カバー曲をCD化する場合に作曲家サイドへのあいさつは必要か?

前回の記事では、カバー曲をCD化する際の元歌の歌手(実演家)について、法律的には特に権利があるわけではないが(業界の礼儀として)場合によっては事前にひと言おことわりをしておいた方が良いんじゃないかと書きました。

今回は、もっと基本的な話としてカバー曲をCD化する時の元歌の作曲家に対して何が必要かという話をしましょう。実演家ではなく著作者の話なので著作権法上の関連する権利が変わってきます。すなわち、著作隣接権ではなく、著作権が効いてくることになります。

ほとんどの作曲家・作詞家はJASRAC(あるいは、他の音楽著作権管理団体)に(多くの場合、音楽出版社経由で)自分の曲の著作権を信託しています。これにより、音楽の著作物を利用したい人は作曲家・作詞家や音楽出版社にいちいち許可をもらうことなく、所定の料金だけ支払うことで楽曲を利用(演奏、CD化、カラオケ配信、放送等々)ができます。

こういう仕組みがないと、利用者側が利用のたびにいちいち許可をを取る必要が生じて非現実的ですし、作曲家・作詞家は自作のマネタイズが困難になりますし、仮に著作権侵害行為があっても野放しにするしかないという状態になってしまいます。

ちょっと余談ですが、キャンディーズの曲等で有名な作曲家の穂口雄右氏がJASRACを退会し、自身の楽曲を自己管理下においてAmazon等で権利証を販売していた時期がありましたが、今は、結局、同氏が米ASCAPBMIと契約したことで間接的にJASRAC管理に戻したようです。こうなるに至った同氏の主張(関連Wikipediaエントリー)には賛同したい部分もあるのですが、JASRACに問題があるかないかの話とは別に、現実的にはJASRAC的な組織(音楽著作権を集中管理して利用料を代行徴収する組織)がないと困るということは確かです。

ここで、JASRAC等の著作権管理団体が管理する権利には、翻案権(編曲権)は含まれないことに注意が必要です。また、著作者には著作者人格権があり、それには同一性保持権が含まれます。著作者人格権は著作者(作曲家・作詞家)の一身専属の権利であり、他人に譲渡できません。

つまり、カバーを行なう場合、楽曲をそのまま使うのであればJASRAC等に所定の料金を払うだけでよいのですが、アレンジを加えた場合には、作曲者側の許可が必要になります(歌詞は変えないという前提です)。どこからどこまでが許可不要なのかは法律上も判例上も明確な基準がありません。JASRACのFAQでは、以下のように書かれています。

Q. JASRACの管理作品をカバーしてCDに収録することを考えています。手続きはどうすれば良いですか。

A.カバーにあたりアレンジを加える場合は、まずその作品を管理する音楽出版社に連絡し、「編曲の手続き」をお済ませください。その後、JASRACに「録音の手続き」を済ませれば、アレンジ付きのカバーをCDに収録することができます。

著作権法は、著作者の権利として「複製権」「演奏権」「送信権」などさまざまな支分権を規定しています(著作権法第21条〜第28条)。アレンジを行う場合の手続きは、この支分権のうち「翻案権(編曲権)」(同法第27条)の手続きに該当します。

この「翻案権」については、著作者人格権との関係により、JASRACは信託を受けられないため、アレンジ(編曲)をする場合、JASRACではなく音楽出版社から直接同意を得ていただくことになります。

音楽出版社の連絡先がわからない場合は、JASRACインフォメーションデスク(03-3481-2125)へお問い合わせください。

翻案権の手続きが完了すれば、次にJASRACに録音の手続きを行ってください。

JASRAC管理作品の録音利用の手続きについては、こちらのページでご案内しておりますので、ご参照ください。

今日のポピュラー音楽でカバーの際にアレンジを加えないということはないと思われるので、結局、カバー曲CD化の場合は常に著作権者の許可を取れということなのでしょう。上記のFAQは同一性保持権について触れていませんが、厳密に言うと、作曲家本人にも同一性保持権上問題がないかおことわりする必要があります(実務上は音楽出版社から作曲家に話を通してくれるということなんでしょうか)。

こういう運用が一般的になったのはPE’Zによる大地讃頌のカバーに対して作曲家の佐藤眞氏が編曲権と同一性保持権に基づいて訴えた事件が契機となっているようです(関連過去ブログ記事)。

いずれにせよ、実演家の場合とは異なり、作曲者側に話を通すのは単に業界の礼儀レベルを越えて法律的にも必要ということです。

しかし、実はこの話はCD化だけではなく演奏等にも及ぶ話なので、厳密に言えばライブハウスでカバーを演奏するだけでも(お店によるJASRACへの料金支払に加えて)音楽出版社および作曲家本人に翻案権の許諾と同一性保持権不行使の合意を取る必要があることになります。とは言っても、たとえば、「明日のライブで松任谷由美さんの曲をラテンアレンジで演奏するので許可をください」とユーミンの事務所(あるいは本人)にいちいち連絡してたら業務妨害かと思われるかもしれませんね。

譜面に書いてある音楽の著作物を「楽団」の人が忠実に演奏する実演が中心だった大昔と比較すると、現在は実演家自身が独自のアレンジを加えるのは当たり前になってますので、もう少し現状にあった法律的な手当が必要なのではないかと思います。

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持ち歌の不本意なカバーをされた時に歌手は著作権法的に何ができるのか?

ある大御所ロック歌手が昔の持ち歌をことわりなくカバーされたことに苦言を呈してちょっと揉めたという事件がありました。もともと法律的な話でもなんでもなく、業界の礼儀的な話であるので、この事件についてはここでは論じません。元々の事件についてコメントされたい方は関連Togetterをサーチしてコメントするなどしてください。

ここで論じたいのは、自分の持ち歌を不本意にカバーされた歌手は著作権法上何かできるのかということです。上記の事件について、俺様著作権論を展開している人が見受けられたのでここで整理しておきましょうということです。

まず、大前提として、著作権法上は歌唱は著作物ではありません。歌唱は実演です。そして、実演は著作物とは別物で関連する権利も違います。なお、旧著作権法(明治32年)では歌唱も著作物のひとつとされていました。なので、歌唱は著作物であると決めてもよいのですが、今はそうなってないということです。

著作者(著作権者)と実演家(歌手等)がごっちゃになってる人がたまに見受けられます。

たとえば、JASRACに対する都市伝説的批判において、ライブハウスから徴収した金額はAKB48のようなメジャーなアーティストにしか回らないなんて話を聞くことがあります(JASRACの使用料分配に関する話はまた別途)。しかし、AKB48の曲がカラオケで歌われたり、ライブハウスでカバー演奏されたりしたことで、JASRACに入った著作権使用料はAKB48メンバーには回りません。回るのは秋元康等、楽曲の作詞家・作曲家に対してです(もちろん、メンバー自身が作詞・作曲した曲の場合を除きます)。

これに関連して余談ですが、作詞・作曲もするメンバーと実演のみのメンバーがいるバンドがヒット曲を出すと(後者には著作権収入が入らないことから)メンバー間で大きな収入格差が生じてバンドの不和の一因になるというケースもあるようです。

さて、本題のカバー曲を出されたことに対して実演家は何ができるかについて考えます。簡単に言えば、著作権法上は楽曲は著作者(作曲家・作詞家)のものであって、歌手(実演家)のものではないので、楽曲がどう使われるかを歌手はコントロールできません。

もちろん、実演家にも(著作権とは別の)権利があります。

第一に、著作隣接権(実演家の権利)です。この権利には録音権・録画権、放送権・有線放送権、送信可能化権、譲渡権、商業用レコードの貸与権があります。著作者の権利とは異なり複製権や翻案権がありませんので、仮に、カバーにおいてオリジナルの歌唱の物真似やインスパイア的な要素があったとしても、実演家の著作隣接権の侵害にはなり得ません。

なお、実務上は、歌手やバンドの著作隣接権はレコード会社との専属録音契約によってレコード会社に譲渡されていることが通常です(それがいやなら自費出版すればよいので、あながちひどい話ではありません。)

もうひとつの実演家の権利として実演家人格権があります。実演家人格権には氏名表示権と同一性保持権があります。同一性保持権(90条の3)は「(実演家が)自己の名誉又は声望を害するその実演の変更、切除その他の改変を受けない」権利です。「自己の実演の改変」の話をしていますので、カバー曲(他人による別の実演)は関係ありません。ちなみに、実演家の同一性保持権を侵害するケースとしては、ライブでミスがあったシーンだけをまとめて映像作品にされてしまったというようなケースが考えられるのではないかと思います。

繰り返しますが、ここでは著作権法的に歌手(実演家)にどういう権利があるかを論じているだけなので、業界の儀礼的な話はまた別です。私見ですが、カバー曲をライブでやるだけでなくCDを出し、かつ、その曲とオリジナルの歌手の結びつきがきわめて強いという認識があるのであれば、許諾というほど大げさなものではなくてもひと言おことわりしておくべきだと思います(そして、それは事務所等の裏方さんがちゃんとやっておくべき仕事だと思います)。

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【実務者向け】米国企業が産業競争力強化法による審査請求料軽減を受けるための必要書類

時限立法の産業競争力強化法によって小規模事業者の審査請求料金が3分の1になるのはなかなか魅力的な制度です(参考ページ)。この制度は在外者であっても、日本法人と同じく以下の条件であれば利用可能です。

a.小規模の個人事業主(従業員20人以下(商業又はサービス業は5人以下))
b.事業開始後10年未満の個人事業主
c.小規模企業(法人)(従業員20人以下(商業又はサービス業は5人以下))
d.設立後10年未満で資本金3億円以下の法人
※c及びdについては、支配法人のいる場合を除きます。

日本の法人や個人事業者であれば必要な書類は特許庁のサイトに描いてありますが、在外者の場合には何を提出すればよいのかは具体的には書いてありません。米国法人の場合は何を提出したらよいのか特許庁に聞いてみたところ「一般的な回答はできない、個別に判断する」とのことでした。

ということで、上記のd.のタイプの米国法人について、U.S. Corporation Income Tax Return(Form1120)を米国国税庁に提出した時の写しを証明書類として提出してみたところ、軽減請求が無事通りましたのでご報告します。英語の証明資料には訳文が必要なのですが、全部訳すと大変なので当該部分のみマーカーを引いて訳したところそれで問題なかったようです。

必要だったのは、1ページ目のC:Date Incorporated(設立日)、D:Total Assests(総資産)、4ページ目の5.の記載(支配法人がいないことの証明)だけです。ここにマーカーを引いて翻訳と説明書きを加えました。

なお、出願審査請求において審査請求料金軽減を請求して、万一、軽減請求が通らなかった場合、手数料補正により残りの審査請求料金(3分の2)を支払うことが必要です。手数料補正をしないと出願審査請求自体が手続却下になりますが、この場合でも既納の料金は返還されないのでご注意ください(特許庁確認済)。一般に、審査請求料金は多く払いすぎると払い過ぎた分が返金されますが、足りなくて追加分を払わなかった場合は既納分は返ってきません。出願人が「3分の1になるなら審査請求してもいいけど、フルに払うことになるのならしたくない」という意思である場合には注意が必要です。

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Appleのリア充向けイヤホン特許について

6月2日に、Appleが” Earphones with cable orientation sensors”という米国特許を取得しました(単なる公開ではなく権利化です)。特許番号は9,049,508です(まだ、Google Patent Searchに載っていないのでUSPTOサイトへのリンクを貼りました)。

この特許技術の主な目的はステレオイヤホンを片方ずつ2人で聴いている状態を検知して自動的にステレオモードからモノラルモードに切り替えるというものです。

使用イメージを説明するのにぴったりのCreative Commonsライセンスの写真素材があったので貼っておきます。まさに「リア充」向けの発明と言えましょう。

lgf01a201405040800
SCA Svenska Cellulosa Aktiebolaget

2人で聴かれている状態の検知方法としてイヤホンのケーブルが左右に分かれる部分の角度を圧力センサー等で計測し、左右に引っ張られている状態になっていれば2人で聴いていると判断する例が挙げられており、権利化もされています(真のリア充で相手と密着しているとセンサーが検知できないのではないかという気もしますが)。

キャプチャ

ただ、リア充の人でもこういうシチュエーションがそれほど頻繁にあるとも思えませんし、ステレオのままでも一応音楽は楽しめますし、どうしてもモノラルにしたければ別途手動で切り替えるスイッチや本体での設定を用意しておけば済む話なので、それほど価値がある特許ではないという気がします(分割出願が別の観点で権利化される可能性もありますが)。

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Amazonのドローン配送特許出願について

日本では、いろいろな事件により、過剰な規制が懸念されているドローンですが、そのテクノロジーとしての可能性は否定できません。米Amazonがドローンで商品を配送する計画(Amazon Prime Air)を公表して世間を驚かせたのは記憶に新しい(イメージビデオ)ですが、4月30日にその関連の特許出願が公開されました(参照記事)。公開番号は20150120094です(まだGoogle Patent Searchに載っていないのでUSPTOのサイトにリンクを貼りました)。なお、公開されただけであってまだ特許化されたわけではありません。

ところで、上記のCNN記事ですが、”Amazon drone delivery proposal now patented”という修正前のタイトルがGoogleのキャッシュに残っており、CNN記者でも特許出願の公開と権利化がごっちゃになっている人がいるのだなあと思いました。

さて、特許出願の内容通りにサービスが実装されるとは限りませんが、特許出願の内容を見ることは、出願人(この場合はAmazon)がどのような具体的応用例を考えているのか、また、どのような技術を特許として独占しようとしているかを知る上での「ヒント」にはなり得ます。

基本的アイデアはドローンで荷物をピックアップして目的地で下ろすという単純なものです。ユーザーが”Bring It To Me”オプションを指定することで、ユーザーが今いる場所に荷物を届けてもらうことができます。さらに、いくつか興味深い付加的技術が開示されていますので、その一部をご紹介します。

1

複数のドローンをまとめて格納するための発着所のイメージです。現物があるなら見てみたいですね。

2

ユーザーのスマホ等のモバイル機器をドローンの発着場所指示に使うというアイデアです。ユーザーがモバイル機器をドローンを着陸させたい場所に置きます。モバイル機器はドローンの映像をカメラで撮影しながらドローンと無線でやり取りし、正確な着陸位置をコントロールします。たとえば、屋外にあるテーブル上などの安全な場所にドローンを着陸させることができます(ドローンがプールに着陸しちゃったりしたら大変ですからね)。なお、スマホの真上にドローンがのっかってしまわないようスマホのごく近くに着陸させるという実施例も記載されています。

権利化の観点から見てみるとクレーム1は次のようになっています。

1. A system for aerial delivery of items to a destination location, comprising:
a plurality of unmanned aerial vehicles, each of the plurality of unmanned aerial vehicles configured to aerially transport items;
an unmanned aerial vehicle management system, including:
a processor;
and a memory coupled to the processor and storing program instructions that when executed by the processor cause the processors to at least:
receive a request to deliver an item to a destination location;
and send to an unmanned aerial vehicle of the plurality of unmanned aerial vehicles, delivery parameters identifying a source location that includes the item and a destination location;
wherein the unmanned aerial vehicle, in response to receiving the delivery parameters, is further configured to at least:
navigate to the source location;
engage the item located at the source location;
navigate a navigation route to the destination location;
and disengage the item.

(抄訳)
空輸で荷物を運ぶ複数のUAV(ドローン)とドローン管理システムから成り、
前記ドローン管理システムは目的地に荷物を運ぶ要求を受け取って、要求のパラメーターをドローンに送信し、
前記ドローンは出荷地に向かって荷物を積み、目的地に向かって荷物を下ろすよう構成されている空輸配送システム。

意図的にだと思いますが、かなり範囲が広く、従属クレームでもあまり限定を加えていないので、このまま権利化するのはちょっと難しい(逆に言うと万一権利化されると他社への影響が大きい)のではないかと思います。USPTOからは特に審査結果は出ていないので、最終的な特許はどのようになるか(そもそも特許化され得るのか)は読みにくいところがあります。上記のスマホによる着陸位置制御は権利化できるかもしれません。

アメリカでもドローンの規制は厳しくなっていますので、Amazonが想定したサービスが今すぐに実現可能なわけではありません。しかし、消費者にとっての価値とリスクの天秤で魅力あるサービスとみなされれば普及することになるでしょう。日本でも事故を起こす可能性があるので絶対禁止という単純思考に基づいた規制は避けてもらいたいものです。

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