【小ネタ】「特許の流し釣り」って..

日経の「米、特許権行使乱用行為取り締まりへ 法改正などで」という記事に、”「パテント・トロール」(特許の流し釣り)”なんて表現がありました。たしかにtrollには「流し釣り」(船を固定しないで行なう釣り)という意味もあるようですが、パテント・トロールのtrollは北欧神話の怪物の意味であると理解していました(橋の下に隠れていて旅人を突然襲う邪悪な存在というメタファー)。(なお、トロール漁船のトロールはtrawlなのでまた別です)。

しかし、確認のためにWikipediaを見てみると、

「トロール」(troll)とは、もともと北欧神話で洞穴や地下等に住む奇怪な巨人または小人を意味し、「怪物」というような意味合いで使われている[1]。また、英語の”troll”には「流し釣り」(トローリング)という意味もあり、「パテント・トロール」はこの意味合いも含んでいるともされる。

なんて書いてあります。この表記の元になっているのはWord Spyという新語の解説サイトで、以下の記述があります。

So a “patent troll” is, officially, someone who fishes around for unused patents, but is also, unofficially, a low, inhuman creature who only uses those patents for litigious purposes.

要は、ダブルミーニングで公式には「流し釣」、非公式には「邪悪な怪物」という意味だそうですが、ちょっと独自の見解という気がします。英語版Wikipediaではこの記載は引用されていません。

また、Googleで”特許の流し釣り”を検索すると4件しかヒットしません(3件は翻訳勉強中の人のサイト、1件が上記の日経記事です)。ちなみに、”特許怪物”だと約600件、”パテントトロール”だと約33,000件ヒットします。

まあ、言葉の定義の話はこれくらいにしておいて、本当に重要なのは記事に書かれた米国のパテント・トロール対策のそのものの話なのですが、今ちょっと時間がないので、本日の深夜にでも改めて書く予定です。

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偽翻訳業者にだまされたでござるの巻

独立以来、弁理士、ITアナリスト、翻訳を収益の3本柱としてやってきたわけですが、翻訳仕事(特に産業翻訳)は、市場環境の変化により条件的にどんどん厳しくなってきたので控えめにしています(もちろん、ビジネス書翻訳、特許翻訳、および、超特急や高品質を求められる付加価値の高い案件については継続的に受けています)。

と言いつつ、ちょっと前に、メールでイギリスの翻訳エージェントから産業翻訳の特急案件の依頼が来て、レートもそれほど悪くない(30分仕事で5,000円くらい)し、その時はヒマだったのでお小遣い稼ぎとして受けてみました(大昔に何社かエージェントに登録してたのでそのうちの一社かと思ってましたし、過去に同じようなパターンで仕事を受けたこともあったので)。その後、その会社から似たような案件を何件か受けて、支払サイクル(1カ月後)が来たので請求書を出しましたが、梨のつぶてになりました。

むむっと思って調べると、思いっきり詐欺だったようです(翻訳詐欺情報サイトに載ってました orz )。ちなみにメアドはwr.linguistics.trans @gmail.comです。Gmailである時点で怪しいのに気づくべきでした(だけど、正規のエージェントでもGmail使ってるところはあるんですよね)。

会社名も正規のもので、担当者名もその会社の実在の人物のもので、メアドだけが違う、要はなりすましです。前述の詐欺情報サイトによると本拠地は中国らしいです(そういえば、英国にいるはずなのに時差関係なしにメールが来るので「どこに住んでるのか?」と聞いたら「イギリスに住んでるけどアジア担当なのでアジア時間に合わせて仕事してる」と返事が来てましたね)。

私の場合は数時間分の作業が無駄になっただけですみましたが、翻訳仕事をメインでやられている方はご注意ください(私は時間がなくて受けてないですが英日の大型の案件も来ていたので、誰か別の日本人翻訳者が被害に遭っている可能性が高いと思われます)。

支払サイクルを長めにしておいて、詐欺情報が公開されると、名前を変えてまたすぐに似たような詐欺を続けるのでしょう。まあ、なかなか防御しにくいですね(実績がないところから受けないことにするといつまで経っても新規チャネルが開拓できないですし)。フリーメールは怪しいとは言っても前述のとおり、正規のエージェントでもGmail使っているところはあります。せいぜい会社に電話をかけて、なりすましでないことを確かめるくらいでしょうか。

追記: いろいろと調べてこの詐欺スキームの全貌が理解できました。

(1)公開されているリアル翻訳者のレジュメのメアドだけ変えてリアル翻訳エージェントに登録して仕事を受ける

(2)受けた仕事をなりすまし翻訳エージェントを通じて、別のリアル翻訳者にそのまんま振る

(3)リアルの翻訳者の仕事をそのままリアル翻訳エージェントに納品して料金をがめる

ということのようです。翻訳原稿にはクライアントの社名が入ってたりしますが、クライアントはリアル翻訳エージェントに仕事を投げて成果物を受け取り、リアル翻訳エージェントは実在のフリーランス翻訳者に仕事を投げて成果物を受け取っているとしか思っていないので詐欺師を突き止めるのは結構面倒そうです(だからこそこのスキームがはびこっているのだと思います)。

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【週末ネタ】他人のiPhoneをスレーブストロボにするAppleの特許出願について

ガジェット速報に「米アップル、iPhoneをiPhoneの外部ストロボにする特許を出願」なんて記事が載ってました(元になった記事はAppleInsider)。USPTOの公開番号はUS20130120636です。

US20130120636A1-20130516-D00000

他人が持っているスマホとWiFiあるいはBluetoothで連動して1台では光量が足りない暗所撮影に対応するというアイデアです。一度テスト撮影を行なって、その結果を見て、各iPhoneの位置に応じて光量を再調整するアイデアがクレームになっています(ストロボ同期のアイデアだけだと進歩性的に厳しいので当然でしょう)。

なお、公開されただけなので登録されるかどうかわかりませんし、登録された場合でも権利範囲が今より狭くなる可能性も十分にあります。

正規の大発明というわけではないですがちょっとナイスな思いつきという感じの発明です。

頭の体操として、似たようなアイデアをちょっと考えてみました。複数のスマートフォンを同期させて1台ではできない目的を達成するというアイデアはないかと考えてみましょう。たとえば、シャッター自身を同期させて、複数のスマホで同一被写体を別アングルから同時撮影すると、映画「マトリックス」でおなじみになったバレットタイム撮影ができるができるのではないかと思いました。

しかし、ちょっと調べてみると、スマホでバレットタイム撮影をするというアイデア自体はNokiaのプロモーションビデオ等で既に公開されてますので、これだけで特許化は難しそうです。プラスアルファのアイデアが必要と思います(なお、もし私が本当にそのようなアイデアを思いついていた場合にはブログには書かず自分で出願します)。

まあしかし、何かおもしろそうなアイデア(特許出願である必要はありません)があった時に、一度抽象化(上位概念化)して、別の応用を考えてみるというのは、特許取得を目指す上での良い思考実験ではないかと思います。

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セールスフォースドットコムの新戦略は「インテンション・エコノミー」と同じ方向性

最近はブログ記事が知財関係ばっかりになっています(その方がPV稼げるので・・・)が、もちろんITアナリスト/コンサルタントとしての仕事もやっています。先日(5/28)は、Salesforce.com社のイベント「Customer Company Tour東京」に取材に行きました。プレスと招待客向けのキャパ約500名の小ぶりな会場(別途、大型中継会場あり)で、マーク・ベニオフCEOのエネルギッシュな講演を聴くことができました。

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「カスタマーカンパニー」は、現在のSalesforce.com社のキー・メッセージです。日本語に訳せば「お客様本位の企業」とでもなるでしょうか?普通は、Customer-Oriented CompanyだとかCustomer-Centric Companyというようなネーミングをすると思うのですが、こういう言い方自体が「顧客」をシステムの構成要素として扱うようなニュアンスを醸し出すので敢えて避けたのではないかと思います。

「企業は”カスタマー革命”を起こして顧客の声を今まで以上に重視できるようにならなければならない」とベニオフCEOは主張します。「(ビッグデータ等を通じて)顧客の行動を分析・予測する」のも大事ですが「(ソーシャル・メディア等を通じて)お客様の生の声を聞く」ことはもっと大事です。後者が「インテンション・エコノミー」(顧客意思経済)の概念です。

そして、「”カスタマー革命”のためには、ソーシャル、モバイル、ビッグデータ、コミュニティ、アプリ、クラウド、トラストの領域でも革命を起こす必要がある」と主張します。これらの中で特に興味深いのは最後の「トラスト」です。顧客の真の声を聴くためには、企業は、顧客に信頼してもらい、ファンになってもらわなければいけないということです。これは、拙訳『インテンション・エコノミー』でドク・サールズが繰り返し主張していたテーゼに一致します。

ベニオフCEOの講演の中では「インテンション・エコノミー」あるいはVRM(Vendor Relationship Management)という言葉は、一度も出なかった(”customer intention”という言い方は何回か出てきました)のですが、その方向性は『インテンション・エコノミー』に驚くほど近いものがありました。

戦略立案している人が本を読んでいるのかもしれないですし、仮に読んでないとしても、今のネットの世界である程度アンテナを張っていれば、「インテンション・エコノミー」は必然的に考えつく方向性ではないかと思います。

前から書くと言っていて延び延びになってしまいましたが、今後何回かにわけて「インテンション・エコノミー」について本ブログで解説していこうと思います。

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「おんせん県」商標の拒絶理由について

大分県が出願した「おんせん県」の商標登録出願に対して拒絶理由が通知され、登録を断念したというニュースがちょっと前にありました。ニュース記事だけでは正確な拒絶理由(根拠条文)がわからず、かといって料金払って書類を閲覧するほどでもないかな〜と思っていましたが、大分県観光課からの「お知らせ」(PDF)に書いてあるのを発見しました。予想通り3条1項6号です。

商標法3条1項6号 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標

「とにかく登録したらまずいだろ」的な商標登録出願に対して通知されることが多い拒絶理由です。たとえば、キャッチフレーズ(ただし、相当のグレーゾーンあり)、「平成」、(飲み屋・スナックの商標としての)「愛」・「純」・「蘭」、等々がその例です。

今回は、「”温泉県”は温泉を多く有している県を紹介する言葉として既に広く使用されていること」、「”おんせん県”という商標は”多数の温泉を有する県”という意味合いにすぎないと判断されること」という理由付けが一応付いてはいるのですが、やはり、商標登録出願に関して大分県と他県がもめていたことから、登録するのはまずかろうという判断がまずは働いたという感じがします。商標法は「創作保護法」ではなく「協業秩序維持法」的な色彩が強いので、このような業界の実情を重視した判断が行なわれることはよくあります。

一般に、3条1項6号の拒絶理由を覆すのは大変ですし、商標を大分県が独占する意図はない的なことを公言しているわけですから、登録を断念したのは適切だったと思います。また、通常はいったん3条1項6号で拒絶されれば、他人が同じ商標を出願しても拒絶されますので、パブリックドメイン的な位置づけで誰も独占できないが、誰でも使える状況に一応はなったのではと思います。

本来的には、大分県は「おんせん県大分」等や大分の地図等を付けてロゴ化した商標として出願をしておくべきだったと思います(まあ、これで権利取れてもあまり意味はないと言えなくもないのですが)。

ところで、群馬県在住の個人が「日本のおんせん県」なる商標を出願しているようですが、これがどう処理されるかはちょっと興味があるところです。(さらに言うと、この出願、指定役務が「広告」になってますが、前も書いたように、これは「広告業」のブランドとして(たとえば、「電通」、「AdWords」等と同カテゴリーで)の商標の使用を独占できるという意味なので、ちゃんと理解された上で指定したのかというもちょっと気になります)。

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