アップルのスマートウォッチの名称はiTimeになるのか

アップルのスマートウォッチに関する特許出願が最近米国で登録(8787006号)されたのが話題になっています(参照記事)。なお、単なる出願公開ではなく権利化です。

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特許の中味については別途書きますが、特許図面中にiTimeという文字が書かれていることを根拠に、アップルのスマートウォッチの商品名がiTimeになるのではと一部メディアが憶測していることから、この点について検討してみましょう。

米国特許庁の商標登録データベース(TESS)で検索するとiTimeは先出願・先登録が結構あることがわかります。Apple自身による出願は見当たりません。

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特に昨年の2月の出願(85846977)はClock and Watchesを指定商品にしていることから、これからiTimeを商標登録出願しても権利化するのは難しいと思います。ただし、もちろん、出願人(個人です)から商標権を買い取るとか、出願自体がアップルのダミーである可能性はないわけではありません。

一方、日本を含む諸国では先にジャマイカに先にしておいた出願にパリ条約優先権を指定するという裏技を使ってiWatchが出願されているのは、このブログでも既に書きました(記事1記事2)。なので、やはりアップルのスマートウォッチの名称はiWatchが最右翼だと思います。

この特許の出願が2011年であることを考えても、iTimeというのは、当時の仮名称であって、特許図面に手違いで残してしまっただけではないかと思います。

ところで、日本におけるiWatch商標登録出願の経過ですが、今調べたら、14類(時計関係)を除いて5680592号として、つい最近の6月29日に登録されていました。

肝心の14類は分割出願として別途拒絶理由(おそらく、識別性欠如と(当ブログでも書いたように)Swatch社による先登録のiSwatchと類似という問題)に対応中になってます。

ということで、iWatchも盤石ではないですが、iTimeはもっとないんじゃないかというのが私の読みです。

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【実務者向け】国際関係の用語混乱について

特許法・商標法の国際関係の用語がちょっとややこしいので、弁理士受験時は以下のような表を作って覚えたものでした。

1.国際出願: 別名PCT出願、日本の特許庁経由でWIPOに対して行なう出願

2.国際特許出願: PCT出願を国内移行することで生まれた日本国内の特許出願

3.国際登録出願: 別名マドプロ出願、日本の特許庁経由でWIPOに対して行なう出願

4.国際商標登録出願: 外国で行なわれたマドプロ出願で日本を指定したことにより生まれた日本国内の商標登録出願

ところが、実際には、これらの用語は結構混同されて使われています。特に「国際登録出願」の意味で「国際商標登録出願」という言葉が使われていることが多く、調べ物をするときにちょっと困ったりしました。まあ、そもそもの用語の選択が直感的でないのでしょうがないのかもしれません。

さらに、日本が意匠のヘーグ協定に参加すると、マドプロ的に意匠登録出願を行なうことができるようになるわけですが、これによりさらにややこしさが増します。意匠法の改正案を見てみると、意匠で上記の3に相当する出願は「国際登録出願」と呼ぶようですが、これだと意匠だか商標だかわからくなりますね。かと言って「国際意匠登録出願」と呼ぶと、上記の4に相当する意匠登録出願との区別がつかなくなります。商標も含めてネーミングコンベンションを何とかしないといけないんじゃないでしょうか?

ついでに書いておくと、受験時には、「出願」→審査官の実体審査を受けるもの、「申請」→実体審査を受けないもの、したがって、「特許申請」、「商標存続期間更新登録出願」は間違いと教わりました。だけど、実際には「特許申請」ってよく使われていますね(Googleで”特許申請”は約914,000件、”特許出願”は約990,000件)。ちょっと気になってしまいます。

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【お知らせ】EnterprizeZineにIoTの記事書きました

翔泳社のWebメディアEnterprizeZineに全3回でIoTの記事を寄稿しました。

前編:IoTの価値を無視すべきではない -「モノのインターネット」の本質とは何か?

中編:集中、分散から集中へ、そしてまた分散へ‐「モノのインターネット」が企業ITにもたらす影響とは?

後編:コンシュマー分野のキラー・ソリューションに注目せよ!企業はどのようなIoT戦略を立案すべきか?

IoT、M2M周りは昔RFIDを追っかけていたこともあり、積極的にリサーチしています。寄稿、講演、カスタムリサーチ、コンサルのお仕事がありましたらよろしくお願いします。

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不正競争防止法の観点からジャストシステムの責任を考える

ベネッセの顧客情報流出事件、まずは、不正競争防止法容疑で捜査が行なわれているようです。刑事罰の要件がはっきりしているので当然と言えます。他にも、個人情報保護法や消費者保護法上の論点はあると思うのですが、ここでは不正競争防止法のみについて考えてみます。

不正競争防止法には営業秘密の不正取得・使用を禁ずる規定があります。営業秘密とは、(1)秘密として管理され、(2)事業活動に有用で、(3)公然と知られていない情報であり、製造ノウハウ等だけではなく、当然に顧客リストも含まれます。

ここで、この事件の登場人物のそれぞれについて不正競争防止法上の責任について考えてみましょう。なお、不正競争防止法という観点では、顧客情報を勝手に使われた消費者は直接的には関係ありません。

1.ベネッセ

営業秘密を不正取得・使用されたことにより、不正競争によって営業上の利益を侵害された「被害者」です(個人情報保護法や消費者保護法上は加害者になる可能性もありますが不正競争防止法上はあくまでも被害者の立場になります)。

2.顧客情報を名簿業者に売った人

まだ誰なのかわかりませんが、不正競争法防止法21条の規定により10年以下の懲役and/or1000万円以下の刑罰の対象になる可能性は高いです(だからこそ警察が動いているわけです)。(下の条文は一例です。実際の流出行為のパターンにより別の条文が適用される場合もあり得ます)。

第二十一条 次の各号のいずれかに該当する者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

一 不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、詐欺等行為(人を欺き、人に暴行を加え、又は人を脅迫する行為をいう。以下この条において同じ。)又は管理侵害行為(財物の窃取、施設への侵入、不正アクセス行為(略)その他の保有者の管理を害する行為をいう。以下この条において同じ。)により、営業秘密を取得した者(後略)

3.名簿業者

当該顧客情報は、ジャストシステムの手に渡るまでに複数の名簿業者を経ているようです。これらの名簿業者は、顧客情報の発生元から自分のところに来るまでの間に一度でも不正取得行為があったことを知って、または、重過失により知らないでその顧客情報を取得した場合には民事上の責を負います(2の人から直接顧客情報を買った人は、条件次第では刑事罰対象になるかもしれません)。逆にいうと、善意無過失であれば不正競争防止法上は責任を負いません。

第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

(略)

五 その営業秘密について不正取得行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為

(略)

重過失がないことを立証しなければいけませんので、ただ知りませんでしただけでは不十分で、注意を払っても知り得なかったということまで立証する必要があります。

4.ジャストシステム

基本的には、名簿業者の立場と同じです(ただし、2.の人から直接顧客情報を入手したわけではないので不正競争防止法上の刑事罰対象にはなり得ません、不正競争防止法の営業秘密間連の規定では、不正取得・開示した本人、そして、(条件次第ですが)その取得者から直接営業秘密を入手した人しか刑事罰の対象になりません)。同社がプレスリリースで「当社がベネッセコーポレーションから流出した情報と認識したうえでこれを利用したという事実は一切ございません」と述べたのは、不正競争防止法上の民事責任はないと主張していることになります。ただし、重過失がなかったどうかは、今後裁判等で判断されることになるでしょう。

ところで、不正競争防止法には適用除外規定があって、営業秘密取得時に不正取得行為が介在したことを知らず(かつ、知らないことについて重過失がない)、つまり、善意無過失であった人は、その後、不正取得行為が介在していたことを知っても(これでだけ報道されているのでいやでも知ります)、取得時の条件で営業秘密を使い続けられるという規定があります。

19条1項6号 (略)不正競争取引によって営業秘密を取得した者(その取得した時にその営業秘密について不正開示行為であること又はその営業秘密について不正取得行為若しくは不正開示行為が介在したことを知らず、かつ、知らないことにつき重大な過失がない者に限る。)がその取引によって取得した権原の範囲内においてその営業秘密を使用し、又は開示する行為

まあ、とは言っても今回のケースは個人情報保護法や消費者保護法も関係してきますし、(少なくともジャストシステムの立場としては)企業倫理として仮に法律上の責任がなくても顧客情報は破棄せざるを得ないんじゃなかと思います(追記:報道によれば削除したそうです)。この規定はどっちかというと製造ノウハウ等の営業秘密の場合に意味を持つ規定ですね。

まあ、いずれにせよ、数百万人レベルの子持ち世帯の情報について「不正に取得したんじゃないのか」と気づくのは当然かどうか(それに気がつかないのは重過失か)が重要な争点になるかと思います。

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顧客情報の流出元をトレースするためのライフハック

大昔の話ですが、アメリカの掲示板で、顧客情報を登録する時にミドルネームを登録先ごとに変えておくというやりかたが紹介されていました。たとえば、John Smithさんという人であれば、ベネッセに登録する時はJohn B Smith、TSUTAYAに登録する場合はJohn T Smithという名前で登録するということです。こうしておくと、どういう名前でDMが来たかによって、自分の顧客情報の流出元が明らかになるというわけです。

おもしろいやり方ですが、ミドルネームという概念がない日本では使えないなと思っていました。

しかし、NHKの報道によれば、今回のベネッセ事件でも「ベネッセにしか登録していない住所の表記と同じ表記でジャストシステムからダイレクトメールが届いた」ことから、以前からベネッセからの情報流出が疑われていたそうです。上記のように流出時の流出元特定のために意図的に独自の住所表記を使っていたのか、偶然なのかわかりませんが住所をちょっと変えるだけならそれほど大きな副作用なしに日本でもできますね。

住所本体を変えると名寄せの時に削除されてしまう可能性がありますし、本来希望した郵便物が届かなくなる可能性もあるので、マンションの部屋番号の末尾に枝番みたいな感じで付加するとよいんじゃないかと思います。たとえば、部屋番号が304であれば、ベネッセの場合は304B、TSUTAYAの場合は304Tといった具合です(例としてTSUTAYAを使ったのは特に深い意味はありません)。これでも名寄せされると削除されてしまう可能性はありますが。

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