オリンピック関連商標に不使用取消を請求するとどうなるのか

以前書いたようにオリンピック招致委員会を権利者とする「TOKYO 2020」の標準文字商標が登録されました。地名+年号という形態のみで登録された点に加えて、あらゆる商品と役務(サービス)が指定されている点も気になります。

商標は業務で使う名称やマークであり、商標権は商標を独占的に使用できる権利です。したがって、商標登録をする以上は、自分で使用(あるいはライセンス)することが想定されています。商標法の条文(3条)にも「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については(中略)商標登録を受けることができる」と書かれています(太字は栗原による)。

しかし、日本の制度では、実際には商標の審査において使用意思が厳格にチェックされることはありません。

一方、米国は厳格な使用主義となっており、登録のためには商標の使用、あるいは、仕様意思の宣誓が必要です。また、商標を実際に使用していないと他人に権利行使できません(その一方で、使用さえしていれば商標登録していなくても商標権を行使できます)。

日本(および他の多くの国)では、商標の使用を登録要件に事実上していない代わりに、一定期間使用されていない商標登録を他人の請求によって取り消せる制度を設けることで、自分で使ってない商標を登録して無駄に寝かせておく(結果的に他人の商標の選択の余地を狭める)状態を解消できる仕組みがあります。

日本では商標法50条の規定(通称、不使用取消審判)により、3年以上正当な理由なく使用されていない商標を取り消すことができます。不使用取消審判は誰でも(利害関係がなくても)請求できます。請求は商品・役務単位で行ないます。

請求側は商標の不使用を立証する必要はなく、権利者側が使用の立証の責任を負うことになります(第三者が不使用を証明するよりも、当事者が使用を証明する方がはるかに楽なのでこれは当然の規定です)。

したがって、今から3年後にTOKYO 2020商標が、たとえば「かんなくず」という商品に使われていないという趣旨の不使用審判を請求すれば、オリンピック招致委員会がTOKYO 2020が「かんなくず」の商標として使われていることを立証できない限り、「かんなくず」については商標登録が取消しになります(商標登録全体が取り消されるわけではありません)。

しかし、取消しできたからと言って、自分がTOKYO 2020の商標登録をできるかというと、おそらくは4条1項15号(他人の業務との混同)により拒絶されると思われます。商標登録はしなくてよいので使うだけならどうかというと、商標法上はクリアーできますが、不正競争防止法により訴えられる可能性があります。

ということで、TOKYO 2020(の一部の指定商品・役務)を不使用を理由に取り消すことは理論的には可能ですが、実際上の影響はほとんどありません。せいぜい、招致委員会に無駄な費用が発生するくらいですが、大会予算が3000億円ありますので痛くもかゆくもないでしょう。また、招致委員会側は再出願することも可能です。

なお、このエントリーの趣旨は不使用取消審判を請求しましょうというのではなく、こういう制度がありますよという説明のネタとしてTOKYO 2020を使っただけなので念のため。

自分が出願した商標が先登録類似商標があることを理由に拒絶されたが、調べてみると先願には使用実績がなさそうだというような場合には、不使用取消審判を請求して、成功すれば先登録類似商標が取消しになり自分が出願した商標が登録されます。これが本来的な不使用取消審判の利用法です。

なお、防護標章という制度もあります。使用を前提としない(使用していなくても不使用取消審判を請求されることがない)一方で、その商標が著名であることを必要とします(著名とは、SONYとか資生堂等のナショナルブランドレベルの話です)。オリンピック関連商標では「がんばれ!ニッポン!」が防護標章登録されています(「がんばれ!ニッポン」ってそんな著名なのという気もしますが)。

(追記)とここまで書いて思いましたがたぶん「TOKYO 2020」もいずれ防護標章登録をするという戦略なのでしょう。そうなるとこのエントリーの内容自体意味なしとなります(まあ、不使用取消審判制度の紹介記事ということでご容赦ください)。

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