【速報】アップルのバウンスバック特許が無効を回避

FOSS Patentsの情報によれば、再審査においてほとんどのクレームが無効との通知が出ていた(関連ブログ記事1記事2)アップルのUS7,469,381特許、通称、バウンスバック(ラバーバンド)特許ですが、その一部のクレームについて米国特許商標局が意見を再び覆し、一部のクレームが再度有効と判断されました。そして、その有効と判断されたクレームの中に、昨年のカリフォルニア北地裁の判決でサムスンが侵害したとの判決が出ているクレーム19が含まれているそうです。

改めて説明しておくと、バウンスバックとは、リストやページをタッチでスクロールしていって最終の位置に達するとそれ以上先に行きそうで行かない状態になり、指を離すと跳ね返ったように戻るという、iOSデバイスで典型的な挙動です。ページやリストの終わりを直感的にユーザーに知らせられる優れたUXだと思います。

サムスン的には持ち上げられて、また落とされたという感じでしょうか。と言いつつ、カリフォルニア北地裁判決での賠償金額の大部分は意匠権に関するものであり、本特許に関連する賠償金額は(相対的には)それほどでもないこと、および、現行製品は別の(ちょっと変な)UIを使用してバウンスバック特許を回避していることから致命的打撃というわけではないと思います。

バウンスバック特許は以前にも再審査を受けており、そこでも有効と判断されていることから、有効性についてはかなり堅い特許になったと言えそうです。

この記事は空港の待ち時間で書いているので細かい話は追って追加しますが、アップル対サムスンのガチンコ勝負の先行きはまたわからなくなってきました。私が先日傍聴した日本における同等特許(4743919号)の無効審判の審決もそろそろ出る頃ですが、そちらもどうなるか興味津々です(タイミング的に米国の再審査の結果が影響を与えることはないでしょうが)。

個人的に言えば、バウンスバック特許は「言われてしまえば当たり前だが言われるまで気がつかなかった」、「あるとないとでは大違い」、「実際に権利行使できた」という点で価値が高い特許であるとブログに書いたり、セミナーで話してたりしたいたので、無効ということになるとちょっとカッコ悪かったわけですが、そのような事態は回避されそうでよかったです。

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【速報】ついに出てしまった非破壊型書籍スキャナーScanSnap SV600

ScanSnapの新モデルが出たということで「この前出たばっかりなのに..」と思ったらなんと非破壊型(裁断なしで本を開いたままでスキャンできる)でした(参照記事)。

(写真はPFUのサイトより)

見開きにした本の湾曲を自動的に補正する「ブック補正」や、スキャン時にページをめくったことをセンサーで自動検出し連続スキャンできる「ページめくり検出」機能などが用意されており、高品質なスキャンデータを簡単に制作できる。読み取り速度は1枚当たり約3秒以下。

だそうです。300ページの本だと見開きでスキャンして約7分、ちょっと面倒ですが、ただページをめくっていくだけの作業なので音楽でも聴きながらやればすぐできそうです。少なくとも通常のフラットベッドスキャナーでスキャンするよりははるかに楽です。価格は59,800円、時がたてばもっと安くなるでしょう。大きさは210(幅)×156(奥行き)×383(高さ)ミリ、重量は約3キロなので、それほどかさばるわけではありません(はっきり言って裁断機の方がかさばります)。

自炊したくとも本を裁断するのがはばかられるケースも多いと思いますので、このような商品を待ち望んでいた人も多いのではないでしょうか?

この手の製品は今までもありましたが、自炊電子書籍用のスキャナーとして使うには画質の点で問題があったようです。しかし、今回の製品はScanSnapのブランドで出すのですからその辺は大丈夫でしょう(私は、一応、誰かの実機レビューを待ってから買いますが)。

では、この製品が著作権法的に見てどうなのか検討してみます。

著作権法的に言うと裁断するかしないかは関係ないので、従来型スキャナーであっても、非非破壊型スキャナーであっても複製は複製ということになります。つまり、自分で使う目的で自分でスキャンする分には合法、サービス事業者が他人のためにスキャンするのは現状のスキャン代行業と同じで(権利者の許諾がない限り)違法の可能性が高いということになります。なお、本が自分の所有物である必要はありません。

非破壊型スキャナーで問題になり得るのは、著作権法30条(私的使用目的複製)の例外になっている「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器を用いて複製する場合」のさらに例外として附則5条の2で「当分の間、これらの規定に規定する自動複製機器には、専ら文書又は図画の複製に供するものを含まないものとする」とされているので、たとえば、中古本買取店の店頭に非破壊型スキャナーを置いて客がスキャンしたらすぐ原本を買い取る商売も(倫理的問題は別として)著作権法上はOKになってしまいます。カラオケ法理によって店が複製の主体とされる可能性はありますが、だとしてもパチンコの3店方式のようにすれば回避されてしまうでしょう)。

附則5条の2を廃止せよと言う話は前からありましたが、再燃する可能性もあるかと思います。

もちろん、仮に店頭使用が違法になったところで、自分の家でのスキャンを禁止することはできないので、本を買ってスキャンして元の本を中古書店に売って(以下繰り返し)は合法的に行えます(これまた倫理的問題は別)。今までも裁断本は同じことができていたわけですが、今回はページをめくっただけのさらの本でできてしまうので影響は甚大でしょう。

初めて消費者向けのCD-Rライターが登場したとき、レコード業界の中の人が「悪魔の機械」と呼んだのを(リアルに聞いたのを)覚えていますが、出版業界の中の人にとって非破壊スキャナーも同じではないかと思います。

では、どうすればよいかというと、手元に原本を置いておきたくなるような装丁の本を作る、電子書籍を安くする(スキャンしてOCRする手間とOCRエラーを加味すれば、電子書籍を買った方が得という価格設定にする)、そして、やや禁じ手ですがフィジカルなおまけをつけるくらいしかないのではないかと思います。

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NetAppのクラウド戦略について(1)

今、シリコンバレーのNetApp本社で開催されているアナリストイベントに来ています。

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以降、何回かにわけてNDAに違反しない範囲で同社の戦略のポイントを分析していこうと思います。ストレージというと地味な印象もありますが、実は非常にエキサイティングな分野のひとつであります。そう言えば、ちょっと前にPublickeyの新野さんと立ち話した時に「今、エンタープライズIT分野でおもしろい分野はどこでしょうかね?」という質問に「ストレージですかねえ」なんて答が帰ってきたりしましたね。

さて、NetAppが挙げるストレージの重要トレンドは以下のとおりです。

  1. フラッシュ
  2. SDDC(Software Defined Data Center)
  3. クラウド
  4. コンバージド・インフラストラクチャ
  5. モバイル
  6. ビッグデータ

です。特に、クラウドにおける同社の戦略には興味深いものがありました。戦略の内容そのものについて触れる前に、一般的にエンタープライズにおけるクラウドの計画でストレージがきわめて重要である理由について述べておきましょう。

簡単に言えばコンピューティングの移動は簡単だがデータの移動では簡単ではないということです。

たとえば、クラウド上でHadoopを使って2TB のデータを1分で処理できるソリューションがあったとします。これを使ってオンプレミスのシステムをオフロードできるかもしれないと思っても、分析対象のデータがオンプレミスにあったとすれば、クラウドへの2TBデータの移動だけで半日以上かかってしまいます。データの処理が1分でできてもあまり意味はないですね。世界中どこでも処理ができるのがクラウドのポイントですが、大量データが絡むと現実的にはそういうわけにはいきません。

結局、データそのものをクラウドに置くか、それともオンプレミスとクラウドの両方に置くか(この場合両者の同期をどう取るかという新たな課題が生じます)、さらには、Hadoopの処理をクラウドでやるのはあきらめてオンプレミスでやるか(サーバの調達の問題が生じます)、等々の代替案を入念に検討する必要があります。

つまり(大容量のデータを使わない科学技術計算等をのぞき)エンタープライズのクラウドの全体設計においてはデータの配置がきわめて重要であり、その結果として、データの入れ物であるストレージでどのようなソリューションを使うかということが、重要な意思決定要素になることになるというわけです。

この領域で、NetAppが具体的にどのようなソリューションを提供しているかについては次回に書きます。

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批評のためにブログでCD音源を引用したらどうなるのか?

日本の著作権法における権利制限(許諾なしに利用できること)のひとつとして「引用」があります。

第三十二条 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

ここで、「公正な慣行」とは、(1)正当な範囲内であること、(2)本文と引用部分主従関係が明確であること、(3)引用部分が明確になっていること、などであるとされています。(加えて48条による出所の明示の要件があります)。

これをそのまま解釈すると、ブログ等でヒット曲の歌詞の一部を引用して批評したりすることは問題ないように読めます。しかし、過去においては、JASRACは管理曲の歌詞の無断掲載をたとえ一部であっても認めない方針でした(昔のレコードのジャケットに書いてあった「無断で録音することを禁じます」と同じで法律的な根拠がない表示であったと言えます)。

しかし、「いつの間にかJASRACの「引用」の定義が変更されていた件について」というブログ記事によれば、JASRACのWebサイトのFAQが変更され、上記の著作権法上の要件に合致するようであれば歌詞も引用できるとの方針に変わったようです(いつ変わったかは不明)。

(旧)部分的なご利用であってもその曲と特定できる形でのご掲載であれば、一般的には許諾が必要な利用となります。

(新)歌詞の一部の引用については、著作権者の許諾を得ることなく利用することができます。

もちろん、歌詞をほとんど全部掲載して、最後にちょこっと自分の感想を書くというようなのは公正な慣行に合致しているとは言えず論外ですが、一部を引用して感想を書くという小説等であれば昔から普通に出来ていたことが歌詞に対してもできる(今までも法解釈的には問題なかったわけですが)ことが明らかになったのは喜ばしいことです。

ところで、上記の32条の規定は、102条1項においてレコード製作者の著作隣接権(通称、原盤権)にも準用されています。

ということは、CD音源の一部をブログ、インターネット放送、投稿動画等で引用して、「このサビ最高」といった批評や、この曲の出だしはこの曲が元ネタになっているのではというような研究成果を書く(言う)のも問題がないように思えます(実際にやってレコ協に怒られても責任は持ちませんが)。

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【速報】サムスンが標準必須特許でiPhone旧機種の米国輸入禁止をゲット

アップルとの特許戦争では不利な状況にあったサムスンですが、米国時間の6月4日、ITC(米国国際貿易委員会)により、iPhoneとiPadの旧機種の米国への輸入・販売禁止命令という有利な決定を勝ち取りました(参照記事1(ロイター)、参照記事2(MacRumors))。

対象となった機種は、iPhone4、iPhone 3GS、iPhone 3、Pad 3G、iPad2 3G(いずれもAT&T向けモデル)です。なお、命令は直ちに有効というわけではなく、今後オバマ大統領による審査もありますし、アップルによる不服申立のプロセスもあります。アップルにとって致命傷ではないですが、厳しい措置と言えます。なお、今後、仮に裁判所においても特許侵害が認定されて、過去の行為に対する損害賠償というようなことになると、アップルにとってはさらに厳しい状況になります(注:ITC は輸出入を司る行政機関であって裁判所ではないので損害賠償を命じる権原はありません。)

この特許(US7,706,348)ですが、CDMA間連の標準必須特許(SEP)のようです。もちろん、アップル側はFRANDの抗弁をしているわけですが、ITCには「FRAND宣言をしていることは、限定的な差止め命令を妨げるものではない」と一蹴されているようです。ちょっと前の米国の地裁判決や多くの識者の意見に反するところであり、意外な判断と受け止められているようです。

なお、この米国特許の元になったPCT出願(国際公開番号WO0103366)は日本にも国内移行され登録されています(3987508号「通信システムの伝送率情報復号化装置及び方法」)(米国特許と権利範囲が同じとは限りません)。特許の中身については私は専門外なのでよくわかりません。

なお、この国内特許に基づいて日本で訴訟が行なわれているかどうかは、日本では裁判情報がほとんど公開されないため、当事者が発表しない限りわかりません。

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