加護亜依問題は第二の加勢大周問題なのか?

昔に書いた「【小ネタ】加勢大周の商標登録問題はどうなったのか」というエントリーがなぜかアクセスを集めています。たぶん、加護亜依ちゃんが同様の問題でもめているからでしょう。前の事務所が「加護亜依」を商標登録してこの名前を使えないようにしているらしいです(参照記事(朝日新聞デジタル)「〈速報〉「加護亜依」商標登録済みで本名使えず!?」)(余談ですが「速報」にするレベルの話なんでしょうか?)。

確かに特許電子図書館(IPDL)で検索すると「加護亜依」は

41類 演芸の上演,演劇の演出又は上演,音楽の演奏,歌唱の上演,ダンスの演出又は上演,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給,放送番組の制作,海外における教育実習・実務研修・語学研修・留学に関する情報の提供,インターナショナルスクール及びインターナショナルプリスクールにおける教育に関する情報の提供,英語教育に関する情報の提供,海外における教育実習・実務研修・語学研修・留学に関する企画及び運営,英会話の教授,インターナショナルスクール及びインターナショナルプリスクールにおける教育,高校卒業資格取得講座における知識の教授,通信教育による知識の教授

を指定役務として株)メインストリームを権利者として登録されています(第5287159号)(これまた余談ですがこういう時にIPDLにリンク張れないので不便です)。出願は2009年2月なのでかなり昔の話です。

ここで第一に考慮すべきポイントは歌手が仕事として歌唱を行なう際の名前の使用が「商標的使用」にあたるか(商品やサービスの出所を表す機能を発揮しているか)です。この商標権が他人が「加護亜依」という名称でイベント会社を運営することを禁止できるのが確かである一方で、歌手・俳優としてこの名前を使うことを禁止できるかどうかは検討の余地があります。

加勢大周のエントリーでも書いたように、加勢大周事件の裁判では実は商標権は論点にならなかったので、この問題に対する答は出ていません。また、通称「クリスタルキング」事件(♪ああ~はてしない~のクリスタルキングです)では、クリスタルキングから独立したボーカリストの名前の後ろにカッコ書きで(クリスタルキング)と説明書きを付けた使用形態について商標的使用ではない(したがって商標権侵害にもあたらない)との判断がなされています。「クリスタルキング」を商標登録したからといってこの言葉のあらゆる使用形態を禁止できるわけではないのです。

その一方で、箏曲の家元の芸名の商標権が争われた事件では、演奏会のパンフレットに家元の名前を載せる行為が商標的使用であるとされています(商標権侵害自体は別の理由で認められていません)。ただ、家元の名前は、会派というか流儀全体の名称としても機能するので、個人の芸名とはちょっと事情が違うかもしれません。

また、商標登録出願にあたって、指定商品(役務)がCDや音楽の演奏で、商標が芸名やバンド名と認められた場合には「商品の品質,役務の質を表示するにすぎない」として拒絶され得る(かなりのブレあり)のが現在の日本の特許庁の運用です(参照記事)。たとえば、「HOUND DOG」などがこれを理由に拒絶されています。裁判所の判断と特許庁の運用が合致するとは限りませんが。

もうひとつの考慮点は、「加勢大周」が(元の事務所の社長の命名による)芸名であったのに対して、加護亜依は本名であるという点でしょう。

商標法26条1項には、自己の指名を普通に用いられる方法で表示するケースには商標権が及ばない旨の規定があります。

第二十六条 商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。

自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標

これについては、事務所側が「商標登録時点で加護は母方の池田姓を名乗っており、本名ではなかった」、「事務所を飛び出した後に姓を戻し、本名だから商標登録に関係なく使えるというのは筋が通らない」と主張しているようです。

商標法26条2項には

2 前項第1号の規定は、商標権の設定の登録があつた後、不正競争の目的で、自己の肖像又は自己の氏名若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を用いた場合は、適用しない。

という規定がありますので、「不正競争の目的」を主張する意図なのかもしれません。

とまあいろいろ考慮点はあるのですが、結局は加護亜依ちゃんと前の事務所の間でどのような契約がなされていたか最重要問題なので、商標権問題をクリアーしたからと言って、問題なく加護亜依の名前が使える、さらには、芸能活動ができるとは限りません。

個人的に言えば、加護ちゃんはファンと言うほどではないですが、がんばってほしいとは思っているのでうまく丸く収まってほしいところです。芸名が問題ならば「かつて加護亜依として知られた歌手」という芸名で活動すればよいかもしれません(冗談です、念のため)。

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おもしろ登録商標NAVERまとめと特許電子図書館の固定リンクについて

NAVERまとめに「『女子高生』は、伊藤ハムの商標です」なんてエントリーが載っています(正確には「伊藤ハムの登録商標です」と言うべきと思いますが)。エントリー自体は2012年のものなんですが、なぜかさっきtwitterのTLに流れてきたので知りました。

普通名称から成る商標、商品の特性等を記述しただけの商標、商品の質の誤認混同を招く商標等々は登録されませんが、これはあくまでも指定商品(その商標をどのような商品に対して使うか)によって決まります。「女子高生」という商標を学生服を指定商品として出願するとたぶん拒絶になるでしょうが、伊藤ハムは、弁当やぎょうざ等の食品を指定商品にしているので無事登録されています(商品名として良い名称なのかというのはまた別の話ですが)。

さてこのエントリー、詳細はIPDL(特許電子図書館)の公報情報を見てくださいということでリンクが張ってあるのですが、そのリンクをクリックしても「ただ今サーバが混み合っています。しばらくしてから接続して下さい」等のエラーメッセージが出ます。このエラーメッセージは間違いで、しばらくしてから接続してもつながることはありません。情報を見るためには、IPDLのトップページに行って、商標検索→商標出願・登録情報とメニューをたどって改めてキーワード検索するしかありません。

これは、おそらく、ダム端末ベースのレガシー・システムにWebのフロントエンドを後付けで付けたためだと思います。Webから検索要求があるとその都度セッションごとにテンポラリーのファイルを作って、そこにレガシー・システムの検索結果を置いて、動的にURLを割り当てて、ブラウザで表示する設計だと思います。つまり、セッションを張っている本人以外の人はそのURLをクリックしてもエラーになります。

おそらく、NAVERまとめの作者も自分でリンクをチェックして動作することを確認していると思いますが、それは当人だけの話なのです。そして、セッションがタイムアウトになるとテンポラリーファイルは消去されるので検索した本人も改めて検索をやり直さない限り見られなくなります。

Webの世界ではWebページとして見れているのならばそこにリンクを張って参照できるのが当然と考えられていると思いますが、IPDLはそうはなっていないのです。

この問題は多くの人が不満を持って改善を要求しているのですが(たとえば、このtogetter)、特許庁のシステム更改が頓挫してしまった以上、そう簡単には改善されないのではないかと思われます。

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【夏休みネタ】「若年性冷凍庫侵入症」はグローバルな現象である

ご存じのようにコンビニやレストランの従業員がキッチンの冷凍庫に入ったり、食い物をおもちゃにしたりした写真をソーシャルメディアに投稿して、炎上し、閉店などの大騒ぎになる事案が頻発しています。自分は勝手に「若年性冷凍庫侵入症」と読んでます。

まあ正直、誰にでも若い頃には何してでも目立ちたい、羽目をはずしたいという欲望があると思います。30年以上前の私の大学時代だって、歌舞伎町の噴水に飛び込んだりとか、その他ここでは書けない悪ふざけをしたことがないとは言えません。

今日における違いは1)身内の悪ふざけだけでは終わらずソーシャルメディアに投稿することで拡散・炎上する点、2)現在でも多くの人が不快と考える食い物をおもちゃにする行為がからんでいる点かと思います。

2)については飲食店の信用問題にかかわるので重大です。低価格の飲食店ではキッチンで不潔な行為をしているのではないかというそこはかない不安が客にもあるわけですが、それをまさに狙い撃ちするような行為であるからです。従業員の不潔な行為のソーシャルメディアへの投稿は、飲食店チェーンにおける重要なリスク管理項目になったと思います。

さて、前置きが長くなりましたが、このような「若年性冷凍庫侵入症」の事例が海外にもあるか調べてみました。検索キーワードの選択が難しいところですが「”fast food” “social media” employee gross」で検索したところ、やはり同様の事例はありました(正直、米国のファストフード店における店員のDQN度は日本の比ではないのでうなずけます)。

USA Todayの記事によれば、今年の6月に某有名ハンバーガーチェーン店員のこんな写真が「バイラル」に拡散したそうです(写真はBusiness Insiderより引用)。これまでにも多くの同様の事例があったようですが、ここで引用するとマッチポンプになってしまう気もするので興味ある方は元記事を見てください。

そういうことでこの種の事案は「グローバル」な(少なくとも日米共通の)現象であると言えそうです。上記USA Todayの記事ではコンサルタントが以下のように発言しています。

“Fast-food companies will never be able to totally prevent this kind of thing,” says Laura Ries, a brand consultant. “The majority of their workers are young adults armed with cellphones and getting paid minimum wage. It is the nature of the beast.”

「ファストフード企業はこのような行為を完全に防止することはできないだろう。従業員の大多数は携帯電話で武装した若者であり、最低限の賃金で働いている。こうなるのも無理はないこれは獣の世界だ。(追記:すみません、”the nature of the beast”は”the basic character of something”という意味のイディオムでした)」

多くの従業員が真面目に働いており、企業も管理をしっかりやっているにもかかわらず、ごく一部もDQN店員の行為が増幅されてしまうソーシャルメディアの力にはなすすべがないと言うしかありません。

とは言え、全米レストラン協会の広報担当者が以下のように発言しています。

“You haven’t seen these things at a Chick-fil-AやChipotle, where employees are much more committed to the brand,”

「このような行為は、従業員のブランドに対する絆がはるかに強いChick-fil-Aや Chipotleでは見られない」

従業員を将棋の駒としてしか見ない企業文化を改めて、企業と従業員の「絆」を重要視する企業文化に変えていくことが結局のところ一番重要なのかもしれません。

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グーグルとオラクル:邪悪なのはどっちか?

グーグルCEOの行為は”邪悪”だった』:オラクルCEOエリソン氏、L・ペイジ氏を語る」なんて記事がCNETに出ています。エリソン氏がインタビューにおいて、グーグルに対する知財訴訟におけるその企業姿勢について、グーグルの企業モットーである”Don’t be Evil”を引き合いに出して批判したというお話であります。

オラクル対グーグルの裁判は、アップル対サムスン裁判の陰に隠れて目立たなくなっている感もあるので、現状どうなっているかをここで簡単にまとめておきましょう(参考資料:WikipediaのOracle v. Googleのエントリー等)。

この訴訟は、オラクルが、買収したサンマイクロシステムズのJava関連の著作権と特許権をAndroidが侵害しているということで、2010年7月に北カリフォルニア連邦地裁でグーグルを訴えたことに始まります。

まず、特許権の方ですが、米国特許6061520(静的初期化を実行する方法とシステム)およびRE38104(生成されたコード内のデータ参照を解決する方法と装置)が対象になりました(発明の名称の日本語訳は栗原による)が、いずれについてもAndroidは非侵害という判決が2012年5月に出ています(なお、RE38104の発明者はジェームス・ゴスリンです)。

この件についてはOracleは控訴していません。

著作権の方ですが、rangeCheck()というJavaの短いコード(わずか9行)、テスト・ファイル、37個のAPI(実体は呼び出し関数とそのための変数定義をしたヘッダーファイルです)とそのドキュメンテーションを、グーグルがAndroid OSにコピーし、オラクルの著作権を侵害したという訴えです。

rangeCheck()およびその他のコードの一部についてはグーグルの侵害が認められています(しかし、あまりにも短いコードのため賠償金額はゼロ)。APIについては、そもそも著作権による保護の対象ではない(ゆえに、侵害や”fair use”を検討するまでない)という判決が出されました(以下に判決文を一部引用、日本語訳は栗原による)。

“So long as the specific code used to implement a method is different, anyone is free under the Copyright Act to write his or her own code to carry out exactly the same function or specification of any methods used in the Java API. It does not matter that the declaration or method header lines are identical.”

「メソッドを実装するために使用される特定のコードが異なっている限り、何人もJava APIで使用されている任意のメソッドとまったく同じ機能を実行する独自のコードを著作権法にしたがって作成することができる。宣言やメソッドのヘッダー行が同一であるかどうかは関係がない」

著作権の方についてはOracleは2012年10月に控訴しています。ここでは、37個のJava APIのみが問題とされており、オラクルとしてはAPIは著作権の対象ではないという第一審の判断を覆すことを狙うことになります。

著作権法の目的は独創性のある表現の保護と公共の利益のバランスにあるわけですから、実装のコードが著作権で保護され得るのは当然である一方で、APIは著作権の保護対象とすべきでないと思います。そうでなければ異機種システム間での相互運用が困難になり公共の利益が著しく阻害され得るからです。

ということで、私見としては、APIの著作権侵害を主張する方が「邪悪」だと思うわけです。

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【お知らせ】セミナー2本お知らせです

8/28(水)にソフトバンクリエイティブ主催の「トレンド・機能・事例・効果から考えるフラッシュストレージセミナー」で基調講演します。詳細はこちら

9/13(金)に日本IT特許組合主催の「先進企業の特許から製品・サービスのトレンドを読む」というセミナーでアップルの特許について講演します。詳細はこちら

そろそろプロフィール写真を撮り直したいと思っているのですが、なかなか時間が取れません。

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