IBMの短縮URL特許が強力すぎる件(そしてその強力な武器はtwitter社の手に!)

IBMがtwitterとクロスライセンス契約を結ぶと共に同社に特許権900件を譲渡したというニュースがありました(IBMのプレスリリース)。

ITmediaの松尾公也さんにご指名受けたので簡単に解説します。

Twitter社のIPOに先だってIBMが3件の特許権に基づき警告していたのが、裁判外で和解という話です。(Apple vs Samsungのように法廷でガチンコになるのは例外的で、当事者納得の上の和解が特許紛争のあるべき解決策です)。

今回、IBMが権利行使しようとした特許は3件ありますが、特に注目すべきがUS6957224 ”Efficient retrieval of uniform resource locators”(効率的なURLの取得)、つまり短縮URLの基本特許です(残りの2件についても時間があったら解説します)。そのクレーム1は以下のようになっています(翻訳は栗原によります)。

1. A method of providing links to remotely located information in a network of remotely connected computers, said method comprising:

a) associating a shorthand link to each of a plurality of uniform resource locators (URLs) by

i) requesting registration of a URL;

ii) selecting an unused key; and

iii) pairing said selected key with said URL as a shorthand link;

b) logging associated shorthand links in a registry database;

c) searching said registry database for a shorthand link associated with an URL responsive to selection of said shorthand link; and

d) for each found said shorthand link, fetching said associated URL.

リモートで接続されたコンピューターのネットワークにおいてリモートに位置する情報へのリンクを提供する方法であって、

a) 以下の方法により複数のURLのそれぞれに短縮リンクを対応づけるステップ、

i) URLの登録を要求するステップ、

ii) 未使用のキーを選択するステップ、および、

iii) 前記選択されたキーと前記URLとを一組にするステップ

b) 対応づけられた短縮リンクをレジストリデータベースにログするステップ、

c) 前記短縮リンクの選択に応じてURLに対応づけられた短縮リンクを前記レジストリデータベース内で検索するステップ、

d) 発見された前記短縮リンクのそれぞれについて対応するURLを取得するステップ

を含む方法。

余計な限定がかかっておらずかなり範囲が広いです。短縮URLのサービスをやろうと思うとこうせざるを得ないのではないかと思います。twitterに限らずあらゆる短縮URLサービスが抵触するのではないかと思います。

この特許の出願日は2000年9月ですが、Wikipediaによると最初の短縮URLサービス登場が2001年なので、そのものずばりの先行技術を探すのも困難そうです。

一般に、権利行使された側から言うと2000年前後に出願された特許は以下の理由によりやっかいです。

1) のドットコムバブルに伴う「アイデアのカンブリア爆発」により、2000年前後には多くのアイデアが公知になりましが、逆に2000年より前の時点では、今では当たり前になっているアイデアが実はまだ生まれていないことが多いです。

2) 多様な情報がウェブに載っている現在とは異なり、2000年以前はまだマニュアルや雑誌などの重要情報が紙で残されていることが多いです。また、当時のウェブページの多くは現在は残っておらずInternet Archive(Wayback Machine)に頼ることになりますが、イメージやJavaScriptはアーカイブされておらず当時のサイトを再現できないことが多いです。その結果、無効にするための証拠を探すのが困難です。

3) 出願日が2000年だと権利は2020年まで続きますので権利切れを待つのも非現実的です。

今回のtwitterとIBM間の契約条件の詳細は公開されていませんが、IBMにとってかなり有利な条件での取引だったのではないかと推測されます。

IBMは今回のような取引を過去にも行なっています。2011年にはGoogleに約1,000件の、2012年にはfacebookに約750件の特許を売却しています(参考記事1参考記事2)。なお、特許権を売却しても通常は逆ライセンス契約を結びますので、IBMが売った特許権でIBMが訴えられるということはありません(IBM自身が特許権者として権利行使できなくなるだけです)。

IBMは世界最大の特許出願数を誇る企業なわけですが、ただ出願・保有しているだけではなく、しっかり「知財で稼いでいる」ということがわかります。

追記:米国特許庁の特許権譲渡データベース(Patent Assignment DB)を見ると既にIBMからtwitterへの特許権譲渡が行なわれているのがわかります。このデータベース、情報が早いのはよいのですが、検索パラメーターを一時点でひとつしか入れられないという極悪仕様なので、”Assigner=IBM AND Assignee=twitter”という検索ができず、譲渡された900件の特許をリストするのは困難です。(追記:twitterで「reel/frameに”032075/0404″で検索できるのでは」との指摘を受けました。五月雨式に譲渡が行なわれてると無理ですが、今回は一括で譲渡されているようでIBMからtwitter社への譲渡特許が943件(短縮URL特許も含む)表示されます(ただし、これですべてかどうかは確実ではありません))。

しかし、特許番号単独でキーにして検索することはできるので、上記の特許6957224号がどうなったかを見てみると何と昨年末にtwitter社に譲渡されてました!IBMとしてはこの特許はtwitter社にライセンスするだけで自社でキープすることもできたのですが、譲渡する道を選んだわけです(権利行使した特許権が譲渡された900件に含まれていたかどうかはプレスリリースからは明らかではありませんでした)。

これが何を意味するかというとtwitter社がこの強力な特許権を使って他の短縮URLサービス事業者に権利行使できるようになったということです(bit.lyさんはご愁傷様です)

なお、IBMがtwitterに権利行使した3件の特許のうちの残りの2件(7072849 ”Method for presenting advertising in an interactive service”、7099862 ”Programmatic discovery of common contacts”)については、IBMはtwitter社に売却せずキープしています。

追記^2: この記事に関する他人のツイートで思い出しましたが、twitter社はIPA(Innovator’s Patent Agreement)という企業と社員間の契約を提唱し、特許権は基本的に防衛目的にのみ使用し、社員の発明に基づく特許権を行使する際には発明者である社員の了承を得るという意図を表明しています。ただし、IPAはあくまでも企業とその社員間の契約なので、今回のように他社から購入した特許権には適用されないと思われます。また、発明者が了承すれば防衛的でない権利行使も可能です。とは言え、twitter社が企業ポリシーとして特許権行使には消極的であるとは言えると思うので、上記の「bit.lyさんご愁傷様」はちょっと言い過ぎだったかもしれません。

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【実務者向け】払わなくてもいい電子化手数料を払いそうになったけどやっぱり払わなくてよかった件

今では特許庁とのやり取りのほとんどはインターネット出願ソフト経由なわけですが、紙で手続きするとスキャンとOCRの手数料として1200円+700円×ページ数というけっこう極悪な電子化手数料を取られます(弁理士に委任せず個人で直接出願される方はご注意ください、商標登録出願でも取られます)。

もちろん委任状提出のように現物の提出が必要な場合はさすがに電子化手数料は取られません。しかし、先日ちょっとした不注意で電子化手数料を請求されてしまいました。

出願Aに国内優先権を主張して出願Bを行なう場合に、出願Aに国内優先権を主張するための特別の授権を意思表示した委任状の提出が必要なのは周知だと思います。加えて出願Bに国内優先権を主張して新たな出願を行なう可能性もないわけではなかったので、出願Aと出願Bに国内優先権主張の委任状を作成して、クライアントに捺印してもらいました。そして、2通の手続補正書と共に特許庁に提出しました。つまり、以下の3書類を提出しました。

委任状(出願Aと出願Bに対する国内優先権主張の授権)
手続補正書1(出願Aに委任状追加)
手続補正書2(出願Bに委任状追加(出願A用に提出した委任状を援用))

そうすると、手続補正書1の方は問題ないのですが、手続補正書2の方に対して電子化手数料1900円(1ページ分)を支払えと言う振り込み用紙が来てしまいました。

要は、委任状追加のための手続補正書はどっちにしろ現物提出が必要なので電子化手数料は不要、しかし提出済みの委任状を援用する手続補正書2の方はインターネット経由でも手続可能なところを敢えて紙で出すのだから電子化手数料を払えというロジックのようです。この点は特許庁のサイトの電子化手数料の納付を必要とする手続一覧の注1にしっかり書いてあります。昔読んで納得してた気はしてたのですがうっかりしてました。

手続補正書2をインターネット出願ソフトで提出する、あるいは、委任状を一緒にしないで出願A用と出願B用に作っておけば電子化手数料は発生しなかったことになります。

勉強代だと思って自腹で払おうと思いましたが(さすがにクライアントには請求できません)よくよく考えてみると仮にこの電子化手数料を払わなくても補正の手続が却下されるだけです(工業所有権に関する手続等の特例に関する法律70条)。したがって電子化手数料は払わないで、別途インターネット出願ソフト経由で手続補正書2を提出すれば問題ありません。まあ、ほめられたやり方ではないかもしれませんが今後気をつけますということで、請求を無視というやり方を取ることにしました(以前の記事でも書きましたが支払い請求が来てるのを意図的に無視するのはちょっと抵抗ありますね)。

追記:念のため特許庁に確認してみました。雰囲気的にはあまりほめられた話ではないがしょうがないですねという感じでした。ただし、支払督促が来て実際に却下になるまでには数ヶ月かかるのでその間は処理が進みませんと言われました。今回は、PCT出願での国内優先権主張の委任状提出であり、国内移行するまでは関係ない話(仮に提出されていなくても追完すればすむ話)だったので、支払わない策を取ることといたしました。また、支払わなかった事実は包袋に履歴が残ってしまいますのでちょっとかっこ悪いというデメリットもあります。

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【小ネタ】小保方晴子さんのSTAP細胞の特許出願が公開されています

#自分の知識では技術的内容に踏み込めないので小ネタ扱いですみません。

今話題の「リケジョ」小保方晴子さんのSTAP細胞ですが、当然ながら特許出願されています。昨年4月に出願され、10月に公開されたPCT出願”GENERATING PLURIPOTENT CELLS DE NOVO”(PCT/US2013/037996)が少なくともその一つです。米THE BRIGHAM AND WOMEN’S HOSPITAL, INC.、理研、東京女子医大の共同出願で、小保方晴子さんが発明者の一人としてクレジットされています。まだ、どの国にも国内移行されていないので実体審査は始まっていないようです。

クレーム1は以下のようになっており、めちゃ広いです(もちろん、従属クレームでいろいろな限定がかかってますが)。このクレームで権利化できたらどえらいことですね。

1. A method to generate a pluripotent cell, comprising subjecting a cell to a stress.(細胞にストレスを与える手順を含む多能性細胞の生成方法)

特許出願の具体的中身については自分の知識ではまったくコメントできませんので、この分野の専門家のご意見を期待しています。

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【速報】グーグルがモトローラ事業をレノボに売却(特許資産はキープ)

レノボがIBMのPCサーバ事業をを買収したと思ったら、今度はグーグルからモトローラ事業を買収です(参照記事)。グーグルは2011年にモトローラ事業を1兆円(今のレートだと1.2兆円)で買って3000億円で手放したことになります。

しかし、グーグルは携帯電話事業は手放しても特許ポートフォリオの大部分は維持するようです(参照記事)。約24,000件の特許資産のうち、レノボにも約2000件の特許権が譲渡されるようです。おそらく、携帯電話の製造等に直接関わる特許権(レノボにとっては必須だがグーグルは持っていてもしょうがない特許)なのではないかと推測します。また、商標権もレノボに譲渡されるようですがこれも当然です。

グーグルとしてはモトローラ買収のもともとの目的が特許資産の入手だったので今回の売却も想定内の行動だったのではないかと思います(TechCrunchの記事によるとずっと売りたかったけど税法上の理由によりすぐには売れなかったそうです)。旧世代の製造業を所有していてもグーグル的にはあまりメリットはありません(参考ブログ記事「「MotorolaにはGoogleだったら絶対採用しなかったであろう社員があふれている」:問題山積みのGoogrola」)。さらに、Androidのエコシステムという観点から言っても、Googleが携帯ハードウェア事業を維持しているのは事態をややこしくします。

と言いつつ、グーグルにとってモトローラの特許資産が本当に有効だったかどうかも微妙なところでもあります(参考ブログ記事「高い金で買ったMotorolaの特許が無駄になりそうでGoogle涙目(たぶん)」)。ただ、少なくともクロスライセンスにおける交渉材料としては有効かもしれません。

とまあ紙上で書いている分には合理的行動なのですが、1兆円で買ってすぐ3000億円で売る決断を下せるグーグルの意思決定能力はすばらしいと思います。

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加圧トレーニングの特許権は期間満了しています

SankeiBizに「【講師のホンネ】富澤正 加圧トレーニングはなぜ高いのか!?」なんて記事が載っています。加圧トレーニングは特許権で守られているためと説明されています。

しかし、以前に本ブログでも書いたように、当該特許権(2670421号)は昨年の11月22日で出願日から20年経過したことにより存続期間満了しています。なぜか、記事中ではこの点に触れられていません。image

今まで加圧トレーニングの方法を独占できた特許権の価値はきわめて大きかったと過去形で書くのなら良い(強力な特許権の価値を示す良い事例だと思います)のですが、以下の記載のようにこれから先もライセンスなしで実施すると特許権侵害で訴えられるような書き方は誤解を招くと思います(念のため書いておくとこの記事の日付は本日(2014年1月29日)です、ひょっとして大昔に書いた記事を再掲したのでしょうか?)。

それは、加圧ジャパンが加圧トレーニングについて特許権を持っているからです(特許第2670421号)。加圧ジャパンが認定していないトレーニングスタジオで加圧トレーニングを行うと、トレーニングスタジオは特許権侵害として訴えられます。

なお、記事中では「加圧トレーニング」「加圧ヨガ」等々の商標権が抑えられていることも書かれています。「加圧トレーニング」は普通名称化しているので商標権の効力は及ばないのではないかとの議論はありますが、それがどうであるかにかかわらず、たとえば、「コンプレッショントレーニング」等々、非類似の商標を使って、加圧トレーニングの方法を使った商売を行なう分には問題ありません。

なお、この特許は無効審判が請求されて(訂正の後)無効ではないとされ、その後、審決取消訴訟が起こされてやはり無効ではないとの判断がされています(その後、最高裁に上告という話でしたがどうなったかは不明)。いずれにせよ、無効かどうかはライセンシーに支払済みのライセンス料が返還されるかどうかには関係してきますが、去年の11月で特許権消滅という点には変わりはありません。

もちろん特許権者である加圧ジャパン(および、そのライセンシー)は今までの経験でノウハウの蓄積もあると思うので、それによって差別化を提供することは十分可能と思いますが、特許による独占状態はもう終わりです。一定期間の独占を許すことで発明者に発明(およびその公開)のインセンティブを与え、その一定期間経過後は自由技術とすることで産業の発達を促進するのが特許制度なので当然です。

追記:SankeiBizの当該記事には載ってないのですが、加圧ジャパンのサイトを見ると、改良特許が成立しているようです(5255722号)。加圧ベルトに制御装置を設けて加圧と除圧を繰り返すことで効果を上げることがポイントになっています。出願が2012年なので当面権利は存続しますが、今まで通りのシンプルな加圧ベルトを使ったトレーニング方法にはこの特許権は及びません。

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