【週末ネタ】他人のiPhoneをスレーブストロボにするAppleの特許出願について

ガジェット速報に「米アップル、iPhoneをiPhoneの外部ストロボにする特許を出願」なんて記事が載ってました(元になった記事はAppleInsider)。USPTOの公開番号はUS20130120636です。

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他人が持っているスマホとWiFiあるいはBluetoothで連動して1台では光量が足りない暗所撮影に対応するというアイデアです。一度テスト撮影を行なって、その結果を見て、各iPhoneの位置に応じて光量を再調整するアイデアがクレームになっています(ストロボ同期のアイデアだけだと進歩性的に厳しいので当然でしょう)。

なお、公開されただけなので登録されるかどうかわかりませんし、登録された場合でも権利範囲が今より狭くなる可能性も十分にあります。

正規の大発明というわけではないですがちょっとナイスな思いつきという感じの発明です。

頭の体操として、似たようなアイデアをちょっと考えてみました。複数のスマートフォンを同期させて1台ではできない目的を達成するというアイデアはないかと考えてみましょう。たとえば、シャッター自身を同期させて、複数のスマホで同一被写体を別アングルから同時撮影すると、映画「マトリックス」でおなじみになったバレットタイム撮影ができるができるのではないかと思いました。

しかし、ちょっと調べてみると、スマホでバレットタイム撮影をするというアイデア自体はNokiaのプロモーションビデオ等で既に公開されてますので、これだけで特許化は難しそうです。プラスアルファのアイデアが必要と思います(なお、もし私が本当にそのようなアイデアを思いついていた場合にはブログには書かず自分で出願します)。

まあしかし、何かおもしろそうなアイデア(特許出願である必要はありません)があった時に、一度抽象化(上位概念化)して、別の応用を考えてみるというのは、特許取得を目指す上での良い思考実験ではないかと思います。

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セールスフォースドットコムの新戦略は「インテンション・エコノミー」と同じ方向性

最近はブログ記事が知財関係ばっかりになっています(その方がPV稼げるので・・・)が、もちろんITアナリスト/コンサルタントとしての仕事もやっています。先日(5/28)は、Salesforce.com社のイベント「Customer Company Tour東京」に取材に行きました。プレスと招待客向けのキャパ約500名の小ぶりな会場(別途、大型中継会場あり)で、マーク・ベニオフCEOのエネルギッシュな講演を聴くことができました。

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「カスタマーカンパニー」は、現在のSalesforce.com社のキー・メッセージです。日本語に訳せば「お客様本位の企業」とでもなるでしょうか?普通は、Customer-Oriented CompanyだとかCustomer-Centric Companyというようなネーミングをすると思うのですが、こういう言い方自体が「顧客」をシステムの構成要素として扱うようなニュアンスを醸し出すので敢えて避けたのではないかと思います。

「企業は”カスタマー革命”を起こして顧客の声を今まで以上に重視できるようにならなければならない」とベニオフCEOは主張します。「(ビッグデータ等を通じて)顧客の行動を分析・予測する」のも大事ですが「(ソーシャル・メディア等を通じて)お客様の生の声を聞く」ことはもっと大事です。後者が「インテンション・エコノミー」(顧客意思経済)の概念です。

そして、「”カスタマー革命”のためには、ソーシャル、モバイル、ビッグデータ、コミュニティ、アプリ、クラウド、トラストの領域でも革命を起こす必要がある」と主張します。これらの中で特に興味深いのは最後の「トラスト」です。顧客の真の声を聴くためには、企業は、顧客に信頼してもらい、ファンになってもらわなければいけないということです。これは、拙訳『インテンション・エコノミー』でドク・サールズが繰り返し主張していたテーゼに一致します。

ベニオフCEOの講演の中では「インテンション・エコノミー」あるいはVRM(Vendor Relationship Management)という言葉は、一度も出なかった(”customer intention”という言い方は何回か出てきました)のですが、その方向性は『インテンション・エコノミー』に驚くほど近いものがありました。

戦略立案している人が本を読んでいるのかもしれないですし、仮に読んでないとしても、今のネットの世界である程度アンテナを張っていれば、「インテンション・エコノミー」は必然的に考えつく方向性ではないかと思います。

前から書くと言っていて延び延びになってしまいましたが、今後何回かにわけて「インテンション・エコノミー」について本ブログで解説していこうと思います。

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「おんせん県」商標の拒絶理由について

大分県が出願した「おんせん県」の商標登録出願に対して拒絶理由が通知され、登録を断念したというニュースがちょっと前にありました。ニュース記事だけでは正確な拒絶理由(根拠条文)がわからず、かといって料金払って書類を閲覧するほどでもないかな〜と思っていましたが、大分県観光課からの「お知らせ」(PDF)に書いてあるのを発見しました。予想通り3条1項6号です。

商標法3条1項6号 前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標

「とにかく登録したらまずいだろ」的な商標登録出願に対して通知されることが多い拒絶理由です。たとえば、キャッチフレーズ(ただし、相当のグレーゾーンあり)、「平成」、(飲み屋・スナックの商標としての)「愛」・「純」・「蘭」、等々がその例です。

今回は、「”温泉県”は温泉を多く有している県を紹介する言葉として既に広く使用されていること」、「”おんせん県”という商標は”多数の温泉を有する県”という意味合いにすぎないと判断されること」という理由付けが一応付いてはいるのですが、やはり、商標登録出願に関して大分県と他県がもめていたことから、登録するのはまずかろうという判断がまずは働いたという感じがします。商標法は「創作保護法」ではなく「協業秩序維持法」的な色彩が強いので、このような業界の実情を重視した判断が行なわれることはよくあります。

一般に、3条1項6号の拒絶理由を覆すのは大変ですし、商標を大分県が独占する意図はない的なことを公言しているわけですから、登録を断念したのは適切だったと思います。また、通常はいったん3条1項6号で拒絶されれば、他人が同じ商標を出願しても拒絶されますので、パブリックドメイン的な位置づけで誰も独占できないが、誰でも使える状況に一応はなったのではと思います。

本来的には、大分県は「おんせん県大分」等や大分の地図等を付けてロゴ化した商標として出願をしておくべきだったと思います(まあ、これで権利取れてもあまり意味はないと言えなくもないのですが)。

ところで、群馬県在住の個人が「日本のおんせん県」なる商標を出願しているようですが、これがどう処理されるかはちょっと興味があるところです。(さらに言うと、この出願、指定役務が「広告」になってますが、前も書いたように、これは「広告業」のブランドとして(たとえば、「電通」、「AdWords」等と同カテゴリーで)の商標の使用を独占できるという意味なので、ちゃんと理解された上で指定したのかというもちょっと気になります)。

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SixDegrees社のSNS基本特許の意外な所有者について

前回は、強力なソフトウェア特許の例としてマピオン特許について書きました。「次はJ-CAST特許を..」とはてブに書いている方がいました(実際書こうと思っていました)が、ちょっと期待を裏切ってSNS関連特許の元祖のひとつであるSixDegree特許(US6175831)について書くことにします(なお、成立しているのは米国だけなので日本での実施には関係ありません)。

facebook、Mixi、LinkedIn等々の今日のSNSの基本的アイデア、つまり、メンバー間でリクエストを相互承認することで友だち関係を構築し、ソーシャル・グラフを構築していくというアイデアの元になったのが、1997年に始まったSixDegrees.comというサービスです(この名称は世の中の人は誰もが6次以内の関係ででつながっているという説に基づいています)。SixDegrees社はサービス開始前にその基本的内容を特許出願し、2001年1月に成立させています。

この特許 ”Method and apparatus for constructing a networking database and system”(「人脈データベースとシステム構築のための方法と装置」)は、SixDegrees.comのサービスのプログラム仕様書をそのまま明細書にしたよう感じになっています。クレーム1は、以下のようになっています。

A networking database system comprising:
a communication port;
a web server connected to the communication port;
a database containing a plurality of records;
a database server connected to the database for operating on said database;
a database connectivity engine connected to the web server for preprocessing the output of the web server and connected to the database server;
a queue watcher coupled to said database server for queuing outgoing e-mails;
a mail server operatively connected to the communication port to receive incoming e-mails, and connected to said queue watcher to transmit outgoing e-mail; and
a parser connected to the mail server to process incoming e-mails and connected to the database server;
wherein the database server is responsive to the parser processing to manipulate a record in the database, and selected ones of said plurality of records are linked to selected other ones of said plurality of records by a confirmed defined relationship or a denied defined relationship.

(栗原による日本語試訳)
通信ポートと、
前記通信ポートに接続されたウェブサーバーと、
複数のレコードを格納するデータベースと、
該データベースを処理するために該データベースに接続されたデータベースサーバーと、
前記ウェブサーバーの出力を前処理するために前記ウェブサーバーに接続され、さらに、前記データベースサーバに接続されたデータベース接続エンジンと、
外部に送信される電子メールを待ち行列化するために前記データベースサーバーに接続された待ち行列監視手段と、
外部から送信された電子メールを受信するために前記通信ポートに接続され、さらに、外部に送信される電子メールを送信するために待ち行列監視手段に接続されたメールサーバーと、
外部から送信された電子メールを処理するために前記メールサーバーに接続され、さらに、前記データベースサーバーに接続された解釈手段と、を備えた人脈データベース・システムであって、
前記データベース・サーバーは前記解釈手段の処理に応答して、データベース中のひとつのレコードを処理し、
前記複数レコードは、承認済として定義された関係、あるいは、拒絶済として定義された関係によって他の複数レコードとリンク付けされていることを特徴とする人脈データベース・システム

メンバー間でフレンド・リクエストを承認したか、拒絶したかの情報をデータベースに保存していくという点で、SNSの基本特許と言ってよいと思うのですが、クレームが妙に実装寄りの書き方になっており、必要以上に権利範囲を狭くしてしまっているような気がします。特に、電子メールを交換することで友だちを承認することが前提になっている書き方なので、モダンなSNSがこの特許に抵触することはたぶんないんじゃないかと思います(均等論の検討の余地はあるかもしれません)。

さて、興味深いのは、この特許権の所有者です。SixDegrees社はSNSのパイオニアではあったもののビジネスとしてはうまくいかず、2001年に業務停止しています。そして、ドメイン名を含む知財がYouthStream Media Networksという会社に売却され、さらにその後の2003年にこの特許権はオークションでシリコンバレーの2人の起業家Mark PincusとReid Hoffmanに70万ドルで落札されました(参照ニュース)。

この2人の名前に聞き覚えがある人もいると思います。Mark PincusはZyngaの(共同)創業者にしてCEO、Reid HoffmanはLinkedInの(共同)創業者にして会長です。(実効性はちょっと微妙ですが)歴史的な特許が意外な人物の手元にあるということです。

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まだ生きているマピオン特許について

日経に「渋谷の街路灯にICタグ300個、サイバーなどが情報配信」なんて記事が載ってます。「サイバーエージェント、シブヤテレビジョン、凸版印刷の3社は、渋谷駅周辺でNFCを使ったO2O(オンライン・ツー・オフライン)型の情報配信サービス”Shibuya Clickable Project”を2013年6月初旬に始める」という内容です。

これに対して国立情報研究所の佐藤一郎教授が以下のようなツイートをされています。

みなさん問題です。なぜサイバーエージェントの位置依存広告サービスに凸版さんも加わっている理由がわかりますか? 理由は日本特許2756483号。(2013年5月24日 – 8:36)

日本特許2756483号の存在すら知らない人や企業は、マジで位置依存サービスには手を出さない方がいい。もっとも国内の位置依存サービスの研究者でも、この特許を知らない人は少なくないわけで、他人事ながら心配になるわけですがね。(2013年5月24日 – 8:41

この特許2756483号こそが日本のビジネスモデル特許の元祖とも言われている「マピオン特許」(大昔にITmediaでやってた自分のブログにも書きました)です。そのクレームは以下のようになっています。

【請求項1】サーバー側からコンピュータネットワークを介して広告情報を供給する広告情報の供給方法において、
広告依頼者の端末に対しては、
広告情報の入力を促す一方、
前記サーバー側に予め記憶された地図情報に基づいて地図を表示して、当該地図上において広告対象物の位置指定を促す段階と、
前記地図上において位置指定された広告対象物の座標を、入力された広告情報と関連づけて前記サーバー側で逐一記憶する段階とを備える一方、
広告受給者の端末に対しては、
前記サーバー側から前記地図情報に基づく地図を表示するとともに、当該地図上の地点であって、記憶された広告対象物の座標に相当する地点に、図象化した当該広告対象物を表示して、所望する広告対象物の選択を促す段階と、
選択された広告対象物に関連づけられた広告情報を前記サーバー側で読み出す段階と、
読み出された広告情報を、前記広告受給者の端末に対して出力する段階とを備えることを特徴とする広告情報の供給方法。

かいつまんで言うと、1)広告主が広告対象物と広告情報を対応づけて入力、2)両者をサーバ上で保存、3)利用者が地図上で広告対象物を選択すると広告を表示、という今では当たり前すぎるくらい当たり前のアイデアです。

これ、よく考えてみると「ビジネスモデル特許」ではなくて、地図情報を使った情報システムの特許ですね(昔はこの辺の言葉の使い方が曖昧でした)。いずれにせよ、かなりシンプル(=強力)な特許なので回避は困難に思えます(ひょっとすると広告情報の入力をインタラクティブではなく自動化されたバッチ方式で行なえば回避できるのかもしれません)。

なお、この特許に対しては2007年に大日本印刷が無効審判を請求し、凸版側が訂正審判を請求して無効を回避しています(上記のクレームは訂正後のクレームです)。事実上、権利範囲をほとんど狭めることなく特許を維持することに成功しています。

この特許は出願日が1995年7月なので再来年には権利が切れます。ライセンス関係がどうなっているかは当事者が開示しない限りわかりませんが、十分に元を取れたのではないかと思います(少なくとも大日本印刷が無効審判を請求したということは何らかの権利行使(ライセンス契約の申出等)があったものと推定されます)。

やはり、ネット上の地図情報サービス、そして、地図情報サービスと広告の組み合わせという考え方がまだそれほど一般化していない1995年というタイミングが重要であったと思います。まさに「潮の変わり目」です。

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