【小ネタ】流行語大賞便乗商標登録の過去事例を調べてみた

小ネタが続きます。流行語大賞になった言葉を関係ない人が商標登録出願したケースの過去事例について調べてみました(仕事に支障がないようにお昼休みにささっとやりました)。なお、IPDL(特許電子図書館)では、拒絶になった出願は早晩データベースから消えてしまいます。BRANDYなどの有料データベースを使うとこれらのケースもわかるのですが、金を払ってまでやるネタではないので登録になった事例のみ調べました。なお、類似称呼(読み方)だけ調べてますので漏れがあるかもしれません。

2012年: ワイルドだろぉ

類似商標で登録されたものはないみたいです。

2011年: なでしこジャパン

財団法人日本サッカー協会による正規の登録があります(第4845345号、第5478980号)。便乗出願があったかどうかは上記の理由によりわかりませんが、もしあったとすれば、4条1項15号(他人の業務との混同)により拒絶されていたのではないかと思います。

2010年:ゲゲゲの〜

「ゲゲゲの女房」は、原作本の出版社である実業之日本社および水木プロダクションにより多数登録されています。便乗で登録されたものもないようです(「ゲゲゲの」を含む商標で2010年以降に出願されたものはありません。)

2009年:政権交代

そもそもこれって「流行語」なんでしょうか?正規登録、便乗登録共にありません。

2008年:グ〜!、アラフォー

「グ〜!」はちょっと便乗かどうかの判定が難しいので断念。ところで、今思うとエド・はるみってどこがおもしろかったんでしょうか?

アラフォーは、いくつか登録されていますが、2009年後半の出願なので流行語大賞の便乗というわけではないでしょう。NECビッグローブによる「魔法のアラフォー マジカル熟女」なんていうAVのタイトルみたいなものも登録されてます(アニメのキャラだったみたいです)。

2007年:(宮崎を)どげんかせんといかん、ハニカミ王子

宮崎県内の飲食店が「どげんかせんとい館」を登録しています(まだ営業中のようです(食べログエントリー))

また、某食品会社が漬け物を指定商品にして「はじかみ王子」で登録しています。それから、「ハニカミ玉子」が2件それぞれ別の会社に登録されてます(ひとつは卵、もうひとつは菓子類が指定商品です)。「ハニカミ王子」そのままの便乗出願があったとすると著名なニックネーム(商4条1項8号)ということで拒絶されたと思います。

2006年:イナバウアー、品格

「イネバウアー」(化学品)、「イカバウアー」(釣り具)等の登録がありますが便乗なのかどうかはよくわかりません。前にも書いたとおり、「イナバウアー」は人名なのでそのまま出願すると4条1項8号で拒絶されます。

「〜の品格」のパターンは、男の品格、女の品格、「女性の品格」塾、医師の品格、コーヒーの品格、アロマの品格、音色の品格、みかんの品格、檸檬の品格、食後の品格、カレーの品格、OLの品格、秘書の品格、黒の品格と、多数登録されています(権利者には大企業も含まれます)。

きりがないのでこれくらいにしておきます。

これらの例からわかるのは流行語というものは、その時はインパクトがあってもあっと言う間に廃れていき、その後はどちらかというとマイナスのイメージが付いてしまうということです。流行語を便乗商標登録出願して一儲けなんて考えている人はこの点を肝に銘じた方が良いかと思います。

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【小ネタ】便乗商標登録出願のその後について

前回の記事で「倍返し」、「じぇじぇじぇ」、「今でしょ」、「おもてなし」といった流行語に発信元とは直接関係ない人が出願した便乗商標について書きましたが、その最新情報です。

「じぇじぇじぇ」については前回の記事に追記したように、久慈市内の菓子店による先願に拒絶理由通知(おそらくは、他人の業務との混同が理由(商標法4条1項15号)が出ています。このままだと、NHKが全部権利を取ってしまいますので、久慈のおみやげ屋も「じぇじぇじぇ」の商標的使用をあきらめて、「北限の海女」グッズや「久慈市はNHKドラマあまちゃんのロケ地です」という説明書きでライセンス料を回避するところが出てくるでしょう。(前回の記事で書き忘れましたが久慈に行ったとき「あまちゃんのロケ地です」という説明書きは散見されました、説明書きなので商標的使用ではない(NHKエンタープライズの商標権は及ばない)というロジックなのでしょう。)

「今でしょ」は、なんと先願出願人のサンヨー食品が11月11日付けで出願を取り下げていました。仮に「今でしょ」商標を取得できたところで、これから「今でしょ」ラーメンを販売してもしょうがないですし、企業イメージ的にもメリットはないので賢明な判断だと思います(とは言え、個人的には特許庁がどのような判断を下すかちょっと興味があったりしました。)

「倍返し」は最先の出願でも9月2日なので査定が出るのはもう少し先になりそうです。もし「じぇじぇじぇ」がNGで「倍返し」がOKということになったとすると、その境界線はどこにあるのかという気がします。なお、サンヨー食品も「倍返し」の出願をしていましたが、これも11月11日に取り下げられています(なぜかIPDLでは表示されないですが、商願2013-68042です)。

「おもてなし」は、今年の流行語とは言え、昔から普通に商標で使われている言葉なので必ずしも便乗とは言えないかもしれません。それでも、オリンピックの東京開催が決定した9月8日以降の出願は急増しています(今年の1月1日から9月8日までに出願された「おもてなし」を含む商標登録出願が7件であるのに対して、9月8日以降は78件です(実際にはまだ公開前のものもあるのでもっと多いでしょう))。

以下に、今年の9月8日以降に出願された「おもてなし」を含む商標を列挙します(重複分は削除)。

紀州南高梅 おもてなし
おもてなし卵
東京おもてなし大会
日本おもてなし学会
岩惣\おもてなし梅
おもてなし
小江戸おもてなし
世界おもてなし学会
京都おもてなし学会
おもてなしシェフ
おもてなし英会話
日本おもてなしホスピタリティ協会
おもてなしホスピタリティ
おもてなしホスピタリティ検定
ほんわかおもてなし
美緑のおもてなし
夢のおもてなし
緑のおもてなし
Fujisan no omotenashi\富士山のおもてなし
えびみりん焼でおもてなし
えび満月でおもてなし
三河屋のおもてなし
大阪のおもてなし\OSAKA no OMOTENASHI
なにわのおもてなし\NANIWA no OMOTENASHI
おもてなしブランド
おもてなし色
心のおもてなし
おもてなしの作法
おもてなしマイスター
畑のおもてなし
§kimono∞de∞おもてなし
東京おもてなし
おもてなしコレクション\OMOTENASHI COLLECTION
おもてなししぐさ
おもてなし東京しぐさ
おもてなし損保
おもてなし保険
おもてなしブライド
おもてなし英会話
ミスおもてなし\Miss Omotenashi
鹿児島のおもてなし牛
おもてなしほぐし
おもてなし\オモテナシ\OMOTENASHI\omotenashi
おもてなし合宿免許
おもてなし免許
おもてなしEnglish
健康お役立ちおもてなし企業
伊藤園 おもてなし
おもてなしの家
ひめのおもてなし
伊勢のおもてなし
おもてなしーと
おもてなしEnglish
おもてなしスタッフ
おもてなしアカデミー
おもてなし英語検定
おもてなしWiFi
ニッポンのおもてなし
おもてなしガイド
おもてなしクローバー
おもてなし葬
おもてなしの香り
おもてなしエステ
おもてなしオビツキューピー
おもてなしグリーン
旅のおもてなし
おもてなしクロス
おもてなしリューム
おもてなし.com§チョーヤ∞梅酒で\おもてなし
ちゃこうば\茶工場からのおもてなし
おもてなしの贈り物
おもてなし百選
京のおもてなし茶
おもてなしメイク

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倍返し、じぇじぇじぇ、今でしょ、おもてなし:便乗商標登録出願は成功するのか?(追記あり)

周知のように今年の流行語大賞は「倍返し」、「じぇじぇじぇ」、「今でしょ」、「おもてなし」の4つが受賞という判断停止状態の結果になりました。

さて、今でもよくあった話ですが、この手の流行語がその発信元(TBS、NHK、林修先生等)とは関係ない人によって商標登録出願されているのが話題になっています(参考記事)。便乗商標登録出願と言ってよいいでしょう。日本の商標登録制度は基本的に先願主義なので先に出願したもの勝ちです。

「今でしょ!」はサッポロ一番のサンヨー食品等により出願されています(本家の東進グループの親会社からも出願されています)。「倍返し」(およびそのバリエーション)もいくつかの企業や個人が出願しています。「じぇじぇじぇ」は久慈市内の菓子店が出願しています(その後、NHKエンタープライズが「じぇじぇじぇー!」のロゴ商標(下図参照)を出願していますが、おそらくは、先願の「じぇじぇじぇ」と類似ということで、商品・役務が類似する範囲(菓子等)ではNHKの方が拒絶になると思います)。

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では、この種の便乗出願は最終的に登録されるのでしょうか?商標出願の審査では、法律上定められた理由によってしか拒絶されることはないので、便乗出願であることを直接の理由として拒絶されることはありません。

もちろん、便乗商標登録出願が結果的に拒絶されるケースもあります。たとえば、その流行語が人名や著名なニックネームであったりすると本人の許諾なしには登録されません(商4条1項8号)。過去に、登録されなかった例としては「イナバウアー」や「ハンカチ王子」などがあります(「ハンカチ王子」については特許庁の記録がもうないのですがたぶんこの理由で拒絶されたと記憶しています)。

また、歴史上の人物の名前、他人の著作権を侵害するもの(アスキーアート等による図形商標であれば該当し得ます)であれば、公序良俗違反(商4条1項7号)として拒絶される運用になっています。

加えて、他人の商品・役務と混同を生ずるおそれがある商標も拒絶されます(商4条1項15号)。

しかし、「倍返し」、「じぇじぇじぇ」、「今でしょ」、「おもてなし」については、上記の要件には当てはまらないと思いますので、先に出願した人が登録できてしまうでしょう。そもそも、「おもてなし」などは昔から登録商標として存在しますので、いきなりJOCあるいは滝川クリステル以外の人が登録できなくなりましたというのでは、おかしな話になります。

(追記13/12/05)日刊ゲンダイの記事によりますと、「じぇじぇじぇ」出願について先願の菓子店の方にも拒絶理由通知が出たようです。記録がまだ見られないですが記事から判断するに理由は上記の4条1項15号なんでしょう。

「先願の菓子店に拒絶理由通知書を送ったのは、<じぇじぇじぇ>がNHKのドラマで広く浸透したため、菓子店が<あまちゃん>人気にあやかってビジネスをしていると消費者が誤解する恐れがあると判断したからです」(特許庁担当者)

もちろんNHKエンタープライズ側にも類似先願ありの拒絶理由通知が出てますが、このまま先願が拒絶になるとNHKエンタープライズ側が全部権利を取ることになります。(追記終わり)

法律的な話は別にして倫理的な観点から考えると、言葉の出元に全然関係ない会社や個人が出願するのは問題と思いますすが、久慈市の菓子店が「じぇじぇじぇ」を出願したのは一応理解できます。「じぇじぇじぇ」は元からある言葉ですし、久慈に由来もありますし、自社が出願しておかないと全然関係ない他人に便乗出願されてしまうおそれがあるからです。

しかし、たとえば、「今でしょ」という商標の商標権を獲得できたからといって、これから「今でしょ」という名称の商品を販売するのは相当「寒い」のではないでしょうか。今、イナバウアーという名称の商品があったらどう思われるかを考えてみるとわかります。同様に、「倍返し」も「じぇじぇじぇ」も無事登録されたとしても、その登録時点ではかなり「寒い」状態になっていると思われます(ただし、「じぇじぇじぇ」については久慈の土産物の商標としてはしばらく有効でしょう)。なお、「おもてなし」は流行語エキスが薄い普通の言葉ですので特に問題ないとは思います。

ここから先は余談になりますが、実は、妻の実家が久慈なので、毎年帰省しています。今年は当然ながらあまちゃん関連グッズが大量に売られていましたが、「じぇじぇじぇ」グッズ、「北限の海女」グッズ等々、「あまちゃん」商標の使用を回避している商品が多く見られました(NHKエンタープライズは「あまちゃん」については既に商標登録しています)。「あまちゃん」ロゴ入りのグッズを販売していたある店の人から聞いた話ですが、ロゴを入れるのに結構なライセンス料を取られるそうです。NHKは番組自体は受信料で制作しているわけですし、久慈という舞台あってこそのドラマの成功だったわけですから、久慈の地元の店に対しては無償で商標権ライセンスするくらいのことはしてもいいんじゃないかなと思いました。

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【小ネタ】「スマートヅラ」関連知財について

ソニーが米国でセンサー内蔵のカツラ(スマートウィグ)の特許を出願していたことが明らかになりちょっと話題になっています(参考記事)。なお、出願が公開されただけで登録されたわけではありませんので念のため。

公開番号は20130311132です(出願番号13/891682)。発明の名称は”WEARABLE COMPUTING DEVICE”とそっけないもの。2012年5月16日の欧州特許庁への出願に優先権指定されています。今のところ日本では同等特許は公開されていないようですが、仮に出願されていたとすると今が公開されるぎりぎりのタイミング(出願公開日は優先日の1.5年後+α)なので、日本で出願されている可能性もないわけではありません。

プレゼンのスライド操作、振動によるナビゲーション、体の情報をセンサーで収集するなどの実施例が記載されています。特許化されるかどうかの話以前に、商品化できるのかという疑問もありますが、この分野は何がどうなるか読めないので思いついたらまず出願というのは大企業としては当然のことでしょう。

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ところで、これを見て「スマヅラ」を商標登録出願する人が出てきてもおかしくないと思います。商標登録出願から公開までは1ヶ月程度かかりますのでしばらくはわかりませんが、(スマートフォン装着な手袋である)「スマ手」を開発し、商標登録もしているドクター中松氏あたりが既に出願しているかもしれません(参考ブログ記事「【小ネタ】ドクター中松氏の華麗なる商標権ポートフォリオについて」)。

さらに調べると今年の4月にバンダイが「スマートカツラ」で商標登録出願(商願2013-27704)をしていました(指定商品は電子器具関連とゲーム関連です)。タイミング的に見てソニーの特許出願とは関係ないとは思いますが、具体的にどのような商品に使うのを想定しているのかちょっと気になります。

さて、テクノロジーの観点に戻って見てみると、ウェアラブルの世界では、腕時計、メガネ、指輪、腕輪、ペンダント、靴、カツラと出てきましたので、他に常時身に付けるものというという入れ歯くらいかなと思います。入れ歯を活用したウェアラブル・コンピューター関連の特許出願を調べてみると、健康管理用のセンサーを歯に埋め込むアイデアがイスラエルのHealthwatchという会社によって各国に出願されています(米国特許公報)。日本にも出願されており(特願2012-531550「非干渉の常時健康監視及び警告システム」)現在審査中となっています。

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ウェアラブル・コンピューティングのアイデアは既に「カンブリア爆発」を迎えていると思うのでこれからも荒唐無稽なものも含め興味深い出願が公開されていくでしょう。

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【オリンピック】「TOKYO 2020」(文字商標)が登録されてました

ちょっと忙しくてチェックを怠っていましたが、オリンピック・パラリンピック招致委員会が出願していたTOKYO 2020の文字商標(2012-002562)が登録されていました。10月16日に登録査定が出て、11月1日に5626678号として登録されています(現時点ではまだネットでは登録公報は見られません)。指定商品はきわめて広範なので、「TOKYO 2020」あるいはそれに類似した文字列(たとえば、「2020年東京」)を商売でマークとして使用すると商標権侵害となり得ます。

本ブログの過去記事(「TOKYO 2020を勝手に使ってはいけない理由とは?」)では、TOKYO 2020の文字に公式デザインのマークを合わせた結合商標は登録されているが、TOKYO 2020だけの文字商標は審査中と書いてましたが、それが登録されたわけです。

ちなみに、紙媒体の「販促会議」12月号に「販促担当者が必ず押さえておくべき”アンブッシュ・マーケティング”の境界線」という記事(Webには載ってません)を寄稿したのですが、その段階ではどうやら登録されそうだという関係者からの情報はあったのですが、情報の確定がぎりぎり間に合わなかったのでちょっとぼかした書き方にしてます。

通常は、地名+年号というタイプの文字商標は識別力なしとして登録されないと思われますが、TOKYO 2020についてはオリンピックを表わすものとして識別力ありとして判断されたのでしょう。ただ、商標法3条2項の規定では、「使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる」となっており、識別力が生じるのはあくまでも使用の結果という規定ぶりになっているので、この辺をどう解釈したのかが気になります。

また、広範な商品・役務が指定されている(たとえば、べっこう、かんなくず、ボイラーの修理保守等も指定されています)のですが、商標は自身が使用することで出願するのが建前なので、通常、このようなあまりに広範な出願をすると本当に使用意思があることの証拠(業務計画書等)を求められます(過去記事「【商標小ネタ】AKB48ブランドの「ぞうげ」は発売されるのか」を参照)。この辺もどうなったのかと思います(「TOKYO 2020ブランドのかんなくずを販売したいとの要請があればライセンスに応じる」というような業務計画書があればいいのかもしれませんが)。

LONDON 2012などの商標も(マドプロ経由で)登録されてます(ただし、このように広範な商品・役務が指定されているわけではありません)ので国際的観点からはつじつまがあってるのですが、特別扱いなんだなあという印象はぬぐえません。

なお、この商標権はTOKYO 2020に類似の商標の使用を禁止するだけなので、以前、話題(過去記事「JOCは許可なく「おめでとう東京」を使うのはアウトと言っているようですが、根拠はあるのでしょうか?」を参照)になったように、「おめでとう東京」などのオリンピックを連想させる言葉の商売での使用がこの商標権を根拠に禁止されることはありません。「おめでとう東京」と「TOKYO 2020」は観念類似なので商標として類似というような判断を裁判所が下したらかなり驚きです。

もちろん、今後、ロンドンオリンピック特別法のような法律が立法されるのであれば、商標権とは別の理由により「オリンピック連想語」の使用が禁止される可能性はあります(過去記事「ロンドン五輪での便乗商法禁止はこうなっていた【やや衝撃】」を参照)。

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