「おじいちゃんのノート」の特許を分析する

#本記事はYahoo!ニュース個人の再掲です。

“おじいちゃんのノート”に大反響 孫がツイッターで拡散→在庫の山に注文殺到 奇跡を生んだ数々の偶然」というニュースがありました。

東京都北区の小さな印刷所が手作りしている「方眼ノート」。元日に、ある女子専門学校生がツイッターでつぶやいたことで、注文が殺到しています。「うちのおじいちゃんのノート、費用がないから宣伝できないみたい。Twitterの力を借りる」。特許をとって製品化したものの数千冊の在庫を抱えていたノートに、一気に注文が入り始めました。

ということだそうです。いい話ですね。

このノート、見開きした時に完全にフラットになるのが特徴です。書きやすい、見開きでコピー取る時に綴じ部(いわゆる「ノド」)がきれいにコピーできる等の利点もありますが、特に方眼ノートの場合には見開き左右2ページを完全に連続した一枚の方眼紙として使えることでさらに利点が増します。方眼ノートを普段使っている人にとっては大変便利なのでしょう。

このノートは特許化されているということだったので調べてみました。「特許」と言われているのに、実は出願しているだけだったり、「実用新案」だったりというケースがたまにありますが、このノートはちゃんと特許化されています。有限会社中村印刷所を出願人とする特許5743362号「無線綴じ冊子の製本方法」です。

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発明のポイントは粘度の異なる2種の接着剤を使うことにあります(上図の5と6、6の方が粘度が高い)。こうすることでページの脱落を防ぎながら優れた見開き性を実現できるというわけです。明細書には接着剤の種類や塗布量についても記載されており、いろいろと実験を重ねたことがうかがわれます。弁理士を代理人にしたちゃんとした明細書になっており、当然ながら中間処理もしっかりやっています。「おじいちゃんのノート」ということで最初は素人の単なる思い付きぽいイメージを持っていましたが、実はめちゃくちゃプロフェッショナルな仕事でした(どうもすみません)。

中村印刷所はこれ以外にももう1件特許(特許第4891798号「オフセット印刷の製版用版下紙フィルム及びその製造方法」)を取得しています。こちらも弁理士を代理人にしてちゃんとした明細書作成と中間処理をやっています。

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2016年のごあいさつとYahoo!個人のアクセストップ10のご紹介

昨年はお世話になりました。今年度も弁理士とITアナリストを両輪にがんばっていきたいと思います(翻訳もちょっとだけやっています)。情報発信はアクセス数が稼ぎやすい知財系が中心になってしまいますが、IT系の仕事も継続しています。今年は、FinTech、C2C、機械学習、ストレージ等を中心に見ていきたいと思います。

さて、ブログによる情報発信ですが、このブログは弁理士の業務関係やIT系の細かい話にフォーカスして、一般向けの記事はYahoo!ニュース個人を中心にしていこうと思います。たまに、Yahoo!ニュース個人の記事を本ブログに転載することもあります。

新春企画としてYahoo!ニュース個人の方に昨年度の自分のアクセス数トップ10に関する記事を書いていますので、ご興味ある方は是非ご覧下さい。

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Airbnbだって特許出願しています

ウーバーやAirbnbなどのシェアリングエコノミー系(C2C系)の新興企業は特許とは縁がないと思われるかもしれません。特許は発明という技術的アイデアを保護するためのものであり、人為的な取り決めは対象外であるからです。

しかし、現実に、シェアリングエコノミー系の企業を運営するためにはインターネット関連の技術を使用せざるを得ません。そこで技術的に独自の創意工夫があるならば特許化できる可能性があります(もちろん、単にウェブで情報交換しているだけという当たり前の使用法であれば進歩性の欠如により特許化はできません)。

たとえば、ウーバー子会社のUber Technologies, Incは積極的に米国で特許出願をしており、そのいくつかは既に権利化されています。主に、カーナビゲーション関連の技術です。個人ドライバーと利用者をウェブで直接仲介するというビジネスモデルそのものの模倣を防ぐことはできませんが、仮に他社が同じビジネスモデルで競合してきたときも、ウーバーが提供するカーナビ機能は他社と比べて効率的(ドライバーはより多く稼げる)という評価をドライバーに得られれば大きな差別化要素にできるでしょう。

一般に、シェアリングエコノミー系ビジネスはアイデア一発のようなところがありますので、ビジネスモデルは容易に模倣されてしまいます。したがって、企業は、先行者利益、スケールメリット、ブランドイメージ等で勝負していかなければなりませんが、特許による技術独占はこれを後押しできます。

個人間の宿泊施設紹介サイトであるAirbnbも米国で特許出願しており、1件が既に公開されています。ウーバーの特許は後日解説することにして、この特許について簡単に分析してみましょう。出願番号はUS13802025、出願日は2013年3月13日、発明の名称は”Automated determination of booking availability for user sourced accommodations”(クラウドソーシング宿泊施設の空き状況の自動的決定)です。

発明のポイントは検索された宿泊施設の表示ランクにおいて、予測モデルで算出した部屋の空き状況を加味する店にあります。通常のホテルサイトですと、空室状況はホテル側が厳格に管理していますが、Airbnbの場合は貸す側も素人ですので更新が適当でウェブ上は空室ありになっていても、実際問い合わせると既に埋まっていたという可能性があります。こういう状況を最小化するための技術です。
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現時点での審査状況を見ると拒絶理由通知に対応中であり特許化される可能性はあります。この機能が絶対必要かというとそうでもないですが、ユーザーの利便性向上、すなわち、Airbnbの差別化には貢献するでしょう。

一般的に言って、テクノロジー中心型ではないビジネスモデルのスタートアップ企業も、絶対特許出願せよとまではいいませんが、少なくとも特許出願の可能性を検討だけはしてみるべきでしょう。

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弁理士+本人のみでも特許侵害訴訟は可能です

業として訴訟事件の代理人をできるのは弁護士だけです。これに違反すると(いわゆる、「非弁活動」)弁護士法の規定により刑事罰が課されます。

一方、代理人を使わず、当事者本人が裁判を起こすことは可能です(いわゆる、「本人代理」)。とは言え、法律知識のない当事者のみで裁判を継続し、有利な結果を得ることは困難です。

そして、弁理士法の定めにより、知財関係(著作権を除きます)の訴訟であれば、弁理士は補佐人として裁判に関与できます。

第五条 弁理士は、特許、実用新案、意匠若しくは商標、国際出願、意匠に係る国際登録出願若しくは商標に係る国際登録出願、回路配置又は特定不正競争に関する事項について、裁判所において、補佐人として、当事者又は訴訟代理人とともに出頭し、陳述又は尋問をすることができる。

2 前項の陳述及び尋問は、当事者又は訴訟代理人が自らしたものとみなす。ただし、当事者又は訴訟代理人が同項の陳述を直ちに取り消し、又は更正したときは、この限りでない。

ということで、本人代理+補佐人としての弁理士の組み合わせにより、弁護士抜きで知的財産権(著作権を除きます)の侵害訴訟を行なうことは法律的には問題ありません。ただし、訴訟の提起や和解交渉等は本人が行なう必要があります。また、代理人がいない状態なので、裁判には常に本人が出席する必要があります(弁理士のみでは不可)。権利者が法人である場合には、代表取締役が出席する必要がありますので大企業では非現実的かと思います。

合法は合法としても実際にそのようなケースがあるのかと調べてみると、弁理士会の会報「パテント」に経験談が載っていました。当事者(原告)が体調不良により裁判に出席できなくなったというアクシデントもあったようですが、何とか有利な和解に持ち込むことができたようです(事実上の勝訴に近いです)。

もちろん、特許侵害訴訟は知財分野の経験豊富な弁護士と弁理士の組み合わせで行なうのが理想(弊所でも比較的低めの着手金で受任していただける弁護士先生をご紹介可能です)ですが、個人発明家や小規模企業において、予算が非常に厳しく、特許侵害は明らかなのに裁判費用の問題で訴訟に持ち込めないというパターンの場合には、弁理士が補佐人として本人代理訴訟のお手伝いすることが可能です。是非ご相談ください。

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【実務者向け】商標登録出願の公開を防ぐ方法はないようです

twitter界隈でちょっと話題ですが、商標権取得のためではなく、特許庁に自分の思いのたけを伝えるかのような商標登録出願を繰り返している人がいます(事情がよくわからないのでこの件そのものには触れません)。これらの出願の審査経過情報を見てみると、出願して同日に取下げていることがわかりました。

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これを見て思ったのは、出願即取下というパターンでも出願公開はされてしまうということです。特許であれば、ちょっと前に書いたように出願日(優先日)からおよそ1年4ヶ月経過までにに出願自体を取下げれば出願公開を防ぐことができますが、商標の場合は出願後ただちに公開準備に入る規定なので事情が異なるようです(特許庁に問い合わせたところシステムによって自動化されているので止める手段がないそうです)。

たとえば、新製品発表直前に製品名を商標登録出願したところ、何らかの事情により新製品発表が半年後に延期、このままだと出願公開で製品名が発表前にネタバレしてしまうというような事態で、あわてて出願を取下げても出願公開は食い止められないということになります。

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