加圧トレーニングの特許権は期間満了しています

SankeiBizに「【講師のホンネ】富澤正 加圧トレーニングはなぜ高いのか!?」なんて記事が載っています。加圧トレーニングは特許権で守られているためと説明されています。

しかし、以前に本ブログでも書いたように、当該特許権(2670421号)は昨年の11月22日で出願日から20年経過したことにより存続期間満了しています。なぜか、記事中ではこの点に触れられていません。image

今まで加圧トレーニングの方法を独占できた特許権の価値はきわめて大きかったと過去形で書くのなら良い(強力な特許権の価値を示す良い事例だと思います)のですが、以下の記載のようにこれから先もライセンスなしで実施すると特許権侵害で訴えられるような書き方は誤解を招くと思います(念のため書いておくとこの記事の日付は本日(2014年1月29日)です、ひょっとして大昔に書いた記事を再掲したのでしょうか?)。

それは、加圧ジャパンが加圧トレーニングについて特許権を持っているからです(特許第2670421号)。加圧ジャパンが認定していないトレーニングスタジオで加圧トレーニングを行うと、トレーニングスタジオは特許権侵害として訴えられます。

なお、記事中では「加圧トレーニング」「加圧ヨガ」等々の商標権が抑えられていることも書かれています。「加圧トレーニング」は普通名称化しているので商標権の効力は及ばないのではないかとの議論はありますが、それがどうであるかにかかわらず、たとえば、「コンプレッショントレーニング」等々、非類似の商標を使って、加圧トレーニングの方法を使った商売を行なう分には問題ありません。

なお、この特許は無効審判が請求されて(訂正の後)無効ではないとされ、その後、審決取消訴訟が起こされてやはり無効ではないとの判断がされています(その後、最高裁に上告という話でしたがどうなったかは不明)。いずれにせよ、無効かどうかはライセンシーに支払済みのライセンス料が返還されるかどうかには関係してきますが、去年の11月で特許権消滅という点には変わりはありません。

もちろん特許権者である加圧ジャパン(および、そのライセンシー)は今までの経験でノウハウの蓄積もあると思うので、それによって差別化を提供することは十分可能と思いますが、特許による独占状態はもう終わりです。一定期間の独占を許すことで発明者に発明(およびその公開)のインセンティブを与え、その一定期間経過後は自由技術とすることで産業の発達を促進するのが特許制度なので当然です。

追記:SankeiBizの当該記事には載ってないのですが、加圧ジャパンのサイトを見ると、改良特許が成立しているようです(5255722号)。加圧ベルトに制御装置を設けて加圧と除圧を繰り返すことで効果を上げることがポイントになっています。出願が2012年なので当面権利は存続しますが、今まで通りのシンプルな加圧ベルトを使ったトレーニング方法にはこの特許権は及びません。

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それほど重要な話ではないSamsungとGoogleの特許クロスライセンス

ITmediaに「GoogleとSamsung、広範な特許クロスライセンス契約を締結」という記事が載っています(一瞬AppleとSamusungに空目してびっくりしてしまいました)。実は、これはそれほどたいした話ではありません。

両社が現在保有しているものだけでなく今後10年間で取得される特許も対象になるようですが、それ以外の条件は公開されていません。クロスライセンスとは、要するに両社がお互い特許権を権利行使しない(訴えない)約束であって、そもそもGoogleとSamsungが互いを訴えることはどちらにしろ考えにくいので、このクロスライセンス契約は「SamsungとGoogleは(少なくとも今後10年間は)仲間だよ」ということを対外的にアピールするだけにすぎないと言えます。

Apple(およびMicrosoft)からの特許攻撃に対する防御という点ではこのクロスライセンス契約はほとんど関係ありません。そもそも、特許権を所有していることは他人の特許権を侵害しない保証にはなりません(ちょっとややこしい話ですが、当ブログの過去記事「【超入門】高度な技術を使っても特許侵害が回避できるとは限らない」)を参照してください)。また、特許訴訟に対する対抗措置として逆訴訟する場合でも、原告になれるのは特許権者であってライセンス先ではありません。

FOSSPatentsでは「SamsungとAppleの和解がうまくいきそうにないのでアドバルーンを上げたのでは?」との憶測が書かれていますが、ちょっと考えすぎじゃないかと思います。

また、これもFOSSPatensに書いてある話ですが、クロスライセンスの範囲がAndroid以外(典型的にはTizen)にも及ぶものであるとするとちょっとおもしろいことになりそうですが、契約内容の詳細が公開されていないので何とも言えません。

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スマートウォッチのキラーアプリケーションを見つけた(自分だけ?)

#今年はITの視点からも知財の視点からもウェアラブル関係のネタをいろいろと書いていきたいと思います。ブログのカテゴリーに「ウェアラブル」を追加しました。

WiredにSamsungのスマートウォッチGalaxy Gearの返品率が3割という記事が載ってます。対応しているアプリやスマホが少ないのが原因であろうとされています。

そもそも、スマートウォッチは話のタネになったりガジェットオタクの物欲を満たす以外に何かスマートウォッチならではの本当に役に立つ使い道、要するにキラーアプリケーションはあるのかという議論はあります。本ブログでもちょっと前に「スマートウォッチのキラーアプリケーションを考える」なんて記事を書きました。どんなテクノロジーもそうですがキラーアプリケーションがなければスマートウォッチは絶対普及しないでしょう。

それからつらつらとキラーアプリケーションを考えてみたのですが、ボイスメモって結構ありかもしれないと思い始めてきました。

思い返せば、大昔(まだ携帯電話がないころ)自分はカシオのDATABANKのボイスレコーダー付モデルを使っていた時機がありました。たとえば、電話番号メモしたりする代わりに録音したり、出先で急にアイデアを思いついた時に録音したり等々、それなりに便利に使えていました。

どうしてそんな昔の話を急に思い出したかというとfbのフレンドがランニングにボイスレコーダーを持って行って走ってる間に浮かぶアイデア(脳が活性化されるので斬新なアイデアが生まれそうなのはわかります)を録音してるなんて話を見たからです(ランニング終わってからメモ取ろうとしても忘れちゃってるそうです)。

ランニングに限らず普段の生活でスマートウォッチにボイスメモをどんどん録音できるのは便利かもしれません。バッテリーに対する影響も最小限だと思いますし。別にスマホで録音してもよいのですが、スマホを出してアプリを立ち上げるというステップがなくて済むのはだいぶ違います。iWatchにもボイスメモ機能が入っていることに期待してしまいます。

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Apple対Samsung裁判でまたAppleに有利な判決

もう一般の人はそろそろ飽きているのではないかと思います(もちろん当事者にとっては大変な話です)が、Apple対Samsungの特許訴訟(北カリフォルニア地裁の2回目)で、またAppleに有利な略式判決(最終判決の前の暫定的判決)が言い渡されました(参照記事(CNET)「サムスン、アップルのオートコンプリート関連特許を侵害–米裁判所が認める」)。

まず、Appleの米国特許8074172(Method, system, and graphical user interface for providing word recommendations: 単語の推奨を行なう方法、システム、および、グラフィカルユーザーインターフェース)をサムスン製品が侵害していると判断されました。通称「オートコンプリート特許」、iOSデバイスでの英文入力で使われる入力補助方式に関する特許です(今は仕様が変わってこういう風にはなってないですね)。おそらく、日本では同等特許は成立していないと思われます。

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Appleが権利行使しているクレーム(クレーム18)のポイントを大ざっぱに書くと、入力画面とは別に候補画面に複数の候補を表示し、1)キーボードで区切り文字(スペース等)を入力すると最有力候補が入力される、2)あるジェスチャー(候補のタッチ)によりその候補が入力される、3)別のジェスチャーで候補が無視される、といった感じです。

侵害が認定されただけなので有効性の議論は残ります。匿名による(とは言ってもSamsungかGoogleによるのは見え見えですが)再審査が別途進行中です。優先日(実質出願日)が2007年でそんなに古くないので先行技術はありそうなしますが何とも言えません。

また、Samsungの米国特許7577757(Multimedia synchronization method and device:マルチメディア同期の方法とデバイス)が無効とされました。

この略式判決は、現在、進行中と言われているAppleとSamsungの和解協議にも影響を与えると思います。もう、Samsung的には金を払って早く解決したい、問題はいくら払えばいいかだというモードに入っているのではないかと推測します。

これに関して「アップル、コピー禁止条項の盛り込みを要求–対サムスン和解協議」という記事がCNETに載っています。ライセンスするのにコピー禁止というのはわかりにくいですが、原文記事では「コピー禁止」は”anti-cloning”です。要はライセンスはするけど、外観や機能の丸コピー製品は禁止するということで「デッドコピー禁止」と訳した方がわかりやすかったと思います。Appleは2012年のHTCとの和解においても、そして、1997年のMicrosoftとのクロスライセンス契約においても同様の条項を含めているようです。全面的にライセンスする(禁止権は行使しない)けどデッドコピーは禁止するというのはリーズナブルな条件ではないかと思います。

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Googleのスマートコンタクトレンズと関連特許について

ちょっと前の記事(【小ネタ】「スマートヅラ」関連知財について)で時計、眼鏡、指輪、腕輪、ペンダント、カツラに続くウェアラブル・コンピュータのアイデアとしては、入歯くらいしかないじゃないかと書きましたが、コンタクトレンズというのがありました。

CNETの記事でGoogleが開発中の、涙液中のグルコースセンサーを内蔵した糖尿病の人向けのスマートコンタクトレンズが紹介されています。

CNETの記事には出ていないですがBloombergの記事によれば、このプロジェクトのヘッドであるBrian Otis教授(ワシントン大学シアトル校からGoogleに出向中)が関連特許を保有しているそうです。たぶん、US8608310”Wireless powered contact lens with biosensor”ですね。

コンタクトレンズ中にアンテナ(トランスポンダー)とセンサーが内蔵されており、パッシブ型の無線タグと同じように外部からの電磁波に応答してデータを返す仕組みのようです。さすがに電源内蔵は無理でしょう。

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これとはまったく別の話として、Innovegaというスタートアップ企業がメガネ型のウエアラブル機器と組み合わせて使うスマートコンタクトレンズを開発中であるそうです(参考記事)。コンタクトレンズ単独では使用できません(バッテリーの問題があるのでしょうがないと思います)。情報が視界の端に表示されるだけのGoogle Glassとは異なり、フルスクリーンの画像を投影できるなどのメリットがあるようです。

Innovegaという会社はディスプレイ関連の特許を何件か取得しています。上記記事の製品に関係する特許は、US8482858(”System and apparatus for deflection optics”)あたりだと思われます(すみません、まだ中味はちゃんと読んでません)。

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映画「ミッション・インポッシブル」にコンタクトレンズ内蔵型のスキャナー(目にした文書をスキャンできる)が出てきましたがさすがにそれは無理でしょうね(いやしかし、真のイノベーターなら発明してくれるのかもしれません)。

ところで、実用化前の次世代のテクノロジーについて調べる場合、学術論文を読むというのももちろん大事ですが、特許文献を読むのも有効です。製品にダイレクトに結びつくことを想定して作られたアイデアが開示されていることが多いからです。

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