それほど重要な話ではないSamsungとGoogleの特許クロスライセンス

ITmediaに「GoogleとSamsung、広範な特許クロスライセンス契約を締結」という記事が載っています(一瞬AppleとSamusungに空目してびっくりしてしまいました)。実は、これはそれほどたいした話ではありません。

両社が現在保有しているものだけでなく今後10年間で取得される特許も対象になるようですが、それ以外の条件は公開されていません。クロスライセンスとは、要するに両社がお互い特許権を権利行使しない(訴えない)約束であって、そもそもGoogleとSamsungが互いを訴えることはどちらにしろ考えにくいので、このクロスライセンス契約は「SamsungとGoogleは(少なくとも今後10年間は)仲間だよ」ということを対外的にアピールするだけにすぎないと言えます。

Apple(およびMicrosoft)からの特許攻撃に対する防御という点ではこのクロスライセンス契約はほとんど関係ありません。そもそも、特許権を所有していることは他人の特許権を侵害しない保証にはなりません(ちょっとややこしい話ですが、当ブログの過去記事「【超入門】高度な技術を使っても特許侵害が回避できるとは限らない」)を参照してください)。また、特許訴訟に対する対抗措置として逆訴訟する場合でも、原告になれるのは特許権者であってライセンス先ではありません。

FOSSPatentsでは「SamsungとAppleの和解がうまくいきそうにないのでアドバルーンを上げたのでは?」との憶測が書かれていますが、ちょっと考えすぎじゃないかと思います。

また、これもFOSSPatensに書いてある話ですが、クロスライセンスの範囲がAndroid以外(典型的にはTizen)にも及ぶものであるとするとちょっとおもしろいことになりそうですが、契約内容の詳細が公開されていないので何とも言えません。

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スマートウォッチのキラーアプリケーションを見つけた(自分だけ?)

#今年はITの視点からも知財の視点からもウェアラブル関係のネタをいろいろと書いていきたいと思います。ブログのカテゴリーに「ウェアラブル」を追加しました。

WiredにSamsungのスマートウォッチGalaxy Gearの返品率が3割という記事が載ってます。対応しているアプリやスマホが少ないのが原因であろうとされています。

そもそも、スマートウォッチは話のタネになったりガジェットオタクの物欲を満たす以外に何かスマートウォッチならではの本当に役に立つ使い道、要するにキラーアプリケーションはあるのかという議論はあります。本ブログでもちょっと前に「スマートウォッチのキラーアプリケーションを考える」なんて記事を書きました。どんなテクノロジーもそうですがキラーアプリケーションがなければスマートウォッチは絶対普及しないでしょう。

それからつらつらとキラーアプリケーションを考えてみたのですが、ボイスメモって結構ありかもしれないと思い始めてきました。

思い返せば、大昔(まだ携帯電話がないころ)自分はカシオのDATABANKのボイスレコーダー付モデルを使っていた時機がありました。たとえば、電話番号メモしたりする代わりに録音したり、出先で急にアイデアを思いついた時に録音したり等々、それなりに便利に使えていました。

どうしてそんな昔の話を急に思い出したかというとfbのフレンドがランニングにボイスレコーダーを持って行って走ってる間に浮かぶアイデア(脳が活性化されるので斬新なアイデアが生まれそうなのはわかります)を録音してるなんて話を見たからです(ランニング終わってからメモ取ろうとしても忘れちゃってるそうです)。

ランニングに限らず普段の生活でスマートウォッチにボイスメモをどんどん録音できるのは便利かもしれません。バッテリーに対する影響も最小限だと思いますし。別にスマホで録音してもよいのですが、スマホを出してアプリを立ち上げるというステップがなくて済むのはだいぶ違います。iWatchにもボイスメモ機能が入っていることに期待してしまいます。

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Apple対Samsung裁判でまたAppleに有利な判決

もう一般の人はそろそろ飽きているのではないかと思います(もちろん当事者にとっては大変な話です)が、Apple対Samsungの特許訴訟(北カリフォルニア地裁の2回目)で、またAppleに有利な略式判決(最終判決の前の暫定的判決)が言い渡されました(参照記事(CNET)「サムスン、アップルのオートコンプリート関連特許を侵害–米裁判所が認める」)。

まず、Appleの米国特許8074172(Method, system, and graphical user interface for providing word recommendations: 単語の推奨を行なう方法、システム、および、グラフィカルユーザーインターフェース)をサムスン製品が侵害していると判断されました。通称「オートコンプリート特許」、iOSデバイスでの英文入力で使われる入力補助方式に関する特許です(今は仕様が変わってこういう風にはなってないですね)。おそらく、日本では同等特許は成立していないと思われます。

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Appleが権利行使しているクレーム(クレーム18)のポイントを大ざっぱに書くと、入力画面とは別に候補画面に複数の候補を表示し、1)キーボードで区切り文字(スペース等)を入力すると最有力候補が入力される、2)あるジェスチャー(候補のタッチ)によりその候補が入力される、3)別のジェスチャーで候補が無視される、といった感じです。

侵害が認定されただけなので有効性の議論は残ります。匿名による(とは言ってもSamsungかGoogleによるのは見え見えですが)再審査が別途進行中です。優先日(実質出願日)が2007年でそんなに古くないので先行技術はありそうなしますが何とも言えません。

また、Samsungの米国特許7577757(Multimedia synchronization method and device:マルチメディア同期の方法とデバイス)が無効とされました。

この略式判決は、現在、進行中と言われているAppleとSamsungの和解協議にも影響を与えると思います。もう、Samsung的には金を払って早く解決したい、問題はいくら払えばいいかだというモードに入っているのではないかと推測します。

これに関して「アップル、コピー禁止条項の盛り込みを要求–対サムスン和解協議」という記事がCNETに載っています。ライセンスするのにコピー禁止というのはわかりにくいですが、原文記事では「コピー禁止」は”anti-cloning”です。要はライセンスはするけど、外観や機能の丸コピー製品は禁止するということで「デッドコピー禁止」と訳した方がわかりやすかったと思います。Appleは2012年のHTCとの和解においても、そして、1997年のMicrosoftとのクロスライセンス契約においても同様の条項を含めているようです。全面的にライセンスする(禁止権は行使しない)けどデッドコピーは禁止するというのはリーズナブルな条件ではないかと思います。

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Googleのスマートコンタクトレンズと関連特許について

ちょっと前の記事(【小ネタ】「スマートヅラ」関連知財について)で時計、眼鏡、指輪、腕輪、ペンダント、カツラに続くウェアラブル・コンピュータのアイデアとしては、入歯くらいしかないじゃないかと書きましたが、コンタクトレンズというのがありました。

CNETの記事でGoogleが開発中の、涙液中のグルコースセンサーを内蔵した糖尿病の人向けのスマートコンタクトレンズが紹介されています。

CNETの記事には出ていないですがBloombergの記事によれば、このプロジェクトのヘッドであるBrian Otis教授(ワシントン大学シアトル校からGoogleに出向中)が関連特許を保有しているそうです。たぶん、US8608310”Wireless powered contact lens with biosensor”ですね。

コンタクトレンズ中にアンテナ(トランスポンダー)とセンサーが内蔵されており、パッシブ型の無線タグと同じように外部からの電磁波に応答してデータを返す仕組みのようです。さすがに電源内蔵は無理でしょう。

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これとはまったく別の話として、Innovegaというスタートアップ企業がメガネ型のウエアラブル機器と組み合わせて使うスマートコンタクトレンズを開発中であるそうです(参考記事)。コンタクトレンズ単独では使用できません(バッテリーの問題があるのでしょうがないと思います)。情報が視界の端に表示されるだけのGoogle Glassとは異なり、フルスクリーンの画像を投影できるなどのメリットがあるようです。

Innovegaという会社はディスプレイ関連の特許を何件か取得しています。上記記事の製品に関係する特許は、US8482858(”System and apparatus for deflection optics”)あたりだと思われます(すみません、まだ中味はちゃんと読んでません)。

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映画「ミッション・インポッシブル」にコンタクトレンズ内蔵型のスキャナー(目にした文書をスキャンできる)が出てきましたがさすがにそれは無理でしょうね(いやしかし、真のイノベーターなら発明してくれるのかもしれません)。

ところで、実用化前の次世代のテクノロジーについて調べる場合、学術論文を読むというのももちろん大事ですが、特許文献を読むのも有効です。製品にダイレクトに結びつくことを想定して作られたアイデアが開示されていることが多いからです。

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注文する前に出荷するAmazon特許について

利用者が注文を行なう前に出荷する”anticipatory shipping”の特許をAmazonが昨年の12月に取得(単なる公開ではなく権利取得です)したことが話題になっています(ガジェット速報の記事「米アマゾン、注文前に商品出荷するサービス検討中」、その元記事Digitsの”Amazon Wants to Ship Your Package Before You Buy It”)。なお、特許を取得できたからと言ってそれを実施する義務はありませんので、Amazonこのサービスを行なうかはわかりません。

映画「マイノリティ・レポート」みたいな話ですが、ビッグデータの予測分析の世界では、イベントが起きてから対応策を取るまでの時間をできるだけ最小化する方向性で進化が進んでいますので、最終的にはイベントが起きる前に対応策を取るようになる(もちろん、予測がはずれた時のコストとのトレードオフになりますが)のは理にかなっています。

では、具体的な特許の内容を見てみましょう。実は、この特許の起源は結構古く、分割の親出願の中で一番古いものの出願日は2004年12月17日です。そして、このパテントファミリーの特許が日本でも1件成立しています(「予測小包出荷のための方法およびシステム」第4938682号(2012年3月2日登録))。ちょっと見た限りでは本記事の特許より範囲が狭そうです。

今回成立した米国特許(8615473号)のクレーム1は次のようになっています。

1. A method, comprising:

performing, by one or more computing devices:

determining a status of one or more shipped packages currently in transit to respective destination geographical areas, wherein said respective destination geographical areas include multiple delivery addresses to which said package is deliverable, wherein at least one of the one or more shipped packages comprises one or more items that have been shipped before an order has occurred for the one or more items in the at least one shipped package, and wherein the one or more shipped packages were shipped to a respective destination geographical area without completely specifying a delivery address at time of shipment, such that at the time of shipment, each shipped package is deliverable to said respective destination geographical area but is not deliverable to any delivery address;

for a given one of said one or more shipped packages, analyzing one or more business variables related to said one or more items included in said given shipped package;

dependent upon analyzing both said one or more business variables and said determined status, determining a disposition of said given shipped package.

いろいろと限定がかかっていますが、本当に重要なポイントはパッケージ内の商品の”business variable”を分析することで、輸送中のパッケージの最終宛先を決定することにあります。

ここで、”business variable”の具体的内容ですが、クレーム上は「パッケージの現在位置と宛先」、「以前に出荷されたパッケージの状況」、「商品配送のコスト」、「返品によるリスク」などが想定されています。また、クレーム化はされていませんが、ウェブサイト上でマウスが購買リンク上にあった時間、ショッピングカート中に置かれた商品なども分析の対象にするアイデアも開示されています。

なお、クレーム上は限定されているわけではありませんが、現実の実装では注文前の出荷はAmazonの流通センターあるいはトラックまでになるのではないかと思います。明細書では、注文する前に消費者の元に送ってしまう(もちろん無料返品は受け付けます)実施形態も開示されてはいますが、実際にやると「押しつけ商法」との批判を受けそうです。

とは言え、Amazonはドローン(リモコン小型ヘリ)による配送サービスを検討中であるそうなので(参考記事)、ショッピングカートに商品を置きっぱなしにしてると、その商品を積んだドローンが家の前でホバリングして待ってるなんて未来もないとは言えないかもしれません。

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