【実務者向け】国際出願を第1国とするパリ優先権指定の方法

#今回の記事は、特許実務の細かい話を自分のメモ的に書いた話なので、実務者の方以外はほとんど意味がないと思います。BLOGOS編集部の方も転載には値しないので無視してくださいw

国内優先権を指定すると元の出願は出願日から1年3ヶ月後に自動的・強制的に取り下げになります。趣旨としては後の出願一つにまとめろということだと思いますが、たとえば、以下のようなパターンだとちょっと困ります。

2011年1月 国内出願A

2012年1月 国内出願B(国内出願Aに国内優先権を主張)

2013年1月 国内出願C

ここで、国内出願Cで国内出願Bに国内優先権を主張すると国内出願Bが取り下げになるので、2011年1月まで遡れる出願がなくなってしまいます。これを防ぐためには、国内出願Bを分割して、国内出願B1(いわゆるミラー出願)を作り、国内出願Cで国内出願Bに国内優先権を主張すればよいことになります(分割でできたB1の方には国内優先権を主張できませんが元の出願であるBには主張できます)。

さて、次のパターン、

2011年1月 国内出願X

2012年1月 PCT出願Y(国内出願Xに優先権を主張)

2013年1月 国内出願Z

はどうかというと、最初はPCT出願Yを国内移行して国内出願Y1を作り、Y1を分割してY2(ミラー出願)を作って、国内出願Zは国内出願Y1に国内優先権を主張すればよいと思っていました。しかし、実はそんなことをする必要はなく、PCT出願Yに対してパリ優先権を指定すればよいのです。パリ優先権は取り下げ擬制がないので、Yはそのまま生き残り、分割する必要がありません(国内移行も必要ありません(最終的にはすることになるでしょうが))。

このようにPCT出願を先の出願としたパリ優先権を指定する時は特許願の【パリ条約による優先権等の主張】の【国名】のところに「世界知的所有権機関」と書けばよいようです(特許庁サイトの「出願の手続きQ&A」の問6に書いてあります)。

そして、優先権証明書ですが、このパターンではDASは使えないので、特許庁の受理官庁に優先権証明願を出して、優先権証明書を郵送してもらい、それを特許庁の国内出願窓口に提出するという旧来のやり方が必要になるようです(特許庁に確認済)。受理官庁と国内窓口は、ロビー挟んで反対側にあるだけですし、情報システムだって共用しているのでもっと効率的にできないのかと思うのですがしょうがないですね。

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携帯オプション商法と押し付けアプリ問題について

スマートフォン契約の際にいろいろなオプションを押し付ける商法が問題になっているのは周知だと思います(参考記事)。ちゃんとサービスは提供されますし、顧客は契約内容を読んだ上で署名・捺印して合意しているわけなので違法とまでは言えませんが、問題のある商行為だと思います。

これで思い出したのが、フリーウェアやシェアウェアのダウンロードの際に、一緒に関係ないフリーウェアをインストールさせる手法です。怪しげなサイトではなく、CNETが運営するDownload.comやOracleによるJavaアップデートなどでもこのような手法が使われています。

大手の通信事業者の看板を掲げた携帯ショップなのでまさかだまし討ちのようなことはしないだろうという顧客の思い込みにつけ込むのと同様に、大手ブランドに対する信頼感を悪用する行為だと思います。

たとえば、下はCNETのDownload.comからKMPlayerというビデオ再生ソフトをダウンロードしてインストールする際に表示される途中画面です。

screen

いかにも目的のKMPlayerのエンドユーザーライセンス契約に合意するための画面であると勘違いしてAcceptをクリックしてしまいたくなりますが、よ〜く読むとOutoboxという全然関係ないアドウェアのインストールの確認画面であることがわかります。

アドウェアであればウザイので多くの人がすぐアンインストールすると思いますが、たとえば、ウィルス検知ソフトが二重に入ったりした場合ではすぐに気がつかず、PCを不安定にしてしまう可能性があるでしょう。

ある程度リテラシのある人であればフリーウェアのインストール後は不要なソフトが入ってないかを確認すると思いますが、あまり詳しくない人のPCではこの手の押し付けアプリが大量にインストールされていることもあるでしょう(帰省時に実家のPCをチェックしたらそういう状態になってました)。

このような押し付けアプリのベンダーからの収益により、ダウンロードサイトが運営されているというのはわかります。しかし、無料で使うソフトに広告が表示される(広告を消去するために有償版にアップグレードが必要)というビジネスモデルは全然問題ないのですが、このだまし討ちのようにして不要なアプリをインストールさせるモデルは、違法とまでは言えないが問題だと思います。

アメリカでは、この手の勝手にインストールされるアプリを総称する名称がとっくに付いていると調べてみましたがそのものずばりの言い方はないようです(普通に”unwanted free apps”のような呼び方がされています)。

マンガDilbertによる”confusopoly“という造語があります。サービス体系を必要以上にややこしくして、顧客を混乱(confuse)させてどのサービスが一番安いかをわからなくすることで、独占(monopoly)を達成する「マーケティング戦略」を皮肉った言い方です(あまり語呂が良くないですが)。”confusopoly”が典型的に見られるのは、携帯電話業界と保険業界です。

これに習えば、上記に押し付けフリーウェアは”confuware”と呼んでもいいかもと思いましたが、大手ソフトベンダーの”Compuware”と紛らわしいのでちょっと問題かもしれません。良い名前を思いついた方、あるいは、こういう名称で呼ばれているよというのをご存じの方は教えてください。

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茂木経産相の特許取得と登録公報の発行タイミングについて

茂木敏充経済産業相がレストランのメニューに関する発明を個人で出願し、特許を取得したそうです(参照記事)。9月2日に出願し、11月29日に登録されたそうです。当然、早期審査制度を利用していると思うのですが、それにしても速いですね。

別記事によると発明の内容は、

タッチパネルの端末上にメニューを表示し、一部の宗教で食べることが禁じられている肉類など、外国人が苦手とする食材があれば外国語で知らせるサービス

だそうですが、さすがにこれだけですと、単なる設計事項であって特許取得は難しいと思うので、他にどういう工夫があるのかが気になるところですが、このケースのように、出願公開前に登録されてしまうと、IPDL(特許電子図書館)で見られるようになるまで大変時間がかかります。

登録番号がわからないので検索できないというものあるのですが、仮に登録番号がわかっていてもIPDLではかなりの長期にわたって内容を表示できません。特許登録から特許登録公報の発行まで2〜3ヶ月のタイムラグがあり、さらにIPDLの掲載が2週間に一度なので下手するとさらに1ヶ月近く待つことになります。

(追記)日テレのニュース動画で茂木大臣が会見で登録証を記者に見せていますが、その画面を拡大してみると特許番号は5422775号と思われます(当然IPDLではまだ見られません)。

IPDLに公報が載る前に特許の内容を知る方法として、IPDLの「審査書類情報照会」で最終的な補正の内容を見る裏技がありますが、出願公開がされていないとこの技も使えません。

ベンチャー企業等で特許を取得すると特許を取得した旨のリリースを特許番号を載せて出すことがよくありますが、このケースのように出願公開前に登録されてしまっていると、しばらくは中味がわからなくて競合他社はやきもきする状況になります(なお、登録公報が発行されていれば、IPDLでは見られなくても料金(オンラインだと600円、窓口だと900円)を払えば閲覧可能です)。

上記記事によると茂木大臣は、

日本の経済成長のためには「個人のアイデアを権利化する仕組みをより使いやすくすることが必要だ」と述べ、特許庁に審査期間の短縮や手続きの簡素化の検討を指示した

そうですが、3ヶ月弱で登録されてしまうとあまり審査期間短縮の必要性がわからないかもしれません。少なくとも「出願公開前に登録された特許は優先的に公報にする」ように指示してくれると助かるのですが。

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昆虫の交尾写真は著作物なのか

「昆虫交尾図鑑」という書籍に掲載された昆虫の交尾時のイラストがブログに掲載された写真の無断トレースではないかという事件が話題になっています(まとめサイト)。簡単に検討してみます。

最初の論点は昆虫の交尾写真の著作物性です。著作権法の著作物の定義「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」に当てはまるかどうかです。著作権侵害に関する争いでは、問題とされた対象の著作物性が否定されることも多いです。

しかし、美術館で観賞するような芸術写真でなくても人間の判断が介在して構図やシャッターチャンスが決まった写真であれば、スナップ写真であっても著作物とされるという知財高裁判例(「東京アウトサイダーズ」事件)がありますので、ブログの昆虫交尾写真が著作物であることは否定しがたいと思います。

次の論点は、著作権法上の複製あるいは翻案が成立するかです。この判定要件は依拠性と類似性です。これまた、結局はケースバイケースの判断になりますが、上記まとめサイトに引用された写真とイラストを見る限り、依拠性・類似性共に複製行為があったことは否定しがたいように思えます。昆虫の交尾写真に関するドメイン知識がない者による私見ですが、昆虫には四十八手があるわけではないので交尾写真(イラスト)のバリエーションはある程度限られるとは言え、写真家あるいはイラスト作者の創作的表現が介在する余地は十分にあり、誰が撮っても(描いても)ほとんど同じということにはならないと思います。また、上記まとめサイトによればイラスト作者自身が依拠性については認めているようです。

書籍出版元である飛鳥新社の釈明文がサイトに載っていますが、昆虫写真の著作物性や依拠性の論点には触れず、構図等が微妙に違う(トレースではない)ということを理由に著作権侵害でないことを主張しています。「著作権に詳しい弁護士の検討を経たもの」であるそうなのですが、できればこの弁護士先生の実名入りでの意見を伺いたいです(推測ですが「類似が創作的表現ではなくアイデアの要素にしかなければ著作物としては類似しない」という一般論を述べただけで、このケースへの具体的当てはめを判断されたわけではないのかもしれません)。

なお、もうひとつの論点として著作権侵害でなければ問題ないかという点もあります。

たとえば、市場調査関連の本を文章の部分は一切流用せずに、調査データ部分だけをコピーして別の本を販売したとします。データは著作物ではないので著作権侵害にはなり得ませんが、他人が苦労して集めたデータを勝手に流用して営利行為に使用することは、一般不法行為とされて損害賠償の責を負う可能性があります。これまた、判断はケースバイケースになりますが、昆虫の交尾写真をクローズアップ撮影するのはそれなりの労力を要求されると思いますので、一般不法行為成立の余地はあると思います(これまた、昆虫の交尾写真に関するドメイン知識がない者による私見です)。

飛鳥新社は、元々は「磯野家の謎」で急成長した会社であり、「磯野家の謎」はイラスト等を使わないことでサザエさんの著作権はクリアーしているものの、やはり「便乗」が企業DNAに組み込まれているのかなあという気がします。

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オリンピック関連商標に不使用取消を請求するとどうなるのか

以前書いたようにオリンピック招致委員会を権利者とする「TOKYO 2020」の標準文字商標が登録されました。地名+年号という形態のみで登録された点に加えて、あらゆる商品と役務(サービス)が指定されている点も気になります。

商標は業務で使う名称やマークであり、商標権は商標を独占的に使用できる権利です。したがって、商標登録をする以上は、自分で使用(あるいはライセンス)することが想定されています。商標法の条文(3条)にも「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については(中略)商標登録を受けることができる」と書かれています(太字は栗原による)。

しかし、日本の制度では、実際には商標の審査において使用意思が厳格にチェックされることはありません。

一方、米国は厳格な使用主義となっており、登録のためには商標の使用、あるいは、仕様意思の宣誓が必要です。また、商標を実際に使用していないと他人に権利行使できません(その一方で、使用さえしていれば商標登録していなくても商標権を行使できます)。

日本(および他の多くの国)では、商標の使用を登録要件に事実上していない代わりに、一定期間使用されていない商標登録を他人の請求によって取り消せる制度を設けることで、自分で使ってない商標を登録して無駄に寝かせておく(結果的に他人の商標の選択の余地を狭める)状態を解消できる仕組みがあります。

日本では商標法50条の規定(通称、不使用取消審判)により、3年以上正当な理由なく使用されていない商標を取り消すことができます。不使用取消審判は誰でも(利害関係がなくても)請求できます。請求は商品・役務単位で行ないます。

請求側は商標の不使用を立証する必要はなく、権利者側が使用の立証の責任を負うことになります(第三者が不使用を証明するよりも、当事者が使用を証明する方がはるかに楽なのでこれは当然の規定です)。

したがって、今から3年後にTOKYO 2020商標が、たとえば「かんなくず」という商品に使われていないという趣旨の不使用審判を請求すれば、オリンピック招致委員会がTOKYO 2020が「かんなくず」の商標として使われていることを立証できない限り、「かんなくず」については商標登録が取消しになります(商標登録全体が取り消されるわけではありません)。

しかし、取消しできたからと言って、自分がTOKYO 2020の商標登録をできるかというと、おそらくは4条1項15号(他人の業務との混同)により拒絶されると思われます。商標登録はしなくてよいので使うだけならどうかというと、商標法上はクリアーできますが、不正競争防止法により訴えられる可能性があります。

ということで、TOKYO 2020(の一部の指定商品・役務)を不使用を理由に取り消すことは理論的には可能ですが、実際上の影響はほとんどありません。せいぜい、招致委員会に無駄な費用が発生するくらいですが、大会予算が3000億円ありますので痛くもかゆくもないでしょう。また、招致委員会側は再出願することも可能です。

なお、このエントリーの趣旨は不使用取消審判を請求しましょうというのではなく、こういう制度がありますよという説明のネタとしてTOKYO 2020を使っただけなので念のため。

自分が出願した商標が先登録類似商標があることを理由に拒絶されたが、調べてみると先願には使用実績がなさそうだというような場合には、不使用取消審判を請求して、成功すれば先登録類似商標が取消しになり自分が出願した商標が登録されます。これが本来的な不使用取消審判の利用法です。

なお、防護標章という制度もあります。使用を前提としない(使用していなくても不使用取消審判を請求されることがない)一方で、その商標が著名であることを必要とします(著名とは、SONYとか資生堂等のナショナルブランドレベルの話です)。オリンピック関連商標では「がんばれ!ニッポン!」が防護標章登録されています(「がんばれ!ニッポン」ってそんな著名なのという気もしますが)。

(追記)とここまで書いて思いましたがたぶん「TOKYO 2020」もいずれ防護標章登録をするという戦略なのでしょう。そうなるとこのエントリーの内容自体意味なしとなります(まあ、不使用取消審判制度の紹介記事ということでご容赦ください)。

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