アドビシステムズの記者会見で著作権について講演しました

アドビシステムズが提供するストックフォトサービスAdobe Stockの記者会見で「素材写真利用における著作権法上の留意点」という講演を行ないました(スライドは後でSlideShareにアップします)。特にWebで素材写真を使う際の注意点について簡単にまとめています。

以下のような媒体記事でご紹介いただきました。

Webやプレゼン資料等での素材写真の無断利用は、ついついやってしまいがちな行為です。特に社内使用について「それは実は著作権侵害ですよ」と注意するのは学級委員長的でちょっと気が引けるのですが、万一問題になった時のダメージを考えると、倫理的問題以前に組織のリスク管理として避けるべきです。

さらに、一昔前とは異なり最近は素材写真も数100円レベルからと安く使えるようになっていますし、月額契約もあります、また、(素性がはっきりした)著作権フリーの素材もあります。

昨年の五輪エンブレム事件でも、空港の写真等を他人のブログから無断流用したことが佐野研二郎氏作エンブレム撤回の原因のひとつになってしまったわけですが、空港の写真が素材に欲しいだけであれば500円で提供しているサービスがあります。500円をけちったためにはるかに大きな損害を被ってしまったわけです。これ以外にも素材写真の無断使用で損害賠償支払いを命じられたケースは数多くあります。金額的な問題よりも信用失墜のダメージが大きいでしょう。

素材写真の著作権は今までは何となくなあなあで済んでいた領域だと思うのですが、もうそういう大らかな時代は終わったと考えるべきでしょう。

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【実務者向け】海外代理人とのメールにおける注意点

海外代理人との英文メールのやり取りにおいて普段気を付けていることをまとめてみました。挨拶文は書かずいきなり用件から書くといった、英文ビジネスメールにおける一般的お作法は大前提なので、ここでは触れません。

1.受領通知(ACK)を返す

メールの中身を読んで作業に入る前に、メールを受信した段階ですぐに受領通知を返した方が良いと思います。AcknowledgedとかReceived with thanksと返せば十分です。海外代理人でもちゃんとしたところはこの習慣を守っています。

特に期日があるものについては、てっきり作業中なんだろうなと思っていたらが、実はメールが届いてなかったなんてことがあると大変なので、この習慣を付けておくことは重要です。向こうがACKを返してくれないときはこちらのメールにPlease acknowledge safe receipt of this mail.とでも書いておけばよいでしょう。

今でもメールが届かないことなんてあるのと思われるかもしれませんが、共用のSMTPサーバが迷惑メールの送り手に使われており、そのSMTPからのメール全体がSPAM扱いで受信拒否にされていたことが実際ありましたのでまったくないとは言えません。届かなかったことはこちらでは数日後にならないとわからないので、期日が厳しい用件だと大変なことになります。

また、期日が厳しい用件でACKが帰ってこないときは別のメールサーバ(Gmail等)から送り直す等もした方がよいと思います。

2.件名に整理番号を入れる

メールの件名に案件の整理番号を入れておくと、メールのやり取りの途中で件名が変わったり、メールのスレッドが切れた場合でも、後で検索するときに楽になります。こちらの整理番号(OurRef)だけでなく、先方の番号(YouRef)も入れておいた方がよいでしょう。

これは日本におけるクライアントとのやり取りでもやっておいた方がよいでしょうね。

3.重要な依頼は添付レター形式で

出願の依頼や登録料支払いの依頼等の重要な用件はメールの地の文に書かず、別途、レター形式のPDFファイルを作って添付ファイルにした方がよいと思います。メールの地の文に書くと、重要な情報が正しく伝わらなかったり、書式が崩れて見にくかったり、後で検索しにくかったり、万一言った言わないの話になった時に証拠として使いにくかったりするからです。

以前、某海外代理人に登録料納付してよいかとメールしたときの返信に「添付ファイルを参照してください」と書いてあって、添付のレターには「登録料納付願います」と書いてありました。だったら最初からメールの地の文に書けよと思いましたが、金の動きが関連する用件については必ずレター形式で書くことにしているのだなと思い、弊所でも真似することにしました。もちろん、ちょっとしたやり取りまでいちいち添付ファイルにする必要はないとは思います。

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「悪意の商標出願」って何?

特許庁が「悪意の商標出願セミナー」なるセミナーを定期的に開催しています。ここでいう「悪意の商標出願」とは、海外の出願人(特に中国)による日本の人気キャラクターや、地域の特産品などの名称の無断商標登録を狙った出願を指します。セミナー開催に加えて、今年度からこのような商標登録を取り消すための訴訟費用を補助する制度が始まるようです(参照ニュース記事)。

意味はわかりますが、法律用語としての「悪意」は「事情を知っている」という意味であって、道徳的な概念とは関係ないのでちょっと気持ち悪いですね。

英語での表記を見ると、英語ではBad Faith Trademark Filingであることがわかります。in bad faithの定訳は「不正目的の」なので「不正目的の商標出願」とした方がすっきりすると思います。さらに言えば「商標出願」ということばは正式ではないので(商標法の法文には出てきません)「不正目的の商標登録出願対策セミナー」とすべきでしょうね。

もちろん、名称の話はおいておいて、海外での不正目的商標登録出願対策に支援金を出すという施策自体は全面的に支持したいです。特に小規模企業においては、海外で裁判や無効審判を提起するのは金銭的に荷が重いからです。

ところで、このような出願を「冒認出願」と呼ぶこともありますが、特許とは異なり、商標の世界では本来的には「冒認出願」という概念はありません(商標は創作するものではなく選択するものであり「商標登録を受ける権利」という概念は観念されないため)。実際には、特許庁その他のサイトでも使ってますし、自分もたまに使うことがありますが。

さらに言うと「冒認」という言葉は辞書にも載ってない専門用語なので、特に商標の場合には「抜け駆け出願」とか「勝手出願」と言った方がわかりやすく、かつ、正確だと思います。

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【実務者向け】韓国のマドプロ暫定拒絶対応について

マドプロ出願で韓国を指定した人はご存じと思いますが、韓国特許庁から暫定拒絶が出るとまたたくまに複数の韓国特許事務所から弊所に対応させてという営業メールが飛んできます。こちらとしては、相見積もりを取って一番安いところにお願いすればよいので楽です。

WIPOからの通知より先に営業メールが来るので、包袋がアップデートされた時に、リアルタイムで通知してくれる仕組みがあるのでしょう。

日本だと、特許についてはまだしも、商標についてはウェブ上で審査書類が公開されていないので、こういうことをやろうと思うとちょっと無理ですね。

そもそも、韓国特許庁の検索サービスは進んでいて(というか今では当たり前のデザインになっていて)、ジャンル問わず検索窓からフリーキーワードで一括検索できたり、審査経過や引用文献をタブで切り替えて表示できたり、公報データに固定リンク貼れるだけでなく、facebookやtwitterで簡単にシェアできるようになっていたりしてうらやましいです。

わが国のJ-PlatPatも早くこのレベルに追いついてもらいたいものです。

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知財デューデリジェンスというお仕事

ホンハイによるシャープの救済の件、土壇場でいろいろ揉めているようです。これだけ大型の案件であれば調査段階でいろいろ出てくるのはしょうがないと言えましょう。一般に、M&Aや投資の意思決定においては、買収対象や投資対象の企業に予期せぬリスクがないかどうかを判断するデューデリジェンス(適正評価手続)が不可欠です。

買収や投資対象の企業がテクノロジー系スタートアップである場合等には、特許を中心とした知財デューデリジェンスも必要になります。知財デューデリジェンスへの注目が昨今高まっているようです。

特許のデューデリジェンスが難しいのは、法律面、ビジネス面、テクノロジー面のすべてからの判断が必要である点です。

特許権がちゃんと管理されているか(年金が支払われているか)、ライセンス契約書に不備はないか、職務規程に職務発明の規定が盛り込まれているか等々、法律面での検討は当然に重要です。しかし、仮に特許権として有効であっても、補正の結果、権利範囲がものすごく狭くなっており他社に権利行使ができなくなっているようなケースですとか、技術環境の変化によって特許の内容が業界の本流ではなくなっているケースもあり得ます。こういった場合、その特許はビジネス上の差別化にまったく結びつかないことも考えられます。

当然、特許権を持っている企業は「わが社は主要事業分野においてxx件の基本特許を取得している」と話を”盛って”くることが多いので、それが本当に正しいかを検証することが重要です。また、事業分野で既に他社の強力な特許が成立していると、事業展開上大きな足かせになりますので、そういうことがないようFTO(Freedom to Operate)調査を行なうことも必要です(FTO調査はやり出すときりがないので結構大変です)。

弊所でも、最近、知財デューデリジェンスの案件が増えてます。最近ですと、ビッグデータ分析、機械学習、サイバーセキュリティ等の案件を実施しました。テクノロジーにおけるドメイン知識がないとできないので、何でもできるというわけではないのですが、最近であれば、上記に加えて、IoT、暗号通貨(ビットコイン系)等は受任できるかと思います。

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