『エスケープベロシティ』解説(第3回):企業力(1) 〜自分は誰と競合しているのか〜

今回は企業力の話です。前回までのカテゴリー力の話とはレイヤーが変わってますので注意してください(『エスケープベロシティ』は最初読むと同じような話が何回も出てきて混乱するかもしれませんが、自分が今どのレイヤーにいるのかを意識しながら読むとわかりやすくなります)。

さて、うまく衰退カテゴリーから撤退し、成長カテゴリーに参入することでカテゴリー力を確立できたとしても、そのカテゴリーの中で良いポジションを確保できなければ意味がありません。そこで(特定カテゴリー内での)企業力構築の検討が必要になってきます。

企業力とは企業が外部(顧客、パートナー、サプライヤー)に対して持つ交渉能力の総和です。「その他大勢」の一社に過ぎず価格と営業努力だけで勝負しなければならない企業の企業力は低く、ワン・アンド・オンリーの存在であり自社のやり方(価格設定等)で外部をコントロールできる企業は高い企業力を持ちます。言うまでもなくAppleの企業力はきわめて高いと言えます。『エスケープベロシティ』では他に(Mark Hurd時代の)HPを強力な企業力を持った企業の例として挙げています。世界最大のコンピュータ・メーカーとしての購買力に基づいてサプライヤーに対して強い交渉力を行使できるからです。高いロイヤリティの顧客ベースやブランド・イメージは企業力の指標の典型ですが、規模がもたらす購買力という一般消費者からは見えにくい指標もあるということです。

さて、企業力を構築するためには、比類のない製品やサービスを提供することで、「その他大勢」の競合他社から離れて他社が追随できない独自の位置を築く必要があります(まさに「脱出速度」のアナロジー通りです)。ここで、自社が競合する企業の集合のことを競合群(Competitive Set)と呼びます。

Escape Velocity - Illustrations

企業力による脱出速度を達成するためには競合群を明確化する、つまり、自社がどの企業と競合しているのかを明確化する必要があります。現実的には、自社の典型的ライバル企業一社を選ぶことが重要です。これを参照競合(Reference Competitor)と呼びます。たとえば、現在のOracleの参照競合はIBMと言ってよいでしょう。参照競合を選ぶということは自社の戦略の方向性を明確化することに他なりません

私事ではありますが、アナリストとしてベンダーにインタビューする時(特に新興ベンダー)にインタビューする時、私は”Who is your strongest compettitor?”という質問をよくします。これによってそのベンダーの戦略が把握できます。これは、まさに無意識のうちに参照競合を尋ねていたということになります。

競合群、そして、参照競合を選ぶ上で重要なのはビジネス・アーキテクチャです。ここでいうビジネス・アーキテクチャとは企業活動の二つの基本形態、つまり、コンプレックス・システム・モデルとボリューム・オペレーション・モデルを指します。

コンプレックス・システム・モデルとは独自性が高い個別ソリューションを少数の顧客に提供するビジネスであり典型的にはB2Bです。たとえば、IBM、Accenture、鹿島建設などはコンプレックス・システム・モデルです。ボリューム・オペレーション・モデルとは均一な製品やサービスを多数の顧客に提供するビジネスであり典型的にはB2Cです。Apple、facebook、大和ハウスなどはボリューム・オペレーション・モデルです。両者の特性は大きく異なるため、あるビジネス・アーキテクチャで有効な戦略が他のアーキテクチャでは有効でないケースがほとんどです。この話は『ライフサイクルイノベーション』でも展開されていました。

ところで、ムーア氏の他の論文の翻訳記事で”complex system”に「複雑系」という訳語を当てているものがありますが、あまりよろしくないと思います。複雑系は、「構成要素の個々の挙動から全体の挙動が推測できないシステム」という述語して確立していると思いますが、ここで言っている”complex system”はそういう意味ではなく、文字通り「複雑なシステム」という意味だからです。ということで、『エスケープベロシティ』および『ライフサイクルイノベーション』では、私は敢えてカナ書きで「コンプレックス・システム」としています。

話を戻しますが、コンプレックス・システム企業とボリューム・オペレーション企業が互いに競合するケースはほとんどありません。ゆえに、自社の競合群、そして、参照競合も同じアーキテクチャの企業から選ぶ必要があります。

このポイントはシンプルではありますが現実には間違いが見られる領域です。『エスケープ・ベロシティ』では、かつて、サンのスコット・マクネリがマイクロソフトのビル・ゲイツを頻繁にネタにして揶揄していたケースを大いなる間違いとしています。サンはコンプレックス・システム企業であり、マイクロソフトは基本的にはボリューム・オペレーション企業です。本来的には競合でない企業をあたかも参照競合のように扱ってしまったために顧客を(さらには社員をも)混乱させてしまったとムーア氏は述べています。

企業力は1回で終わるかと思いましたが思ったより長くなってしまったので次回に続きます(続きは週明けになると思います)。

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『エスケープベロシティ』解説(第2回):カテゴリー力(2) 〜抵抗勢力に打ち勝ち成長機会に投資する〜

前回は、多くの企業が、現在の稼ぎ頭のカテゴリーで稼いだ金を成長カテゴリーの新たな機会に投資するという単純なことをできていない(その結果いわゆる大企業病に陥り、長期的に地位を失っていく)という点について述べました。

そうなる理由は明らかです。ほとんどの場合、企業の経営資源配分プロセスでは現年度の実績をベースにして部門間の調整作業(という政治的やり取り)をして翌年度の配分を決めることになります。要するに、現在の稼ぎ頭の案件と将来の大きな可能性をもたらす案件の間で経営資源(人とカネ)の取り合いが生じます。この取り合いではほぼ確実に前者が勝ちます(今稼いでいる案件と将来の不確実な案件を比較すると前者が優先されるのは当然)。結果として、成長機会への投資が不十分になり脱出速度を達成できないことになります。

では、「現在の稼ぎ頭を犠牲にして新規案件に社運を賭けろ」とかけ声をかけてもそんな簡単にことは運びません。ここで必要となるのがトップダウンの資源配分モデルです。これが、3ホライゾン・モデルです。実は、このモデルはムーア氏の創案ではなく、マッキンゼーの人が書いたThe Alchemy of Growth(翻訳未刊行)で提唱されたものです。

3ホライゾン・モデルの基本アイデアも非常にシンプルです。企業の投資案件をそのリターンを提供する時期に応じて3つに分類するということです(ここで言う”horizon”は「期間」という意味)。

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ホライゾン1は投資回収期間1年以内の案件で、今日のキャッシュフローを生み出す案件です。ホライゾン2は投資回収期間が1年間から3年の案件で明日のキャッシュフローを生み出す高成長ビジネスの案件です。ホライゾン3は投資回収期間が3年から6年で将来の成長ビジネスの選択肢です。

ここで、ホライゾン1の案件とホライゾン3の資源の取り合いはあまり問題になりません。ホライゾン1が必要とする資源はマーケティングや営業である一方で、ホライゾン3が必要とする資源は主に研究開発なので利害の衝突が生じません。その一方で、ホライゾン2はマーケティングや営業の資源を必要としますので、ホライゾン1と直接的にぶつかります。そして、前述のとおり、意識していないとこの資源の取り合いではほぼ確実にホライゾン1が有利に扱われ、ホライゾン2に十分な資源が回らなくなります。

その結果、多くの企業が将来に向けた多大な研究開発投資(ホライゾン3)を行なっているにもかかわらず、それを現在の稼ぎ頭(ホライゾン1)として成長させるための移行期(ホライゾン2)に十分な投資を行なえていません。『エスケープベロシティ』では「ホライゾン1にはホライゾン3の案件が残骸となって流されてくる」と何とも絶妙なたとえで表現しています。

これは私見ですが、今のMicrosoftがまさにこのような状況になっていると思います。WindowsとOfficeというホライゾン1の稼ぎ頭への投資に力が入りすぎて、スマートフォン、タブレット、デジタルメディアプレイヤーというホライゾン2の案件に十分な経営資源が投入されていないのではないでしょうか?その結果、中途半端な製品しか登場せず脱出速度を達成できていません。これは、研究開発投資が足りないせいではありません(MicrosoftはIT業界でもトップレベルのR&D投資(要するにホライゾン3への投資)を行なっています)。Microsoftの業績だけを見ると絶好調なのですが、長期的にPCが成熟カテゴリーから衰退カテゴリーになったときに(既になりつつある?)どうなるかというリスクがあります。当然株式市場はこの点をわかってますのでMicrosoftの株価が業績の割にはいまひとつという状況になっています。

ちなみにこれはITの歴史の中で、IBMがメインフレームで、DECがVAXで、SunがSPARC/Solarisでしでかした間違い、いわゆる”victim of its own success”(自らの成功の犠牲)という典型パターンであります。

話を戻しますが、結局のところホライゾン2の案件をどう扱うかが最重要ポイントということになります。

第一に重要なことは、経営資源の一定割合をホライゾン2専用として事前に確保し、ホライゾン1との取り合いをやめることです(これにはトップダウンの「独裁的」リーダーシップが必要になりますね)。

『エスケープベロシティ』はこれ以外にもホライゾン2案件において注意すべき点がいくつか挙げられています。代表的なものにKPI設定があります。ホライゾン1におけるKPIは売上げなどの財務的指標が中心になります。同様のKPIをまだ市場が確立していないホライゾン2に割り当てるのは意味がありません。ホライゾン2のKPIはターゲットとした初期顧客の確保率に置くべきです。営業担当者やマネージメントの報酬体系もこのKPIに合わせて設定すべきとしています。

カテゴリー力についての説明は以上です。次回は「企業力」について説明します。

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『エスケープベロシティ』解説(第1回):カテゴリー力(1) 〜凋落したカテゴリーで地位を築いても意味がない〜

これから何回かにわけてジェフリームーア著、拙訳の『エスケープベロシティ』の主要ポイントについて解説していこうと思います。

前回は「力の階層(Hierarchy of Power)」というフレームワーク(より正確に言えば「フレームワークのフレームワーク」)について紹介しました。おさらいしておくと、下記の各レイヤーに分けて脱出速度達成の戦略を立案しましょうということです。

  1. カテゴリー力
  2. 企業力
  3. 市場力
  4. 製品力
  5. 実行力

「力の階層」がこういう順番になっているのは意味があって、投資家が投資を行なう際の意思決定プロセスにヒントを得ています。つまり、投資家はまずどのカテゴリーに投資するかを決め、次にどの企業に投資するかを決め、その企業の特定市場でのポジションや製品の競争力に注目する…というような流れに沿っています

『エスケープベロシティ』では各章にひとつの力を割く構成になっています(加えて導入章とまとめの章で計7章)ので、本ブログでも各階層ごとに観ていくことにします。まずは、カテゴリー力から解説していきましょう。カテゴリー力は説明がちょっと長くなるので2回に分けます。

ここでいう「カテゴリー」とは「市場カテゴリー」のことです。成長中のカテゴリーに参入することは企業が成功するための第一歩です。

カテゴリー力の重要性としてNewsWeekやBusinessWeekという超有名メディアが1ドルで買収された一方で3PARという比較的無名のストレージベンダーが23億ドルで買収された例が挙げられています。要は、凋落しているカテゴリーで強力な地位を築いていてもあまり意味がないということであります。

また、Appleの現在の成功は、スマートフォン、タブレット、デジタルメディアという急成長カテゴリーを押さえたことが大きいわけですが、その一方で最近ちょっと勢いがないDellは(凋落したとまでは言えないものの)成長が鈍化したPCというカテゴリーに基本的に留まっていることが大きな理由であるとしています。

このように重要なカテゴリー力獲得のためのフレームワークとして使用できるのが「カテゴリー成熟化ライフサイクル」です。このモデルは『ライフサイクルイノベーション』の第2部で詳しく解説されています(下の図はムーア氏の公式サイトから引用)。

lifecycle

カテゴリー成熟化ライフサイクルの基本的考え方はシンプルです。要は、市場カテゴリーは時間の経過と共に、A.新興→B.成長→C.成熟→D.衰退→E.終焉というステージを経ていくといううことです。なお、ちょっと間違いやすいのですが、キャズムは「カテゴリー成熟化ライフサイクル」の要素ではありません。「カテゴリー成熟化ライフサイクル」の新興カテゴリー(A)における「テクノロジー導入ライフサイクル」の一構成要素です(こんなややこしい形態になっているのは、おそらく『キャズム』でいったん完結したモデル化に、それ以降の成熟化から衰退に至るモデルを後付けで加えたからでしょう)。

さて、カテゴリー力獲得のポイントはきわめてシンプルで、ステージCで周期的成長による利益を安定して獲得しつつ、経営資源をステージAやステージBに投入して千載一遇の成長による莫大なカテゴリー力を得ることにあります(さらに、ステージEに行く前にステージDのカテゴリーから撤退することも重要です)。たとえば、Appleはこのやり方で成功しました。

しかし、多くの大企業の事業ポートフォリオを見るとこういう風には動いていません。ステージCの稼ぎ頭にフォーカスするあまり、千載一遇の成長への投資がおろそかになっています。正確にいうと、新規投資は行なっているのですが、現状維持の抵抗力に打ち勝てず中途半端な投資しか行えていません。つまり、脱出速度が達成できていない状況です。

このような状況を打破するための考え方として、3ホライゾン・モデルという考え方が提唱されているのですが、ちょっと長くなりましたので次回に回します。

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2012年もがんばりますよ

あけましておめでとうございます。関係者の皆様、昨年度はいろいろとお世話になりました。また、ブログ読者の皆様も愛読ありがとうございます。今年もがんばっていきたいと思います(マグロと同じように泳ぎ続けていないと死ぬのが自営業(会社オーナー)の宿命です)。

以下に本年度の業務内容の展望などを書いておきたいと思います。

ITリサーチ/コンサルティング

なかなか特許系との仕事のバランスが難しくなってきてますが依然としてメインの仕事であります。今年のフォーカスは、昨年度と同じく、ビッグデータを含むデータ・マネジメント系、クラウドを含むインフラ系、そして、エンタープライズ・ソーシャル、そして、もう少し先の先進動向いろいろという感じになると思います。開発系、業務アプリケーション系は体力的余裕がないので手を出さない予定。案件のタイプとしては、ベンダー様向けのマーケティング戦略立案、ホワイトペーパー作成、企業内リサーチ部門の報告書作成支援、社内向け研修での講師などがジャストフィットです。

媒体への寄稿については、昨年の末にZDNetにビッグデータ、日経BP特設サイト「常勝経営」にITと経営についての短期連載寄稿をさせていただきました。両者ともさすがにエスタブリッシュされた媒体だけあってSEO効果はものすごく、一時期にはGoogleで「ビッグデータ」と入力するとトップ4項目が全部私の書いた記事という状態だったこともありました(今はちょっと落ち着きましたがそれでも1ページ目に4つとも載ってます)。これは弊社にとっても媒体様にとっても、そして、取材対象のベンダー様にとってもかなりナイスな状況ではあります。

ということで、寄稿関係は(結構スケジュール的にしんどいのですが)積極的にこなしていこうと思います。講演も同様です。最近は企業内のプライベートセミナーの案件が多く、あまりブログ等でオープンにしてはいないのですが、パブリック、プライベート問わず、基本的に講演・寄稿の仕事は断らないという方針でやっていきます。

特許出願代理(ソフトウェア特許)

今年はソフトウェア特許分野の仕事のウエイトをできるだけ増やしていきたいと思っています。4月1日から施行される特許法改正により、発明の内容を自分で公表したり製品として販売したりしてしまっても6か月以内であれば出願が可能になります。これは特にスタートアップ企業や個人事業主の方に取っては朗報です。実際に販売やサービス提供を開始して、ビジネスとして行けそうだと判断できてから特許出願することも可能になったわけです。また、後で詳しくブログを書きますが、米国の特許法改正も日本のスタートアップ企業/個人事業者に有利になっています。

なお、個人事業者の方には、初期料金を安くした(その分、成功報酬を高くした)料金体系を提供しています。特許化できるかどうかまだよくわからない段階でもローリスクで出願することが可能です(参考ブログエントリー)。

特許調査(ソフトウェア特許)

特許系の仕事としては実はIT関連特許調査の方が多くなってます。単に文献を検索してリストするだけではなく、(元)ITエンジニアとしての知見により特許の技術的中身にまで突っ込んだ分析を提供します(この手のタイプのサービスを提供できるところはそんなに多くないのではと思っています)。

Appleのエグい積極的な特許攻勢により、Androidアプリケーションのデベロッパーにも影響が及ぶ可能性が出てきました。また、AppStoreやAndroid Marketでソフトウェアを米国にも販売するデベロッパーにとっては、米国のパテント・トロールの動きを知っておくことも重要です。正直、この分野では一般メディアの情報はほとんど役に立ちませんので、スペシャリストしての弊社の差別化要素としてプッシュしていきます。

商標出願代理

あまり宣伝していないですが、商標出願代理業務も継続的にやっております。商標登録は特許と違いどちらかと言えば効率優先(もちろん、他の権利者との交渉とか取引実情の調査などがからむとかなりややこしくなりますが)なので、必要にして最小限のサービスをリーズナブルに提供することにフォーカスしています。まもなく料金表を会社サイトに掲載しますが、現在の料金体系としては、1区分の場合の出願手数料が25,000円(成功報酬はありません)、万一登録できなかった場合は出願手数料返金というシステムになっています。特許庁料金も含めて58,900円から商標登録が可能です。

また、海外事務所との提携により、海外出願(特に、中国、台湾)にも対応可能です。英語ができる事務所とダイレクトにやり取りしてますので話が早いです。中国での冒認出願(関係ない人が勝手に出願してしまうケース)が依然としてよく見られますので、防衛的に先に出願しておくことは結構重要です(参考ブログエントリー)。

商標については特許とは異なりIT分野限定ではないですが、IT分野の商標であれば、業界経験長いですのでネーミングに対するアドバイスのようなことも可能です。

産業翻訳

業界にいる方はわかっていると思いますが産業翻訳の世界は結構厳しい状況です。多少日本語として怪しくても海外にアウトソースして安く済ませたいというようなケースが増えていて、そういうケースにおいて価格で勝負するのは厳しい状況になってきています。と言いつつ、品質とスピードが最重要の翻訳需要もありますので、そういうハイエンドニッチにフォーカスしていきたいと思います。あとは特許翻訳ですが、こちらは原則的に弊事務所で出願代理を行なった案件に限定して提供していく予定です。

ビジネス書翻訳ですが、昨年末にはジェフリー・ムーア氏の『エスケープベロシティ』を翻訳出版することができました(S社T様(当時)ありがとうございました)。単行本翻訳は体力的に厳しいのですが、そもそも知的作業としておもしろいですし、後に残る仕事でもありますので年1冊程度のペースで続けていきたいものだと思っております(別にS社専属ではありませんので他出版社の方もよろしくお願いします)。

個人としては

仕事以外は音楽というかジャズ(サックスとオルガン両方)に賭けていきたいです。管楽器奏者はどうしても年齢と共に体力的なハンデが厳しくなってきますのでもうあまり時間がないのであります(某所で昔の自分の演奏ビデオを見る機会があり楽器が鳴りまくってるので自分でも驚きましたが要は今は衰えつつあるということです)。ジャムセッション参加およびホストはもちろんのこと、ライブ等もできるだけやっていきたいと思います(ジャズの場合は集客が厳しいことが多いのでご興味ある方はよろしくお願いしますねw)。

twitterにも書きましたが毎日の積み重ねとしてSax基礎連30分、Organ基礎連30分、腹筋15分、ウォーキング30分、仕事に関係ない読書1時間を最低のノルマとしようと思います。加えて、ラーメンは週一まで(二郎系についてはは2週に1回)という誓いも立てております。

clノルマのチェックリストも作ってみましたw

去年の反省

去年の頭にはブログ毎日更新なんて誓いを立てたような気がしますが全然できてないですね。どうもtwitterとfacebookやってると軽いネタはそっちで済ますようになってしまいます。しかし、情報のストック化ということを考えるとブログの更新はちゃんとやらないとまずいですね。また、会社のWebサイトも全然できてません(ブログはありますけど、いわゆる業務紹介等のスタティックなページがありません)のでこれも早急になんとかしようと思っています。

とまあいろいろ書きましたが今年もよろしくお願いいたします。

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フェイスブックのNews Feed特許を分析してみた

昨日書いたエントリー「フェイスブックのNews Feed特許が日本でも成立してしまった件」に結構アクセスが来たようなので簡単に特許の中身を解説してみます。昨日のエントリーにも書いたように比較的回避は容易な特許と思われます。

まず、前提として一般的なお話をしておきます。特許権の権利範囲は【特許請求の範囲】によって決まります。特許請求の範囲は【請求項】という項目から成り、各請求項に対してひとつの特許権が対応しています。通常、最初の請求項に一番広い範囲の発明が記載されており、以下の請求項に権利を限定した発明が記載されています。これは、万一、広い範囲の請求項が無効になった場合でも狭い範囲の請求項の方で権利行使できる可能性があるためです。

請求項には、特許権の範囲を明確化するための事項が過不足なく書かれており、また、名詞句として記載しなければいけないので、修飾関係が複雑になって大変読みにくいです。特許公報を読むときは、まずは、【明細書】の方を読んで発明の全貌を理解してから請求項をチェックするのが普通です(とは言え、明細書の方も(特に翻訳の場合)わかりにくいことが多いですが)。

特許発明を侵害しているか否かの判断には請求項に記載された構成要素(発明特定事項と呼ばれます)を全部実施しているかをチェックすることが必要です。構成要素の中のひとつでも実施していないものがあれば原則として特許権を侵害することはありません。

これを踏まえて、フェイスブックのNews Feed特許の請求項1(2011/08/05付の補正が適用されたもの)について見てみましょう。

【請求項1】
コンピュータシステムを用いたソーシャルネットワーク環境においてニュースフィードを表示する方法であって、
前記コンピュータシステムによって、ソーシャルネットワーク環境における複数の活動を監視するステップと、
前記コンピュータシステムによって、前記複数の活動をデータベースに記憶するステップと、
前記コンピュータシステムによって、1以上の前記活動に関する複数のニュース項目を生成するステップと、ここで、1以上の前記ニュース項目が、一人以上の視聴ユーザに対して提示されるためのものであり、かつ、他のユーザによって行われた活動に関係しており、
前記コンピュータシステムによって、前記他のユーザの前記複数の活動の少なくとも一つに関連したリンクを前記複数のニュース項目の少なくとも一つに結びつけるステップと、ここで、前記リンクは、或る視聴ユーザが該リンクが結びつけられた前記ニュース項目の主題である活動に参加できるようにするものであり、該リンクが結びつけられた前記ニュース項目の主題である活動とは、該或る視聴ユーザが当該他のユーザの活動に係るグループやクラス、クラブと同じ活動に係るグループやクラス、クラブに入会することからな り、
前記コンピュータシステムによって、一組の視聴ユーザに対して、前記複数のニュース項目へのアクセスを制限するステップと、
前記コンピュータシステムによって、前記一組の視聴ユーザ中の少なくとも一人の視聴ユーザに対して前記複数のニュース項目中の2以上のニュース項目からなるニュースフィードを表示するステップと
を含むことを特徴とする方法。

頭から読んでもわけがわかりませんので構成要素に分解して見てみましょう。6つのステップからなる方法の特許であることがわかります。原則的にはこの6つのステップのすべてを実施している場合にのみ、この請求項1の特許を侵害することになります。

以下、大雑把に分析します。なお、この分析をするために私は明細書の中身を(ざっとですが)読んでます。いきなり、上の請求項の情報だけから以下のステップに落とし込んでいるわけではありません。

ステップ1: SNSにおけるユーザーの活動の監視(ソーシャルネットワーク環境における複数の活動を監視するステップ

ステップ2: 活動をDBに保管(前記複数の活動をデータベースに記憶するステップ

ステップ3: 他のユーザーに表示するニュース項目を生成(複数のニュース項目を生成するステップ

ステップ4: ニュース項目にリンクを対応づける(前記他のユーザの前記複数の活動の少なくとも一つに関連したリンクを前記複数のニュース項目の少なくとも一つに結びつけるステップ

ステップ5:ニュース項目をアクセス制御する(一組の視聴ユーザに対して、前記複数のニュース項目へのアクセスを制限するステップ

ステップ6: 特定ユーザーに対してのみニュースフィードを表示(前記一組の視聴ユーザ中の少なくとも一人の視聴ユーザに対して前記複数のニュース項目中の2以上のニュース項目からなるニュースフィードを表示するステップ

ここで、ステップ1,2,3,5,6は、おそらく、ニュースフィード的な仕組みを作ろうと思うと必須のステップのように思えます(たとえば、ユーザーの活動を監視せずにニュースフィードを実現することは不可能なのでステップ1は必須)。ポイントはステップ4ということになりますのでもう少し詳しく見ていきます。

ステップ4では大きく2つの限定がかかっています。

第一に、「前記ニュース項目の主題である活動とは、或る視聴ユーザが当該他のユーザの活動に係るグループやクラス、クラブと同じ活動に係るグループやクラス、クラブに入会すること」となっているので、この特許がカバーするのはニュースフィードのうち、他のユーザーがグループ(コミュニティ)に参加したという情報を表示するケースのみということになります。

第二に、「前記リンクは、或る視聴ユーザが該リンクが結びつけられた前記ニュース項目の主題である活動に参加できるようにするもの」と書いてあるので、ニュース項目のリンクをクリックするとその項目に関連したグループ(コミュニティ)に参加できるようになっているということです(普通のUI設計者であればこういう方法にするでしょう)。

と言うことで、たとえば、twitterのアクティビティタブとの本特許の関係を考えてみると、そもそもtwitterにはコミュニティの概念がないので、侵害しないようにも思えますが、特定ユーザーのフォローが「他のユーザの活動に係るグループやクラス、クラブと同じ活動に係るグループやクラス、クラブに入会すること」と解釈できないこともないのでちょっと微妙なところです。いずれにせよ、「お気に入りに登録しました」、「リツイートしました」の表示だけであればこの特許を侵害することはないと思われます。

仕事納めもしてちょっとヒマなのでwさっくりと分析してみました。もちろん、有償サービスとしてならばもっと厳密な分析・鑑定も行ないますので、ソフトウェア特許関連の侵害調査・先行技術調査のご用命がありましたらよろしくお願いします(上のメニューのCONTACTあるいはkurikiyo[アットマーク]techvisor.jpからお問い合わせください)。

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