【速報】LADY GAGA商標登録拒絶にある結構深い問題

実は今になって知りましたが”LADY GAGA”という商標登録が認められないとの特許庁の判断に対する審決取消訴訟が知財高裁で行なわれていたようで、請求棄却(つまり、登録は認められない)という判決が出たようです(参照記事)。念のため書いておくとこれはレディ−・ガガと全然関係ない人が勝手出願をしたという事例ではありません。出願人はレディ−・ガガの正式なマネージメント会社です。

実は本ブログでも昔書いたのですが、この問題の根は、CD(録音又は録画済み記録媒体)を指定商品にして芸名・アーティスト名で商標登録出願すると”商品の質を表すだけの商標”という理由で拒絶されるという特許庁の最近の運用にあります。たとえば、最近のジャニーズ関係の芸名の商標登録出願は「録音又は録画済み記録媒体」の指定商品については拒絶されています(グッズ関係の指定商品については登録されています)(参考文献(PDF))。

「LADY GAGA」商標も、化粧品等の指定商品では既に登録されているのですが、「レコード,インターネットを利用して受信し、及び保存することができる音楽ファイル,映写フィルム,録画済みビデオディスク及びビデオテープ」という指定商品の出願(商願2011-21592)については拒絶され、拒絶査定不服審判で争っても駄目、知財高裁に審決取消訴訟を提起しても駄目ということで、後は最高裁しかないので、ちょっと厳しい状況だと思います。

前にも書きましたが、米国を初めとする諸外国ではアーティスト名でCDを指定商品とした商標登録が可能になっており、国際的に調和が取れていないので日本特許庁の運用を変えて欲しいという要望書(『歌手名・音楽グループ名』よりなる商標を拒絶する運用について)が日本弁理士会商標委員会から出ているのですが、残念ながら採用はされなかったようです。

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【小ネタ】ネコの運動特許について

#本日は一般向けでない記事を書いたのでその埋め合わせです。

ある調べ物をしていたら、なぜかGoogleでわりと上位に、調べ物とは全然関係ない米国特許544303号(Method of Exercising a Cat(ネコを運動させる方法))が表示されました。公開公報ではなく、実際に権利を付与された特許発明である点にご注意ください。

クレームは以下のようになっています(翻訳は栗原によります、読みやすさ重視で正確性は犠牲にしました)。

1. A method of inducing aerobic exercise in an unrestrained cat comprising the steps of:
(a) directing an intense coherent beam of invisible light produced by a hand-held laser apparatus to produce a bright highly-focused pattern of light at the intersection of the beam and an opaque surface, said pattern being of visual interest to a cat; and
(b) selectively redirecting said beam out of the cat’s immediate reach to induce said cat to run and chase said beam and pattern of light around an exercise area.

2. The method of claim 1 wherein said bright pattern of light is small in area relative to a paw of the cat.

(以下略)

1.ヒモにつながれていないネコに有酸素運動を行なわせる方法であって、
(a)手持ちレーザー機器により 作られる見えない光のビームを不透明な表面に当ててネコに視覚的関心をもたらす明るい光のパターンを前記表面に生じさせる手順と、
(b)前記ビームを、ネコの手が届く範囲外に選択的に向けることで、ネコに前記光のパターンを追いかけさせる手順と
から成る方法。

2.前記の明るい光のパターンはネコの手と比較して小さいことを特徴とする請求項1に記載の方法

(以下略)

image

特許「図面」もなかなか味があります。

これを日本で出願したならば、まず発明該当性(技術的思想)でアウト、産業上利用可能性でアウト、さらに、進歩性でもアウトでしょう(本特許の実質出願日は1993年ですが、自分はネコを1990年に飼い始めて、その時点で懐中電灯の光で遊ばせていた記憶があります)。

米国の場合、発明該当性、産業上利用可能性の要件はわりと緩めですし、ネコの運動方法をわざわざ出願する人はそんなにいないであろうことから先願もないということで登録されてしまったのだと思います。なお、いったん登録されましたが、その後、特許料未納により失効しています。

割という有名なトンデモ特許であるらしくWikipediaにもエントリーが出来てました。アメリカの特許制度改革の必要性を主張する論稿においてその根拠としても使われたようです。

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【実務者向け】国際出願を第1国とするパリ優先権指定の方法

#今回の記事は、特許実務の細かい話を自分のメモ的に書いた話なので、実務者の方以外はほとんど意味がないと思います。BLOGOS編集部の方も転載には値しないので無視してくださいw

国内優先権を指定すると元の出願は出願日から1年3ヶ月後に自動的・強制的に取り下げになります。趣旨としては後の出願一つにまとめろということだと思いますが、たとえば、以下のようなパターンだとちょっと困ります。

2011年1月 国内出願A

2012年1月 国内出願B(国内出願Aに国内優先権を主張)

2013年1月 国内出願C

ここで、国内出願Cで国内出願Bに国内優先権を主張すると国内出願Bが取り下げになるので、2011年1月まで遡れる出願がなくなってしまいます。これを防ぐためには、国内出願Bを分割して、国内出願B1(いわゆるミラー出願)を作り、国内出願Cで国内出願Bに国内優先権を主張すればよいことになります(分割でできたB1の方には国内優先権を主張できませんが元の出願であるBには主張できます)。

さて、次のパターン、

2011年1月 国内出願X

2012年1月 PCT出願Y(国内出願Xに優先権を主張)

2013年1月 国内出願Z

はどうかというと、最初はPCT出願Yを国内移行して国内出願Y1を作り、Y1を分割してY2(ミラー出願)を作って、国内出願Zは国内出願Y1に国内優先権を主張すればよいと思っていました。しかし、実はそんなことをする必要はなく、PCT出願Yに対してパリ優先権を指定すればよいのです。パリ優先権は取り下げ擬制がないので、Yはそのまま生き残り、分割する必要がありません(国内移行も必要ありません(最終的にはすることになるでしょうが))。

このようにPCT出願を先の出願としたパリ優先権を指定する時は特許願の【パリ条約による優先権等の主張】の【国名】のところに「世界知的所有権機関」と書けばよいようです(特許庁サイトの「出願の手続きQ&A」の問6に書いてあります)。

そして、優先権証明書ですが、このパターンではDASは使えないので、特許庁の受理官庁に優先権証明願を出して、優先権証明書を郵送してもらい、それを特許庁の国内出願窓口に提出するという旧来のやり方が必要になるようです(特許庁に確認済)。受理官庁と国内窓口は、ロビー挟んで反対側にあるだけですし、情報システムだって共用しているのでもっと効率的にできないのかと思うのですがしょうがないですね。

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携帯オプション商法と押し付けアプリ問題について

スマートフォン契約の際にいろいろなオプションを押し付ける商法が問題になっているのは周知だと思います(参考記事)。ちゃんとサービスは提供されますし、顧客は契約内容を読んだ上で署名・捺印して合意しているわけなので違法とまでは言えませんが、問題のある商行為だと思います。

これで思い出したのが、フリーウェアやシェアウェアのダウンロードの際に、一緒に関係ないフリーウェアをインストールさせる手法です。怪しげなサイトではなく、CNETが運営するDownload.comやOracleによるJavaアップデートなどでもこのような手法が使われています。

大手の通信事業者の看板を掲げた携帯ショップなのでまさかだまし討ちのようなことはしないだろうという顧客の思い込みにつけ込むのと同様に、大手ブランドに対する信頼感を悪用する行為だと思います。

たとえば、下はCNETのDownload.comからKMPlayerというビデオ再生ソフトをダウンロードしてインストールする際に表示される途中画面です。

screen

いかにも目的のKMPlayerのエンドユーザーライセンス契約に合意するための画面であると勘違いしてAcceptをクリックしてしまいたくなりますが、よ〜く読むとOutoboxという全然関係ないアドウェアのインストールの確認画面であることがわかります。

アドウェアであればウザイので多くの人がすぐアンインストールすると思いますが、たとえば、ウィルス検知ソフトが二重に入ったりした場合ではすぐに気がつかず、PCを不安定にしてしまう可能性があるでしょう。

ある程度リテラシのある人であればフリーウェアのインストール後は不要なソフトが入ってないかを確認すると思いますが、あまり詳しくない人のPCではこの手の押し付けアプリが大量にインストールされていることもあるでしょう(帰省時に実家のPCをチェックしたらそういう状態になってました)。

このような押し付けアプリのベンダーからの収益により、ダウンロードサイトが運営されているというのはわかります。しかし、無料で使うソフトに広告が表示される(広告を消去するために有償版にアップグレードが必要)というビジネスモデルは全然問題ないのですが、このだまし討ちのようにして不要なアプリをインストールさせるモデルは、違法とまでは言えないが問題だと思います。

アメリカでは、この手の勝手にインストールされるアプリを総称する名称がとっくに付いていると調べてみましたがそのものずばりの言い方はないようです(普通に”unwanted free apps”のような呼び方がされています)。

マンガDilbertによる”confusopoly“という造語があります。サービス体系を必要以上にややこしくして、顧客を混乱(confuse)させてどのサービスが一番安いかをわからなくすることで、独占(monopoly)を達成する「マーケティング戦略」を皮肉った言い方です(あまり語呂が良くないですが)。”confusopoly”が典型的に見られるのは、携帯電話業界と保険業界です。

これに習えば、上記に押し付けフリーウェアは”confuware”と呼んでもいいかもと思いましたが、大手ソフトベンダーの”Compuware”と紛らわしいのでちょっと問題かもしれません。良い名前を思いついた方、あるいは、こういう名称で呼ばれているよというのをご存じの方は教えてください。

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茂木経産相の特許取得と登録公報の発行タイミングについて

茂木敏充経済産業相がレストランのメニューに関する発明を個人で出願し、特許を取得したそうです(参照記事)。9月2日に出願し、11月29日に登録されたそうです。当然、早期審査制度を利用していると思うのですが、それにしても速いですね。

別記事によると発明の内容は、

タッチパネルの端末上にメニューを表示し、一部の宗教で食べることが禁じられている肉類など、外国人が苦手とする食材があれば外国語で知らせるサービス

だそうですが、さすがにこれだけですと、単なる設計事項であって特許取得は難しいと思うので、他にどういう工夫があるのかが気になるところですが、このケースのように、出願公開前に登録されてしまうと、IPDL(特許電子図書館)で見られるようになるまで大変時間がかかります。

登録番号がわからないので検索できないというものあるのですが、仮に登録番号がわかっていてもIPDLではかなりの長期にわたって内容を表示できません。特許登録から特許登録公報の発行まで2〜3ヶ月のタイムラグがあり、さらにIPDLの掲載が2週間に一度なので下手するとさらに1ヶ月近く待つことになります。

(追記)日テレのニュース動画で茂木大臣が会見で登録証を記者に見せていますが、その画面を拡大してみると特許番号は5422775号と思われます(当然IPDLではまだ見られません)。

IPDLに公報が載る前に特許の内容を知る方法として、IPDLの「審査書類情報照会」で最終的な補正の内容を見る裏技がありますが、出願公開がされていないとこの技も使えません。

ベンチャー企業等で特許を取得すると特許を取得した旨のリリースを特許番号を載せて出すことがよくありますが、このケースのように出願公開前に登録されてしまっていると、しばらくは中味がわからなくて競合他社はやきもきする状況になります(なお、登録公報が発行されていれば、IPDLでは見られなくても料金(オンラインだと600円、窓口だと900円)を払えば閲覧可能です)。

上記記事によると茂木大臣は、

日本の経済成長のためには「個人のアイデアを権利化する仕組みをより使いやすくすることが必要だ」と述べ、特許庁に審査期間の短縮や手続きの簡素化の検討を指示した

そうですが、3ヶ月弱で登録されてしまうとあまり審査期間短縮の必要性がわからないかもしれません。少なくとも「出願公開前に登録された特許は優先的に公報にする」ように指示してくれると助かるのですが。

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