AppleのiPhoneカメラ交換レンズ特許について

iPhone Maniaというサイトに「次世代iPhoneのレンズは交換可能になる?」という記事が載ってます(元ネタはCult of Macというサイトです)。

次世代iPhoneのカメラレンズは、交換可能なオロクリップのようなレンズになる可能性があることが、4月1日に米国特許商標局が公開した特許から明らかになりました。

と書いてあるんですが、当該特許(Bayonet attachment mechanisms)(US8687299)(新しすぎてGoogle Patentsにはまだ載ってないようなのでUSPTOへのリンクとなります)は、単なる公開ではなくて登録されて権利が発生しています。非知財系サイトが、特許出願が公開されただけなのに「特許を取得」と書いてしまう間違いはよくありますが、その逆は珍しいですね。

さて、本特許は、レンズ交換式カメラで一般的なバヨネット式(数本の爪で回転ロックする方式)で外付けレンズをiPhoneにくっつけるための機構の構造に関する特許です。

クレーム1は以下のとおりです(わかりやすくするために図中の番号を付記しました)

An attachment mechanism, comprising:

a body(208) defining a cavity(216) therein;

a plurality of bayonets(212) received in the cavity(216) and radially disposed around an aperture;

at least one compliance member(210) positioned between the bayonets(212) and the body(208) and configured to bias the bayonets toward one another; and

a plurality of alignment members(218) configured to allow radial movement of the bayonets(212) and restrain rotational movement of the bayonets(212) relative to the body(208).

キャプチャ

キャプチャ

なお、Fig5で206に当たる部分はiPhone本体のレンズから飛び出す部分(下のFig8を参照)に相当します。これがバヨネット(212)とかみ合って外付けレンズ(202)をiPhoneにくっつけられるわけですが、そのために、クッション部材(210)(典型的にはシリコンゴム製)と回転防止部材(218)を備えていることがポイントになっています。

こういう構造になっていることの意味ですが、外付けレンズを付けたままでiPhoneを落っことした際に、クッション部材(210)が備えられているおかげでバヨネットの爪が外れて外付けレンズの損傷を防げる点が発明の効果とされています。

キャプチャ

特定の物の構造に関するクレームなので、一般論で言えばそんなに範囲は広くないのですが、iPhoneの本体側レンズに切ってある切り込みに合わせてはめられる構造のレンズはこの特許のクレームと同等の構成にせざるを得ず、結局、アップルのライセンスがないと製造・販売できないということになるかもしれません(うまく作れば回避可能かもしれませんが、少なくともデッドコピー品は製造・販売できなくなります)。

もし本特許により非純正の互換アクセサリを排除できるのであれば、その点ではLightningコネクターの特許に似ています(本ブログの関連過去記事)。企業の知財戦略を評価する立場から言うと互換品を排除できて利益率向上に結びつく良い特許なのですが、一消費者の立場で言うと安価な互換品を利用できなくする特許ということで複雑な心境ではあります。

カテゴリー: 特許 | コメントする

Appleの歩きスマホ対策発明について

#エイプリルフールネタではありません

財経新聞というサイトに「Apple、携帯端末の背景画面を「透けさせる」技術の特許を取得」という記事が載ってます(元ネタはSlashdot.jp、そしてさらにその元ネタはMashable、そしてさらにそのまた元ネタはApple Insider)。

Appleが、携帯端末でメッセージ入力時に「iPhoneの向こう側の景色」を背景画面として表示させる「transparent texting」なる特許を取得したそうだ。

と書いてありますが、非知財系サイトにありがちな間違いで「特許を取得」ではなく、「特許出願が公開」です(関連過去記事)。

大本のApple Insiderでは正しく「出願が公開された」と書いてあるのに、それを引用したMashableでは”Apple secured a patent”と誤報、それをSlashdotが引用して、それを財経新聞が引用という伝言ゲームでだんだん情報が劣化していっている感じです。

それはともかくとして、ちょっと興味深い発明なので中味を見てみることにしましょう。公開番号はUS20140085334です。なお、まだ審査中なので権利化されるかどうかはわかりませんし、別の権利範囲で登録される可能性もあります。

この発明のポイントは、スマホの(リア側の)カメラで映した映像をテキストメッセージ入力の画面の背景として(あたかもスマホが透明であるかのように)表示することで、入力をしている人に周りの状況をわかりやすくしてあげることにあります。これによって歩きスマホ中につまづいたり他人にぶつかったりすることを防ぐことができます。クレームの内容もほぼそれだけです。

image

上図ではiPhoneのメッセージアプリの背景として向こう側にある木が表示されています。これによって歩きスマホしてて木にぶつかることを防げるというわけです。

せっかくなので、画像認識やソナーで危険な障害物を検知してアラートを出すとか、横方向も含む全方位の画像を表示するくらいのことを書いておいても良さそうなものですが、そういうことは書いておらず「一発芸」的な特許出願となっています。

この発明が特許化できるかどうかはわかりませんが、既にアプリとしては存在するようです。歩きスマホによる危険性が完全になくなるわけではないですし、逆にこういう機能があることで歩きスマホを正当化してしまうという問題があるのでどんなもんかなとは思います。

カテゴリー: 特許 | コメントする

パテントトロールが富士通・パナソニック・アップル等を提訴

日経に「米特許管理会社、富士通・パナソニックなど提訴」なんて記事が載ってます。「米テキサス州の特許管理会社がこのほど、オフィス機器のモニタリング技術の特許を侵害しているとして、複数の日本企業に損害賠償などを求める訴訟を米テキサス州東部地区連邦地裁マーシャル支部に起こした。」だそうですが、特許番号はまだしも、肝心の特許管理会社の名前が書いてありません。報道としての5W1Hはどうなってんのという感じです。

ということで、ここで追加情報を書いてしまいます。

日本と違い、米国ではPACER(Public Access to Court Electronic Records)というシステムで裁判情報が進行中のものも含めてネットで検索可能になっています。PACERは有料(かつ郵送申込による事前登録が必要)なんですが、誰がどこで誰を訴えたかの情報だけであれば無料で簡単に検索できるサイトがいくつかあります。そのひとつがJUSTIAというサイトです。

ここで、最近、米テキサス州東部地区連邦地裁で富士通が訴えられたケースを検索して見ると、3月にPenovia LLCという会社がNokia、Panasonic、Philips、Sharp、Samusung、Vizio、Sony、ZTE、Yamaha、Logitech、Motorola Mobility、Acer、Creative Lab、Apple、Blackberry、Casio、LG、HP、BOSE、Alpine、京セラ、HTC、Lenovoをはじめとした39社に対して特許侵害訴訟を提起していることがわかりました。

このPenoviaという会社ですが、企業サイトがないので詳細がわかりません(トロールの企業サイトはどっちにしろたいした情報が載ってないのが通常ですが)。

問題の特許番号を調べようと思うとPACERで訴状を見なければいけないのですが、Penoviaをキーワードで検索するとおなじみPatentlyAppleの記事(Apple’s iPad is targeted in new Patent Troll Lawsuit)から問題の特許は、5,822,221(Office machine monitoring device)であることがわかりました(上記日経記事の内容とも合致しています)。2012年に個人発明家からPenovia社が買っています。出願日は1996年なのでやらしい(無効理由が発見しにくい)時期ではあります。クレーム1は以下のとおりです(仮訳は栗原によります)。

A device for monitoring an office machine, comprising:

an interface unit coupled to a main logic board and a display circuit of the office machine, the interface unit being directly connected to the main logic board to receive data generated by the main logic board, the interface unit providing the data to the display circuit;

a microcontroller unit operable to process the data provided by the interface unit; and

a transceiver unit operable to transmit the data processed by the microcontroller unit through a wireless transmission technique.

オフィス機器を監視する装置であって、

オフィス機器のメインロジックボードとディスプレイ回路に結合されたインターフェースユニットを備え、前記インターフェースユニットは前記メインロジックボードが生成するデータを受信するよう、前記メインロジックボードに直接接続され、前記インターフェースユニットはディスプレイサーキットに前記データを提供し、

前記インターフェースユニットにより提供されたデータを処理するよう動作可能とされたマイクロコントローラーユニットを備え、

無線通信手法により、前記マイクロコントローラーユニットによって処理されたデータを伝達するよう動作可能にされたトランシーバーユニットを備えた装置。

明細書の記載を読んでる時間がないですが、クレームだけ見るとメインロジックボードとディスプレイの間に介在する何らかのユニットにより無線で情報を送信するようなオフィス機器は全部含まれてしまいますね(Appleでの訴訟ではiPadがターゲットになっているようです)。トロールが好きそうな範囲がやたら広い(正確にいうと「広そうに見える」)特許であると思います。

日常茶飯事である米国のトロールのケースをいちいち記事にしているときりがないのですが、米国での裁判情報の簡単な調べ方という観点からお役に立てば幸いです。

追記:とんでもないことがわかりました。この特許権(US5822221)は、2010年に(前の権利者による)特許料未納により権利消滅しています。日本だと権利消滅した権利の移転は手続却下になるはずですが、米国の場合はできてしまうのでしょうか?存続期間中の損害賠償を請求できる権利を譲ったと考えれば、権利消滅後の譲渡も観念できないわけではないのですが。

カテゴリー: 特許 | コメントする

【週末ネタ】日本ではあまり見られない花粉対策グッズのご紹介

#今回は、知財ともITとも全然関係ない週末ネタです。

花粉、今年はそんなでもないとは言えやはりつらいです。自分の場合、特に鼻ですね。ということで、鼻の花粉アレルギー対策として自分が使っていて、日本ではあまりポピュラーでないものをご紹介します。

1.ネティ・ポット

ポンプ式の鼻洗浄器はありますが、やり過ぎると鼻の粘膜を痛めるリスクがあります。自分はネティ・ポット(Neti Pot)というヨガで使われる鼻洗浄法をだいぶ前からやっています。小型のやかん状の器具に人肌のお湯と塩を入れて片方の鼻から流してもう片方から出します。水の重量だけで洗浄するのでポンプ式とは異なり粘膜を痛めません。米国の医師の中では安全であるというのが一応の結論です。ただし、雑菌の繁殖を防ぐために湯冷ましのお湯を使用することが推奨されています。

このネティ・ポットはアメリカのWalgreenで買ったものですが、似たようなものは日本のAmazonでも売っています。専用粉は日本では売ってないみたいですが、成分は食塩と重曹です。

IMG_0708

やり方のビデオはYouTubeにいくつかアップされています。

絵的にはちょっとかっこ悪いですが人に見せるわけではないので関係ないですね。なお、終了後はしっかり鼻をかんでおかないと後になって垂れてきて厳しいことになります。

自分の場合は、これで朝一で鼻を洗ってから「花粉鼻でブロック」を塗ってマスクをすると、終日問題ありません。できるだけアレルギー薬は飲みたくないので重宝しています。

なお、人によっては耳にお湯が回ったりしてよろしくないこともあるらしいので、やる方はあくまで自己責任でお願いします。

2.ユーカリ精油

要するにホールズキャンディのスースー成分の素です。オーストラリアだとどこの薬局でも売っています。写真は5年ほど前にオーストラリアに行ったときに買ったもの(それほど量を使わないので持ちます)。

IMG_0710

マスクをする時にはこのユーカリオイルを1滴垂らしておくと鼻がすっきりします(くれぐれも垂らしすぎないよう、目が死にます)。

もうひとつ、花粉症や風邪で鼻づまりが非常に厳しい時の対策として、オーストラリアで一般的な民間療法を紹介します。写真のプラスチック容器にお湯を入れてユーカリオイルを数滴垂らします。そして、ノズルに鼻を当ててユーカリオイルの混じった蒸気を鼻から吸います。かなりすっきりしますが、これもユーカリオイルを入れすぎると死にそうになります。

IMG_0713

3.鼻保湿ジェル

花粉症とは直接関係ないんですが、あまり日本ではみない鼻間連グッズをついでにご紹介します。保湿成分(アロエ)が入った鼻の中に塗るためのジェルです(なお、salineとは生理的食塩水のことで神経ガスのsarinではないのでびっくりしないよう)。「花粉鼻でブロック」のようなワセリン状のものではなく、もっと緩いジェルです。風邪で鼻が乾いてる時にも有効なんですが、国際線の飛行機や海外のホテルなどの異常に乾燥した状態で寝る時に就寝前に鼻の中に塗っておくと、起きた時にめちゃくちゃ楽です。なお、絵的には鼻水が垂れたようになりますので昼間の使用はあまりお勧めできません。

Ayr Saline Nasal Gel

上記のNeti Pot用粉パックと共に自分が海外出張に行くと必ず買っておくもののひとつです。

カテゴリー: 雑談 | コメントする

【基本】特許の価値はクレームを見ないとわかりません

昨日のエントリーで紹介したAppleのHMD(ヘッドマウンテッドディスプレイ)に関する特許ですが、Appleの特許情報をカバーしているブログメディアPatenlyAppleが”knockout”、”fantastic”というわりにはそれほど範囲が広い特許ではありませんでした。

重要なポイントとして、特許公報(出願書類)は、1)権利書としての要素と2)技術文献としての要素から成ります。1)に相当するのがクレーム(特許請求の範囲)です。2)に相当するのが明細書(発明の詳細な説明)、図面、要約です。

そして、明細書や図面に書いてあることは特許の権利範囲には「直接的には」関係ありません。特許権の範囲を決めるのはクレームの記載です(ただし、クレームの記載の解釈において明細書や図面の記載が参酌されることはあります)。

通常のケースでは、特許出願の時点では広いクレームが書いてあっても、審査の過程で新規性・進歩性がないという拒絶理由に対応するためにクレームの補正が行なわれることで権利範囲が狭くなっていくことが多いです(たまに、ものすごく広い権利範囲のままで登録されてしまい強力な特許となることもあります(たとえば、IBM(今はtwitter)の短縮URL特許がその例です(参考過去記事))。

Appleのこの特許(8605008)の例で言うと、明細書にはいろいろな使用形態(たとえば、下図のようにHMDとiPodのような携帯電子機器を接続して使用する形態)が書いてありますが、これはあくまでも例として書いてあるだけで、Appleがこのような使い方を特許として独占できるわけではありません。

image

アップルが独占できるのはクレームに書いてあるもの:

1. A head-mounted display, comprising:

a spacer operative to receive at least one component of the head-mounted display;

an outer cover coupled to the spacer, the outer cover forming at least a portion of an outer surface of the head-mounted display;

at least one optical module movably coupled to the spacer, substantially enclosed by the outer cover, and operative to be displaced along at least two axes and in rotation around at least one axis with respect to the spacer without moving the outer cover with respect to the spacer.

つまり、外カバーとスペーサーがあって、光学モジュール(映写装置)がスペーサー側に連結され、2軸方向でスライド/回転できるようになっている(その場合外カバーは動かない)といった条件を満たす特定の構造のHMDだけです。出願時点ではもっと広いクレームだったのですが、補正の結果、このような最終形になっています。

このように、メディアやブログで明細書の方だけを見て(下手をすると発明の名称だけを見て)すごい特許であると大騒ぎしているケースでも、実際クレームを見てみるとそんなたいした特許ではないことはよくありますので注意が必要です。

カテゴリー: ガジェット, 特許 | コメントする