罰の要件

【再掲】Spotifyを日本で聴く場合の違法性について」でも書きましたが、いわゆる違法ダウンロードの刑事罰化(119条3項)に関する要件が何回条文を読んでもよくわかりません。ということで、立法担当者による逐条解説書(『著作権法コンメンタール別冊平成24年改正解説』)を買ってみました(ところで特・実・商・意の産業財産権法については公式の逐条解説本(通称:青本)が特許庁のサイトから無償でダウンロードできるのですが、著作権法はそういうのがなくて結構お高めの書籍を買わないといけないのがつらいところです)。

119条3項の中でも特によくわからない「(国外で行なわれる自動公衆送信であって、国内で行なわれたとしたならば著作権又は著作隣接権の侵害となるべきものを含む)」の部分ですが、本書でも私が気になるのと同様に「当該国においては著作権を侵害しない自動公衆送信であるものの、我が国著作権法との関係では著作権等の侵害にあたる場合」が問題であるとしており(例示として、外国で著作権満了しているが日本では満了していないパターンが挙げられています(中国では映画の著作物の保護期間が公表後50年で日本は70年なのでこういうパターンはあり得ます))。これについては「条文の文言上はこういった場合も対象とせざるを得ない」とされています。(そもそも、この条文は審議会の検討を経ずに議員修正により立法されたので、立法担当者としても完全にコントロールできていなかったと思われます。)

CD/DVDの違法ダウンロードを警察権力を使ってでも止めたい、「サーバが海外なので」という言い訳は使われないようにしたいという切羽詰まった事情がこういう無理のある条文を生んでしまったという気がします。

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