2014年もがんばります

あけましておめでとうございます。

2013年は何か忙しかったわりにはばたばたと過ぎてしまいました。短期でプロジェクトが完結するITの仕事よりもタイムスパンが長い知財系の仕事が増えたからかもしれません。

2013年は「弁理士もやっているITアナリスト」から「ITに詳しい弁理士」にシフトしたような気がします。とは言え、ITアナリスト業をやめたわけではなく、案件があればもちろん対応します。定期的な取材等は時間的に厳しくなってしまいましたが情報収集(特にストレージ分野、オープンデータ分野)は続けています。

知財系の個別案件の内容については書けませんが、先輩弁理士先生や特許庁担当者の方にいろいろ聞いたりしながら、国内出願(特許・商標)のみならず、訴訟のお手伝い(これは結構きつい)、内外案件(海外への出願)、外内案件(海外クライアントによる日本への出願)等をこなしました。弁理士系のお仕事(いわゆる士業の仕事は何でもそうだと思いますが)では本に載ってない実務的な細かい話がありまして、実際にやってみないとわかりません。この1年で経験値はかなり増えたと思います。今年は人も増やしてもう少し大規模に事業展開するかもしれません。

個人スキルという観点で言うと、内外・外内のコミュニケーションは英語でほぼ問題ないとはいえ、やはり中国語の必要性を感じます。明細書くらいは読めるようになりたいものです。

趣味の領域で行くと今年は今まで以上に音楽(ジャズ)に打ちこみたいと思います。引退後はミュージシャン(と年金)で生計を立てるくらいの気持ちでがんばります。初っぱなは1月12日(日)に代々木のARTICAというバーでオルガントリオでのライブをやりますのでお近くの方は是非どうぞ。

ということで、今年もよろしくお願いいたします。

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LADY GAGA商標の審決取消訴訟の判決文が公開されました

先日このブログでも書いたLADY GAGA商標登録出願が拒絶された件の審決取消訴訟の判決文が裁判所のサイトにアップされています。

基本的には、審決の内容の繰り返しに近く、ガガ側の主張はまったく認められていません。

最初に書いておくと、「LADY GAGA商標は(CDという商品に使われると)商品の質を表わすだけで商品の出所識別能力がない(ゆえに、登録できない)」という特許庁の考え方に疑問を感じる人もいるかもしれません。「LADY GAGAと書いてあるCDの出所はレディーガガなんじゃないの?」ということです。しかし、これは、CDを著作権法で言う著作物(GAGA本人が作詞・作曲した楽曲の場合)および実演の複製物ととらえた時の話です。今論じているのは商標の話であって、商品の出所とはレコード会社やレーベル名になる(ガガの例で言えばユニバーサル・レコードとかインタースコープ・レコードといった商標がCDの商品としての出所を表わしています)と特許庁は考えているということです。

原告側の主張と裁判所の判断を以下に簡単にまとめました(判決文はそんなに長くも、難解でもないので興味ある方は読んでみるとよいでしょう)。

1.確かにCDジャケットに「LADY GAGA」と書いてあると消費者は商品の質を表わすだけの商標であると認識するかもしれないが、審査段階で商標の使用形態を限定して拒絶するのはおかしい。→ CDという商品にLADY GAGA商標が付されていると消費者はどう判断するかを考えて拒絶査定しているので使用形態を限定しているわけではない。

2.仮にアーティスト名を(CDを指定商品として)商標登録しても26条1項(商標権は著名な芸名には及ばない)があるので弊害はない。→ 既に登録された商標の権利制限規定の話は関係ない。

3.たとえば、将来的にレディー・ガガがLADY GAGAレーベルを始める可能性があるが、そういう可能性を排除して拒絶するのはおかしくないか。→ 仮に、LADY GAGAレーベルや株式会社LADY GAGAがあっととしても、LADY GAGAという商標が付いたCDを見て消費者が商品の質を表わすだけと判断するのは同じ。

4.アーティスト名がCDという商品の質を表わすとは言えない。→ 表わすと言えます。

5.LADY GAGAのような著名商標に保護が与えられないのはおかしい。→ それは登録を認める理由にはならない。

6.”MICK JAGGER”、”ユーミン”等々、過去に登録された事例がある。→ 過去の判断に拘束される理由はない。

7.消費者がCDを買うときはレコード会社名ではなく、アーティスト名で検索するのが通常、これはアーティスト名が出所表示機能を果たしていることを意味する。→ 商品の内容を選ぶ上でアーティスト名を目印にしているだけであって、アーティスト名を商品の出所を確認しているわけではない。

ということでとりつく島なしという感じであります。

特許庁の主張も筋は通っていると言えば通っているのですが、現実的には、海外ではOKなのに日本だけがNGということで国際的な調和が取れない点が問題です。まあ裁判でこの点を主張しても「それは立法論の話」で終わってしまうと思いますが。

もう一つの問題(というか腑に落ちない点)は、上記の5にもあるように、レディー・ガガのように超有名になってしまうと(CDを指定商品としては)商標登録できないのに、知名度が低いアーティストであれば(審査官はアーティスト名と認識しないので)商標登録できてしまうという点です。本来的に保護の必要性が強い著名商標の方が保護されないというのも変な感じです(現実的には不正競争防止法等でカバーされますので実害はそんなにはないとは思いますが)。

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ドメイン詐欺の事例と詐欺じゃなかった事例について

先日、弊所のクライアントから「何か商標の件で英語のメールが来てるんだけど」と相談がありました。そのクライアントの了承を得て、名前を隠した上でメールの内容を書くと以下のとおりです。

Dear CEO or Director,
We are a senior domain registrar in Hong Kong.
_1.On Dec.17__, 2013, we received an application formally. One company named Lanxia Investment Co. wanted to register the Network Marketing Keyword “xxxxxxxxxxx” with some related domain names with our organization.
2. During our preliminary investigation, we found that these Domain  Names’ keyword is identical with your Trade Mark, this is why we inform you._
3. I wonder whether did you consigned Lanxia Investment Co. to register these Domain Names with us? _
Currently, we have already postponed this company’s application. Pls let the relevant principal make a confirmation with me ASAP.
Thanks & Regards,
Alice Liu
____*__Hong Kong__ *
*Mail: aliu@hkcreating.com
<mailto:aliu@hkcreating.com>*mailto:aliu@hkbweb.hk**
**
*Internet: www.hkcreating.hk <http://www.hkcreating.hk/>*

要は「香港のレジストラーだけど貴社の登録商標と類似のドメイン名を登録しようとしている会社がいるので手続きをいったん止めている、このまま登録してしまってよいか至急連絡されたい」ということです。

一瞬、私が代理で問い合わせようかと思いましたが、いろいろ怪しい点があります。

1) このクライアントの商標登録はカタカナであり、わざわざ香港の業者が日本のカタカナ登録商標を調べるとは思えない。

2) ドメイン名が商標権に抵触しそうなので登録を保留する運用をするレジストラーなんて聞いたことがない。

3) リンクが貼ってあるhkcreating.hkというWebサイトは正規のレジストラーのように見えるが、メールの返信先はhkweb.hkという別のドメイン

ということで調べてみると、やっぱり詐欺でした。このメールと同様の文面が送られた事例がいろんなところに載っています。これに返信すると「先方はどうしてもこのドメインを取りたいと言っている、それを防ぐには貴社が登録するしかない、弊社に頼めば格安のxx万円で登録しますよ」と法外な料金を請求するという仕組みのようです(ひょっとすると登録した振りで金だけ取られるのかもしれません)。

たぶん、たとえばfoobar.jpというドメインがあったとすれば「あなたの登録商標foobarを登録しようとしている企業があるが(略」というメールをinfo@ foobar.jpに対して自動的に送るボットがあるのでしょう。当然、登録商標なんてチェックしてなくて、社名=ドメイン名=登録商標という企業は多いので、そのうちのごく一部がひっかかることを狙っているのでしょう。

わりと有名な話のようですがご注意下さい。

これとは全然別に、ドメイン名について英語の警告メールが届いたけど中味がよくわからないという相談を受けたこともありました。米国企業の顧問法律事務所が発信人で「貴社のドメインがxxx社(超大手)の登録商標と類似なので放棄してほしい。放棄しないと法的措置を取る」みたいな内容でした。

こちらは、メールアドレスがちゃんとした法律事務所のものですし、内容的にも詐欺とは思えなかったのでちゃんと対応することにしました。この登録商標は日本では普通名称化しているような気もしたのですが、ドメイン主は特にそのドメインにこだわってないようだったので「不正目的で取得したわけではないので放棄する義務はないと思うが、ドメイン取得料金と名刺印刷代の実費を払ってくれれば放棄しますよ」旨のメールを返して双方納得の上で和解しました。後でちゃんとお金も振り込んでもらえたようです。

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【速報】LADY GAGA商標登録拒絶にある結構深い問題

実は今になって知りましたが”LADY GAGA”という商標登録が認められないとの特許庁の判断に対する審決取消訴訟が知財高裁で行なわれていたようで、請求棄却(つまり、登録は認められない)という判決が出たようです(参照記事)。念のため書いておくとこれはレディ−・ガガと全然関係ない人が勝手出願をしたという事例ではありません。出願人はレディ−・ガガの正式なマネージメント会社です。

実は本ブログでも昔書いたのですが、この問題の根は、CD(録音又は録画済み記録媒体)を指定商品にして芸名・アーティスト名で商標登録出願すると”商品の質を表すだけの商標”という理由で拒絶されるという特許庁の最近の運用にあります。たとえば、最近のジャニーズ関係の芸名の商標登録出願は「録音又は録画済み記録媒体」の指定商品については拒絶されています(グッズ関係の指定商品については登録されています)(参考文献(PDF))。

「LADY GAGA」商標も、化粧品等の指定商品では既に登録されているのですが、「レコード,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル,映写フィルム,録画済みビデオディスク及びビデオテープ」という指定商品の出願(商願2011-21592)については拒絶され、拒絶査定不服審判で争っても駄目、知財高裁に審決取消訴訟を提起しても駄目ということで、後は最高裁しかないので、ちょっと厳しい状況だと思います。

前にも書きましたが、米国を初めとする諸外国ではアーティスト名でCDを指定商品とした商標登録が可能になっており、国際的に調和が取れていないので日本特許庁の運用を変えて欲しいという要望書(『歌手名・音楽グループ名』よりなる商標を拒絶する運用について)が日本弁理士会商標委員会から出ているのですが、残念ながら採用はされなかったようです。

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【小ネタ】ネコの運動特許について

#本日は一般向けでない記事を書いたのでその埋め合わせです。

ある調べ物をしていたら、なぜかGoogleでわりと上位に、調べ物とは全然関係ない米国特許544303号(Method of Exercising a Cat(ネコを運動させる方法))が表示されました。公開公報ではなく、実際に権利を付与された特許発明である点にご注意ください。

クレームは以下のようになっています(翻訳は栗原によります、読みやすさ重視で正確性は犠牲にしました)。

1. A method of inducing aerobic exercise in an unrestrained cat comprising the steps of:
(a) directing an intense coherent beam of invisible light produced by a hand-held laser apparatus to produce a bright highly-focused pattern of light at the intersection of the beam and an opaque surface, said pattern being of visual interest to a cat; and
(b) selectively redirecting said beam out of the cat’s immediate reach to induce said cat to run and chase said beam and pattern of light around an exercise area.

2. The method of claim 1 wherein said bright pattern of light is small in area relative to a paw of the cat.

(以下略)

1.ヒモにつながれていないネコに有酸素運動を行なわせる方法であって、
(a)手持ちレーザー機器により 作られる見えない光のビームを不透明な表面に当ててネコに視覚的関心をもたらす明るい光のパターンを前記表面に生じさせる手順と、
(b)前記ビームを、ネコの手が届く範囲外に選択的に向けることで、ネコに前記光のパターンを追いかけさせる手順と
から成る方法。

2.前記の明るい光のパターンはネコの手と比較して小さいことを特徴とする請求項1に記載の方法

(以下略)

image

特許「図面」もなかなか味があります。

これを日本で出願したならば、まず発明該当性(技術的思想)でアウト、産業上利用可能性でアウト、さらに、進歩性でもアウトでしょう(本特許の実質出願日は1993年ですが、自分はネコを1990年に飼い始めて、その時点で懐中電灯の光で遊ばせていた記憶があります)。

米国の場合、発明該当性、産業上利用可能性の要件はわりと緩めですし、ネコの運動方法をわざわざ出願する人はそんなにいないであろうことから先願もないということで登録されてしまったのだと思います。なお、いったん登録されましたが、その後、特許料未納により失効しています。

割という有名なトンデモ特許であるらしくWikipediaにもエントリーが出来てました。アメリカの特許制度改革の必要性を主張する論稿においてその根拠としても使われたようです。

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