【小ネタ】サルは著作権者になり得るのか?

livedoorNewsに「サルの自分撮り写真をめぐる著作権争い、ネットで物議を醸す」なんて記事が載ってます。サルがカメラマンのカメラをひったくって「自撮り」した写真(なかなか絶妙な「自撮り」なので是非リンク先ご覧下さい)がWikipediaで公開されていることに対して、このカメラマンがWikilpedia運営のWikimedia Foundationによる著作権侵害を主張しているというお話です。

一部メディアの記事では「写真の著作権はサルにある」とWikimedia側が主張しているかのようなタイトルになっていますが、冒頭記事をよく読むと、Wikimedia側は公式には写真が著作者がいないのでパブリックドメインであると主張しているようです。まあ、仮にWikimedia側が、サルが著作権者であると言ったのだととしても、本気でそう主張したいのではなく、このカメラマンは著作権者にはなり得ない、敢えて著作者を捜すとすればサルだろう、というレトリックとして言ったのだと思います。

そもそも、サルは、というか一般的に動物は、著作権者になり得るのでしょうか?(少なくとも日本の民法では)人間以外の動物に権利能力はありませんので、著作権の主体となることはありません。もちろん世界的に「アニマルライツ」的な動きはありますが、それは生存権的な話であって、動物が財産権の主体になるという話ではありません(参考Wikipediaエントリー「動物の権利」)。

仮にこの写真の著作権者がサルなのだとすると、Wikimediaはカメラマンではなくサルの許諾を得なければならないことになってしまうので、サルが著作権者になり得ないのは明らかです。

たまに、自然破壊に反対するために森の動物が原告になって訴訟なんて話がニュースになることはありますが、これは却下されることを前提として、メディアに事件を取り上げてもらうための広報戦略であると思われます(昔、これについて書いたブログ記事)。

ということで、本件についてまじめに検討すると、この写真は著作物ではないか、あるいは、カメラマンが著作者である写真の著作物であるかの二択ということになります。

偶然の産物で人間のクリエイティビティは介在していないので著作物ではないという主張も考えられなくはないですが、写真という著作物の特性を考えると、シャッターチャンスと構図の決定は重要であるものの、レンズの選定、絞りやシャッタースピードの設定、撮影場所の決定等もカメラマンの「思想や感情を創作的に表現したもの」になると思われますので、最後に誰がシャッターを押したかには関係なく、カメラマンが著作者であると考えても全然おかしくないと思います。このケースについて言えば、私見では後者の立場です。

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ジャポニカ学習帳の立体商標を登録する意味とは?

日本の小学校に行った人ならたぶんほとんどの人が知っている「ジャポニカ学習帳」の商品外観が立体商標として登録されたという記事がねとらばに載ってます(ショウワノート株式会社によるプレスリリース)。

登録番号は5639776です。登録日は昨年の12月27日なので、なぜ今になって発表したのか定かではありませんが、ホンダのスーパーカブの立体商標登録等(関連過去記事)により、商品形状をそのまま商標登録したケースに注目が集まっているタイミングでということかもしれません)。

分厚いノートで背表紙のデザインに特徴があるならまだしも、小学生用ノートのようなほぼ平面の商品で立体商標を取る意味があるのかのとも思いましたが、商標登録公報の図面を見る限り、表面と裏面のデザインを合わせて登録したことに意味があるのかもしれません(模倣品を防ぐだけなら表表紙だけ登録すればすむような気もしますが)。

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この登録により、競合他社は「ジャポニカ学習帳」に似た名前を使っていなくても、また、似た表紙写真を使っていなくても、上記の写真に類似した外観のノートは販売できなくなります。自分は子供がいないのでよくわかりませんが、他社類似品が問題になっていたのかもしれません。

なお、IPDLで審査経過を見ると2010年に出願されて拒絶理由通知が出てから、かなりのやり取りがあった上でようやく登録されていることがわかります(具体的なやり取りの中味は閲覧請求(600円)をしないとわかりません)。

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クリステンセン”Seeing What’s Next”が新訳で出版されました

翔泳社様から『イノベーションの最終解』の献本をいただきました。photo

原本は、クレイトン・クリステンセンの”Seeing What’s Next”です。翻訳者は櫻井祐子さんです。

クリステンセン教授のイノベーター三部作のうちの最初の二つ、『イノベーションのジレンマ』(Innovator’s Dilemma)と『イノベーションへの解』(Innovator’s Solution)は、櫻井祐子さんの翻訳で翔泳社から出ていたんですが、なぜか三つめの”Seeing What’s Next”だけは『明日は誰のものか』として別の翻訳者でランダムハウス講談社から出てました(現在は絶版のようです)。

内部事情は知りませんが、今回、翔泳社が翻訳権を取りなおして再出版となったのだと思います。三部作共に同じ定評ある翻訳者さんで訳されたのは喜ばしいこです。もちろん、私も原著・旧訳ともに読んでますが、この機会に読み直してみたいと思います。

ところで、この『イノベーションの最終解』の共著者であるスコット・アンソニー氏が著者になっている『イノべーションのへの解(実践編)』は私が訳してます。

スコット・アンソニー氏は、イノサイトというコンサル会社をクリステンセン教授と共同経営している方です。イノサイトは日本ではINDEE JAPANという会社と提携して活動しているようです(関連過去記事)。『イノべーションのへの解(実践編)』はその名の通り、クリステンセン教授の理論をコンサルに応用する時に使いやすい内容になっています(INDEE JAPANの方からも「わかりやすく翻訳してくださってありがとうございました」とお褒めの言葉をいただきました)ので、併せてお読みいただければ幸いです。

ところで、『イノベーションの最終解』の訳者あとがきで、”『イノべーションのへの解(実践編)』の栗原潔氏の訳語も使用させていただいた”みたいなクレジットが入ってます。だいぶ昔なので定かでないのですが、『イノベーションのジレンマ』と『イノベーションへの解』の訳語を踏襲するのは当然として、どうしても齟齬が生じる部分があったので、悩みに悩んだ上で、新訳語を当てたことがあったと記憶しています。

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【誤訳注意】ITという言葉のニュアンスの日米の違いについて

企業にはチーフ・デジタル・オフィサー(CDO)が必要であるなんて論調が聞かれるようになってます。ある概念が流行ると、企業にはCxOが必要である(たとえば、AIが流行ればCKO(Chief Knowledge Officer)がー、コンプライアンスが重要視されればCCO(Chief Compliance Officer)がー)と誰かが言い出すのは一種のテンプレなのでまあよいのですが、ここでは、なぜ、CIOではなくCDOという言葉をわざわざ作り出したのかという点に注目して考えてみましょう。(CDOだと、ビッグデータブームから派生したChief Data Officerと区別がつかないじゃないかという話もありますが、また別途)。

この根底には、英語圏におけるIT(Information Technology)という言葉のニュアンスの問題があると思います。

日本でITと言えば、情報技術(あるいは情報通信技術)と訳され、コンピューターとネットワークの応用分野全体を指すと思います。ところが、英語圏では(少なくともアメリカでは)これよりももう少し範囲が狭いことが多いです。

たとえば、Free Online Dictionary Of Computingでは、Information Technologyを”Applied computer systems – both hardware and software, and often including networking and telecommunications, usually in the context of a business or other enterprise.”と定義しています(強調は栗原)。要は、ITという言葉は企業コンピューティングの文脈で使われ、コンシューマー向けのテクノロジー(たとえば、SNS)は範疇外とされていることが多いことがわかります(日本と同様、情報技術全般を指すこともまったくないとは言えないでしょうが)。

CIOは(狭い意味の)ITの総責任者、しかし、これからは企業コンピューティングだけ見ていても不十分であり、コンシューマー向けの情報技術も含めて統括してかなければならないというメッセージをこめてCDOという役職が提唱されているのでしょう(たとえば、この記事を参照)。

これに関連して、たまに見られる誤訳問題について触れておきます。以下の記事見出しのITをどう訳すべきでしょうか?

10 things to help you bridge the IT/end user divide

「情報技術とエンドユーザーのギャップ解消に役立つ10のこと」だとちょっと意味が通じません(少なくとも記事の中味とは合致しません)。この文脈での”IT”は「IT部門」、あるいは、「情報システム部門」と訳す必要があります、日本で「情シス」と言ったときに、情報システム部門(あるいはその担当者)のことを指すことがあるのに似ています。英辞郎にも載ってない意味ですが普通に使われてます。

同様に、”10 things I’ve learned from working in IT”を「IT業界で働いて〜」と訳した事例がありましたが、これも誤訳とは言えないまでもちょっと不正確で「IT部門で働いて〜」あるいは「情報システム部門で働いて〜」と訳すべきです。”IT業界”だと、たとえばベンダーのマーケ等々も含まれるイメージになりますが、この記事で触れているのは企業内の情報システム担当者の話だけです。

いずれにせよ、英語圏においてITという言葉に「従来型の企業内情報システム」というニュアンスが強いことは意識しておいて損はないと思います。

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iWatch (iTime?) の特許を分析する

今回は前回紹介したiTimeと銘打たれたアップルのスマートウォッチ特許の中味を分析してみましょう。

その前に、以前にもiWatchと関係するのではないかという特許出願(米国公開番号US 20130044215)があって、このブログでも分析したことがありましたのでそれについて書いておきます。

そこで開示されていたアイデアはフレキシブルなディスプレイ(e-Paper?)を使った平べったいブレスレット型のデバイスで、ベルト全体に表示がされることが特徴になっていました。デザイン的にはかなり革新的だったので、実際の製品もこういう風になればよいなと思っていたのですが、現在の業界の噂から判断する限り、そうはならなさそうです。残念です。

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ところで、この特許出願、前回のブログ記事執筆時点では審査係属中だったのですが、結局拒絶になったようです。クレームされていた「ベルトの裏側にセンサーを設けてベルトの重なり部分を検知して表面ディスプレイ表示を調整し、表示に切れ目が生じないようにする」というアイデアは、似たようなアイデアが既に公開されていて特許性なしと判断されたようです。

さて、今回の特許8787006号)(まだ、Google Patentsに載っていないようなのでUSPTOサイトへのリンクとなります)ですが、図面を見る限り、普通の腕時計のようなベルト+本体のデザインになっています(特許図面は機能を表現するものですから、実際の工業デザインとは直接関係ありませんが)。

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開示されているアイデアは、センサー搭載、近隣デバイスとの相互通信、ペアリング相手との距離が離れた時の警告(スマホ盗難防止用です)、ジェスチャーによる操作等、今となっては当たり前のものが中心です。

興味深いのはクレームです。ここがアップルが特許として独占できる部分になります。クレーム1は以下のようになってます(翻訳は栗原による)。

An electronic wristband to be worn on a wrist of a user,the electronic wristband comprising:

a central portion having a receptacle area configured to receive and electrically connect to a mobile electronic device, the mobile electronic device including a display and being independently useable apart from the electronic wristband to perform a first set of functions; and

at least one band portion coupled to the central portion and suitable to assist with securing the electronic wristband to the wrist of the user, the at least one band portion including a wireless communication transceiver provided internal to the at least one band portion and operatively connected to the mobile electronic device when the mobile electronic device is received in the receptacle area, wherein the mobile electronic device, when received in the receptacle area, is operable to perform a second set of functions, the second set of functions including all of the first set of functions and further including wirelessly communicating user input received by the mobile electronic device to a second electronic device via the wireless communication transceiver.

ユーザーの手首に巻く電子リストバンドであって、

モバイル電子機器を収容し、電子的に接続する収容部位を備えた中央部と、中央部と結合され前記リストバンドをユーザーの手首に固定する少なくともひとつのバンド部とを備え、

前記モバイル電子機器は、ディスプレイを備え、前記電子リストバンドとは分離して使用されて第一の複数機能を実行可能であり、

前記バンド部は、内部に無線送受信手段を備え、前記モバイル電子機器が前記収容部位に収容された時に、前記モバイル電子機器と作動的に接続され、

さらに、前記モバイル電子機器は、前記収容部位に収容された時に、第二の複数機能を実行可能であり、

前記第二の複数機能は前記第一の複数機能を包含し、さらに、前記モバイル電子機器が受信したユーザー入力を無線通信送受信手段を介して第二の電子機器に伝える、

電子リストバンド

収容部位(receprtable area)とは下の図の308に相当する部分です。要は、時計本体(340)(上記クレームで言うmobile electronic device(モバイル電子機器))がベルトから脱着可能になっているわけですね。時計本体単独でも機能を提供できますが、通信機能を初めとする追加機能はベルト側で提供するということです。

ベルト側にも通信用電子回路が入っているのが前提なので、単なるベルト交換を目的にしたものではなさそうです。ベルト部分と本体部分を別々にアップグレードできることを目的としているのでしょうか?ひょっとするとiPod Nanoのアクセサリー(にするつもりだったもの)の特許なのかもしれません。

いずれにせよ、こういうモジュール型の設計は保守性を犠牲にしても一体型デバイスにしたがるアップルの設計思想と相反するような気もします

とは言え、特許としては成立してますので、こういう着脱型スマートウォッチ製品を企画しているメーカーは注意が必要です。

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なお、特許が取れたからと言ってその通りに製品を作らなければいけないわけではありません。たまに勘違いしている人がいますが、特許を取れるか取れないかの話と、物として製造販売するかの話は別ドメインです。特許を取れなくても(他人の特許に抵触しない限り)製品として製造販売するのは自由ですし(自分が独占的に製造販売できないだけの話です)、特許を取れたとしてもその通りに製品を作らなければいけないわけではありません。

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