クラウドのビジネス戦略の方向性について(追加)

先日のエントリーでITベンダー/サービス・プロバイダーのクラウド領域におけるビジネスモデルについて以下の3つを挙げました。

1.クラウド・プロバイダーに対してシステムや運用管理ツールを販売する
2.クラウドを活用するユーザー企業のインテグレーションを支援する
3.自らがクラウド・プロバイダー事業を行なう

よくよく考えてみると、2のバリエーションとして

2′ : 顧客のインターナルクラウドの構築を支援する

というのも考えられます。ここで、「インターナルクラウドって従来のイントラネットの基盤に仮想化テクノロジーを適用するとどこが違うんだ?」という議論はあるかと思いますが。(ちなみに私の答は「同じです」です)

さて、このようにクラウド利用あるいは構築におけるサービスプロバイダーの位置づけについて、

クラウドが普及すればユーザーはクラウド上の既存サービスを自由に組み合わせて使えるようになるので、SIerの仕事はなくなる

という趣旨の主張が聞かれることがあります。以前も書きましたが、これは大いなる勘違いであると思います。そもそも、これと似たような言い回しを以前に聞いたことがないでしょうか?一昔前にERPが流行りだした時に、

ユーザーが全面的にERPを導入し、業務プロセスをパッケージ側に合わせれば、システム・インテグレーションは不要になる

などという主張がされたと記憶しています。「クラウドがあればSIは不要説」はこの主張に類似しています。確かに、ERP(というよりも統合業務パッケージ)はある程度普及しましたが、それによってシステム・インテグレーションの仕事はなくなったでしょうか?そんなことはありません。逆に、業務とのギャップ分析、アドオン開発、既存システムとの統合等々、SIerにとっての市場機会は増加したとも言えるでしょう。

クラウドについても同様のことが当てはまると思います。クラウドというOSの上でSaaSという統合業務パッケージが稼働するとも考られるでしょう。もちろん、SIerに求められるスキルセットが変わることにはなるでしょうが、SIerの仕事そのものがなくなることは考えられません。むしろ、ますます増えていくと考えます。たとえば、Salesforce.com社のパートナー・エコシステムへの力の入れ方を見ただけでもクラウド周りのビジネス機会は十分にあると思われます。

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【お知らせ】クラウドのイベントでパネルの司会をします(5/27)

5月27日(水)に翔泳社主催のクラウドイベントのパネルでモデレータをします。於ベルサール九段(老婆心ですがベルサール神保町と間違えないようにしましょう)。入場無料。詳細はこちら

パネル参加者は、マイクロソフト、セールスフォースドットコム、日本IBM、日立SAS、サイオステクノロジーの代表者の皆様です。モデレータはしゃべりすぎないように気をつけなければw。

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クラウドビジネス戦略の3つの方向性

先日出席したHPのアナリストイベントで、HPはクラウドビジネスについて以下の3つの方向性で推進していくとの発表がありました。

1.クラウド・プロバイダーに対してシステムや運用管理ツールを販売する
2.クラウドを活用するユーザー企業のインテグレーションを支援する
3.自らがクラウド・プロバイダー事業を行なう

これは、HPに限った話ではなく、あらゆるベンダーにとって、クラウドのビジネスを行なう上で基本的枠組みであると思います。

難しい点は、この3つの戦略にはトレードオフがあるということです。クラウド・プロバイダー事業を行な顧客企業に対してシステムを販売する一方で、自社でもクラウド・プロバイダー事業を行なって「顧客と競合してしまう」ケースは不可避ではありますが、最小化すべきです。ということで、上記の3つの戦略をただ漠然と推進するのは得策ではなく、微妙なコントロールが必要となりましょう。特に、1と3の間のバランス感覚が重要です。

HPの某マネージメントとのインタビューにおいてこの「顧客と競合する」リスクについて聞いてみましたが、実際には、HPにおける3の戦略は写真共有サイトであるSnapfishなどの一般消費者向けサービスであり、エンタープライズ市場での顧客との競合はほとんどないとの答をもらいました(普段はHPのエンタープライズ事業の人々とばかり話しているので忘れがちですが、確かに言われてみればHPはワールドワイドの売り上げベースで見るとパソコンとプリンタを中心とした一般消費者向け企業と言ってもおかしくありません。)

他の企業のクラウドビジネスについて分析する場合、そして、ベンダーが自社のクラウド戦略を立案する場合には、まず、上記の3つのカテゴリーで分けて考えること、および、それらの間のトレードオフを考えることが重要です。そして、ここでも「中途半端にやるくらいなら全くやらない方がまし」のルールは当てはまると思います。

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Oracleのハード事業における選択肢を考える

OracleによるSun買収ですが、ソフトウェアの領域についてはそれほど心配していません(MySQLはどうなるの等の話はありますが)。ソフトウェア企業の買収についてはOracleは相当の実績があります。問題は、Oracleにとって基本的に初体験となるハードウェア事業、特にSPARC/Solarisサーバのビジネスです。

繰り返しになりますが、ベンダーが今までビジネスを行なっていたレイヤーを越えて別のレイヤーに進出する場合には、それによる市場拡大のメリットと、今までのパートナーとの競合増大によるデメリットのトレードオフを十分に考えることが必要です。

この点をふまえて、Oracleが取り得る選択肢について考えてみます。

1.SPARC/Solarisサーバを強力に推進し、Oracleソフトウェアとの統合ソリューションを追求する

なんだかんだ言ってSolarisは現時点で最もスケーラブルなUnix OSと言って良いでしょう。Oracleのソフトウェアと統合することで、テクノロジー的にきわめては強力なソリューションが実現できることは充分に予測できます。

しかし、今日のIT市場で成功するための最重要要因はテクノロジーの優秀性ではありません。市場のエコシステムです。

SPARC/Solarisとの統合性を強化することで、今までのOracleのハードウェア・パートナーであるHP、IBM、Dell等々との利害相反が生まれてきます。現時点でのサンのサーバ市場におけるシェアはおよそ10%です。10%の市場機会を追求するために、残りの90%の市場機会に悪影響を与えるのは不適切な戦略だと思います。

仮にOracleがソフトウェア市場で圧倒的な地位を占めており他に選択肢がない状況であれば、まだ強気に出れますが、実際にはMicrosoftが多くのソフトウェア領域で後ろに迫っています。アプリケーション・パッケージの領域ではSAPもいます。まさに、「Oracleがハード事業に力を入れれば入れるほどMicrosoftが得をする」ということです。

さらに、SPARC/Solarisのラインを強化していくためには、SPARCプロセッサの性能を継続的に向上していくというきわめて困難な作業が待っています。ハードウェア分野のエンジニアリングにコアコンピタンスを有するSunですら、匙を投げかけている課題です(過去にSPARCのプロジェクトを指揮していたDavid Yen氏は退職してジュニパーに行ってしまいました。)ハードウェア分野での経験がほとんどないOracleがこの課題を解決することは困難と思われます。

結論として、この選択肢は、「事業拡大の機会」<「既存パートナーとの競合による損失」となる可能性が高いと思います。

2.SPARC/Solarisサーバを限定的な位置づけにする

SPARC/Solarisサーバはアプライアンス的な使い方に限定して、オープンなサーバ製品は今までどおりパートナーに依存する戦略です。いわばSPARC/Solarisサーバを塩漬け戦略です。ハードウェア事業買収のメリットは小さいがデメリットも小さいと言えます。ただし、既存のSPARC/Solarisサーバのユーザーに取っては最悪の戦略と言えるでしょう。

3.統合とオープンの絶妙なバランスを取る

IBMもミドルウェア/DBMSとハードの両方を扱っており、統合ソリューションの価値とオープン性のバランスをそれなりにうまく取っています。Oracleも同様のソリューションを追究可能と言えるかもしれません。

しかし、IBMは基本的にはサービスで稼ぐ企業であるという点がポイントです。たとえば、IBMのハードやIBMのソフトとが使われていない環境でも人によるサービスで収益を上げられます。IBMにとっては、ハードやソフトの製品ビジネスは二義的です。製品指向が強いOracleがこのモデルをまねるのは厳しい気がします。

4.ハードウェア市場への進出をさらに加速する

選択肢1の問題点は、サーバ市場のシェア10%程度を押さえたくらいでは中途半端であるという点にあります。要は「中途半端にやるくらいなら全然やらない方がまし」ということです。ここで、逆転の発想でさらにハード市場への進出を加速するという大技が考えられます。OracleがIBMやHPのサーバ事業を買うことは想定しがたいですが、Dellを買う可能性はゼロではないでしょう。

5.ハードウェア事業をスピンアウトする

SPARC/Solarisの問題はOrcaleにとって規模の経済のメリットを得るにはシェアが小さすぎ、ニッチと割り切るには既存ユーザーが多すぎるという点でしょう。結局、シナジーを出せる企業に売却するのが最適と思われます。

ということで、ざっと考えてみると、既存のSun顧客、Oracle顧客、そして、Oracle自身にとっても最良の選択肢は5であると思います。ただし、大穴としての4の可能性は否定しませんが。

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ドンタプスコットの最新作『デジタルネイティブが世界を変える』を翻訳しました

『ウィキノミクス』等でおなじみのドンタプスコットの最新作 『デジタルネイティブが世界を変える』を翻訳しました。物心ついた時から周囲にコンピューターやネットが存在し、デジタル・テクノロジーに浸かって成長してきた世代が何を考えているのか、メディア/政治/教育/家庭をどのように変えているのか、彼らから何を学べるのかを、世界中の約1 万人の若者に対する調査プロジェクト(予算:400万ドル)の結果に基づいて分析した本です。

原題は”Grown Up Digital”、翔泳社から依頼があった時に、「あれ、これは大昔に出た本では?」と思ってしまいましたが、それは、”Growing Up Digital”(邦題『デジタルチルドレン』)という同著者が1999年に書いた別の本だったのでした。”Growing Up Digital”がデジタルの世界で育つ新しい世代のインパクトを予測した本であるのに対して、本書はこの世代が成人になったことで何が変わったのかを分析した本ということになります。

若い世代のケータイ好きとかネットコミュニティ好きというような論点は聞き飽きた話かもしれません。しかし、政治/社会貢献活動/教育/家族へのインパクト分析は斬新で参考になる点が多いです(たとえば、オバマの勝利にネット・コミュニティがどのように貢献したかなど)。

また、多くの分析が日本にも当てはまりそうだという点も注目に値します(1万人の調査対象には日本も含まれていますが、本書で紹介されているほとんどの事例は北米のものです)。デジタルネイティブはグローバルな世代であり、「これはあくまで欧米の話であっで日本には当てはまらない」というようなケースは少ないと思われます。ほぼ唯一の違いは、北米のデジタルネイティブ世代が人口統計的にも最大の世代になりつつある(ゆえに、市場や政治での発言力を増している)のに対して、日本では少子化によりそういう状況にはなっていないという点でしょう。

なお、原書については今年の1月にITmediaオルタナティブブログの「シロクマ日報」でレビューされています。

発売は5月14日、現在Amazonにて予約受付中でです。

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