【速報】「自炊代行」は著作権侵害との地裁判決

東京地裁において、浅田次郎氏などの作家7名がスキャン代行業者を著作権侵害で訴えていたいわゆる「自炊代行」裁判の判決が出ました(共同通信日経)。著作権侵害が認定され、2業者に差し止めと計140万円の賠償を命じられたそうです。

個人的感想を言えば「残念」ではありますが、今の日本の著作権法の規定ではしょうがないと言えます。

ここで、まず、前提と事実関係をもう一度整理しておきましょう。

「自炊」とは手持ちの本をスキャンして電子化してタブレット等で読めるようにする行為の俗称です(もともとは隠語だったのに今は一般メディアでも使われる言葉になってしまいました。)

自分でスキャンして自分で読む「自炊」行為自体は合法です。根拠は著作権法30条(私的使用目的複製)です。(下線強調は栗原)

第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

このスキャン(複製)作業を業者に依頼すると「その使用をする者が」の条件が満たされなくなりますので、私的使用目的複製にはならず、その結果、(著作権者の許諾がない限り)著作権(複製権)の侵害になってしまうというわけです。

自炊代行業者による、原本は破棄するのでコピーは増えておらず、著作権者に実害は発生していないという主張は理解できないことはないのですが、やはり法文に明確に条件が書いてある以上、それを覆すのは厳しいものがあります(米国の制度ですとフェアユースの法理により柔軟に解釈され得るのですが、日本の著作権法にはフェアユース的な考え方はほとんどありません)。

「スキャン業者は利用者の手足として動いているだけなので『その使用をする者』に該当する」といった「画期的解釈」もないわけではないかもとちょっとだけ期待する部分はありましたが、そういうわけには行きませんでした。

自炊代行と同じ理屈で、手持ちのLPレコードをCD-Rに変換したり、レーザーディスク、VHS、8ミリビデオ等をDVDに変換してくれる代行業者も違法とされます(もちろん自分で変換する分には問題ありません)。これらのケースですと手間暇以前の問題にそもそも旧メディアのプレーヤーが入手しにくくなっていますので、変換代行業者のニーズはさらに大きいでしょう。結果として、たとえばCD化されていないレコード音源が死蔵されるケースが増えると著作権法の目的である文化の発展に反するのではないかという気もします。

これから知財高裁で争って別の結果が出る可能性もありますが、30条の規定については見直す段階に来ているのではないかと思います(ダウンロード違法化とかDVDリップ違法化とか制限を厳しくするほうではいろいろ見直しされてきているのですが)。

また、権利者側との合意により自炊代行業者が利用料を支払って許諾を受けるモデルの検討も進んでいます(一部権利者はそれでもいやだというかもしれませんが)。著作権法における「違法」というのは「権利者の許諾がなければ違法」(許諾さえあれば合法)というだけの話なので、良い落としどころが見つけられればとも思います。

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【速報】日本人個人発明家がアップルから3億円ゲット

読売新聞に「アップルが特許権侵害、日本人男性へ賠償命じる」なんて記事が載ってます。

「iPod(アイポッド)」のリング状の操作ボタンを巡り、米アップルが特許権を侵害しているとして、発明家の日本人の男性側がアップル日本法人に100億円の損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁(高野輝久裁判長)は26日、同社による特許権侵害を認め、約3億3600万円賠償を命じる判決を言い渡した。

同じニュースに関するスポニチの記事では発明者の名前も載っていたので、発明者名で検索すると。当該特許は特許番号3852854号の「接触操作型入力装置およびその電子部品」だと思われます。中味を見たい方はIPDLで「特許・実用新案検索」→「特許・実用新案広報DB」→文献種別にB、文献番号に3852854を入れて検索、で見られます(固定リンクががが)。

巨額の賠償金判決が出る米国の特許訴訟とは異なり、日本の特許訴訟は和解で終わったり、ささやかな賠償金で終わることが多いのですが、(実質的に)個人発明家で、しかも、IT分野で3億円強というのは画期的だと思います(今までの日本最高賠償額は「帯鋼巻取装置」の特許に関する4億3,000万円らしいです(平成12年(ワ)第6714号))。

有効性に問題がある特許で小規模企業を恫喝訴訟したり、他人の特許を買い集めて訴訟に専念したりするのは問題ありますが、自分の頭で生み出した特許で金を稼ぐのは悪いこととは思いません。ジャパニーズドリームだと思います。

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ラーメン二郎本トラブルに関する法的考察

J-CASTニュースに「しずる村上のラーメン二郎本がトラブル 「勝手に出したと店主が激怒」の情報」なんて記事が載っています。お笑いコンビ「しずる」の村上純氏が「人生で大切なことはラーメン二郎に学んだ」という本を出版したところ、ラーメン二郎三田本店店主が「出版を許可していない」と主張して揉めているそうです。

基本的は両者の話し合いということになると思いますが、法的にはラーメン二郎側はどのような手段を取れるのでしょうか。

実は、ラーメン二郎は一悶着あった後に商標を登録しています(4652738号)(IPDLの固定リンクががが)。なお、この一悶着については本ブログの過去記事「【やや雑談】ラーメン二郎ののれん分けと商標問題について」)をご覧下さい。

しかし、「ラーメン二郎」の商標の指定商品は「ラーメンを主とする飲食物の提供」ですし、そもそも単行本のタイトルは商標法上の商標ではないとされています(定期刊行物やシリーズ物の名称であればであれば商標とされ得ます)ので、商標権に基づく権利行使は無理です。

「ラーメン二郎」が有名であるとするならば(個人的には十分有名だと思いますが一般消費者にとってという話です)、不正競争防止法の周知表示混同惹起行為あるいは著名表示冒用行為(2条1項1号、2号)にあたる余地もあります(不正競争防止法の「商品表示」という概念は商標よりも範囲が広いです)。

第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。

一 他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為

二 自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為

しかし、今回の事件とよく似た構図の「スイングジャーナル事件」(スイングジャーナル社が『スイングジャーナル青春録・大阪編』というタイトルの書籍出版は著名表示冒用行為にあたるとして著者である元編集長を提訴)では、裁判所は、書籍タイトルは(不正競争防止法上の)商品表示にあたるが、このタイトルは著者が編集長を務めていたスイングジャーナルとの出会い等を書いた本であることを的確に表現しているにすぎず、雑誌名『スイングジャーナル』と類似するものとは判断できないとし、請求棄却しました。

というわけで、知的財産権に基づいて権利行使するのは難しいと思います。店主が公開してほしくないと思っているエピソードが書いてあったりするとプライバシーなどの問題が生じるかもしれませんが、それは知財法の範囲外です。

ところで、この本の出版元は光文社なんですが、例の土屋アンナ事件の原作(原案)本も同社だったわけで、この手の許諾プロセスがちょっといい加減なんじゃないかという気もします。

追記:本買ってきました。表紙も(ちらっと読んだ限りでは)内容も思ったよりフリーライド色が強かったです。しかし、ラーメンは著作物にも不正競争防止法の商品表示にも当らないと思うので上記結論は変わりません(ラーメンにパブリシティ権や商品化権を認める「画期的判決」でも出れば別ですが)。とは言え、この内容であれば、道義的な点からは店主の許可はちゃんともらっておくべきだったと思います。(追記^2:ちょっと誤解を招いたかもしれませんので付記しておきます。二郎を揶揄するような内容はありません(逆に二郎愛に満ちています)。ただ内部事情的な話にちょっと触れているので、やはり道義的な面からはちゃんと許可を取っておくべきだったのではという意味です。)

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【速報】アップルのLightningコネクタの特許が登録されそうです

iOS7のアップデートに伴いアップルの独自コネクタLightningの非正規互換製品が使用できなくなったようです(MacRumorの参考記事)。今のところは警告ダイアログが出るだけのようですが、アップルの判断でいつか本当に使えなくなるかもしれません。

Lightningに認証機能が入っているというのはiPhone5の発売当初から知られていました。非正規品には認証機能をバイパスする仕組みが入っていたのがiOS7でそのバイパス機能が無効にされたようです(MacRumorの記事によると中国の非正規品メーカーがiOS7でも動作する互換品を作ると豪語しています)。

さて、当然ながら、特許出願されているであろうと調べてみると、Apple Insiderの記事(Apple’s Lightning connector detailed in extensive new patent filings)が見つかりました。Lightningの基本設計ほぼそのものの特許出願”DUAL ORIENTATION CONNECTOR WITH EXTERNAL CONTACTS AND CONDUCTIVE FRAME”(外部コンタクトと導電性フレームを有する双方向コネクタ)(公開番号20130115821)が昨年の11月にされていることがわかります(優先日は一昨年の11月)。

この特許出願の最新状況を米国特許庁の審査情報データベースPAIRで調べてみると何とつい先日の9月19日に許可通知が出てました。後はアップルが登録料を払いさえすれば登録される状況です。

US20130115821A1-20130509-D00000

クレーム1は以下のようになってます(公開時点と同じです)。

A dual orientation plug connector comprising:

a 180 degree symmetrical connector tab adapted to be inserted into a receptacle connector during a mating event, the connector tab having width, height and length dimensions and comprising a frame that defines a shape of the connector tab, the frame having first and second opposing sides extending in the width and length dimensions, and third and fourth opposing sides extending between the first and second sides in the height and length dimensions, the first side including a first opening and the second side including a second opening directly opposite the first opening;

a first contact region formed in the first opening of the frame, the first contact region including a first plurality of external contacts and dielectric material between each adjacent contact in the first plurality of contacts and between each contact in the first plurality of contacts and the frame; and

a second contact region formed in the second opening of the metal frame, the second contact region including a second plurality of external contacts and dielectric material between each adjacent contact in the first plurality of contacts and between each contact in the first plurality of contacts and the frame, wherein at least one individual contact in the first plurality of contacts is electrically coupled to an individual contact in the second plurality of contacts.

中身を詳細に見ている時間がないですが、Lightningコネクタの基本構造をクレーム化したと思われます。普通は物の構造に関する特許でクレームの構成要素が多いと容易に回避されてしまうので権利としてはあまり強くないのですが、デッドコピー製品を排除することが目的であればあまり関係ありません。なお、同様の出願が国際出願されていることから米国以外で成立する可能性も十分にあります。

冒頭にiOS7でもLightningの認証をバイパスできる互換品を作ると言っている中国メーカーの話を書きましたが、特許が成立すると認証バイパス以前の問題として、同じ構造のものを作るだけで特許権侵害になり、販売禁止や輸入禁止の対象になってしまいます。Lightningケーブルの非正規品は(たとえ技術的にはちゃんと動作するものであったとしても)今後入手が困難になる可能性が高いでしょう。

まあ、アップルのライセンスを受けた正規品を買えばよい話なのですが、普通にUSBで接続・充電できるAndroid系のデバイスと比較すると、やはりアップルは俺様企業だなあという感を新たにしてしまいます。

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なんとなく読めてきたJOCの知財広報「戦略」

先日のTBSサンデージャポンで、例の東京オリンピック便乗商法規制問題が取り上げられてました。記憶を頼りに書くと以下のような流れでした。

まず、件の朝日新聞の記事と同様に、「オリンピック」と言う言葉や五輪マークを無断で使うのがNGであるに加えて、「おめでとう東京」等の東京オリンピックを連想させる言葉だけでも商売として使うのはNGであるというような解説がされていました。

ひな壇には弁護士の細野敦先生がいらっしゃったのでどういう解説をするのだろうと見ていたら「悪質なケースの場合は」と前置きした上で「商標権の侵害となり10年以下の懲役や1000万円以下の罰金の対象になり得ます」というような解説をしていました。

弁護士、元東京高裁判事、そして、超大手法律事務所の顧問として法律的に間違ったことは言えないですし、かと言って、「JOCの主張は法的根拠がない」みたいにガチで主張してもバラエティ番組の流れにそぐわないので、うまく処理したなあとは思いました。

最後に、杉村太蔵氏が「公式スポンサーから得たお金はスポーツ関連団体に流れてスポーツ振興に結びつくので便乗商法はやめよう」というような真っ当な意見を(おそらくは台本通りに)しゃべってこのコーナーは終わりになりました。

これでわかってきたのは、JOCのメディア戦略は以下のようになっているんじゃないかということです。

1)法律(商標法、不正競争防止法等)で明確に禁じられているパターン (例: 「オリンピック」、五輪マーク、そして、「がんばれ!ニッポン」や「TOKYO 2020(ロゴ入り)」などのJOCの登録商標の無断使用)

2)法的に禁止できる根拠はないがJOC的にはやって欲しくないパターン(例:「おめでとう東京」「4年に1度の祭典がやってくる」などオリンピックを連想させる言葉の商業使用)

という2つのパターンをわざと両方ごっちゃに論じて1)については、専門家のお墨付きをもらうというやり方です。こうすることで、2)の方まで禁止される法的な根拠があるのだなとようなイメージを持たせる効果を狙っているのかもしれません。

また、もうひとつ読めない要素として、前回書いたように、ロンドンオリンピックの時のような特別法の制定で上記の2)のパターンも法的に禁止されてしまうという可能性もあります。

まあいずれにせよ、規制されるのは業としての使用だけなので、一般市民の表現の自由に及ぶことはないはずです。ただ、たとえば、オリンピックに関するブログを書いたり、NAVERまとめ等でオリンピックの関連記事を作ったりしてアフィリエイトで収益を得たり等のグレーゾーンでもめることはありそうです。

また、商用の使用であっても、たとえば、地元築地商店街に過剰な規制を行なって、看板のひとつも出せなくなってしまうというような無粋なことは避けていただきたいと思います。

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