SixDegrees社のSNS基本特許の意外な所有者について

前回は、強力なソフトウェア特許の例としてマピオン特許について書きました。「次はJ-CAST特許を..」とはてブに書いている方がいました(実際書こうと思っていました)が、ちょっと期待を裏切ってSNS関連特許の元祖のひとつであるSixDegree特許(US6175831)について書くことにします(なお、成立しているのは米国だけなので日本での実施には関係ありません)。

facebook、Mixi、LinkedIn等々の今日のSNSの基本的アイデア、つまり、メンバー間でリクエストを相互承認することで友だち関係を構築し、ソーシャル・グラフを構築していくというアイデアの元になったのが、1997年に始まったSixDegrees.comというサービスです(この名称は世の中の人は誰もが6次以内の関係ででつながっているという説に基づいています)。SixDegrees社はサービス開始前にその基本的内容を特許出願し、2001年1月に成立させています。

この特許 ”Method and apparatus for constructing a networking database and system”(「人脈データベースとシステム構築のための方法と装置」)は、SixDegrees.comのサービスのプログラム仕様書をそのまま明細書にしたよう感じになっています。クレーム1は、以下のようになっています。

A networking database system comprising:
a communication port;
a web server connected to the communication port;
a database containing a plurality of records;
a database server connected to the database for operating on said database;
a database connectivity engine connected to the web server for preprocessing the output of the web server and connected to the database server;
a queue watcher coupled to said database server for queuing outgoing e-mails;
a mail server operatively connected to the communication port to receive incoming e-mails, and connected to said queue watcher to transmit outgoing e-mail; and
a parser connected to the mail server to process incoming e-mails and connected to the database server;
wherein the database server is responsive to the parser processing to manipulate a record in the database, and selected ones of said plurality of records are linked to selected other ones of said plurality of records by a confirmed defined relationship or a denied defined relationship.

(栗原による日本語試訳)
通信ポートと、
前記通信ポートに接続されたウェブサーバーと、
複数のレコードを格納するデータベースと、
該データベースを処理するために該データベースに接続されたデータベースサーバーと、
前記ウェブサーバーの出力を前処理するために前記ウェブサーバーに接続され、さらに、前記データベースサーバに接続されたデータベース接続エンジンと、
外部に送信される電子メールを待ち行列化するために前記データベースサーバーに接続された待ち行列監視手段と、
外部から送信された電子メールを受信するために前記通信ポートに接続され、さらに、外部に送信される電子メールを送信するために待ち行列監視手段に接続されたメールサーバーと、
外部から送信された電子メールを処理するために前記メールサーバーに接続され、さらに、前記データベースサーバーに接続された解釈手段と、を備えた人脈データベース・システムであって、
前記データベース・サーバーは前記解釈手段の処理に応答して、データベース中のひとつのレコードを処理し、
前記複数レコードは、承認済として定義された関係、あるいは、拒絶済として定義された関係によって他の複数レコードとリンク付けされていることを特徴とする人脈データベース・システム

メンバー間でフレンド・リクエストを承認したか、拒絶したかの情報をデータベースに保存していくという点で、SNSの基本特許と言ってよいと思うのですが、クレームが妙に実装寄りの書き方になっており、必要以上に権利範囲を狭くしてしまっているような気がします。特に、電子メールを交換することで友だちを承認することが前提になっている書き方なので、モダンなSNSがこの特許に抵触することはたぶんないんじゃないかと思います(均等論の検討の余地はあるかもしれません)。

さて、興味深いのは、この特許権の所有者です。SixDegrees社はSNSのパイオニアではあったもののビジネスとしてはうまくいかず、2001年に業務停止しています。そして、ドメイン名を含む知財がYouthStream Media Networksという会社に売却され、さらにその後の2003年にこの特許権はオークションでシリコンバレーの2人の起業家Mark PincusとReid Hoffmanに70万ドルで落札されました(参照ニュース)。

この2人の名前に聞き覚えがある人もいると思います。Mark PincusはZyngaの(共同)創業者にしてCEO、Reid HoffmanはLinkedInの(共同)創業者にして会長です。(実効性はちょっと微妙ですが)歴史的な特許が意外な人物の手元にあるということです。

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