【基本】特許の価値はクレームを見ないとわかりません

昨日のエントリーで紹介したAppleのHMD(ヘッドマウンテッドディスプレイ)に関する特許ですが、Appleの特許情報をカバーしているブログメディアPatenlyAppleが”knockout”、”fantastic”というわりにはそれほど範囲が広い特許ではありませんでした。

重要なポイントとして、特許公報(出願書類)は、1)権利書としての要素と2)技術文献としての要素から成ります。1)に相当するのがクレーム(特許請求の範囲)です。2)に相当するのが明細書(発明の詳細な説明)、図面、要約です。

そして、明細書や図面に書いてあることは特許の権利範囲には「直接的には」関係ありません。特許権の範囲を決めるのはクレームの記載です(ただし、クレームの記載の解釈において明細書や図面の記載が参酌されることはあります)。

通常のケースでは、特許出願の時点では広いクレームが書いてあっても、審査の過程で新規性・進歩性がないという拒絶理由に対応するためにクレームの補正が行なわれることで権利範囲が狭くなっていくことが多いです(たまに、ものすごく広い権利範囲のままで登録されてしまい強力な特許となることもあります(たとえば、IBM(今はtwitter)の短縮URL特許がその例です(参考過去記事))。

Appleのこの特許(8605008)の例で言うと、明細書にはいろいろな使用形態(たとえば、下図のようにHMDとiPodのような携帯電子機器を接続して使用する形態)が書いてありますが、これはあくまでも例として書いてあるだけで、Appleがこのような使い方を特許として独占できるわけではありません。

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アップルが独占できるのはクレームに書いてあるもの:

1. A head-mounted display, comprising:

a spacer operative to receive at least one component of the head-mounted display;

an outer cover coupled to the spacer, the outer cover forming at least a portion of an outer surface of the head-mounted display;

at least one optical module movably coupled to the spacer, substantially enclosed by the outer cover, and operative to be displaced along at least two axes and in rotation around at least one axis with respect to the spacer without moving the outer cover with respect to the spacer.

つまり、外カバーとスペーサーがあって、光学モジュール(映写装置)がスペーサー側に連結され、2軸方向でスライド/回転できるようになっている(その場合外カバーは動かない)といった条件を満たす特定の構造のHMDだけです。出願時点ではもっと広いクレームだったのですが、補正の結果、このような最終形になっています。

このように、メディアやブログで明細書の方だけを見て(下手をすると発明の名称だけを見て)すごい特許であると大騒ぎしているケースでも、実際クレームを見てみるとそんなたいした特許ではないことはよくありますので注意が必要です。

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